txt:田巻源太 構成:編集部

DaVinci Resolveでのカラーグレーディングに慣れてくると、マウスやトラックパッドでの調整に限界を感じてくるようになる。Resolveではハードウェアのコントロールパネルによる直感的な操作が可能である。純正のAdvanced Panelはほぼすべての機能に直接アクセスでき、全くと言っていいほどキーボードとマウスを触らずにオペレートしていくことも可能である。しかし、約360万円という価格は本格的に業務で使っている人間でも簡単には手が出ない価格である。

そんな中、DaVinci Resolve 14発表前の今年3月に突如発売された純正パネル2種は、十分手の届く価格と言っていいのではないだろうか。また、純正パネル以外にもサードパーティ製の手頃なパネルを以前から使用可能である。以下順番に紹介していきたい。

Blackmagic Design純正のAdvanced Panel。価格は約360万円

Blackmagic Design DaVinci Resolve Mini Panel

■価格:税別339,800円

6.4kgとずっしりした金属筐体で、マットな黒で塗装されており質感は高い。2枚の液晶画面が特徴的なパネル。Miniという名前が付いているものの、あくまでAdvanced Panelと比較した場合のMiniであり、幅43cm✕奥行き39cmとかなりのインパクトのあるサイズとなっている。

接続はUSB-C、Ethernetのどちらかに対応する。電源は、AC100V、4ピンXLRでのDC12v、PoEとかなり柔軟性が高い。ワークステーションを別の部屋に置いているようなスタジオでも同一LANのEthernetがあれば接続できる。4ピン12vで駆動できるというのは、バッテリー運用も可能ということで、機材車の中に設置なども現実味がある。

Resolve 12.5.5以降であればResolveインストール時に合わせてドライバがインストールされているので、パネルを接続し、Resolveの環境設定内の「コントロールパネル」で選んで再起動すれば使用可能になる。

2つの液晶の左右にはさまざまなボタンが並び、ここで使いたい機能を選択や、ノードの追加などができる。左側のボタン類は、プライマリ、カーブ、Camera RAWなどのパレットの切り替え。ボタンを押すだけで、UI上のパネルも切り替わる。同時にパネルの液晶モニター画面には操作可能なパラーメータが並び、ソフトノブやボタンで調整ができる。

手前の部分には、リフト、ゲイン、ガンマのホイールとボール。プライマリに相当するコントラストやミッドトーンディテール、彩度などのソフトノブ、グラブスチルや全ノードのバイパス、1ノードの無効化などのボタン、また再生制御などが並ぶ。

手順としては、再生制御ボタンで、カットを選び、右側の液晶モニターのボタンでノードを追加、コントラスト調整はボールとホイール、さらにノードを追加、機能を切り替えカーブで調整などの作業をほぼこのパネルのみで行うことができる。適宜ResolveのUIも切り替わるので流れるような作業が可能である。文章だと分かりづらいかもしれないので、下記の動画を参考にしてほしい。

税込価格で40万円近くになり、業務で使用しているとしても二の足を踏む値段かもしれない。しかしかなり多くの機能をパネルのみで効率よく作業できることを考えると、Advanced Panelとの価格差も加わり、かなりお買い得だと感じた。

そして従来はAdvanced Panelのみが「Camera RAW」のパラメーター調整ができたのだが、これにも対応していることはRAW素材を多く扱う場合は注目である。現状ではすでに規定された機能のみで割り当てを変更することはできないが、「FX」「USER」など未実装で将来のアップデートで対応のボタンもあり、さらなる進化が期待できる。

Blackmagic Design DaVinci Resolve Micro Panel

■価格:税別113,800円

Mini Panelから液晶部分をとパームレストを取り除いたような小さなパネルである。接続はUSB-Cコネクタの(USB2.0)でバスパワー駆動。製品にはUSB-CからUSB Type-Aのケーブルが同梱されている。2016年以降のMacBook ProなどUSB-CのみのノートPCユーザーは別途ケーブルを用意する必要がある。

DaVinci Resolve Micro Panelはプライマリと再生制御のみに特化したパネルとなる。Mini Panelのようにノードを追加したり、機能を切り替えたりということができない分、キーボードやマウスとの併用の割合は大きい。しかし、なんといってもAdvanced PanelやMini Panelと全く変わらない高精度なホイールとボールによるコントラスト調整や色調整が可能だ。どのパネルにも共通することではあるのだが、この3つのボールとリングを使うことと、マウスでの調整をすることとの大きな違いが2つある。

