坂本龍一ソウル公演におけるUSTREAM活用が、音楽ビジネス、そして映像コンテンツのあり方を変える!?
今年に入って、ソーシャルメディア”Facebook”の創設秘話を描いた映画『ソーシャルネットワーク』(監督:デビッド・フィンチャー)が話題を呼び、ソーシャルメディアの価値感が様々に問われている。そんな中、今年の1月9日、韓国ソウル市内にある国立ソウル・アート・センターで、坂本龍一のコンサート「Playing the Piano @Seoul」が行われた。特筆すべきはこのライブコンサートにおいて、2回にわたるコンサートの模様が、USTREAMによってネット上に公開され、さらにそれを各地会場でパブリックビューイングとして楽しむというソーシャルメディアの実験プロジェクトが行われた事だ。
USTREAM&パブリックビューイングによる新しいライブのカタチを実現
「Playing the Piano」と題されたこのコンサートは、2009年から日本を含めた世界各地で実施され、今回のソウル公演は2011年初の公演。夕方4時と夜8時の1日2回公演で構成され、各々ライブ中継サービス/USTREAMを通じてインターネット経由による無料ライブ中継/配信が行われた。この配信は「skmtSocial Project」と題され、ソーシャルメディアを活用した実験プロジェクトとして行われ、有志参加のパブリックビューイング会場を全国各地に募るなどネットを介して情報を共有し、公演を盛り上げてく画期的なプロジェクトとして注目された。
さらに当日の夜8時の回では、専用回線を用いて東京・六本木のシネマコンプレックス会場、TOHOシネマズ六本木ヒルズでのスペシャルビューイングによる大型スクリーンへの配信も行われた。さらに公演終了2日後の1月1日にはアップルのミュージックサイトiTunes Storeを通じて音源が配信、販売されるという、体験した音楽をタイムラグが中1日と、これまでと比べ、ほとんどない状態ですぐ購入できるという、新たな音楽ビジネスモデルの提示ともなった。これは社会現象としても大きく取り上げられた。
高音質・高音質のライブ中継システムが、全世界で感動を共有
会場であるソウルアートセンターコンサートホールのサウンドミキシング環境は、ローランド社製品を中心に、ライブ・ミキシング・コンソールにはV-Mixer M-400が、ステージ上の坂本龍一氏のピアノ横には、ライブ・パーソナル・ミキサーM-48が使用された。
USTREAM配信側には、ハイビジョン中継の映像スイッチング環境としてマルチフォーマット・ビデオ・スイッチャーV-1600HDをメインに、マルチ・フォーマット・コンバーターVC-300HD、VC-50HDをそれぞれ配置。今回は通常のUSTREAM配信用(メインマスター送出、中クラス送出、低クラス送出)の3ストリームの配信に加え、『mu-moてれび(運営:エイベックス・マーケティング)』の携帯電話用配信や、TOHOシネマズ六本木での高音質HD映像での上映配信用の伝送システムにも活用されていた。
VC-300HDから、メインマスター送出、中クラス送出、低クラス送出の3ストリームを配信
これらの映像は、ステージ上にあるパナソニックのコンパクトカメラヘッドAG-HCK10G数台と、2階の観客席からはAG-HMC155が使用、また足下の暗視用ミニカメラなど計6台のカメラからのマルチ映像を、V-1600HDでバックヤードからスイッチングコントロール。USTREAM用の映像はiTunes配信販売用と同じ高音質サウンドとミックスして、VC-300HDを介してそれぞれのストリーム配信用の3台のMac Book Proへ接続。またmu-moてれびへの配信にはUA-4FXが使用された。またこれらの配信とは別に、USTREAM ASIAの参画配信として、スマートフォン(GALAPAGOS softbank 003SH)対応の3D配信も同時に行われ、こちらはステージ上にパナソニックの2眼式3DカメラAG-3DA1が使用され、坂本氏の指の動きなどを3D映像で配信した。
音楽ビジネスモデルの新領域を開拓
このソウル公演は、skmtSocial Project(サカモト・ソーシャル・プロジェクト)として、無料で生中継されるUSTREAM動画を使用して、プロジェクターや大型モニタを活用しながら仲間を集めて視聴するパブリックビューイングを自由に行ってよいという参加型実験プロジェクトとして、ソーシャルメディアであるTwitterやFacebookなどを通じて浸透。
自宅のパソコンはもちろんのこと、会社の会議室やスタジオ、バーやカフェなどの店舗、公民館、病院などの公共施設など、全国の賛同有志が本イベントに参加した。 最終的に登録されたビューイング会場は411カ所で当日の2回のライブの視聴ユニークユーザー数はなんと19万人、Twitterの総ツイート数は42,179ツイートに上った。
プロジェクト開始から使用していたTwitterハッシュタグ#skmtsの付いたツイートは4500万を超え、まさにソーシャルメディアの時代の訪れを実感させるイベントとなったのである。さらに配信後には、iTunes Music Storeの予約で、このソウル2公演のアルバムが予約No.1,2を獲得するという、音楽ビジネス面においても新たなビジネスモデルを確立したと言っても良いだろう。
昨年秋に行われたシアトル公演でUSTREAM配信が行われたが、その後カナダ・バンクーバー公演の中継も行い、さらに引き続きサンフランシスコ、ロサンゼルスと、北米ツアー最終公演まで生中継を実施することになった。この北米ツアー中継で、ある病院内で視聴会を開いたというツイートが流れた。これについて坂本氏は「お年寄りなどもいるような病院でパブリックビューイングをした人がいて、患者さんや看護士もみんなで観てとても感動したと。こちらの予想を越えたところで楽しんでくれた人たちがいた」。このパブリックビューイング的な映像活用がきっかけとなり、坂本龍一はソウル公演ではパブリックビューイングを自由に行って、ソーシャルメディアによるライブ視聴を、全国各々の会場で一斉に体感するという、一大プロジェクトになったのである。
ソーシャルメディアの新たなコンテポラリースタイルを編み出したこの企画は、今後のメディアスタンダードを大きく変える何かを生み出したのではないだろうか。
txt:石川幸宏 構成:編集部