フォトグラファー:石田晃久

これまでファッション誌や広告、写真集など第一線で活躍されているフォトグラファーの石田晃久氏。彼もまたDSLRムービーの魅力に捕われたアーティストの一人だ。すでに多くの雑誌やイベントなどでもEOS 5D markⅡを使ったムービー撮影を紹介しているが、ここでは彼の映像に対するフォトグラファーとしての現状の考えなどを率直に聞いてみた。

フォトグラファーから見たEOS 5D markⅡの魅力

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そもそも5Dという機種はキヤノンのサイトを見れば判る通り、EOS デジタルの製品ラインナップとしてはハイアマチュアモデルに位置する。プロフェッショナルモデルではない5D markⅡがムービー機能の付加によって、特に映像分野でこれだけのステイタスを築いていることをプロのフォトグラファーはどう見ているのだろうか?

もともと僕はデジタルカメラではプロフェッショナル仕様のEOS-1Ds markⅢで仕事をしているので、5Dという言わばアマチュア向けのカメラに興味はなかったし、購入しようとも思わなかったんです。そんな感覚で5D markⅡで映像を撮るということで、テスト撮影のためにカメラが届いて、まずは自宅で飼っているウサギを被写体に撮影してみて、誰もがやるようにテレビにそのままHDMI端子でつないで見てみました。そのとき丁度テレビでやっていた番組に出ていたタレントの顔よりも、ウチのウサギの方が断然きれいに撮れるんですよ。

そこでまず最初にやる気が出ましたね。このDSLRムービーの魅力は、やはり圧倒的に美しいものが、こんなに小さくて安い機材で撮れるんだということ。あと重量が軽いということも非常に大きいですね。あの大きな肩乗せ式のビデオカメラで僕らのようなスチルカメラマンが、じゃあ動画撮ろうかという感覚にはやはりなれないんです。もうひとつはレンズがすべて揃っていて、ボディだけ買えばあとは全て揃っているということ。これも入りやすかったという意味では大きかったですね。

■横浜国際映像祭用作品 YOKOHAMA-03.jpg
ディレクター:高野光太郎 フォトグラファー:石田晃久 モデル:Kadori(FOLIO)
ファッションディレクター:沖山純久 スタイリスト:大場ゆかり
  ヘアメイク:浦林克生 2ndフォトグラファー:北岡稔章 佐藤雄剛 
衣装協力:宮崎正弘デザインワークス 
協力:ライトアップ キヤノンマーケティングジャパン(株) スタジオフォリオ

フルサイズセンサーとAPS-Cセンサーのルックの違いについては…

多くのビデオ制作関係者が7Dの方が画質も良いというようなことも聞きますが、僕は最初から5D markⅡを先に廻していたせいか、5D markⅡの方が断然画質は良いと思いますね。おそらく撮像素子が大きいことが理由だとは思いますがハッキリとはわかりません。我々プロのフォトグラファーはずっと35mmで撮ってきましたし、フルサイズの画角に慣れているというのもあります。またレンズをAPS-Cのサイズに換算するのも面倒ですね。ビデオの方は今まで見慣れている画角が小さいサイズなので7Dの方が良いという方もいるのかもしれません。

カメラは身体の一部で持つ喜びがあることが重要

石田氏はフォトグラファーにとって、カメラの筐体デザインはもとより、カメラを手に持った時のフィット感、とりわけ重量の問題は大きいという。そこにはスチルカメラマンならでは視点がある。

フルサイズセンサーを搭載して色々と機能が付くであろうことを考えると、次のEOS-1Ds markⅣに期待しています(笑)が、もしほとんど同じ機能で機材の重さがかなり増えるようであれば、映像撮影の時はいまの5D markⅡを選ぶかもしれません。カメラの重さの問題は重要だと考えています。カメラが小型で軽いという条件は、我々フォトグラファーにとっては特に重要な条件だと言えます。写真は感性で撮るものですから、肉体になるべく負担をかけないようにすることが重要で、肉体疲労が精神疲労にもつながることから、カメラは軽い方がベストなのです。

自分が肉体的にも精神的にも良い状態でないと、現場で周りの人のテンションまで下がってしまう。被写体となるモデルやタレントもそうですが、彼らも最初から最後までベストな状態でないので、撮影の中で最初は動きの少ないカットから撮り始めて、次第にメイクも雰囲気も乗ってきたピークのところで一番重要なカットを撮るわけです。もちろんスタッフも同じです。だから僕もテンションを上げて現場に望み、1日のスケジュールの中でそういうテンションのコントロールができないと、僕らの撮影スタイルでは現場がいい雰囲気を作り出せないんですね。そういう精神的コントロールをするためには、やはり長時間重いカメラを持つのは肉体的にも疲労しますからカメラは軽い方が良いのです

■Profoto D1, Jazz version
フォトグラファー:石田晃久 2ndフォトグラファー:北岡稔章
  ヘアメイク:永野さちこ モデル:Karolina(FOLIO) 衣装協力:オルガンザ 
協力:キヤノンマーケティングジャパン(株) ライトアップ スタジオフォリオ 

