txt:安藤幸央 構成:編集部
キリンとスケッチ
スケッチのモデルとして会場に運ばれてきた子供のキリンTiny君と、スケッチ講座の様子
今年のSIGGRPAHで参加者のみんなの度肝を抜いたのが、会場を歩き回るキリンの姿。SIGGRAPHでは、デジタル技術に片寄らず、スケッチや手作り感溢れる催しがいつも企画されているが、今年のキリンの登場は誰もが驚いた。
実際のところキリンの役目は何かというと、リアルで動き回る動物のスケッチを教わるワークショップのモデルとして会場に運び込まれたものだ。3歳の子供のキリンTiny君の身長は12フィート(約3.7メートル)。本人はそれとは知らず、会場の人気者になっていた。
Gary Geraths氏によるスケッチ講座は、数十席用意されたワークショップが毎回満席の人気で、キリンの骨格や筋肉の構造、動物ならではの動きなどの特徴を分かり易く解説しながらのワークショップであった。
過去と現在を振り返るプロダクションギャラリー
プロダクションギャラリーの入口
今年から新たに設置されたコーナーであるプロダクションギャラリーは、各国のCGプロダクションが制作してきた映像制作のための素材、作品などを一同に集めて展示するコーナーだ。最近の作品に関連するものから、過去の思い出深い作品など、展示数は少ないながらもCG映画、VFX映画ファンにとってはたまらない展示の数々であった。まだ展示として模索中の感じもあったが、ここでしか見られない貴重な歴史的産物も見ることができ、大変貴重な展示コーナーであった。来年はさらに展示数が多くなることが期待される。
ニコラス・ケイジ主演のホラー映画「ゴーストライダー」で登場した改造バイク(実物大)
映画「メン・イン・ブラック3」に出て来たモノバイク(実物大)
リメイク版映画「ゴーストバスターズ」に登場した、ラウンチャー、銃、幽霊探知機
リメイク版映画「ゴーストバスターズ」に登場した、幽霊捕獲機、背負っていたプロトンパック
スクウェア・エニックス、ファイナルファンタジーXV より、ベヒーモスの模型。約30cmほどの大きさ
ディズニー/ピクサー作品「Cars 3」よりキャラクター設定のためのスケッチの数々
ブリザードエンターテインメント、オーバーウォッチのキャラクタ、トレーサーの模型。約30cmほどの大きさ
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の衣装と、木のキャラクター「グルート」の模型
論文発表から、最新の映像技術を紹介
SIGGRAPHの本分は学会であり、その中心となるのはやはり技術論文の発表である。SIGGRAPHでの研究分野は、実務と関係性が深く、実際の映画製作でつちかわれた新しい技術が論文発表されたり、また逆に最新の研究発表が次の年の映画制作の特殊効果で活用されたりする。ここで発表された新しい技術が、市販ツールに取り込まれる期間も比較的短いため、遠い将来の未来の技術という感じではなく、もうすぐ手に入る身近な最新技術という雰囲気で捉えてほしい。
SIGGRAPH論文のダイジェスト動画:今年の主立った論文のデモが短時間で見ることができる
今年のSIGGRAPH論文は、35ヶ国から439本の論文が投稿され、その中の28%である126本の論文が採択された。SIGGRAPHはトップカンファレンスと呼ばれる採択されることがもっとも難しい学会のひとつでもある。
それでは、今年採択された126本の論文の中から、PRONEWSの読者向きの映像系の研究で興味深いものをいくつかピックアップして紹介しよう。現時点では研究段階のものも、来年、再来年くらいには市販ツールに組み込まれて使えるようになっているかもしれないのです。
■Time Slice Video Synthesis by Robust Video Alignment
異なる時間に撮影したタイムスライス動画から、合成イメージを作成する技術。昼の動画と夜の動画を合成して、一瞬で滑らかに昼から夜に変化する動画にしたり、同じ人を複数合成したり、逆に背景に映っている人を取り除いたりすることができる。
■Computational Video Editing for Dialogue-Driven Scenes
対談の映像から、しゃべっている時だけ顔を映したり、セリフの部分だけを抜き取ったりする技術。最新のテレビ会議システムや、映像スイッチャーとしてはごく普通の操作だが、それを全自動でそつなく出来るのがポイント。対談映像などを自動編集できる技術として期待される。
■Real-Time Planning for Automated Multi-View Drone Cinematography
複雑なシーンでも、ドローンで自動的に撮影してもらう技術。ハリウッド映画でも撮影困難な状況でのドローンを活用した撮影が浸透しはじめており、それらを推し進める撮影技術のひとつ。
■Low-Cost 360 Stereo Photography and Video Capture
リコーの360°撮影カメラTHETAを2台使った、安価なステレオ360°撮影技法。高価な360°立体視撮影専用カメラではなく、安価なTHETAを駆使し、できるだけ品質の高い撮影をする工夫。
■Synthesizing Obama: Learning Lip Sync from Audio
音声データに、オバマ元大統領の口の動きを合わせ、音声ぴったりと合ったリップシンク映像で再生する技術。口の動きは、CG合成した場合、人間が不自然さを感じ易い部分のひとつであるが、本研究では大量の機械学習により、違和感なく再現できている。オバマ大統領の演説映像を大量に学習させた成果。通信回線がおもわしくない状況でのテレビ会議を補間する技術や、VR空間での対話などに用いる可能性があるとのこと。フェイクニュースなどに活用されてしまう可能性があるなど、問題もはらんでいるが、一方それを防ぐため、合成された映像を見分ける研究なども進んでいる。
■Computational Zoom: A Framework for Post-Capture Image Composition
撮影時に様々なレンズを必要とする問題の解決方法の提案のひとつ。ドリーイン(カメラ自体が前後に動いて撮影した映像)を後処理で広角レンズまたはズームレンズで撮影した風に、カメラ距離と焦点距離を変更して映像を再構成することができる技術。
■Deep Bilateral Learning for Real-Time Image Enhancement
写真のレタッチ(ゴミの除去などの修正)をカメラマンによる手作業を機械学習し、それらの作業を自動化する手法。コンピューティングパワーを極力使わない方法で、モバイル端末でも実現可能とのこと。
さらに今年のSIGGRAPHは、さまざまな制作が体験できるスタジオも充実、先進的な研究開発が体験できるE-Techと数多くの展示でにぎわった。盛りだくさんの話題は、続くレポートで紹介する。
txt:安藤幸央 構成:編集部