SRMemoryがやって来た

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ソニーは過去から現在そしてまだしばらくの間は、業務用ビデオテープの市場で製品を作り続けるでしょう。フォーマットの策定から携わっているメーカーとしての責任を果たすことと、まだ製品を使い続けているユーザーがある程度残っている限り、その状況は変わることはないでしょう。しかし、一方ではファイルベースのワークフローが急激に発達している現状を見て、なるべく早くその方向でもスタンダードな製品を打ち出して、ユーザーを再度この分野でも引きつけておきたいと考えているはずです。SRMASTERはそんな事情を背景にして2011年に発表になりました。新開発のメモリーストレージシステムを中心にして、ビデオテープではない全くソニーとしては新しい仕組みで、記録メディアを一新しようとしています。

SRMASTERブランドは、据え置きVTRと似た顔を持つSR-R1000を筆頭に、ポータブルレコーダーSR-R1/SR-R4、データトランスファーユニットSRPC-5/SR-PC4、そして記録媒体であるSRMemoryなどから構成されます。SRMemoryはソリッドステートメモリを使用して、ファイルラッパーをMXF、コーデックはHDCAM-SRと同じフォーマットのMPEG4 SStPを採用しています。転送レートは最大で5.5Gbit/secで、理論値では1秒間に最大687MByteの転送が可能ということになります。一般的なハードディスクをも上回るスペックを持った記録メディアが登場したことで、単純にVTRからSRMASTERに製品ラインナップが変わるだけではない可能性を感じます。

用意されている記録モードはSR-Lite(約220Mbit/sec)、SR-SQ(約440Mbit/sec)、SR-HQ(約880Mbit/sec)があります。当面は機材の制約などで、SR-LiteとSR-SQが運用の中心となる模様です。1920×1080/59.94i/10bitであれば、SR-SQモードでは1Tバイトのメモリを使うことで、約241分の記録容量を持っています。メディアの価格はPanasonicのP2が登場した当初でも課題があったように、まだByteあたり単価は手頃だとは言えません。しかし、これは普及とともに必ず落ち着くことが過去の歴史から想像できます。

多様な収録ができるレコーダー

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SRMASTERポータブルレコーダー SR-R1。標準でSR-SQ(440Mbps)、SR-Lite(220Mbps)に対応し、今後、SR-HQ(880Mbps)にも対応していくようだ。また、今後、AJA社のインターフェースボックスやビデオキャプチャーカード等との連携で同軸ケーブルを使用したデータ転送も可能となる予定

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SR-R1の付属コントロールパネルはHDCAM-SRポータブルレコーダーSRW-1と同型のコントロールパネル。VTRライクに操作が可能

ポータブルレコーダーSR-R1は、現状ではSR-SQとSR-Liteで記録可能で、HD-SDI入力端子からマルチフォーマットの信号を記録することができます。ソニーのカメラだけではなく、SDIを持った信号源であれば組み合わせは自由です。専用レコーダーと取り外し可能なソリッドステートメモリのコンセプトでは、先行する他社のレコーダーがすでに安価で市場に広く出回っています。そこに対して後発のソニーが業務用レコーダーを製品化したことにどんな意味があるのでしょうか。この結果はすぐには出ませんが、そこでの評価はある程度時間をかけて放送局を中心に実証してくれるのではないでしょうか。

今回検証した構成は、カメラはRGBオプション付きのPMW-F3を用意して、SR-R1とデュアルリンクのSDIで接続して収録しました。専用のマウントを備えているので、一般的な業務用カメラとの連結は比較的容易にできることと、フィールドでの使用のためのバッテリ駆動も用意されています。F3との連携ではカメラのスタート/ストップがSDI経由で連動できるので、収録のワンマンオペレーションも可能です。私の検証ではCanonのC300とはSDI連動ができなかったため、同じメーカー同士のアドバンテージを感じました。

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今回テストで使用したPMW-F3。SR-R1との組み合わせでRGB4:4:4やLog収録も可能

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PMW-F3の映像出力端子。新ファームウェアV1.31で撮影可能となったS-Log422のテストも行ってみた

収録後のプレビューは、いわゆるノンリニア方式な記録メディアのためストレスなく操作できることに加えて、VTRライクな操作感がこれまでの使い方にも通じて安心感を受ける印象を持ちました。QuickTimeベースのレコーダーでは、長時間の記録でのトラブルが起こることも報告されていて、SRMemoryでの長時間記録も今後いくつもの現場で洗練されていくでしょう。いくらスペックが優れていても、安心して運用できなければスタンダードにはなり得ません。ソニーというブランドがそこでどんな活躍ができるかは今後の評価を待つしかありません。

