txt:岡田太一 構成:編集部

岡田太一
Film Editor。株式会社スタッド 代表取締役。CGからキャリアをスタートし、CM業界において一通りのポスプロ工程を経験。現在はFilm Editor/Coloristで仕事を頂きながら、Unity/UEに傾倒。

CM制作スキームの特長

筆者はTV CMのポストプロダクション業務を主とする会社、株式会社スタッドを経営している。今回の特集では各人が新機能の紹介をあらかた済ませてくれているだろうと思われるので、本記事ではCM制作スキームにおけるDaVinci Resolveの可能性を、実案件を通して見極めてみたいと思う。

なお、本記事はベータ版を元にしており、実案件でベータ版を使用することはメーカーとしても推奨される行為ではないであろうことを先に断っておく。また、つい先日ベータ5が公開になっている。本記事で指摘した問題はベータ5以降で修正されている可能性もあるため、その点は差し引いて読んでほしい。

ちなみに全て英語版での使用になるため、機能名その他は英語版に準ずる。

基本的な流れは以下の通り。

  1. 撮影(現場編集)
  2. オフライン
  3. カラーグレーディング
  4. オンライン(コンポジット)
  5. MA

これだけ見れば他業種から見ても一般的かもしれないが、CM制作スキームの特長は全ての工程が立会い作業となることだ。広告代理店、クライアント立会いの試写も頻繁に発生するため、立会いでの試写対応が可能かどうかが制作環境の重要な選択ポイントだ。

そのため、各工程は専門のスタジオとスタッフをアサインされることが多く、分業が徹底している。これまでのCM系ポスプロの選択としては、オフラインならFinal Cut/Media Composer/Premiere Pro。グレーディングはDaVinci Resolve、オンラインはFlameが多かった。筆者も職能によって分業した方がクオリティを高くすることが可能だと考えている。

そこに一石も二石も、今回のFusion統合に至っては三石目をも投じる形で、DaVinci Resolveがその対応範囲を広げてきたことは周知の通りかと思う。今回は具体として、弊社が5月半ばに参加した作品で、上記の2~5の工程をほぼ全てDaVinci Resolveで行ってみた。

従来のツール 今回使用したツール
オフライン Final Cut/Media Composer/Premiere Pro DaVinci Resolve(EDITページ)
カラーグレーディング DaVinci Resolve(Colorページ) DaVinci Resolve(Colorページ)
オンライン Flame DaVinci Resolve(Fusionページ)
MA Pro Tools DaVinci Resolve(Fairlightページ)

01.オフライン開始(EDITページ)

■今回の案件の概要

弊社のオフライン業務では普段Premiere Proを使用しているため、Premiere Proを比較対象として使用感を紹介していこうと思う。さて、今回の案件の条件を先に書き出しておこう。

  1. Web用完パケ、1080/23.976fps、完成尺90秒前後
  2. カメラは6K RED DRAGON
  3. バレ消しと合成あり
  4. スケジュールは素材仕込み+オフラインで2日、オフライン試写1日、オンライン+グレーディングで1日、MA+完成(オンライン)試写で1日の計5日
■Editページの設定と第一印象

オフライン開始時点でのDaVinci Resolveのバージョンは15ベータ2。今回は編集スケジュールの都合で全素材のオフラインメディアを作っている余裕がなかったため、REDのR3Dを直接編集することにした。DaVinci Resolveはプロジェクト設定からCamera Rawの一括設定ができるため、いったんディベイヤーの設定を1/4にする。

Editページのインターフェイスはそこそこ整理されてきた印象で、基本的なオフライン編集について迷うことはなかった。ショートカットは慣れの範疇。プリセットをPremiere Proというものにしてもあまり操作性が変わらなかったので、DaVinci Resolve標準のままにして身体に覚えさせた方が後々良さそうな印象である。

■Premiere Proと比較してみると…

Premiere Proと比較して気になった点は主にレスポンスだ。全体的にスクラブの反応はPremiere Proより遅い。筆者はタブレットで再生ヘッドをスクラブする癖があるのだが、手の動きに対してGUIの反応は30~60msec程度遅れる印象だ。また、DaVinci Resolveの仕様的にプレイバック中にスクラブしても再生処理が止まらず、ペンを離したところからプレイバックが継続されるのには戸惑った。これも慣れと言えば慣れの範疇だが、どこかに設定があるのだろうか。

ベータ2特有のバグとして、サブタイトルトラックのキャッシュが上手く更新されないことには困った。サブタイトル書き換え時には手動で該当部分のキャッシュを削除する必要があった。

ここまでで、素材受け取りから2日。

02.オフラインにおける試写対応能力

明けてオフライン試写日。

クライアントを多数抱えた試写では往々にして思いもよらない弾が飛んでくるが、それを少しでも減らすために気を使うのはコマ落ちなどのエラーだ。この日のDaVinci Resolveはキャッシュさえできていれば、コマ落ちする心配はまずなかった。これはPremiere Proに比べて明らかに優れている。狭い範囲でループした時はたまに音声が出なくなることがあったが、ループが必要な際は大抵卓でミュートしているので、今回は実用上問題なし。運用で対処的な範疇。

