大きく変わる4Kスタジオ機材
小寺信良
映像関係者にとって、これまで4Kとはデジタルシネマの文脈で語られるのが常であった。それはRAWやLog収録とセットの話であり、カラーグレーディングと編集ワークフローをどうまとめていくかの議論であった。
一方で日本の放送関係者は、今年の夏から4Kの試験放送開始とは言うものの、シネマの機材でどうするんだという、まさに手がつけられない状況が続いており、放送システムとしてちゃんと組めないことが課題であった。
今回NABに来て、主にシステム・ソリューション製品を見てきたが、4K技術は明らかに放送に舵を切り始めている。例えばキヤノンはEFシネマレンズと放送用ズームレンズを合体させ、ソニーはF65に映像伝送モジュールを合体させた。これらはシネマ機材と放送機材のハイブリッドだ。朋栄がスイッチャーやルーター、アップ/ダウンコンバータ、フレームシンクロナイザー、カラーコレクターといった周辺機器を揃えてきたところで、ようやく放送システムが組めるようになってきた。
その中の課題は、各機器と接続するための映像伝送だ。Blackmagic Designは独自にSDIを拡張し、6G-SDIを提唱していたが、今回のNABで4K/60pが伝送可能な12G-SDI規格の対応製品を投入してきた。同社製品でまとめれば、従来のケーブル量の1/4でシステムが組める。一方SMPTEやEBUはこれを機会に光ファイバー化、さらに可能性としてはもうベースバンドではなくIP伝送に移行、欧米共通規格として放送システムをIT化しようとしている。
この標準化は今年から来年にかけて決定・実用化の流れになると見られているが、そうなると現在のSDIベースのHD/4Kハイブリッド機材は、一気に時代遅れになる可能性がある。これは1990年前後、先行していたパラレルデジタル伝送がシリアルデジタル伝送に一気に取って代わられた時に、辛酸をなめたポスプロも多かったことを彷彿とさせる。
ただ、すべての放送が近い将来4K化するわけではない。そろそろ古くなったHD機材をリプレイスしつつ、ついでに4Kをどの程度睨んでおくか。ポスプロとしてはまだ当分悩み多きところだろう。
放送の4K実用化に向けた具体的な取り組み
石川幸宏
とにかく話題に事欠かなかった今年のNABショー。話題の新製品やニューテクノロジーの発表も目白押しで、全日を通じて非常に興味深い展示会となった。
SONYブースにF65とともに展示されていた4K XAVC Player
大きなテーマとして見えて来たのは、放送の4K実用化に向けた具体的な取り組みだ。昨年は全体的に「4K Ready」という方向性を打ち出した感があったが、今年になって映像制作ツールそのものの開発の方向性を、具体的にデジタルシネマだけでなく放送へも向けてきたことは興味深い。
シネマの世界も全米では4Kプロジェクター本格導入へ道筋が見えて来たことや、レーザープロジェクターの人体(眼球等)への安全度が実証されたこともあって、CHRISTIE、BARCO、NECなどプロジェクターメーカー各社のレーザープロジェクションへのプロモーションも盛んになってきた。4K=大画面/高輝度視聴が求められることからも、この動きは4K映像普及にとって追い風だろう。ただし、データ容量や転送速度などを超えるための様々な技術的障壁や課題は多く山積しており、やはり昨年指摘したとおり、ここ数年は4K実用化に向けてのR&Dが繰り返されるのではないだろうか?
その他の特長として興味深かったのは、これまでの流れを変える新たなエポックメーカーが出現して来た年でもあったと思う。AJAから発表された4Kカメラ「CION」などの新勢力のカメラツールは、これまでの「カメラ」という概念の製品というより、まさにデジタルワークフローの一環としてのキャプチャー装置という位置づけで、レコーダーからデータをマルチにデリバリーする装置の前にキャプチャー機能がついたというイメージが強い。カメラマンにとってのカメラから、映像制作工程におけるワークフローを補完するキャプチャーマシンという位置づけのカメラも多く出現して来たが、それだけ映像をキャプチャーするシーンがあらゆるジャンル、業種で増えて多様化している現れだろう。
Blackmagic Design URSAのHDMIモデルは、DSLRなどを接続し、既存カメラにレコーダー+最新のデジタルワークフロー環境を提供するというコンセプトであり、こうした傾向が今後増えてくるのではないだろうか?