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SR-R1のビデオ、オーディオ端子各種。3G-SDIデュアルリンク入力も装備している

撮影後からポストまで

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MacBook ProとSRMASTER データトランスファーユニットSR-PC4。SRW-5800と接続してHDCAM-SRテープへのクローニングなど、VTRとの組みわせでの運用を想定したSRPC-5に対して、SR-PC4はPC環境での運用に最適なシンプルタイプ

収録したSRMemoryは、汎用性の高いメディアドライブのような仕組みで、PCに簡単に接続できるまでは進化していません。現在のラインナップでは、据え置き型のSR-VTRと接続して運用する1UラックマウントタイプのSRPC-5と、小型のパソコン程度の大きさのSR-PC4の二つがあります。それぞれ内部にはホストコンピュータの仕組みを内蔵していて、標準装備のギガビットイーサネットに加えてオプションのeSATAボードでHDDに収録済のクリップをファイルコピーすることが可能です。イーサネットでの接続は、ホストコンピュータの役割をするSRPC-5/SR-PC4から、外部のCIFS/NFSのファイルサーバに対してファイル転送することになります。これらのトランスファーユニット自身は、ファイルサーバにはならない点に注意が必要です。

操作はすべてネットワーク接続したPCから、Webブラウザを使って操作します。メディアをトランスファーユニットに装着したら自動的に5秒程度でマウントが完了します。すぐに内部に記録されたファイルのリストと共にメディアのプレビューが表示されます。このとき再生できるクリップは設定されているビデオフォーマットと一致したものだけが対象になります。フレームレートを変更したようなフォーマット混在で記録した場合には、再生するためにトランスファーユニットの再起動が必要になります。この仕様は今後改善の余地を感じました。

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WebブラウザベースのGUIで素材クリップの再生やネットワーク、HDDへのファイル転送、インポートが可能。メタデータの確認、修正などクリップリストの管理などに便利

Mac側に転送したクリップは、MXF形式のラッピングになったSStPコーデックです。すでに対応しているDaVinci Resolveならダイレクトに読み込める形式なので、撮影後すぐにグレーディング工程に入れます。またソニーから配布されているSR Viewer.appによりQuickTime形式で書き出すこともでき、このときに別ファイルを新規に作成しないリファレンス形式でも書き出せるため、これを使えばレンダリング時間を軽減した書き出しも可能です。

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課題と今後の可能性

今回は使用しなかったSR-R4を使うことで、F65からの4k RAWデータを記録することが可能になります。しかし、現状で使われているコーデックは圧縮比が低いため、映像の品質では有利でも素材のハンドリングではコピーにかかる時間が課題になっています。さらに低ビットレートのコーデックもリリースされたので、この点でも今後の進化に期待です。トランスファーステーションは2機種リリースされていましたが、これに加えて新たにメモリードライブユニットSR-D1が今夏、発表されます。これにより、リムーバブルドライブとしてSRMemoryも使用可能になり、コンピュータの中からコピー&ペーストで素材を取り出すことが可能になります。

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USB3.0とeSATAインターフェースを装備したメモリードライブユニットSR-D1。簡単かつ高速にSRMemoryのファイル転送を行うことができる

ファイルベースのカメラが登場して以来、撮影現場での課題のひとつはデータのバックアップでした。これまでには存在しなかった作業工程なので、「余分な作業」という感覚が少なからず蔓延しています。また、バックアップで使用するHDDなどのメディアの信頼性も、現状では決して高いとは言い切れません。使っているHDDは家電量販店で手に入る民生用の製品なので、現状では信頼性が業務用のレベルまで至っていません。これらの事情から私はこれまでいろんな信頼性の高いメディアを模索してきましたが、SRMemoryはまさにこんなニーズにマッチするのではないかと考えています。高い転送レート、小さくない1枚あたりの容量、高い信頼性の記録の仕組み、これだけのスペックを見ただけでも、今後の「業務用HDD」のような信頼度の高い記録媒体として使用できる可能性を感じます。

SRMemoryは単なるVTRの置き換えではありません。多くの運用面での可能性やアイディアを生む素質を持っています。今回の検証で感じた安心感により、ビデオテープ以上の可能性を感じました。

txt:山本 久之  構成:編集部


Vol.02 [ファイルベース新時代2012] Vol.01