txt:安藤幸央 構成:編集部

SIGGRAPH 2017を振り返る

VRコンテンツを楽しむ、奇妙な風景

昨年以上にVR三昧だった今年のSIGGRAPH。会場のあちこちにVRゴーグルを装着して体験できる視聴コーナーが設置されており、多くの参加者が楽しんでいた。VR体験の場合、通常の映像鑑賞とは異なる。ひとつの機材で一人しか体験できないこと、装着に手間がかかり、慣れない人は手助けが必要なこと、VR体験中の映像を他者がディスプレイで見たとしても、動きに追従できずあまり意味の無い酔う映像になってしまうことなどだ。VRコンテンツを視聴している最中は良いかもしれないが、その前後の体験もうまく配慮や工夫が無いと、全体として良い体験になりづらいのだ。

銃や剣の動きもトラッキングされるVRゲームを楽しむ参加者

SIGGRAPHの夜のイベントのひとつであるReal Time Live!では、文字どおりリアルタイム映像であるゲーム映像、VR映像、ゲームエンジン、ツールなどが紹介された。デモ用に用意されたPC機材を使って、その場で生成された映像の数々がデモンストレーションされた。ちなみに本レポートVol.01で紹介した「The Human Race」は、Real Time Liveの最優秀賞である「Best Real-Time Graphics & Interactivity Award」を受賞した。

Real Time Live!のデモの様子(当日オンエアー版)約1時間22分)


■Direct 3D Stylization Pipelines

「Direct 3D Stylization Pipelines」は、インタラクティブに操作できる3D水彩画ツール。シンガポールのナンヤン工科大学のSantiago Montesdeoca氏らの研究。水彩画にはすでに知られたさまざまな描画のためのテクニックがあり、それらをデジタル技術で模倣し、習熟無しでも簡単に使えるようにしたもの。一般的に使われている3DCGソフトMaya上に実装されており、後々オープンソースで公開する予定とのことだ。


■Star Wars Battlefront VR: Piloting an XWing for the First Time

Star Wars Battlefront VRは、Frostbiteというゲームエンジンを利用したゲームで、PlayStation4+PlayStation VRで遊べるVRゲームとして、昨年末にリリースされたものだ。VRで何から何まで体験するのではなく、Star Warsの良く知られたシーンのひとつである宇宙船同士のドッグファイティングにゲーム体験を絞ったことによりVRして受けいれられる内容になっている。

IGNによるプレイ映像


■Penrose Maestro

Penrose Maestroは、複数ユーザーで同時に空間を共有できるVRストーリー構築ツール。


■Unity: EditorVR

VRの世界の構築や編集と、それこそVR世界の中で実施してしまおうというVR編集ツール。

Unite Europe 2017の時の発表


■Pinscreen: Creating Performance-Driven Avatars in Seconds

一般的なWebCamで撮影した顔を、リアルタイムでCGキャラクター(アバター)の画像に切り替えてしまう仕組み。実際のデモでも顔の動きに対するCGの動きの追従性も素早く、会場の拍手喝采を浴びていた発表のひとつであった。まず最初に顔の正面の写真を1枚だけ撮影し、Pinscreenのシステムにアップロードすると、その後は顔を動かすとすぐに追従するアバターを楽しむことができる。ゲーム内キャラクタや、ビデオ電話など、さまざまな応用が考えられる。

アートギャラリー展示

SIGGRAPHでの人気コーナーの一つにアートギャラリーがある。通常のアート作品とはまた異なり、社会的に何か提言を示したメディアアート、デジタルテクノロジーを駆使したアート表現が高く評価される傾向にある。今年は思想がこめられた人工物がテーマとなり、ラテンアメリカ各国、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、キューバ、エクアドル、メキシコの7カ国から招待された10の作品が展示された。

■Echolocalizator(コロンビア)

Echolocalizatorは、目を塞がれて、コウモリのように音だけで動き回るための眼鏡。潜水艦のソナーのように、周りの障害物を音に変換して聞くことで、資格の変わりに聴覚を研ぎすまして動きまわることができる。


■Milpa Polímera(メキシコ)

Milpa Polímeraは、トウモロコシを素材とする3Dプリンターが、畑の上をトラクターのように動きながら、トウモロコシ形状の種子を3Dプリントしながら埋めていくというアート作品。生物学的に閉じた空間での生命のサイクルについて問いを投げかけた作品でもある。


