ハリウッドの中心で行われる機器展

6月初頭のハリウッドはすでに夏の気候。日本よりも乾燥しているので体感ではそれほど暑さを感じないものの、連日30℃位まで気温は上がり、強い直射日光が照りつける。日没もすでに夜8時を廻らないと夕闇は訪れない。アメリカ西海岸は西側に遮るモノがなく、太平洋の水平線へ落ちる夕陽でマジックタイムが長いこともハリウッドが100年もの間、映画の都として栄えて来た大きな理由だ。横からの強い夕陽の自然光はサイドからキーライトを生み出し、これが印象的な演出を際立たせるいくつもの陰影マジックを生み出してきた。

そんなハリウッドで、今年も映画撮影機材の専門展示会「Cine Gear Expo」が米ハリウッドの中心、パラマウントスタジオ内で6月2~3日の2日間にわたって開催された。今年で22年目を迎えるCine Gear Expoは、主に映画撮影現場で使用されるカメラ、特機、周辺機材などを一堂に集めた、完全に映画制作者向けの展示会である。

ラスベガスで行われるNAB SHOWや日本のInterBEEなど、他の放送機材も多く出展する展示会とは大きく異なり、特機を中心にクレーンや特殊撮影用の走行車両など、どれも映画撮影機材に特化された撮影周辺機材が並ぶ、世界屈指の映画撮影機材イベントだ。

また会場がコンベンションホールなどではなく、メジャースタジオ内のオールドニューヨークの街中を模したオープンセットと、その周辺のStage(スタジオ)の中で行われる様は、まさにハリウッド映画のロケ現場を疑似体験できる感覚で、本場ハリウッドの楽しい雰囲気の中で開催される。

REDとPanavision+DJIの隆盛

RED Digital Cinema、DJI、Panavisionが展示されているStage2。終日多くの入場者で入場規制が行われた

今年のCine Gear Expoで注目だったのは、スタジオエリアへの入場門を入ってすぐにある、RED Digital Cinema、DJI、Panavisionが一体となったStage2での展示だろう。入場者の誰もがまず最初に目にする場所でもあり、終日大人気で一時は入場規制が行われるほどの長蛇の列ができていた。

RED Digital CinemaのブースにはDSMCとしてスチルパネルの展示もある

RED Digital Cinema社は今年NABへは参加せずに、このCine Gear Expoへの参加にプロモーションを集中。2、3年前には見られた放送関係へのアプローチは一切排除し、4K~8Kの幅広いカメララインナップとともに、様々な周辺機材メーカー、サードパーティとソリューション展示を行っていた。会場に入ってすぐに目につくのは、REDが掲げるメインコンセプトである、DSMC(Digital Srill Motion Camera)を表したスチル作品のパネル展示だ。

REDのテストシューティングブースに、車のカスタマイズ工場をモチーフにしたセット。火花が散るグラインダーの溶接部分のアップをロボットアームに取り付けられたREDカメラでコントロールしながら撮影を体験できる

また奥に設けられたカメラ撮影コーナーは、今年はポルシェのホットロッドカスタマイズ(解体?)工場を模したセットを設営。実物のグラインダーで火花が散る現場を撮影するという、REDお得意のエキセントリックなシチュエーションで、撮影者がクローズアップポイントには近寄れない部分も、ロボットアームで近距離リモート撮影を体感できるなど、相変わらずの派手な演出で来場者の視線を集めた。

RED Digital CinemaのブースにはDSMCとしてスチルパネルの展示もある

展示コーナーの一番奥のケースには、デビットフィンチャー監督がNetflixのオリジナルドラマ「Mindhunter」のために作られた特別仕様のREDカメラ、“Xenomorph(ゼノモーフ)”も展示。展示機材はNo.13(不吉?!)のナンバリングが施され、昨年の同時期にネットのニュースなどで流れた写真とは少し異なる形状となっていた。

筐体デザインが、映画「エイリアン」に出てくる異星人の怪物=Xenomorphに似ている事から同じ呼称が付けられており、その仕様もRED Weapon Dragon 6Kセンサーを搭載し、7インチタッチパネル液晶、Paralinx社製ワイヤレスシステムにWi-Fiアンテナ・アレイ、レンズコントロールユニット、ワイヤレス・オーディオ、Goldマウントのバッテリープレート他、幾つかの特殊機能が装着されているという。

その奥にはDJIの展示コーナーがあり、DJIは直前に発表した手のひらサイズの最新型ドローン「Spark」も展示。その他、RONIN 2での様々なカスタマイズ仕様の展示を行っていた。

Panavisionの8KカメラMILLENNIUM DXLのレンタル事業が本格始動。今回はHDR対応のOLEDビューファー、PRIMOなど新たなオプションも多数登場

このStageの一番奥に陣取ったPanavision社は自社製8Kカメラ、“MILLENNIUM DXL”を本格稼働(レンタルのみ)。昨年発表したREDの8K WEAPONをベースにI/Oなどの入出力などをカスタマイズしたこのモデルが本格レンタルを開始している。

今年はさらにオプションとして、OLEDを採用したHDR対応の電子ビューファー“PRIMO”やPX-Pro スペクトル・フィルター、新たなT1.8のプライムレンズシリーズ「The Primo Artiste Lenses」を今年度末に発売するなど、いくつかの新製品の発表もあった。またブース奥には8K HDRのミニシアターを設け、8K HDRのデモ映像などが上映されるなどHDR制作ソリューションなどにも力を入れているようだ。

Panavision社はかつてこのCine Gear Expoでも一番メインの出展メーカーだったが、2010年以降の一時期には出展辞退するほど経営状況が思わしくなかった時期もあった。しかし2014年の12月にオンセット(現場)でのカラーグレーディングソリューションのスペシャリスト、マイケル・シオーニ氏が率いるLightIron社を買収し、オンセットのカラーマネジメントシステムのレンタルなどに加えてアナモフィックレンズのブーム活況、そして昨年発表したMILLENNIUM DXLの発表によってかつての隆盛を取り戻しているようだ。その裏には大きく変わった経営陣の努力の現れもある。


[Digital Cinema Bülow VI] Vol.02