現像・色補正 デジタルソリューション時代

江夏由洋(High Resolution担当)

NAB3日目にして感じることは「ポストにおける編集環境の充実」です。特に色をいじることに関しては、かなりのことがポストプロダクションで行うことができるようになりました。ファイルベースによる運用が大判センサーのカメラでも行えるようになって、収録をRAWやLOGで撮影するということが当たり前のように行われるようになったと言えます。それはもちろん映画製作のワークフローをデジタルで置き換えることができるようになったためですが、ビデオの時代では色は収録時に決めるといった現場の考え方から、いよいよデジタル現像・色補正をフィルム同様ポストで行う時代になったということなのです。

DaVinci Resolve ver.9

今回のNABでその「色補正」の舞台が大きな変革を遂げようとしていました。昨年から大きな話題になっているBlackmagic DesignのDaVinci Resolveは色補正の世界に革命をおこしました。ウン百万円もした色補正のシステムを「タダ」にしてしまうということで、数多くの人に色補正のチャンスを与えることになったわけです。

有償版であっても10万円以下で購入できる最先端のツールは、間違いなく映像制作のデジタルワークフローを根本から覆したと言えるでしょう。今回DaVinci Resolveはバージョン9の発表となったわけですが、使いやすさや汎用性はとてつもない速度で加速しているといっていいと思います。

Quantel Pabloその価格は800万円!

色補正のハイエンドQuantelのPabloも、遂にソフトウエア版が今回のNABで発表となりましたが、その価格は未だ800万円と決して安いとは言えない値段でした。担当の人も「DaVinciの登場は脅威だ」と言っていましたが、もはや効率化のビジネススタイルは老舗をも脅かすものであるといえるかもしれません。

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象徴的なのは、Adobe CS6シリーズでも、ビデオのスイーツ製品にもSpeed Gradeという初めてハイエンドの色補正ソフトウエアがバンドルされることになったことです。Adobe自身も色補正の重要性やトレンドを感じているのですが、従来の価格の中で新しく色補正のソフトがバンドルされたことは、DaVinci同様、多くの人に色補正の素晴らしさを知ってもらうことになるでしょう。

RAWやLogで収録し、現像・色補正を行うというワークフローはいよいよ編集の中でも行われる作業になってきており、決して特別なステップではなくなったと言えます。だからこそリーズナブルで高性能な色補正のソリューションが多くの人に支持されているわけです。

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帰りがけに面白いモノに遭遇しました。なんとオンロケーションで行えるカラコレをするために改造されたバンです。LA在住のカラリストが、自らバンを改造して、撮影現場で色補正やLUTを作成できる「車」を作ってしまったのです。カラコレのツールはMacベースのSCRATCHを使っていましたが、内装も凝っていて、居心地のいい空間を作り出していました。

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今は映画製作の現場で活躍しているとのことですが、面白いなと思ったのは、車の制作にかかった価格がなんと800万円だそうで、まさにPabloと同じ値段だったということです。決してハイエンドがダメだというわけではありません。ハイエンドにはハイエンドの意味があります。ただここまで色補正の大切さが広まってしまうと、今まで特殊技術として扱われていた分野が、誰でもできる・やれるものにならざるを得なくなってくるのですね。いよいよ明日NAB最終日です!まだまだまわりきれていないブースもあるので頑張って取材します。

今こそ日本のパワーを!その1

小寺信良(ポスプロ関連担当)

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HD配信を可能にするのCerevo Live BoxのHDタイプ

NAB取材も今日で3日目だが、今日は会場をちょっと離れて、最近できたホテルTrump Towerまで足を伸ばして、株式会社Cerevoの次の製品のデモンストレーションを見てきた。現在LiveShellでUST配信している人も多いと思うが、HDMI入力が480pまでという制限がある。次の製品は、LiveShellというよりはそれよりも前に出たボックス型のCerevo Live Boxに近い製品。ただし入力と配信がHDに対応する。

コーデックはH.264もサポートしており、Base、Main、Highの各プロファイルにも対応。インターフェースはLive Boxと同じぐらい簡単で、USBにWiFiモジュールを挿すことでワイヤレスルーターに接続してダイレクトに配信できる。

まだプロトタイプなのでお弁当箱ぐらいのサイズだが、製品版はこれの半分ぐらいのサイズで作れるのではないかという。HDMI入力がHDをサポートしたほか、マイクも+48Vファンタム電源搭載のXLRが付いている。さすがにXLRを付けるとボディに厚みが出るわけだが、ミニXLRに変更することも検討している。価格的には現状のLive Boxよりも、もうちょっと高いぐらいの値段で出る見込み。

今こそ日本のパワーを!その2

猪蔵(モンドガジェット関連担当)

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NABも3日目。ようやくここで脳内の中に今年のNAB像がくっきりと浮かび上がる頃だ。今回も思えば、いろんな新しい出会いがあり2012年の映像業界が進むべき道が見えたような気がする。新しい技術が生まれ、イノベーションが起こるそんな瞬間に立ち会える事は、参加者冥利に尽きる。今回いつもは最終日に顔を出すノースホールをぶらついていた時にであった物を紹介。それは、昨年隆盛を極め、歩けばぶつかるような状態だった3Dについてだ。