■Anti-Horário(CounterClockwise)(ブラジル)

Anti-Horárioは人間の動きや振る舞いをアナログ時計に見立てたインスタレーション作品。地球、子供、大人、空が、それぞれ時計の部品になっている。丸形の映像で時間を示すとともに「人生」のサイクルを表現しているものでもある。


■Dispersiones(アルゼンチン)

人工生命に見立てた物理的に繋がりのあるネットワークを光とスイッチが切り替わるリレーとワイヤーで表現した作品。目の前に立った人の動きを感知して、光と音で反応します。

SIGGRAPHを通しての雑感

米国、それも映画産業のお膝元であるハリウッドに近いロサンジェルスコンベンションセンターで開催されたSIGGRAPH。VRが単なる物珍しいだけのものではなく、「産業」として発展しつつあることが伝わってきた。VR映像独得の従来のチープなCG質感とは異なり、映像産業で活躍している現役のチームがVRコンテンツを手がけたり、大規模な撮影、ストーリー作りを手がけたり、人、資金、機材の掛け方が段違い変わってきているのだ。

VRは、高品質なVRヘッドセットや必要なPCのスペックなども考慮すると、視聴環境が高額になってしまうことがネックだと言われているが、必ずしも価格だけが課題なわけではないことがわかりつつある。映画館や、ゲームセンター、遊園地のようなアトラクション施設で楽しむVRもひとつの視聴方法であるし、スマートフォンを活用したお手軽なVRも入口のひとつでもある。

その一方、ある程度の時間、受け身で楽しむ映画やドラマとも異なり、さらに数日間、数ヶ月感没頭するゲーム体験ともまた異なる。VRの場合現状はまだ、さまざまな要因により一般的には数分間から十数分間の体験が精一杯であり、映像コンテンツの作り方や、ストーリーの構築などもまだまだ工夫しながら業界全体で模索している段階だ。どこかが王道の手法、王道のストーリーを編み出して、だかが一人勝ちしているわけでもなく、勝ち組が生まれているわけでは無い段階だ。

一方、ありとあらゆる分野で、スマートフォン、タブレットといったモバイル技術への流れは止めようが無く、コンテンツを作る、楽しむ、伝える。観るといったあらゆる用途でモバイル端末が必須、第一に考えなければいけないプラットフォームとなりつつある。そう考えた時に、重厚長大なハリウッド映画を手のひらサイズで観ることが最適とは言えず、新しいタイプのコンテンツ、そしてそれらのコンテンツ消費が求められてきている。

映像そのものも、映画、テレビ、DVDといった広く浸透した旧来メディア型のものから、YouTube、SNS上の動画、VR、NetflixやAmazon Primeを始めとする映像配信サービスによるオリジナル映像制作、映像の利権の扱いが複雑かつ変化しつつあり、コンテンツ収益構造も変化しつつある。CG、VFXを駆使した映像はこれからも増えつつ、骨子となるストーリーが重視される傾向は今後も益々加速していくことが予想される。

そしてさらに映像のみならず、触感や香り、体感できる振動など、映像視聴の際にさまざまな感覚を加えて、さらに体験を強化する流れがやってきている。映像もデジタルデータになり、コピーや視聴場所、視聴デバイスに制限が無くなってきている時代だからこそ、そこでしかできない体験、いままでに無かったような特殊な視聴体験を追い求めているのかもしれません。

SIGGRAPH ASIA 2017開催

今年の冬、11月27日から30日の4日間、SIGGRAPH ASIA 2017がタイのバンコクで開催される。SIGGRAPH ASIAは、全体的なセッション数、参加者数などを米国SIGGRAPHと比べると規模こそ半分ほどだが、内容は大変充実しており、日本に居るだけではなかなか知り得ない最新情報と、アジアから参加される各国の作品を楽しむことができる(ただしほとんどのセッションは英語でおこなわれる)。

また来年夏のSIGGRAPH 2018は、8月12日から16日の5日間、カナダのバンクーバーで開催され、さらに、来年2018年冬のSIGGRAPH ASIAは東京(有楽町の東京国際フォーラム)での開催が決定している。次回も、さらに新しい映像技術と映像作りには欠かせないCG/VFX技術の最先端が垣間みれるSIGGRAPHに期待したい。

txt:安藤幸央 構成:編集部


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