txt:手塚一佳 構成:編集部

Photokina2018は単にスチルカメラの祭典というだけではない。そもそも今や動画の一定番となった一眼動画はこのPhotokinaから始まったこともあり、動画系のネタには事欠かない。引き続き今回は、そうした動画系の情報を、各ブースからお伝えできればと思う。

富士フイルムブース

富士フイルムブースは巨大すぎて全体を撮影出来るポイントがない。それだけ大きいということだ

Photokina2018会場きっての巨大ブースである富士フイルムブースでは、様々な機材が花盛りであった。中でも、プレスカンファレンスでアナウンスのあった「GXF 50R」「GFX 100M」の2つの中判ミラーレスカメラには、多くの注目が集まっていた。

GFX 50Rは広大なブースの各所に展示があった

ブースの各所に展示してあったGXF 50Rは、先代の「GFX 50S」と同性能をよりコンパクトなボディにまとめたまさに中判ミラーレスの特性を前面に押し出したカメラとなっている。レンジファインダースタイルと銘打ったクラシカルなカメラデザインは本体単体で690g(バッテリーSDカード込みで775g)と極めて小型軽量で、中判ながら右目でファインダーを覗きつつ左目で周囲を見るような撮影スタイルを取る事も出来る(実際にレンジファインダーフォーカスというわけではない)。

ファインダーは電子ビューファインダー。EVFは0.77倍、369万ドットの有機ELパネルを使う高性能なもので、中判フルHDという極めてボケ易い厳しい撮影条件でも充分なフォーカスが可能だ。

GFX 50Rの巨大な中判センサーが小さな筐体に収まっていると、不思議な感じがする

また、GFXシリーズでは初めてBluetooth low energyも搭載し、直接スマホなどから長時間のコントロールが可能となっているのも便利だ。ジンバル運用やリモート操作で力を発揮するだろう

動画は残念ながらフルHDまでの対応だが、富士フイルムお得意のフィルムシミュレーション機能やモノクロ撮影モードを搭載しており、5140万画素の中判センサーならではの高情報でボケ味の強い絵が期待できそうだ。発売は2018年11月。

コンセプトモデル1億画素中判カメラの「GFX 100M(concept)」は同じくコンセプトモデルレンズの「GF45-100mm F4 RLM OIS WR(Mockup)」と「GF100-200mm F5.6RLM OIS WR(Mockup)」と共に展示されていた

さらに、話題の100M画素(1億ですよ、1億!)中判ミラーレスGFX 100M(concept)は、まだモックアップではあるが、こちらも大勢の人だかりを集めていた。まだコンセプトモデルのため詳細は未定だが、公約された情報として「センサーは100M画素以上の中判」「中判ミラーレス初のシネマ4Kサイズ動画搭載」「ボディ内手ぶれ防止機能(IBIS)」の搭載を予告している。

中判ミラーレス初の4K動画というのは他社も同時に載せてくるので初かどうかは発売時期によるとは思うが、しっかりとシネマサイズ、と言い切っている点に好感を持てた。また、このサイズのセンサーだと多少の手ぶれもシビアになるので、IBIS搭載も便利と言えるだろう。

値段は1万ドルくらいとのことで、ラージセンサー動画カメラと考えるとGFX 100Mは決して高額ではない。中判カメラ動画は効果的なフォーカス方法やレンズ数が無いのが困りものであったが、GFX 50Rと同等以上のEVFが載ればフォーカスは可能だし、同時にコンセプト発表された2本のGマウントレンズ「GF45-100mm F4 RLM OIS WR(Mockup)」と「GF100-200mm F5.6 RLM OIS WR(Mockup)」がそれぞれ35mm(ライカ判)換算で36-80mmの標準ズーム、80mm-160mmの望遠ズームに当たることを考えると、既存の広角標準ズーム「GF32-64mmF4 R LM WR(同25-51mm相当)」と合わせ、充分な動画撮影環境が整うと言って良い。

GFX 100Mのモックアップながらも頼もしい外観。時代を変えてくれそうな予感がある

もちろんGFX 50Rに搭載されているようなフィルムシミュレーションやモノクロなどのモードも期待できるだろう。

特に、ブライダルなどのボケを多用したい撮影や、風景撮影などの光学性能が欲しい場面などでは、中判ならではの端々まで妥協しない画質の高さが大いに生きる事だろう。来年の発売時には、一気に中判動画の世界が展開されることになるのではないだろうか。

