txt:稲田出 構成:編集部

放送に向けて様々な機器が出展

国内ではすでにスカパーJSATが放送を開始しており、スポーツや音楽もののイベントやドキュメンタリーなど様々な番組が提供されている。来年あたりからBSでも放送がスタートする予定になっているほか、海外でも4K放送に向けての準備が進んでいるが、すでに有料放送というビジネスモデルが確立しているスカパーに対して広告収入を中心とした収益構造を元にした民放がどのような形で4K放送を開始するのか興味のあるところだ。今年のNABでは、放送に特化したカメラなどの製品が数多く出展されており、放送に向けて様々な機器が出展されていた。

今まで4KのカメラというとラージセンサーであったりPLマウントといったデジタルシネマ系のフィーチャーが多かったが、今年は3板式2/3インチセンサーを採用したカメラやCCUなど、現在HDの放送で使用しているシステムと同様な運用を行えるシステムが登場している。これらはB4レンズマウントとなっており、既存のHD用レンズを装着可能だが、この機に乗じてというわけではないが4K対応をうたったレンズが出品されていた。また、ドローンやジンバルに搭載した撮影に対応した小型カメラなども登場しており、多種多様な撮影シーンに対応できる環境が整ったといえよう。

4K対応のB4マウント3板式カメラはソニーがHDC-4300を出展したほか、Grass Valleyの4KカメラLDX86や池上通信機の2/3型4K 3CMOS 4KシステムカメラやパナソニックのAK-UC3000シリーズなどが出品されており、現行のHDカメラと同様CCUやトライアックス(というかファイバー伝送)に対応したものとなっている。現行のカメコンパネルをそのまま使用可能なモデルも多く、運用に関しても従来通りに行えるように配慮されている。

放送用カメラ

■Sony
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マルチフォーマットポータブルカメラソニーHDC-4300とベースバンドプロセッサーユニットBPU-4000。カメラヘッドへの電源供給や、インターカムやリターン映像、カメラの遠隔操作を可能。オプションで4K映像から任意のHD映像を切り出して運用できるHDカットアウト機能や4倍速のHD高速撮影機能を搭載できる

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スローモーションリプレイ、クリップ管理、プレイリスト編集の操作が可能なソニースローモーションリプレイパネルPWSK-4403(写真右)とHDCシリーズなどと共通したリモートコントロールパネルRCP-1501(写真左)

■Grass Valley
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LDX 86。スタンダードなHDカメラモデルLDX 86 WorldCamからLDX 86 4K、4Kの3倍速ハイスピード対応のLDX 86 Universeへアップグレード可能なほか、LDX 86 HiSpeed(HS)の3倍モデルからLDX 86 XtremeSpeed(XS)の6倍速モデル、4K対応LDX 86 Universeへアップグレードも可能。LDX 86 Universeは同シリーズの最上位機種となり4K、HDスイッチャブルでHD時6倍速対応の3Gモデルとなっている

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LDKシリーズ用カメラコントロールパネルOCP400。同社のC2IPカメラインターフェースに対応したコントローラーで、RS-232Cによるカメラと1:1接続のほか、ベースステーションを使用したマルチカメラ運用などを行うことが可能

■池上通信機
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池上通信機は2/3型4K 3CMOS 4Kシステムカメラを参考出展したほか、NHKと共同開発した8Kスーパーハイビジョンカメラや現行HDカメラから4K出力することが可能なベースステーションなどを出展。カメラメーカーの中でいち早く8Kカメラを開発しているが4Kカメラの市販に関しては慎重な対応で関連の規格が全て決まってから対応する模様

■朋栄
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朋栄4KバリアブルフレームレートカメラFT-ONE-S。4K解像度で最大360コマ/秒の高速度撮影が可能なほか防塵・防水対応となっている。すでに発売となっている高速度カメラFT-ONEの改良バージョンとなっており、センサーはスーパー35mmを採用している。スポーツ中継などの運用性を考えるとそろそろB4マウント対応のカメラが望まれる

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朋栄4KバリアブルフレームレートカメラFT-ONE用ベースステーションおよびリモートコントロールパネルなど。中継用として運用するために必要な周辺機器が揃っている

■Panasonic
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HD&4KスイッチャブルカメラAK-UC3000シリーズ。モックアップ出展だったが今年中の出荷が予定されている。3板式2/3インチ光学系採用で現行のHDカメラ用レンズが使用可能なほか、CCUや9型VFなども用意されており、現行システムと同様の運用性を可能としている

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4Kカメラ対応液晶ディスプレイ搭載リモートオペレーションパネル(ROP)および最大2kmまでの長距離伝送可能なCCUなど。LANケーブルを介したIP接続にも対応予定となっている

