txt:坂口亜莉子・編集部 構成:編集部
領域を越えムーブメントを生むSXSW
毎年3月にテキサス州オースティンにて開催されるSXSW(The South by Southwest:サウス・バイ・サウスウエスト:以下SXSW)。地元の音楽をどうプロモートしていくかを発端にしたSXSWは、Film、Interactiveのカテゴリーを加え30年後には$317M(2015年発表、sxsw.comより引用)の経済効果をもたらすイベントに成長している。今年も3月11日から20日まで開催された。SXSWの詳しい概要についてはPRONEWSの過去記事を参考にしてほしい。
コンベンションセンターを中心に周辺のホテルがセッションの会場となり、レストラン、バー、空き地などが企業のプロモーションハウスに変わる
SXSWは先にも述べた通り、「Interactive」「Film」「Music」の大きく3つのカテゴリーが合わさったカンファレンスであり、期間もFilmは9日間通して行われるが、Interactiveが前半5日間、Musicが後半の5日間と分かれている。参加するためのバッジもそれぞれのカテゴリーで購入するのが普通で、プラチナは全カテゴリー、ゴールドはInteractiveとFilmに参加できるバッジとなっており、これまではそれぞれ独立したイベントという印象が強かった。
しかし2015年より「Convergence(コンバージェンス)」プログラムが追加された。それぞれユニークな領域であるInteractive、Film、Musicの参加者たちが分かれたままの状態はもったいない、別の分野だからこそ一緒に議論して、もっと面白いことを起こそうという考えたに基づき、InterativeバッジであってもMusicやFilm寄りのセッションに参加できるプログラムとなっている。例えば、エンターテインメントやスポーツ、ファッションなどに関することはConvergenceプログラムに分類される。この流れは加速していて、去年よりもConvergenceプログラムが一段と増えていた。ビジネスカンファレンスでありながら、MusicやFilmなどのカルチャー的な文脈も取り入れた、世界でも類を見ないイベントであることは確かだ。
パブリックイベントとしてのSXSW Gaming ExpoやSXCreate(サウスバイクリエイト)
Gaming Expoのスポンサー企業は毎年変わっており、過去にはNintendoも。今年はTwitchとRazorといった新興企業になったことも変化としては面白い
世界85ヶ国から約10万人が参加すると公式には発表されているが、高額なバッジを購入しなくても、アーティストのライブに参加できるリストバンドや入場無料のイベントもある。特にGaming ExpoとSXCreateの二つはSXSW公式のパブリックイベントだ。Gaming Expoはその名の通りゲームの展示会、SXCreateはSXSW版のメーカーフェアといえる。どちらも日本で開催されるものに比べるとまだまだ規模的には小さいが、熱気は十分感じられる。
パブリックイベントを設けることによって、地元や周辺の地域から子ども連れの家族や中高生もオースティンに集まってくる。これによりSXSW期間中のオースティンは、人種・国籍・性別・年齢が全く関係ない人たちがミックスされる。
Gaming Expoは去年までInteractive期間中に3日間コンベンションセンターとは別会場で開催されていたが、今年は後半のMusic期間中にコンベンションセンターで開催された。後述するVR/ARトラックとも同時期に開催され、実験的に開催時期や場所、プログラム内容が変化する。
■Gaming Expoで特に熱気があったのは「Twitch(トゥイッチ)」
Amazonが提供するゲームのソーシャルビデオプラットフォーム/コミュニティであるTwitch。170万人以上の配信者、毎月1億人以上のアクティブユーザーを抱える巨大サービス。会場の一際大きなエリアにステージを作り、eスポーツやゲーマーマーケティングについてのセッションやゲーム実況プレイなどを行い、ストリーミング配信していた。会場に入るなり「Twitchだ!」と叫ぶ子どもたちがとても印象的。
■eスポーツなどのトーナメント戦に熱くなる
interactive期間中はセッションが行われている会場が、ゲーム対戦の会場に変わる。決勝戦ともなると、会場の外に設けられたモニターの前で、子どもから大人まで地べたに座って真剣に試合の行方を見守っている。
■日本からはソニック25周年を記念してゲームクリエイター中裕司氏がゲスト講演
今年25周年を迎えるSEGAのソニック、それを記念してGEEK STAGEでは記念講演が行われた。中裕司氏、飯塚隆氏がステージに呼ばれると会場中から拍手と歓声が湧き上がった。会場の外まで長蛇の列ができ、中に入れない人が続々。ソニック25年間の軌跡をモデレータが紹介しつつ、開発秘話を2人が語るという形式。ゲームのタイトルが発表される度に、歓声が起こっていた。
新しく設けられたVR/ARトラック、“体験”をいかにつくるか
今年からConvergenceプログラムとしてVR/ARが新たにトラック(=SXSWにおけるカテゴリー的な意味)に加わり、3月16日から集中的に3日間行われた。実はVR/ARトラック期間が始まる前、interactive初日からSamsungがコンベンションセンターすぐ隣の会場で大々的にVRイベントを行い話題をさらった。VR/ARは体験としてわかりやすいためデモを体験した人たちがTwitterなどでその感動を伝え、口コミで評判になりいつまでも絶えない列をつくることになった。
■Samsung Gear VR Loungeで近未来を体験
毎年SamsungはSXSWで大規模なプロモーションを行っている。今年はコンベンションセンター目の前にSamsung Studioを建て、日中はGalaxyとVRの体験ラウンジ、夜はThe Strokes、Sia、ColleGrove(2 Chainz and Lil Wayne)といった人気アーティストのライブを行った。常に1、2時間待ちといった状況で、会場周囲をぐるっと列が囲んでいた。SXSWイベントの常連だけに、ツボを抑えきったイベント作りで、完全に話題をさらっていった印象だ。
■日本からは世界で初の8K VRシアターが登場!
VR/ARトラックの開催期間には、コンベンションセンター隣の第2会場ともいうべき、Hiltonホテルのワンフロアがその会場となった。その一角にNHKエンタープライズ・NHKメディアテクノロジーによる8K VRシアターが登場した。8K 3D映像と22.2ch立体音響による新しい体験を提供していた。世界初の8K VR作品「Aoi −碧− サカナクション」を上映。感動した人たちにはリピーターが続出していた。
■体験しなきゃわからない!暗がりのVRエクスペリエンスルームで未来を感じる
VR/AR Experienceラウンジが3日間設けられ、暗がりの会場にはVRのスタートアップが所狭しとデモを行っていた。会場の中をゴーグルをつけた体験者がふらふらと歩く姿は、奇妙でもあるが未来を感じさせる1コマだった。
SXSWはConvergenceプログラムもそうだが、毎年柔軟にイベントの形態を変え、人々が注目するトピックを色濃くさせ、別領域を掛け合わせて化学反応を起こさせてようと試行錯誤を試みるイベントだ。それがSXSWの特徴でもあり、毎年ビギナー参加者を混乱させる原因でもある。1度だけではなく、毎年参加して変化を楽しみ、何が1番熱気を帯びているのか体感するのがおすすめだ。
txt:坂口亜莉子・編集部 構成:編集部