txt:石川幸宏 構成:編集部
カメラ業界の動向が一望できる展示会
2年に一度催される、世界最大のカメラ関連の展示会“Photokina(フォトキナ)”が、今年もドイツ第4の都市ケルンにある、ケルンメッセで開催された。ここを目指して各メーカーとも新機材を発表してくる中で、今のカメラ業界の動向が一望できる展示会として、世界中のカメラ関係者が注目している。
以前はスチルカメラの専門展示会という印象があったが、2010年の開催以降デジタル一眼レフの動画機能が大きくアップしたことに起因して、ムービー系カメラ、周辺機器の展示も大きく増えた。また2014年の開催からはドローンやアクションカメラ、360°カメラの進出も増え、展示スペースの範囲を大きく拡げてきた。
今年は42ヶ国から983社の出展があり、登録来場者数は133ヶ国から191,000人を数えそれなりの規模であったが、変更点としては全体的に前回より展示規模が縮小され、特に中国企業の大幅な減少と欧州以外の各企業の展示スペースが縮小傾向にあった。これは欧州におけるテロなどの政情不安によって出展取りやめ、もしくは縮小が要因だと思われる。
前回(2年前)、最大規模のバナー広告を出していた韓国のSAMSUNGがカメラ業界から撤退して出展もなくなり、代わりにパナソニックやオリンパスといった日本メーカーのバナー広告が目立っていた。360°映像などの新基軸テクノロジーも前回ほどの盛り上がりには至らず、これといった新技術の台頭もなかったため、ドローン訓練やレースが行われた6ホールの特別展示場(開催4日目から開場)が設けられたものの、全体的には縮小傾向となっていた。
TAMRONのmegazoomシリーズや、16mmの超広角から200、300mmまでのテレまでを1本でカバーするズームレンズはアマチュアを中心に欧州でも大人気
その中で元気だったのが、レンズ関係とアナログカメラだ。レンズ関係では日本のSIGMA、TAMRONをはじめ、地元カールツァイス、韓国のSAMYANGなど、大小のレンズ専門メーカーのブースが大きな人気を呼んでいた。デジタルカメラの潮流やメーカーの盛衰など移り変わりの激しいカメラ筐体の現状に対して「レンズは一生もの」「レンズは資産」といった部分が大きく見直されているように思われる。
また進化するデジタルに背反するような形で、インスタントカメラに代表されるアナログカメラ(フィルムというよりアナログ!)も相変わらずの人気で、特に若い層には「新しい写真文化」として受け入れられているようだ。
スチル用の新レンズのほか、今回はシネマレンズ系も多く出品された
デジタル中判カメラの可能性
パナソニックから発表された「GH5」は、6Kセンサー搭載、4K/60pムービー収録可能といった予定のスペックのみのコンセプト発表で、機材はモックアップのみの展示
映像業界的に一つの注目だったのは、4Kムービー対応の一眼レフカメラの躍進だ。パナソニックが4K/60p収録のムービー収録が可能な次期モデル「GH5」をコンセプト発表。6Kセンサー搭載の新型GHシリーズは、スチルで6Kサイズ、4K/60p収録が可能だという。ボディサイズもそのままながら、マイクロフォーサーズの一眼ムービーカメラのスタンダードとして定着しつつあるようだ。
大画素数という意味で大きな注目を集めたのは、やはり富士フイルムがデジタル中判カメラの新シリーズGFXを発表したことだろう。先頃発売されたAPS-Cの最上位機種「X-T2」は、同社で初めて4Kムービー撮影も可能なカメラとして話題になっているが、その上の35mmフルサイズがハイエンドと言われていたなか、それ以上の、サイズ相応のクオリティを求めていたコマーシャル系などのハイエンドユーザーからは“普段使いできる中判カメラ”が待望されていた。同時に現在の35mmフルサイズカメラへの不満もあることから、富士フイルムとしてはあえて35mmフルサイズを超えて、同寸サイズのボディでありながら中判サイズのデジタルカメラの開発に踏み切ったようだ。
富士フイルムのデジタル中判カメラ「GFX」は、6本の新マウントレンズ「Gシリーズ」が用意され、そのうち3本が本体発売時に同時発売予定
ペンタックスやハッセルブラッドといったデジタルの中判カメラはこれまでにも出ていたが、これらをコンペディターとしているわけではなく、あくまで現行35mmフルサイズのユーザー層に対してのアプローチだという。価格も、各メーカーのフルサイズの上位機種と並ぶようなものを予定しているようだ。レンズは新マウントのGシリーズを6本用意。そのうち3本がカメラ本体と同時期に発売の予定で、発売日は未定だが2017年の初旬を予定しており、レンズセットで100万円を下回る価格帯を想定しているようだ。
ただしムービー機能については、HDまでの収録のみの対応で、やはりムービーではAPS-C/スーパー35mm程度のサイズが有用との判断から、今回のGFXでは動画機能についてはあまり追求していない。会場で何人かのカメラマンと話した中で、今後35mmフルサイズがミドルレンジカメラとなり、中判カメラこそがハイエンドユーザー向けの時代も間もなくやってくるのではないか?といった意見も多く聞かれた。
カルチャーか?テクノロジーか?