まず1つ目は、操作画面を見なくていいということ。環境にもよるが、繊細な色調整を行う場合、パソコン画面ではなく、UltraStudioシリーズなどを用いたSDI/HDMI出力をキャリブレーションされたモニターで視聴しながら調整することが望ましい。その場合、マウス操作のみであると動かす瞬間には映像ではなく操作画面を注視してしまう方が多いのではないだろうか。

2つ目は、複数パラメータを同時に操作できるということ。両手でコントローラーをさわれば、リフトとガンマのリングを同時に回すこともできる。中間調を持ち上げつつ、浮いてくる黒を下げる、というマウスで行ったり来たりすると大変な作業もかなりスピーディーに行うことができる。小型さ、バスパワードであることなど導入しやすく、また可搬性も高い。Resolveとは無関係であるが、同じBMD製品のATEMシリーズと組み合わせるとURSA MiniシリーズなどのCCUとしても使える。

その可搬性から、撮影現場に持ち込んでの使用も想定しているとは容易に想像できるが、1点注意がある。Mini PanelとMicro Panelは、基本的にResolveでしか動かないということである。後述する他社製品と違い、Pomfort LiveGradeやREDCINE-Xなど撮影現場で使われるソフトでも使いたい場合は、残念ながら他社製品を使わざるを得ない。

Avid Artist Color

■価格:税別 177,000円

今回紹介する中で一番古くから所持しているもので、もともとはEuphonixという会社からMC ColorとしてApple Color向けにリリースされたものである。リフト、ゲイン、ガンマの3つの光学トラックボールとトラックホイール、8つのパラメーターを調整するプッシュノブ。

LEDディスプレイ部分に調整できる機能が表示され、Primary、Secondary、Windowなどをプッシュノブを押すことで選ぶと細かいパラメーターが表示される。ノブを回すことで表示されたパラメーターを調整する。

Mini Panelと比較すると、調整できる項目は実に多岐にわたる。また、CGボタンは、シフトキーを併用することで最大8種類のグレーディング情報を登録でき、その下のPGボタンで適用できる。これは、Resolveのメモリーズ機能を使っているに過ぎないが、かなり便利に使える。

ワークステーションとの接続はEthernet経由となる。作業マシンをマシンルームなど別の部屋に置いているスタジオなどでも、同一LANのハブを経由すれば接続ができるのも魅力。別途ACアダプタ経由で電源が必要なので、外ロケでの使用は電源環境に依存してくる。

しかし、サードパーティー製である強みとして、Resolve以外のソフトでも使用可能なことも魅力の一つ。前述のApple Colorはすでに過去の製品ではあるが、Pomfort LiveGradeや、RED REDCINE-Xなどのオンセットでよく使われるソフトや、Avid MediaComperではカラコレのみならず編集でもジョグとして使用可能である。

Tangent Devices Tangent Ripple

■価格:税別 46,000円

今回紹介する中では一番低価格なモデルである。USB2.0接続でバスパワー。サイズ的にも一番小さく持ち運び用のポーチも付属する。他のパネルと違い、ボールとリングが離れているので、他製品を使用経験があると戸惑うかもしれない。

ボールとリング以外には、リセットボタンとアサイン可能な2つのボタンのみなので、調整できる項目は他よりも極端に少ないが、初めて使うパネル、またはコントラスト、色調整が主になるロケ先での使用と割り切るとかなりコストパフォーマンスが高い製品だと思われる。

低価格であることは承知の上だが、プラスチックの質感はお世辞にも高いとは言えない。また、コントラスト調整のホイールは、ドライバ側での感度設定を用いても、それでもまだ軽く、微調整するためにはかなりの習熟度が必要になる。Resolveでは設定でドライバと別に調整は可能。Artist Color同様に、Resolve以外の各種ソフトでも使用可能な点もポイントが高い。

特に、このサイズとバスパワー駆動であることを考えると、ノートパソコンやLUT-BOXを用いてのライブグレーディングを完全なバッテリー運用も可能である。。Adobe Premiere Pro CCのLumetriカラー・パネルでも使用可能とのことである。

まとめ

筆者は上記のパネル全てを所有し使用してきた。個人的な見解ではあるが、撮影現場でのDIT作業、その後の現像、カラーグレーディングという全てを行う身としては、DaVinci Resolve Mini Panelをスタジオ内で使い、ロケ先にTangent Rippleという使い分けが多くなると考える。

どのパネルを選ぶかは、予算や仕事のスタイルなどでさまざまに変わってくると思うが、どの製品でも一度でも使ってきちんとグレーディングしてみると、もはやパネルなしでの作業を考えられないほど出来上がりが変わってくると思う。ぜひ、一度試していただきたい。

txt:田巻源太 構成:編集部


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