txt:安藤幸央 構成:編集部
会場の度肝を抜いたプロジェクションマッピング
BARTKRESA designのチームがライブVJのように映像を送出している様子
ジワジワと映像が切り替わる巨大な骸骨オブジェクト
SIGGRAPH会場の一画、照明が落とされた広い領域に設置されたのは、プロジェクションマッピング用の巨大な頭蓋骨であった。プロジェクトマッピングを担当したのは、世界各国で活躍するプロジェクションマッピング専門のスタジオ、BARTKRESA designによる「諸行無常」という巨大な頭蓋骨に映像を投影するものだ。1万ルーメン級のプロジェクターで4方面から投影し、プロジェクションマッピングであることを忘れてしまうほど存在感のある映像展示であった。
デモリール
今回の会場と同じ作品が別のイベントで展示された際の映像(公式映像)
ILM 40周年
ILM(Industrial Light & Magic)は1975年、第一作目の映画「スター・ウォーズ」の特殊効果制作のためにジョージ・ルーカス監督によって設立された。今年でなんと40周年記念となり、お祝いの映像が公開されるとともに、特別セッションも行われた。
ILMは、40年の間に300本以上の映画、15本のアカデミー賞、28本のアカデミー技術賞を獲得した。会場の巨大スクリーンに映された40年間の映画製作における特殊効果の役割と、機材や技術の移り変わりを紹介した映像を観ながら、多くの参加者が子供の頃初めて観た映画やVFX/CG業界を志したきっかけとなった映画などを思い出しながら、惜しみない賞賛が送られていた。
■ILM 40周年ダイジェスト映像
ILM – Celebrates 40 Years of Creating the Impossible
ダイジェスト映像は40年間に手がけた主要映画の名シーンを次々に紹介しているもの。「スター・ウォーズ」「ピーター・パン」「アビス」に始まり、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「インディ・ジョーンズ」「ターミネーター」と大ヒット作品が続き、最近では「アイアンマン」「アベンジャーズ」と、誰もが知っている作品ばかりだ。
スター・ウォーズ制作の頃は、特殊効果の手法も機材も確立されたものは無く、何もかもが手作業で作らねばならなかった。今ではCGと実写の合成には欠かせない機材でもあるモーションコントロールカメラもこの時に開発されたものだ。当時はデジタルカメラなど無いので(民生向けのデジタルカメラQV-10の登場が1994年)、ポラロイドカメラを大量に使って現場の記録を残していたそう。スターウォーズの作成時から現在で言うところのPreVis(Previsualization:あらかじめ簡単な映像を作っておいて、カットやカメラアングルなどの検討に使う仮の映像)のような考え方はあり、当時は戦闘シーンのPreVis作りに、バービー人形が大活躍したとのこと。
最近ではILMxLABという研究所も設立され、特殊効果満載の映画撮影の際に、素っ気ないグリーンスクリーンの前で俳優が演技するのではなく、スクリーンに投影した実際の映像を見ながら俳優が演技でき、かつ合成もできる仕組みを開発中とのこと。さらにスター・ウォーズの世界を描いたパノラマVR映像の活用、ゲームへの応用など、さまざまな試みが行われている。
オバマ大統領の3Dスキャン&3Dプリント像
スキャン情報から3Dプリントされたオバマ大統領の胸像
「Scanning and Printing a 3D Portrait of President Barack Obama」というオバマ大統領の3Dスキャン&3Dプリント像を制作するプロジェクトは、スミソニアン博物館と南カリフォルニア大学のポールデベヴェックのチームによる協同プロジェクトだ。
スミソニアン博物館では様々な所蔵物のデジタルスキャンを続けており、ものすごい量のスキャンを行っているが、まだ所蔵品の1%くらいしか出来ていないそう。3Dスキャン作業が完了したものの中に、リンカーン大統領のライフマスク(生きている時に、粘度等で型を取って石膏像などにするもの)があり、その存在が今回のオバマ大統領の3Dスキャン実施のきっかけになったそう。
