txt:稲田出 構成:編集部

デジタルシネマの変遷を振り返る

アフォーダブルなデジタルシネマはRED Digital Cinema CameraのRED ONEが2007年あたりから市場に出てきたころから始まったといえるが、翌年にはニコンのD90やキヤノンEOS 5D MarkⅡがHD動画撮影できるカメラとして登場し、今までDOFアダプターを使っていたユーザーをはじめとしてスチル系のカメラマンなども含めてこうしたカメラへの関心が高まっていく。こうした動きはフィルムでテレビドラマなどを撮影していた現場にも大きな影響を与えるが、これは2008年のリーマン・ショックや2009年のギリシャ危機といった経済的な背景要因もあったと思われる。

その後も2010年にARRI ALEXA、2011年はソニーPMW-F5/F55、2012年にはキヤノンがCINEMA EOSシステムを発表するなど、アフォーダブルなデジタルシネマカメラがカメラメーカーによって発売されていく。折しも2012年にEastman Kodak社が経営破綻し、翌年の2013年には富士フイルムが映画フィルムの生産中止を発表したことから、フィルムからデジタルへの道筋が加速されていく。

ちなみに今年2月にEastman Kodakと大手映画会社との間で継続的なフィルム供給に関して発表があったが、4月にはフィルム価格の値上げがあり、意図的にフィルムを使う何かがないかぎりフィルムからデジタルへの流れに大きな変化はないだろう。また、フィルム上映館よりプロジェクターによるシネコンの数のほうが多いという現状もそうした流れを後押ししているといえよう。

以前は、デジタル一眼による撮影システムが三脚やケージなどのメーカーを含め沢山出ていたが、今年のNABではかなり数が少なくなってきた。映画用のレンズに比べ安価な写真用レンズが使えるとか、センサーサイズなどのメリットも4K対応のビデオカメラが各社から発売になり、最近ではあまりアドバンテージがなくなり、デジタル一眼をシネスタイルで使うメリットが薄れてきているからだろう。そのかわりBlackmagic Designやキヤノン、ARRI、REDなどからはデジタルシネカメラが新製品として出てきている。

Blackmagic DesignはURSA Miniのほか、Blackmagic Micro Studio Camera 4Kといった4Kに対応したカメラを出展。キヤノンもHDのセンサーをDCIの4Kに対応したEOS C300 MarkIIを出展していた。ARRIは今までHDまたはUHDの記録だったALEXAシリーズがDCIの4K対応にしたほか、新たにALEXA Miniというカメラを出展した。

ハンドヘルド型の小型ビデオカメラのスタイルを取っていない制作用や、ドローン搭載用の小型カメラなどはそのほとんどがデジタルシネマの4Kになったという印象だ。これは前述した通り、上映用の映画制作がフィルムからデジタルに本格的な移行を始めたということだろう。

デジタルシネマ4K NABの会場から

4Kカメラの多くは16:9というHDと同じアスペクト比のセンサーを採用しているものがほとんどだが、映画館などで上映する場合2:1以上のアスペクト比での上映が必要になることもある。フィルムではアナモフィックレンズを使ってワイド化していることが多いが、アナモフィックレンズを使わずに横長のワイド画面をフィルムに記録して上映するというフォーマットもある。ただ、35mmフィルムに横長に記録されるため、アナモフィックレンズを使った場合に比べ面積が半分ほどになってしまうので、画質的な面から一般的にはアナモフィックレンズを使うことが多いというわけだ。

もちろん、フィルムでは65mmとか35mmを横に使うという方法もあるが、カメラが特殊になったり、フィルムの消費量が多くなるため特別な場合以外はあまり使われることはない。デジタルシネマカメラでワイド撮影を行う場合も同じことがいえ、昨年あたりからアナモフィックレンズの新製品が発表されており、それに合わせカメラやレコーダーなどがアナモフィックレンズに対応した表示などが行えるようになってきた。

今回のNABではARRI Anamorphic Ultra Wide Zoom AUWZ 19-36/T4.2やZeiss 100mm Master Anamorphic Prime T1.9、Cooke Anamorphic Prime 25mmおよび135mmなどのほか、アタッチメントタイプの安価なアナモフィックレンズも登場している。こうしたレンズで撮影した場合、横方向が圧縮された画面になるため、横に伸ばした表示をすることで正常な画面にするモードがパナソニックGH4やATOMOS SHOGUNなどがファームウェアアップデートで対応している。アナモフィックレンズはAngénieuxやCarl Zeiss、Cookeといった海外レンズメーカーの老舗が積極的で、キヤノンやフジノンからは今のところ発表されていない。

このあたりはカメラのセンサーとも無縁ではなく、クロップしても充分な解像度や感度などクオリティを確保できればアナモフィックレンズは必要ないという考えなのかもしれない。レンズはARRIなどアスペクト比4:3のセンサーを対象としたものが多いが、アフォーダブルなレンズを発売しているメーカーからは16:9に対応したレンズやアタッチメントもあり、ワイド対応に関しては過渡期といえるのかもしれない。

デジタルシネマ系の4Kはよりアフォーダブルな方向とハイエンドな方向へ幅を広げ、ある意味放送4Kと差別化することで、独自な新境地へと進んでいるといえよう。

Blackmagic Design

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Blackmagic Design URSA Mini。EFまたはPLレンズマウントモデルと4Kと4.6Kセンサーのモデルがある。URSAも4.6Kモデルが追加された。いずれもセンサーサイズはスーパー35となっているが4Kは21.12×11.88mm、最大撮影解像度4000×2160、4.6Kは25.34×14.25mm、最大撮影解像度4608×2592となっており、微妙にセンサーサイズが異なる