チェキコーナーは恐らくPhotokina2018会場でもっとも年齢層が若いコーナー。こういう裾野の育成が大切だ

また、動画には直接関係ないが、富士フイルムお得意のインスタントカメラ「チェキ(Instax)」シリーズを展示したエリアは空前の盛り上がりを見せていた。スマホが一般化してカメラ専用機が押されている今、エンドユーザーの育成はカメラメーカーにとっては急務であり、その重要な役目をチェキがになっていることが一目でわかる。こうした屋台骨があってこその富士フイルムのプロカメラ群なのだ。

「MAGNUM Photo」の「HOME」写真展も富士フイルムブースの一部だ。こうした活動が文化を支える

世界最高峰の写真家集団「MAGNUM Photo」の「HOME」写真展も富士フイルムブースで行われていた。家、帰るべきところをテーマとした強烈な平和へのメッセージ、民族や人種への問いかけの数々は多くの人の胸を打っていた。

言葉で平和を訴えることが反発を招きやすくなっている今の世界で、これもまた写真の重大な役割だ。これからの時代、カメラの果たすべき役目に対する強い意志を感じるブースであった。

Sonyブース

Sonyブースはαシリーズを中心にEマウントを前面に押し出した構成だ

Sonyブースでは、趣味の小型スチルカメラからシネマカメラまでのEマウントによる全カメラ横断的な展示を行い、ミラーレス陣営の王者、先行者として、総覧的なブース展開を行っていた。

小さなαシリーズのようなミラーレス一眼から、FS7IIのようなビデオカメラ、VENICEのような本物のシネマカメラまで、その全てがEマウントで一つにまとまっている

ハイエンドシネマカメラ「VENICE」までEマウント一本で共用化したそのスケール感には、ただただ驚く他無い。同社デジタルイメージング本部の田中健二シニアゼネラルマネージャーは、ブースでの取材に対し、先日のプレスカンファレンスの内容を繰り返し「1マウントでクリエイターの要求全てに応える」という事こそがEマウント最大の強みである、とアピールしていた。

田中健二シニアゼネラルマネージャー

また、田中氏によると、Sonyでは更なる撮影方法の進化としてAIによる撮影アシストを推し進めつつあり、例えばαシリーズでは従来の瞳AFに加え、瞳AFの動的性能の強化、さらには動物への対応を行ってゆくという。

αシリーズは言わずと知れたフルサイズミラーレス一眼の覇者であり、ついには2018年度前半期では、ミラーレスのみならずフルサイズセンサーでのスチルカメラ全体売り上げで世界一の地位をもぎ取り、こうした姿は全く順風満帆、余裕の姿にも見える。しかし、筆者の「ミラーレスの王者として後発マウント群を迎え撃つ側に回るわけですが?」という質問に対しては「決して自分たちを王者とは思っていませんし、そもそもスマホに押されてカメラ業界全体が縮小した今、迎え撃つというよりも互いに高め合って業界全体を盛り上げる必要を感じています」という危機感の強い回答だった。

AIの活用による瞳AFは、ついに動物にまで進化した

危機感の表れの一つとして、Eマウントはハイエンドだけでなく、ついにAPS-Cサイズセンサースチルカメラにも回帰するという。

田中氏:元々Eマウントにはユーザーの入り口としてAPS-Cカメラのラインナップはありましたが、プロやハイアマチュアユーザーの多い弊社の既存ユーザーの要求としてまずはハイエンドを充実しなくてはならないということでしばらくお休みしていました。しかし、ハイエンドもこれだけ揃いましたので、そろそろいい時期かなと。

発売時期については明言は出来ないと言うが、さほどがっかりさせない時期にまた続報したい、とのことであった。来年のCP+等が大変に楽しみになってきた。

Photokinaは2年に1度の開催だったので、こうしたロードマップを本音で語れる場、というメリットが大きかった。来年からの毎年開催でこれがなくなり、普通の展示会になってしまうのが少々寂しい気もする。

SDカードコーナーらしからぬ異様な盛り上がり

また、Sonyブースの中でも注目を集めていたのが、ブース外れ、通路の向こうにあったSDカードコーナーだ。今まで海外メーカーの独壇場という印象のあったSDカードだが、最近では東芝の「EXCERIA」シリーズがR=270MB/s W=260MB/sの読み書きを実現し、Sonyも「SF-G」シリーズでなんとR=300MB/s W=299MB/sの読み書きを実現し、国内メーカーの力を見せつけ始めている。