ポールデベヴェック率いるチームのライトステージという機材は、映画などのデジタルダブル(デジタル技術で作られた代役)に活用されている、巨大な一部屋を覆い尽くすほどのもの。顔や体の形状だけでなく、皮膚表面の画像も含め、様々な照明下における全ての状況をスキャンできる装置だ。
オバマ大統領のスキャンを実施するにあたって、ホワイトハウスに持ち込めるほどに小型化した移動可能なモバイル版のライトステージを制作し、実際の準備と撮影はさまざまな事情でたった1日間で行われたそう。モバイル版と言えど、50個のLEDライト、8台のCanon EOS-1D Xを搭載。短時間でスキャン可能な工夫がなされたそう。撮影は大統領が真面目な顔をしたものと、笑った顔をしたものの2テイクを撮影。
スキャン作業の準備と、実際の作業の様子
スキャン後、レーザー焼結式の3Dプリンターで2日かけて胸像風の出力をし、その胸像を気に入った大統領も公式アカウントでツイートするなど、大きな話題となった。現在、リンカーン大統領のライフマスクは、すぐに3DプリントできるSTL形式のデータで一般公開されているが、今回撮影したオバマ大統領の超高精細なデータは、ホワイトハウス側との取り決めにより、一般公開はされないそう。
超マクロ撮影、コミック原作マーベル映画「アントマン」の撮影環境
この映画の主人公“アントマン”は、蟻の様に小さくなれる特殊なスーツを着て戦う、体の大きさの割には怪力のスーパーヒーローだ。日本では9月19日よりロードショー予定。
アントマン予告編(日本語字幕版)
通常の映画であればセカンドユニットなどといった海外のロケ地などで撮影する別チームが編成されるが、アントマンではマクロユニットと呼ばれる極小撮影専門の実写チームが活躍した。過去にも体が小さくなる登場人物を描いた映画は数多く存在し、それらの映画のシーンを研究したり、ハイスピードカメラで撮影した火花、衝突、崩壊、水などを観察したり、蟻の視点を知るために様々なカメラアングルでテスト撮影したそう。特に模型が破壊されるシーンでは、実際の建築物とは違い、模型は一瞬で壊れてしまうため、1秒間に1,000フレームで撮影しその映像を加工して24fpsの映画用に使ったとのこと。
マクロ撮影には様々な工夫がなされ、超小型のリファレンス用カラーチャートや、超小型のカチンコ、周囲の照明を記録するためのリファレンス球など、極小の映画用具が用意された。撮影は、モーションコントロールカメラBOLTが用いられ、カメラの先にマクロレンズを取り付けるためのアダプタSkater Scopeの先に、Frazier社製のマクロレンズを取り付けたものが用いられた。
通常のフィルムカメラの先に取り付けられるマクロ撮影用アダプタSkater Scope
CAF受賞外の良作品とリアルタイムCG
Vol.01では、CAF(Computer Animation Festival)の受賞作品を紹介した。今回は受賞作以外の、主に広告映像部門からいくつか注目の作品を紹介しよう。
■Mercedes-Benz “Fable” – MPC
ウサギとカメの競争に、ベンツ車が登場するお話しを描いたCM
■Elevator valentin kemmner
エレベータの中に木が居るというシュールな映像、映画祭向けの広告
■2015 Nissan CUV Line-up
日産車が様々な困難を回避しながら進むCM映像。カナダの作品
■Official Forza Horizon 2 – Live Action TV Commercial: Leave Your Limits
レースゲームの世界からはみ出して、さまざまな環境でレースを楽しむ映像。MPCによるメイキング映像もあり
MPCによるメイキング映像
■IKEA BEDS
空に浮かぶ心地よい寝心地のベッドを描いたIKEAのCM映像。詳細なメイキング映像もあり
MPCによるメイキング映像
■inFAMOUS Second Son
ゲームのCM映像。ゲーム中の映像をカット編集した映像で作られている
■New Peugeot 208 GTi 30th
プジョーの30年前の車の実写スタントによる映像に、現代のCG技術で最新のプジョーの映像を畳み掛けるように重ねて表現したCM映像
メイキング映像
■Qualcomm Snapdragon Bullet train
スマートフォン向けチップSnapdragonのCM映像。風が吹けば桶屋が儲かる的なバタフライエフェクトを描いている
txt:安藤幸央 構成:編集部