宮城邦彦 パナソニック AVCネットワークス社
イメージングネットワーク事業部 プロAVシステムBU長

VARICAM LT開発から発表に至るまで

VARICAM LTの発表に当たり、VARICAMの製品開発のトップである宮城BU長に話を伺った。

──なぜ発表のタイミングが2月だったのでしょうか?大きな映像機材の発表は、11月InterBEEや4月NABshowが通例とされていますが…

本当は昨年のInterBEEで発表したかったのですが、今回は社内でもかなり議論して、発表してすぐに出荷して使って頂ける状態を作ろうということ、そして発表のときにはワーキングモデルを複数台は見せられる状態にして、新型カメラで撮影されたコンテンツもちゃんと紹介できるように一気にお披露目したいと考えていました。当初から発表時期は2016年1、2月を想定、3月末の発売も決まっていたので、4月のNABでは遅いということもあり、このタイミングの発表になりました。

同社はこれまで発表してから出荷まで半年近くかかることが多かったのですが、そういうネガティブなイメージを払拭したかったということもあります。またちょうど北米では12月~3月がTVドラマ関係の次期シーズンの機材テストの期間でもあり、6月ごろに使用機材が本格決定されるなかで、そこにVARICAM LTもぜひ加えて頂き、検討して頂きたいという思惑もありました。

──VARICAM LTが狙う市場とは?

VARICAM 35がハイエンドシネマを意識したモデルであったのに対して、VARICAM LTはドキュメンタリーやTVドラマ制作をターゲット層にしたものになります。実は12年前に出した初代VARICAM(テープ式)が、アメリカではこの層で最も多く使われて、いわゆるその後の「VARICAMテイスト」と呼ばれるようになったルックを多くのユーザーに気に入って頂けるきっかけを作りました。価格帯的にもこの層が元々VARICAMの本分だったわけです。このVARICAM LTで元来パナソニックが一番得意だったところに、主力商品を出したという意味合いが強いです。むしろVARICAM 35が我々にとって新しいゾーンだったわけですね。

──御社初のEFマウント採用の理由はなんでしょうか?

シネマやCMを撮っている層ではやはりPLレンズ主体になると思われますが、TVドラマやドキュメンタリーの層では、もう少し価格帯の低いものが選ばれています。レンズもやはりシネマ向けのPLレンズはレンタル費用も高額なので、もう少し制作バジェットの低い現場では、我々が市場調査をした限り、EFレンズを使われているケースが非常に多かったので、我々としては今回EFとPLというマウントを用意することに決めました。

過去にも独自のアダプターを使ってPLレンズ、EFレンズを使って頂くことはありましたが、我々としては今回自社でEFマウントに取り組むというのが、これまでとは少し違っているところですね。サードパーティ製品のレンズも含めて、どのEFレンズに対応しているかについては、Webサイトなどで随時アナウンスしていく予定です。具合的にどこまで対応するかに関しては今後検証しながらユーザーに情報を出したいと思っています。

そもそもEFレンズはユーザー自身が所有されているというケースが多いのも魅力ですし、超広角ワイドやシフトレンズなど特殊なレンズを使いたいという要望も多かったこともあります。中にはVARICAM 35でEFレンズを使用するために、3Dプリンターで変換アダプターを自作されたという方もいらっしゃいました。

──北米で12年前のテープVARICAMが市場を席巻していた時代に比べ、いまのユーザー層は変化していますか?

ほとんど変わっていないところは多いですが、少し変化があるとすれば、NetflixやAmazon.comなどのネット系のコンテンツを制作されているユーザーは、4K制作が必須になってきているということでしょうか?その中でVARICAM LOOK=VARICAMの色合いやルックが好まれているという部分は定着していますので、それは継承しつつも4Kが撮れるカメラが期待されていました。

──VARICAM LOOKの特長的なところとはどのようなところですか?

やはりスキントーンを第一に評価頂く事が多く、ナチュラルでかつ飾っても無く地味でもない、余計な演出もされていないスキントーンが良いという言われ方をしますね。全体的に色のメリハリもそんなにケバケバしくならずに、自然だなというのがあると思います。今回のVARICAM LTでは、VARICAM 35に加えて、TVドラマでの使用を意識して、昔のテープVARICAMの色合いを現代のシネマカメラでダイナミックレンジが広い状態で再現するようなガンマカーブを新たに搭載しました。(V-LOOKモード)いわゆるシーンファイルという考え方を再度復活させたのです。

──発表イベントでのユーザーからの反応はいかがですか?

ドキュメンタリー系のカメラマンやDPに何人かお会いしましたが、非常に良いコンセプトであるとご評価頂きました。VARICAM 35だとどうしても筐体も大きくなり使いにくかった局面が多かったですが、VARICAM LTであれば使うチャンスが増えてくるだろう、ぜひ早くテストしたいと多くのユーザーがおっしゃっていました。

VARICAM LTのユニークな点とは?

VARICAM 35からの継承したISO5000などに代表される非常に高精度な機能をそのままコンパクトにしたというところでしょう。小型にしたことによって、3軸ジンバルやドローンへの搭載もしやすく機動性も良いですし、サードパーティとの組み合わせでより幅が広がる使い方が出来るカメラです。我々としてはこれが最終的にやりたかったことなので、ニューVARICAMシリーズとして一番の本命機種がようやく出せたという感じです。

また今後の展開として特に現場で画づくりまでをやってしまうようなTVドラマ系では、弊社のAVC-Intraコーデックは、使い慣れていただければそのワークフローの良さを実感して頂けるのではないかなと思っています。

シネマの世界では我々も色々と提案してきましたが、やはりProResやRAW記録のほうが優勢ですが、TVドラマ系となってくるとデータが軽くて品質の良いAVC-Intraの力が真に発揮されてくるのでは?と期待しています。ここは他社には無い部分であり、むしろ弊社の土俵で戦えると考えています。そしてユーザーにはVARICAM LTで、さらに良いコンテンツを作って頂きたいと思っています。あくまでも我々は皆さんにより良い機材を提供しているだけなので、良いコンテンツが生まれなければ全く意味がありません。

良いコンテンツを生み出すことこそが最終目的なのです。私としては本当に良いカメラができたと思っていますし、ぜひ多くのユーザーに使って頂ければと思っています。

txt:石川幸宏 / 編集部 構成:編集部


Vol.02 [Digital Cinema Bülow IV] Vol.04