今年はアウトドアゾーンで3Dの展示が集約されていたが、いまいち足を運ぶ人も少なかった様に思われる。これは、3D礼賛というよりも、技術として落ち着いたという事なのかもしれないが、未だに専用眼鏡をかけての3D鑑賞には、腰が重い。

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そんな中、目から鱗だったのが、NICT(独立行政法人 情報通信研究機構)の展示だ。彼らは最先端の技術を取り入れカタチにしていく興味深いプロダクトやサービスを出展する事でもおなじみである。ノースホールの人もまばらな所に展示していたのが残念なくらいだ。そんな彼らが今回展示していたのが、200インチスクリーンによる多視点裸眼立体視の上映だ。その上映には200台ものプロジェクターが組まれそのグリット毎に違う映像がプロジェクションされる仕組みとなっている。 200インチの大画面に対して、見る視点を変えるとすべて違う3D映像が目の前に繰り広げられるので壮観だ。

4Kとともに注目だったのはHS(ハイスピード)カメラ

石川幸宏(デジタルシネマ&DSLR関連担当)

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民生機器に端を発した映像技術革新の波は、ここに来てプロ業界にも大きな波紋を投げ掛けてるのは明白だ。各々の映像技術が熟れて使いやすくなってきたことで、その機能を逆に単機能化してシンプルな技術構造にすることで、使い方の中にユーザーの思惑を容易に取り入れる事ができるようになった。

そのユーザーオリエンテッドな指向性は、いまやプロ製品に対するニーズとしても不可欠な要素になっている。この傾向はここ2、3年のNAB会場を見ていれば明らかであり、大成している、EOS 5D MarkⅡしかり、GoPro HD HEROしかりで、気がついてみればそれらは全て民生機器だ。

今年のNABの裏テーマの一つとして、4Kとともに注目だったのはHS(ハイスピード)カメラだ。そもそも産業用カメラ分野の技術だったHSが、ようやく制作機器の技術として熟れ始めようとしている。ソニーのNEX-FS700をはじめとする、様々なHS対応カメラが出現して来たのも大きな傾向の一つ。

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以前から話題の朋栄のVFC-7000をはじめ、新たにweisscam T-Cam、TS3 Cineなど、120fps以上のHSが可能な専用カメラが、$50,000以下というこれまでに無い価格で出現してきている。しかし制作用製品としては、操作感、画質、価格、デザインといった面でまだどれもいまひとつといった感も否めない。スローモーションやタイムラプスなど、バリアブルなフレームコントロールをもっと簡単に作品に取り入れて、作品をもっと魅力的にすることは、いまどの分野でも気になっているところだ。今後この分野がさらに熟れて来る事に期待せざるを得ない。

あっという間の三日間

岡英史(ファイルベース関連担当)

今回は何故か自由になる時間が少なく会場内をしっかり見ることが出来なかったが、撮影の合間の移動中にこれだと思った物だけでも改め見る様にしてみた。三日目は当初の予定通りEVFを中心に見るように心がけた。

EVFはやはり安価ではない。
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まずはIBC2011でも好評だったCINEROIDのEVF。モニターサイズは3.2inchなので純正のスコープが気に入らない場合は豊富のラインナップがあるスチル用のスコープ(ルーペ)を探して装着すれば自分好みのカスタマイズも出来る。この小さいモニターでHD画像がつかめるのか?と言えば解像度自体は800×480あるので問題は無いはず。内部の細かい機能もゼブラやオーディオレベルの表記とこちらも多種多様でVF自体の役割以上なEVFだ。

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次は、LCDVFE製のEVF。此の特徴はまず見かけが格好いい!この形何となく見たことが在るような、取り付け位置だがよく考えるとPMW-320とほぼ同じ様なステーで止まっている。この液晶も同様に800×480の高解像度を誇り、ベクターや波形モニター等も装備され本体横のボタンで簡単操作でき、バッテリー駆動単三電池4本でも駆動が出来る。どちらのEVFもHDMIの入力で当然同じ出力が付いているために撮影中にディレクターにモニターを用意して別に見せることも可能だ。とにかくコンパクトで既存のカメラに取り付けても全く違和感が無いだろう。

NINJA
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ATOMOSのNINJAと言えばコンパクトレコーダーの先駆け的な存在で在るが、その分色々な制約があり、撮影形態によっては使えずに終了したと言う話も良く聞く。しかし今回バージョンアップし、その使いにくい部分を全てと言っても良い位に改良を加えNINJA2になった。まずはHDMIの入出力が出来るようになったので、外部レコーダーの先に、新たに映像出力装置(例:モニター・EVF等)を付ける事が出来る様になった。またディスプレーの解像度も上がる事により、これ自体をHDモニターとして活用出来るようになった。細かい部分ではHDMIに載っているTCを受け取ることが出来るためにカメラ本体で撮影している素材とのリンクがより確実に行えるだろう。

さて今回のNABレポートも終わり後残す所1日。最後の日はメーカー自体も片付けに入ってしまうので実質午前中のみ!しかしこの半日が実は面白い。色んなインデペンデントなメーカーは、展示してあった機材を投げ売りにする事が多々ある。中には$100程度でLEDライトを売るメーカーも…。最後の1日を楽しむと共に来年もまたNABに戻って来れたらと思う。

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PRONEWSの現地特派員5名+αが、各分野を分担、担当し、テキスト、映像、画像を駆使してレポート。今年のNAB showはこの5人+αが盛り上げます!会期中の更新をお楽しみに!

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