その正体は「SF-G Tough」シリーズ!プロユースでは破損の多いSDカードの不安を一気に解決する画期的商品だ

そんな中、Sonyブースには「SF-G Tough」という新しいSDカードが展示発表されていた。SF-G Toughは、一体成形のシェルと端子の絶縁リブの廃止、書込防止スイッチ廃止によって、IP68防水防塵相当の性能を備え、さらには耐衝撃、耐圧力でなんと18Kgもの折り曲げ強度を持たせることに成功しているタフなSDカードだ。しかもその中身は「SF-G」シリーズと同等のR=300MB/s W=299MB/s。全く隙のない、プロならこれしかないだろうというSDカードだ。4K30PまでならRAW動画でも無い限りこれ一枚で充分だ。市場を一気に席巻しそうなSDカードではないだろうか。

Shvabeブース

ShvabeブースではZENITの話題で持ちきりであった

ロシア語が燦然と並ぶShvabeブースでは、なんと、かのロシアの名機(迷機?)ZENITが復活の声を上げていた。

この新生ZENIT誕生の経緯はLeicaブースレポートを是非ご覧頂ければと思うが、Leica Typ240そのものが入っているとあって、その品質は確かだ。昔の滅び行くソ連を体感するかつてのZENITとは全く違う完璧な出来映えと言える。

かつてのZENITはライカ路線ど真ん中で、Mマウントでレンジファインダーの格安機、という印象であった。特徴的であったのはF1の明るさを誇る35mm標準レンズ「Zenitar-M 35mm F/1.0」であり、ZENITを馬鹿にするライカユーザー達も、このレンズの特徴は認める、という風潮があった。それが、本物のLeicaを内に秘めて復活したのだから、話題にならないはずがない。

ZENIT復活。こちらは「ZENIT M DIGITAL CAMERA」クローム&ブラックバージョン。「Zenitar-M 35mm F/1.0」とセットで販売される

「ZENIT M DIGITAL CAMERA」と名付けられた新生ZENIT Mは、なんと復刻版の「Zenitar-M 35mm F/1.0」を標準装備のセット販売でリリースされる。価格は5500ユーロ。あくまでもZENIT復活のイベント販売的な扱いで日本国内での購入は困難というのが残念だが、その値段も相まって、非常に魅力的に見える。

別売りレンズの「Zenitar-M 21mm F/2.8」。これだけでも欲しい!

さらに広角レンズの「Zenitar-M 21mm F/2.8」も同時発売され、こちらは別売りとのこと。

ブラックバージョンの「ZENIT M DIGITAL CAMERA」。ラフな感じで色々とバリエーションがあるのが実にZENITだ

さらにはなんと、クローム&ブラック版だけでなく、ブラックバージョンの「ZENIT M DIGITAL CAMERA」も存在していた。これらZENITのカメラ本体は全てLeica社生産と言うことで、Leicaバリエーションとしてコレクターアイテム的な価値も高い。日本での発売を期待せずにはいられない。

COKINブース

COKINブースは非常に興味深かった

さて、Photokinaの魅力の一つが普段縁の遠いスチル系のアイテムに触れることが出来るイベントだというところだ。そんな中で動画に使えそうな物をいくつか発見しては喜びに浸るのもまたこのイベントの面白いところだ。COKINブースでは「EVOフィルタホルダ」が大変に気になるアイテムであった。

COKIN EVOシリーズ。なんと、モジュラータイプのベローズがついたものも展示

これは10センチサイズの角形フィルターを使う事の出来るフィルターホルダーなのだが、なんとその先端に丸形のフィルター溝があるのが特徴だ。つまり、PLフィルタなどの回転を必要とするフィルターを先端に取り付けることが可能なフィルターホルダーなのだ。

もちろんハレキリ用のフラップなどは付いてないのでその点は注意がいるが、本格的なマットボックスと異なり、非常に軽量で、レンズ先端に気軽に装着が出来る為、一眼スタイル動画には最適なフィルタと言えるのではないだろうか?