■Transcend
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TranscendはCFast 2.0やSSDなどを出展。カメラメーカーやレコーダーメーカーへの対応をアピール。CFast 2.0対応のCFX600は4K動画など高速転送記録が可能

4K記録コーデックもそれぞれ

4Kの記録コーデックも新たなものが登場している。パナソニックのAVC-Intraのほか、ソニーがXAVCで4K記録をスタートしたのを皮切りにキヤノンがXF-AVCという独自フォーマットを採用している。とはいえ、これらはH.264をベースにしたものでパラメーターやMXFなどをそれぞれのメーカーで規定して独自フォーマットにしているに過ぎない。その他、レコーダーなどではApple ProResなどが採用されている。こうしたカメラは記録メディアとしてCFast 2.0やXQDなど高速転送に対応したメディアが使われるようになったあたりが今年の新しい方向性といえよう。一方外付けのレコーダーはPC用のSSDを採用していることが多く、ビット単価や転送レートなどでカメラ記録との差別化が図られている。

4Kによるカメラ収録でネックとなっていたのは高速かつ大容量の記録媒体だったが、CFast 2.0やXQD、SDメモリーが市場に出始めたこともあり、対応したカメラが発売になったといえよう。ただ、現状ではこうしたメモリーは高価になりがちで、将来的にどのメモリーが普及するかで価格的な優劣や入手性などが異なってくるだろう。今回のNABを見る限りでは各社様々で、今後民生機での普及などによってはどうなるか不明な部分もあり、機種選定が難しい時期だ。

たとえば4Kで先行するソニーのPXW-FS7やキヤノンが新製品として出品したカメラXC10はXQDを採用し、JVCの4KカメラGY‐LS300およびGY‐HM200とパナソニックが今回のNABで発表したAG-DVX200はSDXC/SDHCメモリーカードUHS-I U3(UHS Speed Class 3)を採用している。ARRI ALEXA miniやBlackmagic URSA MiniおよびURSAがCFast 2.0だ。Blackmagic Designはあまりメディアにこだわりがないようで、HDのBlackmagic Video AssistとBlackmagic Micro Cinema CameraはSDとなっているほかレコーダーはSSDを採用している。

■Sony
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IPネットワーク伝送対応4Kライブスイッチャー。ネットワーク・メディア・インターフェースにより複数のケーブルで行っていた機器間の映像/各種信号の伝送をネットワークケーブル1本で実現する事が可能。IP伝送では遅延が問題となることが多いが、4K映像をほぼ遅延なく伝送する実演を行った

■Grass Valley
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カメラ、サーバー、プロダクションスイッチャー、ルーター、マルチビューワー、IPゲートウェイやコントロールシステムなど、制作や送出アプリケーションで利用される様々な製品のIP対応を発表

■朋栄
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マルチフォーマット化により4Kライブ制作に対応した2M/Eビデオスイッチャー朋栄HVS-2000。標準で24入力18出力対応だがオプションで最大48入力18出力または40入力22出力まで拡張可能。3G/4K対応オプションで4Kスイッチャーとしても使用可能

4K放送での運用と課題

試験的な運用であればDVI×4やHD-SDI×4という接続でも問題ないだろうが、日常の運用となると長さや特性の揃ったケーブルを4本用意するというのは現実的ではない。民生機であればHDMIということになるが、HDMIを放送で使うにはケーブル長などの関係もあり、収録の現場で使うのは限定的だろう。現状は過渡期でありHD-SDI×4やHDMIのほか、Blackmagic Designが始めた6G-SDIや12G-SDIが混在しており、統一できていない。放送に必要なライブスイッチャーなどはこの辺り各社様々な対応をしているが、どのレベルまたは規模でシステムとしてまとめるかはすでに市場に出荷されているカメラなどの製品との整合性、SMPTEなどの規格との兼ね合いで先の見えない部分である。

ただ、業務用に限っていえば制作現場や小規模なシステムでは、HDとの互換性などから6Gや12Gが有力といえ、規格の詳細が決まれば将来的には収束していくだろう。すでに伝送などで実用化されているIPに関しては、規模が大きい放送局などでの利用が見込まれており、Sonyを初めとしてQuantelやGrass Valleyなどがスイッチャーやルーターなどの対応製品を発表している。IP無線伝送はすでにいくつかの製品が商品化されているが、今年のNABではこうした設備系の製品が登場してきているのも印象的だった。双方向の伝送やコントロール系など1本のケーブルで柔軟な対応も可能となるため、従来と異なったコンセプトの製品も期待できそうだ。

txt:稲田出 構成:編集部


Vol.01 [After Beat NAB2015] Vol.03