実は試写日のタイミングでベータ3が出るというまさかのイベントがあり、テスト的な意味合いを兼ねてアップデートしての試写に臨んだ。結果は安定性に大差なく前述のサブタイトルバグも解消されており、賭けに勝った形になった(良い子は試写前にアップデートしないように)。

総体としてDaVinci Resolveはオフライン試写には耐え得ると評価できる。

03.オンライン(Fusionページ)

■EditページとFusionページの連携の第一印象

オフライン(コンポジット)作業のため、日を空けて作業再開。カメラマンのスケジュールもあり、コンポジット→グレーディングの順での作業。オンラインでの作業内容は簡単なバレ消しと合成程度のため、この時点ではクライアント立会いなし。

まず、EditページとFusionページの連携に大きな可能性を感じた。アドビにおけるDynamicLink相当の機能を単体で実現しているのは、ありうべき未来として相当に心が踊る。

安定性はそこそこ、くらいの印象。FusionページとEditページを行ったり来たりしていると2時間に1回くらいは何となく落ちる。作業にならないという程ではないが、この辺りで念のため環境設定からFusionはCPUのみを使うようにする。これでGPUメモリが足りないといったエラーは出なくなった。

■タイムライン解像度とFusionページの関係性

惜しいのは各ページをまたいだクリップのやりとりが若干怪しかったことだ。一度作ったFusionクリップに対して後からEditページで尺を変えた際、in点out点をFusionページにうまく反映させることができなかった。今回は時間がなかったのでメインのシーケンスからFusionクリップを作り直すことで対処する。

また、運用にノウハウが必要だなと思ったのは、タイムライン解像度とFusionページの関係性である。Fusionページでの作業を始めるとすぐ素材サイズが足りないことに気付く。そういえばFusionページでの素材解像度はどこで決まっているのか、と検証したところ、EditページからFusionクリップ作成を行った場合タイムライン解像度がFusionページのMediaInに紐付いていることが分かった。

これはタイムライン解像度をプロジェクト単位で1種類しか持てないDaVinci Resolveとしては辛い仕様。今回はクリップ単位のREDディベイヤーをフルにした上でFusionページのMediaPoolから直接読み込み、In点Out点を決めたが、ノードの繋ぎかえだけだと素材サイズの違いが吸収できず、事前に仕込んでいたトランスフォームとの間で齟齬(そご)が生じた。RED素材の際は必要に応じてディベイヤー解像度が後から変更されがちなので、その辺もうまく相対的な数値で吸収してほしいと思う。

キャッシュ関連にも怪しいところがあったが後述。

ここまでのオンライン(コンポジット)で6時間程度。

04.グレーディング(Colorページ)

■ベータ4アップデートしたが…

オンライン(コンポジット)終了後、同日中にグレーディング。このタイミングでベータ4が出ていることを知ってもだえる。マジか。前回成功したことに味を占めてアップデートを敢行するも、とにかく不安定になり惨敗だった。具体としては特定のFusionクリップの特定のフレームにさしかかると、EditページでもFusionページでもColorページでも問答無用でアプリケーションがフリーズする事態に。

しかもクラッシュレポートの画面が出ない永遠のGUIフリーズ。カメラマンが来る前に急いでベータ3に戻す。こんなこともあろうかとDBバックアップをしておいて良かった(良い子はカメラマンが来る直前にアップデートしたりしないように)。流石に実作業中なこともあり、詳細な検証は断念。

■Colorページは良好だがキャッシュに問題

ということでベータ3での感想になるが、Colorページの挙動は問題なし。カメラマン立会いでのグレーディングにも普通に対応できた。新機能もいろいろあったのだと思うが、DaVinci Resolve Mini Panelを使用していたためほぼ気付かず。普段からPC側のGUIをあまり見ていなかったのだな、と思うなど。

そうして各カットのグレーディング自体は問題なく終わったが、全体のプレイバックをしたところキャッシュ周りに微妙な挙動が確認された。いくつかのFusionクリップでEdit/Color側のキャッシュが作成できなかったのだ。

Fusionページ側のMediaOutノードに対してDisk Cacheを作ってLockすることで一応は乗り切れたが、それでも何度か事前にプレイバックして全フレームをメモリに読んでおかないとコマ落ちした。ページごとに作られる多段キャッシュ周りはまだ整理が必要なのかもしれない。

グレーディングは立会い含め5~6時間。

05.MA(Fairlightページ)

