Cine Gear Expoにおけるその他の展示から、2017年のムービープロダクションのキーワードを探ってみたい。
「画づくりの個性重視」
特にこのところのシネマレンズ市場の活況からもその様子が伺える。先のNABで発表された、カールツァイスの新プライムレンズシリーズ「CP.3/CP.3 XD」、ライカのシネマレンズ部門の別会社、CW SONDEROPTICから発表されたセンサー対角長60mmまでのラージフォーマットカメラのセンサー域をカバーする「THALIA(タリア)」、Cookeの新レンズやアンジェニューの「Optimo Style」の新ラインナップ、初参戦のSIGMAなど、相変わらずシネマレンズは活況だが、その中でも面白い傾向が見えてくる。例えばアンジェニューのアナモフィックレンズのための前玉レンズのエレメントに対するコーティング・オプションだ。レンズ系はこれまでの高画質やキレの個性を演出できるか?の時代に突入したといえよう。
「撮影現場における省力化」
これは特に照明機材の進化にも見て取れる。ARRIのマルチカラーLEDシステム「Skypanel」の最新ファーム3.0では、キャンドル、流れる雲、クラブ、カラーチェイス、パトカー、炎、花火、ストロボ、雷、パパラッチ、パルス、テレビなどの12種のエフェクト効果を選ぶことができ、部屋の窓外などの演出を簡単に作る事が可能だ。またKINO FLOからもSkypanelと同様のLEDのカラーを自在にコントロールするシステムなどが発表され、撮影現場の照明効果の省力化へ有効な新製品の発表が目立った。
「小型化と時短」
今回のCine Gear Expoは、4月の米ラスベガスで開催されたNAB SHOWで、あまり制作機器関係の新製品発表が行われなったこと、そしてその反動からかこのCine Gear Expoで日本の3メーカーが揃って製品や新技術の発表行ったこともあり、これまでにない大きな盛り上がりを見せた。その中で何と言っても今年のCine Gear Expoでの最大の目玉は、ほぼ同タイミングで発表された、キヤノンとパナソニックの小型シネマカメラだろう。
キヤノンのCINEMA EOS SYSTEMの新機種EOS C200/EOS C200Bは、これまでのCINEMA EOSタイプを継承するEOS C200と、後方のビューファー部を取り除き、軽量小型化してドローン搭載や水中ハウジング、ジンバルでの手持ち撮影での活用が広がるEOS C200Bの2タイプが用意されている。
注目すべきは、“Cinema RAW Light”と呼ばれる新しいファイルフォーマットでの収録が可能なことで、CFast2.0カードでカメラ本体に10bitであればDCI 4K(4096×2160)60pまで、12bitでも30pまでを新開発のRAWデータフォーマットで収録可能だ。
これまでのCanon Log収録は、LUTなどの簡易的な再現視聴方法がないと、現場では仕上げの状況も判別できず、なかなかLogのワークフローが理解されにくい状況もあった。またこれまでのRAWデータのデータ量が巨大で、ポストプロダクションでのワークフローでもコスト面、時間面で予算の大きな作品以外は敬遠されていた。このCinema RAW Lightの登場により、従来のCinema RAWの品質をほぼそのままに、データ量をこれまでの1/3~1/5まで圧縮できたという。
さらに発売が予定される7月下旬にはブラックマジックデザインのDaVinci Resolveの新バージョンを始め、各者のNLEソフトもこのCinema RAW Lightにネイティブ対応することも発表されている。またRAWデータはLogのようにデジタルネガティブな画(コントラストの低い眠い画)ではなく、最初からコントラストが付いているためカラーグレーディングもより簡便になるだろう。これまでのLogでのワークフローから、小さいサイズのRAWデータでの収録へと、新たなワークフロー改善も提唱する新世代のカメラとなっていて、その有用性は高そうだ。
さらにEOS C200は80万円台の低価格カメラであり、基本は企業PVや低予算CMなどを目的としたMP4でのUHD 4K収録がメインになってくるだろうが、これに加えより本格的なシネマ撮影や映画風なインフォマーシャル的な映像作品には、このCinema RAW Lightでの収録は品質を落とさずにワークフローの大きな改善と省力化が見込めることで、今後大きな魅力になりそうだ。
パナソニックブースのショーケースに陳列されたAU-EVA1
4月のNAB SHOWから予告されていた、パナソニックから発表された小型シネマカメラAU-EVA1は、ボディデザインがAG-DVX200の後部フォルムをイメージされたレンズ交換式のスタイル。噂されていたGH5のシネマカメラ版という内容とはどうやら異なり、VARICAM LTから採用されているEFマウントを採用。そして新開発の5.7Kセンサー、4:2:2 10bit仕様、そして近年のVARICAMシリーズの大きな特徴でもあるデュアルネイティブISO機構を搭載した、新コンセプトのシネマカメラになっている。
AU-EVA1の新開発5.7Kセンサーは、5.7KのRAWデータを外部出力可能になるようだ
気になるのは、いわゆる2つのフィルムストックを有するデュアルネイティブISO機構。しかしAU-EVA1では、ベース感度ISO800ともう一つのISOは5000とはまだ決定していないようだ。発表会場でもこのサンプル映像が少し上映されたものの、搭載されるベース感度はまだ最終決定には至っていない。特に低予算映画などでは、充分な照明機材が用意できない現場でもこのデュアルネイティブISO機構があることで、充分な感度が得られることは、現場の時短と省力化に繋がるだろう。またVARICAM LTに搭載された赤外線フィルター(IR Cut Filter)を取り外し可能な機構についても、このAU-EVA1ではワンタッチでオン/オフ可能なっている。
ソニーからも今回は2018年初旬に発表が予定されている新コンセプトのシネマカメラについての、一部概要が発表されている。外形デザインなどはまだなにも分からないが、主な仕様として36mm×24mmのフルフレームセンサー搭載、4K 4:3画角のセンサーでアナモフィック対応、ワイドラチチュード、ワークフローへの大きな改善などがその概要で、やはりX-OCNなどを軸にしたワークフロー改善が大きなテーマになっていると思われる。
OTTコンテンツ制作の普及とワークフローの省力化
パラマウントスタジオ内のメインシアターParamount Theater。パナソニックAU-EVA1の発表を始め、各社の新製品プレゼンテーション、デモ映像のスクリーニングが行われた
これまでAU-EVA1やEOS C200のような小型サイズのカメラがこのCine Gear Expoで発表されることはあまりなく、今回もおそらく初めてのことだ。従来のFeature Film(劇場公開映画)製作から、OTT(Over The Top)=NetflixやAmazon.comなどのネット大作コンテンツの制作が、よりいっそう盛んになっている現況において、そこに求められるものも変化しつつある。
いまハリウッドの制作市場において最も重要視されているのが、時短や制作規模の軽減を含むワークフローの省力化、簡便化だ。作品によっては100億円を超えるような超大作と同等の予算を持ちながら、従来の劇場用大作映画と大きく違うのは、製作時間が極端に短縮されていること。まさしく製作フロー全ての時短と省力化が重要視されてきていることは、このCine Gear Expoでの製品展開からも推測できる。今後はこうした小型サイズのカメラや新フォーマットによる品質保持×省力化、またオンセットからデスクトップまでのワークフローの時短改善について、さらに大きな関心が寄せられるだろう。この傾向はもちろん日本国内にもすでに波及している。
デジタルシネマの現場はいま、4K~8Kへ進展、HDRなどの高画質化に伴って、さらに今後は時短とオンセット~ポストにおける省力化が注目すべきキーワードと言えそうだ。