ちなみに“URSA”とは、かつてシンテル社のテレシネ機の名機と呼ばれたURSA Diamond、URSA Goldからの引用のようで、新発表されたCintel Film Scanner同様、同社のCEO、Grant Petty氏のフィルム、映画に対する愛情の深さを感じ、またこれらの製品のプレス発表の際に、Grant氏が感極まっていたことが大変印象深かった。映像愛に溢れるこうしたメーカーがこれからも世界の映像人の心強いサポーターであってくれることを期待したい。
まだ伝えられていないお宝紹介!
岡英史
さて実り多きNABSHOW2014総括!最終日に残り少ない時間(午前中で戦いは終了)駆け回って個人的に気に入った物をざっと紹介していこう。
■AZDEN
新製品一覧
日本企業をしっかりと紹介しなければ駄目だ。筆者も含めてENG寄りのカメラマンならカメラや三脚も大事だが音声、ミキサーやワイヤレスも絶対に必要なもの。そんな中AZDENは期待に答えてくれる。都内調布市に本社のある音声メーカーだ。毎年興味を引かれる製品をきっちり出している。今年はその中からSONYスロットに対応したスロットinワイヤレスレシーバーが出展されていた。これでPMWクラスでも業務帯の価格でスロットインでの運用が出来る。PMW-400以上は本当に使い勝手が良くなる。
SONYスロットイン
また同社のミキサーにはUSB出力端子が付き、PC接続(要ソフト)しての音声の取り込みが出来る。ワイヤレス運用と相まって現場ではかなり重宝するだろう。勿論ガンマイク等も良い製品が揃っている。筆者のDSLRでの運用時にはAZDENのガンマイクで運用をしている。
USB付きミキサー
■EZ-JIB
LibecさんもここのJIBは知っている位のJIB&クレーン屋さん。この中で目を見張ったのがJIBに取り付けるリモートハンドルKIT。これを使うことにより筆者のように身長が低い人でもJIBの高さを十分使えるようになる。デモも小柄の人が行っていたが、このハンドルにレンズコントロールユニットも付いているので滑らかなカメラワークが可能だった。
■SHAPA
魔女の様なボディペインティングをした女性が一際目立ったブース。ここで面白かったのは3軸のジンバルと、ショルダータイプのRIGを組み合わせたもの。3軸目をカメラの回転ではなく上下動の減衰に使っているのがRIG運用にマッチしている。素材もカーボン&アルミ切削と言うマニアックな物。今回のRIGではNo.1に格好良かった!
■WOODEN
RIG全体と言うよりもEVFステーが良い。EVFセッティングがENG系のカメラと同じように簡単に出来るのが特徴。これは日本でも販売して貰いたい。
■JVCケンウッド
今回は4機種の4Kカメラに圧倒された同ブースだが、RCヘリ等に搭載する時用のヘッドマウントディスプレイも展示をしていた。元々は航空整備に使用されている物をアレンジしてくるので、これも常時装着の日も近いかもしれない。
まぁ、この様に漏れた物を最終日に少しではあるが拾えて良かった。今年はオーディオコーナー&照明コーナーに殆ど行けなかったがチラ見レベルでも、特にLEDライト(と言うか大型照明)はびっくりする程のハイワッテージ化された物がかなり展示してあったのが印象的。
そんな感じのNABで、今年は特に色々とエキサイティングな発表が初日から目白押しで、ここ数年の中では本当に一番面白い。セントラルホールよりもサウスホールに人が多いのが何よりの証拠だろう。まだ4回しかNABにはきていないがこれだから面白い!と言うのが良くわかった。来年も是非参加したい!と言う意気込みを最後に、三銃士レポートを閉めたい。