実際に足を運んで初めて分かる事
製品の展示ばかりではなく、求人と求職の場でもあるSIGGRAPHのExhibition(展示会場)。インターネットで様々な情報が得られる今、ここだけでしか見られない、セッションや、関係者と直にふれあう場として盛り上がっていた。今年の出展数は昨年よりも少し増えた180社。世界15ヶ国からの出展があり、そのうち38%は米国外からの展示であった。展示面積も43,850平方フィート(幕張メッセの1ホール弱)と、リーマンショック以降低迷していた展示も、盛り返して来た感がある。調査によると、展示会への来客者の滞在時間はだいたい5時間。来客者の75%が仕事に役立つ、今までに知らなかった新しい企業や製品を見つけているとのこと。
今年の傾向としては、単にブースで製品展示するだけでなく、製品を使った事例や、初心者向け/上級者向けのセッションを展示会ブース内や専用に設けられた展示会内のプレゼン会場など、別室で開催する企業が多くみられた。中には日本人向けの日本語セッションを準備している企業もあった。米国外からの展示では、特にカナダ、韓国、フランスが国の援助により共同でブースを出展しており、小さなベンチャー企業も展示会内でアピールする場を有効に活用していた。さらにSIGGRAPHでは定番となっている3Dプリンタ企業が、今年は特に威勢よく展示を行っていた。
また展示会場に関わる新たな試みとして、今年からExhibits Fast Forwardという、展示企業が短時間で自社の製品や展示を紹介するイベントが展示開催の前日に設けられた。初めての試みであったことと、限られた時間であったことから、なかなかうまく発表できていない様相ではあった。論文発表では趣向を凝らした人気イベントとなっているFast Forward。展示会場のExhibits Fast Forwardも今後に期待したい。
180社の展示を集めた、Exhibition会場から…
■デジタル地図 / esri
Oculus Riftを被ってVR空間、仮想の街の中を散策する様子
esriのブースではトラッキング機能つきHMD、Oculus Riftを使ったVRツールキットのデモを見ることができた。Oculus Riftは液晶タブレットを眼鏡にしたようなデバイスで、視野角は110度と広く頭の動きをトラッキングし映像を追従させることができる。映像によっては酔いそうになるが、約300ドルという手軽な機材でVR体験が得られるメリットは大きい。esriのCityEngineというツールは映画やドラマなどで架空の都市の地図や風景を作るのに重宝されているそう。
esri CityEngineのデモ映像
■4K Color LCD / EIZO
EIZOのプロ用ディスプレイは海外でも人気。4K解像度36.4インチ(約92cm)カラー液晶ディスプレイの展示。DisplayPort 1.2に対応し、今まで4K用には2本必要だったDisplayPortケーブルが一本で接続できる。現行品のDuraVision FDH3601に近いが、発売、価格は未定とのこと。
■HDRI 360度パノラマカメラ / SpheronVR SpheroCam HDR
ハイダイナミックレンジで、暗いところから明るいところまで50メガピクセル、360度パノラマ撮影できるカメラ。撮影には解像度設定にもよるが、数分から数十分と少々時間がかかる。カメラの筐体そのものが傾き、上下方向も180度の範囲で撮影できる。真っ暗な環境でも最適に撮影できる専用のLEDライトを搭載したもの。通常パノラマ撮影用にライトを用意するのは難しいが、専用のLEDライトを用いると照明が不十分な環境でも記録撮影が可能。特殊な用途としては、遺跡などの触ることができない物の記録撮影や、火災や交通事故などが起こった現場の状況を記録、保存するために用いる場合もあるそう。
■ 顔スキャン / DIGITEYEZER EasyTwin
DIGITEYEZER EasyTwin 説明ビデオ
DIGITEYEZERはiPhone用の3D顔スキャンツールiFace3Dで知られる3Dスキャンのオンラインサービス。このたびEasyTwinというデスクトップ設置の高精細顔スキャン機材を展示。白く輝く凹部に顔を入れて数分待てばスキャン完了だ。
■ネット経由3Dプリンタサービス Shapeways
展示ブースの壁。細かなタイル状の素材は全て3Dプリントしたもの
プリントアウトサンプル。金属粉でプリントアウトし焼結したもの
Shapewaysはオンラインで3Dデータをアップロードすると、3Dプリント後に郵送してくれるサービス。大きさや素材によって、細かく価格が変わる。Shapewaysは単なる3Dプリントサービスのみならず、モデラーなどのアーティストのサポートや、発表と販売の場をオンラインで提供している。さらに一般的な3Dツールを使う際のノウハウや、コツなどの様々な情報を提供している。ファッション業界などでも利用者が多いらしく、iPhoneケースなどのアクセサリ業界、アートオブジェや、クッキーカッターのようなキッチン用品、建築模型、指輪やブレスレットなどの宝飾品が主な分野。金属質のものも制作できる。少量だけ必要な部品を制作したり、自分専用の握り心地の良いカメラグリップをオリジナル制作するなども可能だろう。
求人と求職専門のコーナー:Job Fair
Job Fair 会場の様子。19社の出展
展示会場の一番奥には求人と求職専用のコーナーJob Fairが設けられ、学生や、求職中のアーティストなどが数多く訪れていた。テーブルが置かれただけの簡素なブースの並んだJob Fair会場、展示会場内でも求人活動は行われていたが、Job Fairのブースではさらに企業の熱意が感じられた。自身のポートフォリオ(作品集)やiPadでデモリールを見せて自分を売り込んでいる学生や、職種の内容や、契約条件などを細かく聞き出そうとしている熱心な参加者が多かった。求人企業も、求職者も、双方とも真剣なまなざしであった。
今年のJob Fairの出展は全部で19社。Appleのコンテンツ部門、Amazonのゲーム部門、Intelのゲーム部門、R&D部門など超大手から、マイナーなCG/VFXプロダクションや、ゲーム会社まで、様々な企業の出展があった。日本からはキヤノンのMR(拡張現実)部門、ポケモン映画やTV-CG版パックマンで知られるOLMデジタルなどグローバル人材を獲得しようとしている企業もみられた。
最近のJob Fairの特徴としては、勤務地がアメリカの職種ばかりではなく、カナダ、イギリス、オーストラリア、シンガポールと多岐にわたっていることがみてとれる。また、インターンシップ制度をアピールする企業もみられる。Pixarでは夏休みと冬休みに12週間から、6ヶ月のインターンシップ制度が設けられている。ただし、インターンの採用枠は狭き門であり、採用条件も大変厳しい。また、細かく分かれている業種にはCG関連ばかりではなく、マネジメントやファイナンス、社食業務に関するポジションに空きがある時もあるらしい。求人に関しては、どの企業も常に優秀な人材を求めているが、プロジェクト状況などによって、いつも全てのポジションに空きがあるわけでは無い事が多い。例えばPixarの場合はSIGGRAPH当時、以下のような職種を募集中とのことであった。
- テクニカルディレクター
(特殊効果専門/衣服シミュレーション専門/レンダリング専門/リグ専門/ワークフロー専門など)
- ソフトウェアエンジニア
(いわゆる3DCG関連のプログラマ。アルゴリズムへの知見と実装力、OpenGLの理解などが求められる)
- システム
(Unixアドミニストレーター。ネットワークやデータ保存にも詳しく、実務経験が求められる)
- レンダーパイプライングループ
(レンダリングパイプライン専任、現場でのトラブル対処の能力が求められる)
- アニメーター
(三次元CGのみならず、古典的なデッサンやアニメーションのスキル、ストーリー構築のスキルも求められる)
txt:安藤幸央 構成:編集部