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Blackmagic Micro Studio Camera 4K。撮影解像度は3840×2160および1920×1080で、レンズマウントはマイクロフォーサーズなので、様々なレンズを装着可能

ARRI

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54.12×25.58mmという大きなサイズのセンサーを搭載したARRI ALEXA 65。最大6560×3100での収録が可能で、収録コーデックはARRI RAWとなっている。レンズも含めてレンタルされる方式で、24mmから300mmまで8本の単焦点Primeレンズと50-110mmのズームレンズが用意されている。Hasselblad用交換レンズの光学系を元にIB/E Opticsがシネ用に仕立てたレンズとなっているが、ARRIFLEX 765用のZeissやCookeなどのARRI XPLマウントのレンズを使用することも可能。すでに上映用の映画もデジタルシネマカメラによる収録が一般化しているが、これからはこうしたカメラがスタンダードとなるかもしれない

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ARRI Ultra Wide Zoom UWZ 9.5-18。イメージサークル34.5mmまでのPLマウントまたはキヤノンEFに対応。広角時でもディストーションが極めて少ないのが特徴となっている。Anamorphic Ultra Wide Zoom AUWZ 19-36/T4.2とともにNABに出展された。今まではアナモフィックレンズといえば単焦点が一般的だったが最近はAngénieuxとともにアナモフィックでもズームの時代になってきたといえよう

RED Digital Cinema

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RED DRAGONセンサーを搭載したWEAPON。マグネシウムボディとカーボンファイバー製のボディがあり若干スペックが異なる。8K(8192×4320)センサーへのアップグレード対応もアナウンスされており、その場合はセンサーサイズが40.96×21.6mmとなるが、24x36mmの対角線長が約φ43.2mmとなっており、レンズは35mmスチルカメラのものが使用可能

Angénieux

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AngénieuxアナモフィックズームレンズOptimo Anamorphic 56-152 mm 2S。2.7倍T4でコンパクトなサイズ。PLおよびパナビジョン(PV)マウントに対応可能。ほかにも30-72mmがある。アナモフィックレンズのズーム時代の先駆け的な存在といえる

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Angénieux Optimo Style 16-40 cinema TV 4K lens。今回新製品として登場した30-76と共通した放送用フォーカス、ズームデマンドに接続可能なサーボユニットやDSLRマウントアダプターが用意されているほか、エクステンダーやワイコンなどのアクセサリーに対応可能。シネスタイルとビデオを両立させたレンズといえ、ビデオのクルーが扱いやすいようになっている

Carl Zeiss

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Zeiss Master Anamorphic MA 135 mm/T1.9。昨年のNABでCompact Zoom CZ.2 15-30/T2.9とともに発表になったもので、35/40/50/60/100mmを含め7本がラインナップされている。すべてフロントの径とともにT1.9で統一されているほか、100/135を除きサイズも統一されている。マットボックスの使用が前提となるシネスタイル撮影時でのレンズ交換が容易にできるようになっている

Cooke Optics

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Cooke Anamorphic Cine Lens 25mm T2.8 PL mount. Cooke mini S4/i。シネ用のレンズメーカーとして長い歴史をもつ同社も近年25/32/40/50/75/100/135mmといったアナモフィックレンズのラインナップを完成させた。今年は25mmが新製品となっているが、全て同じ口径と長さおよびT値となっている。フォーカス/ズーム/絞りの位置データなどのレンズ情報を対応カメラへ送信できる「/i Technology」を搭載

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Cooke mini S4/i Prime40mm T2.8。小型軽量化や最近のデジタルカメラように設計されたデジタルシネマ用プライムレンズ。18/21/25/32/40/50/65/75/100/135mmの10本がラインナップされており、全てのレンズがT2.8で統一されているほか、フロント部の口径も全て同じサイズになっている。「/i Technology」を搭載している

Canon

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キヤノン1.5倍エクステンダー搭載20倍ズームレンズCN20×50 IAS H。スーパー35mm対応のズームレンズでPLマウントとEFマウントの2週類が用意されている。ドライブユニットを標準装備しており、放送用レンズ同様の操作性と運用性を実現したほか、ドライブユニットを外してフルマニュアルで使用することも可能。また、放送用I/Fである12pinシリアル通信やCooke社の通信規格/i Technology、EFマウントの通信プロトコルに対応している

Luma Tech

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Luma Techの1.3倍アナモフィックアタッチメントレンズILLUMINA Anamorphic。16:9のカメラで2.39:1のワイド画面を撮影するためのアナモフィックレンズアダプターで、T1.9、レンズ口径120mmまでのレンズに装着可能

ATOMOS

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ATOMOS SHOGUNのAtomOS 6.3ファームウェアアップデートでアナモフィックスクイーズに対応。2.39:1シネマスコープのアスペクト比でモニター表示する機能や4096×2160pのDCI解像度のサポート、HDMI/SDIの映像出力に3D LUTが適用可能になり外部モニターを接続時にもLUTを適用した映像を確認できるようになるほか、ソニーFS RAW(FS700、FS7)やキヤノン(C500、C300 Mark II)のディベイヤー処理と3D LUT適用を行い直接ProResファイルとして収録可能

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Vol.00 [After Beat NAB2015] Vol.02