ホール1のライカギャラリーは、フォトカルチャーの歴史と威厳を感じさせてくれる。日本の展示会ではまず味わえない雰囲気だ。毎回これを楽しみに来る来場者も多いのでは
各メーカーの展示の中でポイントだったのは、従来からのフォト・映像カルチャーを重視したものなのか?はたまた新時代のビジュアルテクノロジーを重視したものなのかという点だ。ライカをはじめとする多くのカメラメーカーがフォトギャラリーを設け、カメラ性能とともにその画質や特性とともに、現在のフォトカルチャーの中で自社のカメラが何を残してきたか?何を残せるのか?といったことを印象づける展示が、従来までのフォトキナだったように思う。
実際に1ホール全てを使用して設けられたライカのギャラリーでは、同社がカメラがこの世に誕生して以来これまで地球上で何を写し取ってきたのか?それに写る真意とは?など、写真を通して様々な哲学を考えさせられる。まさに「フォトカルチャー」の牽引役としてのプライドを感じさせ、有名美術館の展覧に全く劣らないクオリティは、レジェンドなカメラメーカーであることも証明している。毎回これを見に来るためだけにフォトキナに来る価値があると思うほどだ。今年は富士フイルム、オリンパス、パナソニック、ソニーもギャラリーコーナーを各ブース内に設けていた。
一方で、キヤノン、ニコンの日本の2大メーカーはギャラリー的なものはほとんど設けず、最新テクノロジーを強調するスタイルの展示になっていた。今年はオリンピックイヤーということもあり、それに合わせ昨年から今年初頭にかけてそれぞれのフラッグシップ機を発売しており、新機種よりもこの先の未来を見せるといった内容が際立った。
キヤノンの12メガピクセルの次世代EOSと、8Kムービー切り出しの画像展示コーナー。キヤノンの先端映像テクノロジーが近未来の映像世界を映し出すコーナーに多くの来場者も興味を注いでいた
キヤノンは、今秋の新機種であるEOS 5D Mark IVやEOS M5などのハンズオンコーナーは設けられているものの、そこが中心的な展示ではなく、「FUTURE」コーナーで8Kムービーカメラ(NABでも発表された試作機)から切り出されたスチル画像の画質を見せる展示や、1億2000万画素の次世代EOSの試作機の技術展示など、先端技術をリードする映像メーカーを協調したものになっていた。
ニコンは、今回VR展示に終始。新製品「KeyMission」シリーズの3種のミニカメラ系を中心に、360°VR映像コーナーを積極的に展開
ニコンはこのフォトキナで発表した、360°4Kカメラといった小型カメラシリーズ「KeyMission」を前面に展開。フォトキナ会場の入り口と自社ブース内に360°映像のVRグラスを使用したVR体験コーナーを設け、デジタル一眼レフやレンズよりも力を入れた展示になっていた。
この2極化した展示スタイル=各メーカー姿勢が今後どう進展していくのか楽しみだが、映像カルチャーと最新テクノロジーが共存・競合している現状も今の時代や世俗を反映しているわけで、各社のそれぞれの思惑と実務的な今後の展開がとても興味深い。
ネオ・アナログフォト時代の到来
フォトキナが世界最大のカメラショーと呼ばれる要因が幾つかある。今年は9月20日(火)~25日(日)の開催で平日火曜から週末の日曜までの6日間という、展示会としては長期間の開催にも理由があるようだ。会期前半の平日には、取引業者とメーカーのビジネスの場としての役割も非常に大きく、我々のようなプレス向けの新製品発表のカンファレンスも頻繁に行われる。
変わって後半の金、土、日曜日では週末~休日だったこともあり、家族連れを含めて多くの一般来場者で会場がひしめいていた。特に土曜日の混雑は初日と同等かそれ以上の混雑となっていた。後半の土日は入場料も半額となり、来場しやすい条件も重なるからだ。実際にカメラ業界を支えているのは今も昔も、ハイアマチュアと呼ばれるコアなカメラファン層と、その予備軍の膨大なアマチュア層であることは周知の事実。まさにその層に向けての展示会にそのまま移行するわけだ。
インスタントカメラ人気は益々過熱気味。富士フイルムの「instax」をはじめ、各社のインスタントカメラの撮影コーナーでは、記念撮影待ちの行列が後を絶たず終日大人気だったのが印象的だ
24、25日の土日も、もちろんその一般客が多く集まっていた(特に土曜日の混雑ぶりが凄い!)のだが、そのなかでも特に若い女性を中心に多くの人気を集めていたのが、インスタントカメラのコーナーだ。日本でも“チェキ”の名前で知られる富士フイルムの「instax」は海外でも大人気。その他、ポラロイドなどのカメラメーカーにも多くの人が集まっており、各ブースには終日長蛇の列が絶えることがなかった。またケルンの街中でも実際にinstaxを持った若い女性カメラマン(?)を何人か見かけるなど、手軽で楽しいアナログカメラが新たなフォトカルチャーとして受け入れられてきている。
今やSNSなどで写メを交換し合うビジュアルコミュニケーションが頻繁になるなかで、リアルな現場ではこうしたインスタントカメラでのフォト交換が、コミュニケーションの新展開として浸透して来ているようだ。絶え間ないデジタルカメラの高画質・ハイスペックの向上への方向性とは異なるアナログビジュアルカルチャーとして、こうしたアナログフォトのカルチャーが、カメラの世界に新たな側面を与えていることも感じられた。
txt:石川幸宏 構成:編集部