豊富なフィルター群を、丸形、角形問わず使えるのは魅力的だ特に回転を必要とするフィルターはありがたい

しかも、モジュラータイプのベローズがついたものも展示されていた。これがあればかなりフィルター利用方法の幅が広がるだろう。こうした製品に気づけるのもPhotokinaならではと言える

Kenko Tokinaブース

世界のどこのイベントでも見かけるKenko Tokinaブースは見ないと不安になるレベルだ

日本でおなじみKenko TokinaブースもPhotokinaに積極的に出展していた。

「VISTA 85mm Orime T1.5」「50mm Prime T1.5」の2本の新型レンズと「1.6xEXPANDER」

あまりに膨大な製品数を誇る同社だが、動画関係で言うと、シネマレンズ「VISTA」が「85mm Orime T1.5」「50mm Prime T1.5」の2本の新型レンズを揃え、さらに「1.6xEXPANDER」がEF to PLとPL to PLの2種類を揃えて展示されていたのが印象的だった。

ずらりと並ぶVISTAレンズ。もはやTokinaも、立派なシネレンズブランドの一つだ

EXPANDERは旧来のレンズを取り急ぎフルフレームに対応させるための拡大装置であり、あくまでもフルフレーム普及までの過渡的な製品だが、一つあれば安心だし、充分な光学解像度を持つシネマレンズであれば、EXPANDERを当てても光学解像度がピクセル数を下回らない場合も数多く見受けられる。個々の環境での充分な検証は必須だが、高性能なS35シネレンズをお持ちの方は、一つ検討してみても良いであろう製品だ。

SAMYANGブース

かのSAMYANGもだいぶ大手のレンズメーカーという雰囲気になってきた

安価で明るいハイスピードレンズで名高いSAMYANGも、Photokinaに大々的に出展していた

中でも筆者が気になったのは、XEENのレンズ群だ。SAMYANGのシネレンズといえば、安価で高い光学性能だが大きさもばらばらでコーティングもいい加減、ギア位置も適当、という印象だった。それを大幅に改善し、きちんとしたシネマレンズケースに収めた物が、このXEENシリーズだ。

もちろんその分お値段は上がってしまってはいるが、SAMYANG特有の明るいT1.5揃えは魅力的だ。いくつかギアサイズやギア距離が異なる物が混じっているのはご愛敬だが、それでも出来る限りレンズ交換がしやすいようにギア位置などを合わせてあるのもまたいい。

XEENシネマレンズ群は、かなりまっとうで実用に耐えるシネレンズシリーズだ

単なる特殊効果的なネタレンズと言うだけでなく、十分に検討に値するレンズとなってきたのではないだろうか?

ヴァイテックイメージングブース

ヴァイテックイメージング(Manfrotto)ブースは新製品Befreeアドバンスのカーボン版が出たばかりとあって黒山の人だかりだった

ヴァイテックイメージングブースでは、Manfrotto、Lowepro、GITZO、JOBYの4ブランドの三脚や機材が展開されていた。中でも、Photokina前日の9/24に発表された新しいカーボン版Befreeアドバンスは、非常に魅力的で人だかりを集めていた。

じっくりとブースに居座って、大量の三脚の中から自分に合った一本を探し出す。展示会にはそういう使い方もある

動画に関係ありそうなところでは、GITZOのシステム三脚なども実機が大量に並べてあり、実際に雲台を載せて試してみることが出来るようになっていたこうして直に機材に触れることは、三脚などの直接体で使う製品にはとても大切であり、こういう展示会の機会で何とか自分に合う三脚を見つけ出せれば、と常々考えている。

最後に

さて、駆け足でPhotokina2018のブースを見てきたが、もちろん展示されていたのはこれだけではない。遠くドイツ・ケルンの地で発表された新製品が、インターネットで同時に日本にも広報され、あっという間に日本でも見られるようになるのは、なんというか時代を感じる。

そうした時代に合わせ、いままで、スチルイベントと言えば隔年開催のこのPhotokinaであったが、来年からは毎年5月に毎年開催になるという。その為規模も縮小し、イベントの性質も変わってしまうものと思われる。

そういう変化に対して寂寥感が無いでは無いが、Photokina自体が終わるわけではないし、Photokinaの持つ誰もが「写真人=Photokina」であるという自由闊達な雰囲気は、写真文化やそこから発達した一眼動画文化、さらにはその先にあるネット動画文化に多大な成果を残したと言えるだろう。

さて、次のスチルイベントは、来年2019年のヨコハマCP+だ。CP+ではどんな素晴らしい新製品と出会い、そして写真文化、一眼動画文化はどのように成長するのだろうか。楽しみでならない。

txt:手塚一佳 構成:編集部


Vol.03 [Photokina2018] Vol.01