■基本的な整音には困らない

明けて翌日。本日は先の作業に加えてMAを行なった上でのクライアント試写日。

Fairlightページは豊富なプラグイン、みたいなものはないが基本的な整音には困らない印象。トラック及びクリップ別にEQ、Level、Dynamicsを調整できれば大抵のオーダーには応えられる。GUIも見れば分かるシンプルさで好ましい。Bussの設定などはAuditionより分かりやすかった。細かいことはともかく、ProToolsやNuendoを扱える人間なら迷うことはあまりないのではないだろうか。

■GUI更新が遅い

ただ、未完成な部分もある。プレイバック時SDIアウト上での絵音がズレたりはしないが、FairlightページのGUI更新がかなり遅いのだ。特にタイムラインをズームしている場合、GUI上のWaveform表示がパカパカと明滅して心臓に悪かった。更にGUI表示とSDIアウトを比較すると、SDIアウトが遅い方向に盛大にズレ倒した。GUI表示とズレているだけでSDIアウト自体は安定していたので実作業上は問題なかったが、改善が望まれる。

今回は残念ながらFairlightパネルを用意できなかったので、GUIオンリーの作業になったが、カーブはそこそこ描き易かった。できればクリップ単位での編集にも対応してほしいが、ハードウェアのフェーダーがあれば問題ないかなとも思う。もしかしたらFairlight Audio Acceleratorを追加することでGUI周りも快適になるのかもしれない。総じてハードウェアありきのターンキーで評価したいところだ。

MA所要時間は3時間程度。

そして最終試写

MAまで終わらせた段階で、Editページをメインに最終試写を行った。ここまで書いてきたいくつかの問題により、オフライン試写よりは苦労した印象である。

中でもこの時点で新たに困ったことは、シーケンスをデュプリケートするとキャッシュが外れがちだったことだ。試写中はクライアントの一挙一足によって即時修正を重ねていくのだが、修正後やはり戻したい、ということも多々ある。そのため、かなりの頻度でシーケンスのバージョンを残していくことになる。

この際、全クリップでキャッシュの作り直しになることが多発した。特に先ほどのFusionクリップの問題については、手動でのEdit/Color側のキャッシュ作成が効かず何度か該当部分をプレイバックする必要があったことから、試写対応としては都度SDIアウトを切るなどの見え方のケアが必要で、中々にエディター泣かせだった。

納品ファイル書き出し(Deliverページ)

そんなこんなはありつつも、試写は無事乗り切る。裏ではいろいろあったが、対クライアントには悟られずにスムーズさを演出できたように思う。

しかし、最後の書き出し時にももう一手間。プレイバック時は存在していたFusionクリップが書き出すといなくなることが何度かあった。レンダリングにキャッシュを使用しても同じ問題が出たので短い時間の中では切り分けできず。全く何も変えずに書き出し直すと問題なかったりするので、レンダリングスピードを落としたところ多少安定したようなそうでないような。最後は目視確認を徹底することで乗り切ったがこの部分は少々残念。

総評

筆者は本来的に、職能による分業をした方が単位時間当たりのクオリティを上げやすいと思っている人間だ。そのため、全行程を一つのソフトで完結させることには抵抗があった。しかし今回全行程を試してみたことで、オフライン、オンライン、グレーディング、MAをシームレスに作業しながら、最後までオフライン修正に対応できる点は来るべき未来を感じさせてくれた。通常であればオンライン、グレーディング、MA、試写の切り替えにそれぞれ2~3hの仕込みは必要であり、8h以上は節約できた計算になる。

また、ソフトウェアが統合されていることと職能とはまた別のことなのだということも改めて実感した。一つひとつの機能がオマケレベルではないプロツールを志向していることを鑑みるに、おそらくDaVinci Resolveは一人の人間が全ての機能を使うことを前提にはしていない。これは例えば、3DCGソフトのMayaや3ds Maxが全機能を使いこなせる人間の存在を前提にしていないことに近いように思う。

それでもCGプロダクションは、モデラーやアニメーターといった違う職能を持った多数スタッフ達に対して、同じソフトを基盤とすることで効率的な制作フローを築いている。これは願望だが、我々ポストプロダクションもDaVinci Resolveという共通基盤を使うことで、CGプロダクションと同じことができるのではないだろうか。今回は検証できなかったが、コラボレーションワークフローとスクリプティングへの対応は、大規模なパイプラインに組み込める可能性をも感じさせる。

しかしベータ3/ベータ4の時点では常用するには不安定な部分が散見されるのも事実。提示された未来が魅力的なだけに、今後の更新に期待したい。

なお、今回の制作に使用したマシンは以下の通り。

  1. Ryzen Threadripper 1950x 16core / 32Thread
  2. 128GB RAM
  3. Geforce GTX 1080Ti x2
  4. M.2 SSD Samsung 960 Pro 1TB x4 RAID0 / 素材用
  5. M.2 SSD Samsung 960 Pro 1TB x2 RAID0 / キャッシュ用
  6. Blackmagic Design Decklink 4k Extreme
  7. Windows 10 Pro Fall Creators Update

txt:岡田太一 構成:編集部


Vol.02 [inside DaVinci 15] Vol.04