ベストなのはいつもと同じスタイルで撮影できること

DSLRムービーが台頭してきたことで、映像も撮影して欲しいという依頼も増えているというスチル業界。実際に撮影したことで判った事というのもまた多かったようだ。

映像制作に関わって僕が一番思った事は、写真と違って1つのコンテンツで”2度感動できる!”ということに一番かき立てられましたね。特に広告写真の世界では、雑誌広告とポスター撮影という時ぐらいで、それ以外は、なかなか同じ作品で2度感動するということはないんですね。ところが映像は撮影した時点での素材を見たときと、編集してから全く違う命が吹き込まれた作品となった時の2回も感動が味わえる。あの経験をここ最近何度も味わっていて、そこに麻薬的な魅力がありますね。映画制作に関わる人がよく、病み付きになるような麻薬的な魅力があると言っているのを良く聞きますが、まさにそれを体感しています。

また自分で初めてノンリニア編集もやってみて、やはり映像制作が難しいということは良く判りました。DSLRになったからといって撮影が出来るだけで映像作品が簡単に出来るというわけじゃないなと(笑)。編集しているときは楽しいですし、出来上がった時は自己満足で凄い作品ができたと思っていたんですが、少し時間が経って見てみると、すぐに反省点が沸き上がりました。また自分でやってみて判った事として、写真と違って映像の世界は、誰もがCMや映画などの凄い映像をいつもテレビで見ているので、基準がいつもそこにある。僕の娘でも写真を見たときの感想と映像を見たときの反応が全く違います。僕の最初の作品なんて”これはヒドいね”の一言でしたから(笑)。

これが5D markⅡの最新の映像で、しかもフルハイビジョンの映像なんだよと言ったところで、そんなモノは日頃からテレビで見ているわけで、彼女たちですら映像になると、ストーリーとか音とかが合わさったところの”作品”という視点で見ているんです。映像に対して一般の方の目が肥えている分、その評価の偏差値も高いですよね

■Blue Moon bluemoon02.jpg
アーティスト:角辻順子 フォトグラファー:石田晃久 2ndフォトグラファー:北岡稔章 
HM:浦林克生 協力:ライトアップ スタジオフォリオ

スチルのカメラマンと、一般のビデオ/ムービー系カメラマンとでは、やはりその撮影スタイルや撮影クルーの構成、現場のテンポ感なども違っていることは明らかだ。しかし出来上がった作品はやはりスチルカメラマン独特の世界が展開されている。

僕らが動画作品を撮るというときにも、やはりこれまで僕らがやってきたスタイルのまま、サイズのままで撮影できるということが重要です。映画製作のような、あの大掛かりな様式の撮影スタイルで現場を成立させるということは、もちろん凄い事ですし、その理由も理解できるのですが、僕らが映像撮影に望む場合はやはり少数のスタッフでの撮影でないと自分の力量は発揮出来ないと思います。そういう意味ではDSLRのムービー機能が果たしてくれた役目は大きいかもしれませんね。

例えば、今度は長編作品を撮って欲しいという仕事の依頼が来たとして、予算もつけますからという好条件のお話だったとしても、5D markⅡならぜひ撮りたいということになりますが、カメラはARRI FLEXでお願いしますと言われれば、いまの僕ならば丁重にお断りするでしょうね。やはり自分の身の丈に合った道具で仕事をしないと、自分らしさというものは出せませんから。これは道具の使い方が判る/判らない、の次元ではなく、やはりいつも使い慣れた道具でないと撮れないものは撮れないですね(笑)。逆に動画とスチルというのは撮影方法にしてもその文化が違いますが、慣れ親しんだ道具であれば、自分なりの表現は可能だと思います

フォトグラファーとムービーが、DSLRのムービー機能で明らかに身近になったことは明白だ。写真アートの世界でプロとして過ごしてきたフォトグラファーは、DSLRムービーの今とこれからをこう考える。

やはりある程度の品質がないと僕らも撮る気は起きません。5D markⅡのDSLRムービーはその品質と、そして値段とサイズ、それらのバランスが良かった。(これだけムーブメントになっている理由は)そこに未来を感じている人が多いんだと思いますね。これまでは予算が無いからできないとか、機材がないから始まってお金がないとか、時間がないとか、映像を撮るためのハードルというのを勝手に設けてきた部分があったと思いますが、5D markⅡや7Dという優れた機材が出てきたことで、もうそういう言い訳は出来なくなってしまった(笑)。

プロとして、クリエイターとして、これだけ良いものがあって、これだけ便利になっていると現状で、結局色々言い訳して何も出来なかったというわけにはいきませんから。今生き残っているフォトグラファーはフレーミングやライティングと露出のコントロールという部分で勝負してきてそれを越えてきている人だと思います。これからはその技量を映像にも活かして、フォトグラファーでも、そのクリエイター自身の才能や力量が、本当に試される時代になってくると思いますし、そういう才能を持った新しい人も出てくるでしょう。またその表現方法としても、TVとか映画とか既存のメディアに押し込めるだけではない、フォトグラファーなりの新しい映像の見せ方がDSLRムービーなら色々できると思います。この分野の可能性は大きいですね



石田晃久
http://www.akihisa.net/
http://www.studio-folio.co.jp/ (株式会社フォリオマネジメント所属)

1984年3月:日本大学芸術学部写真学科 卒業
1988年2月:フランスへ渡航
1990年5月:フリーランス・フォトグラファーとして活動を開始
人物・ファッションを中心にエディトリアル・コマーシャル等の撮影を手掛ける。
1990年~1995年MC Sister 連載、1992年~1993年 Elle Japon 連載、1992年~1999年 丸井(通販カタログVoi)連載。1996年に写真展「Heart of Gold」(中国雲南省 苗族をたずねて)を開催。その後も広告写真、タレント撮影など多数手がけている。社団法人 日本広告写真家協会 正会員

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