txt:荒木泰晴 構成:編集部
未経験者が16mmフィルムを100フィート回すまで
16mmフィルムトライアルルームの荒木泰晴氏によるフィルム特集第2弾。今回はカメラへフィルムの装填、カメラの掃除の方法、交換レンズの選定、 撮影実践、現像出し、試写までの工程を、フィルム撮影未経験者が体験する様子を紹介していこう。
- Vol.01 フィルムの装填を身につけるまで
- Vol.02 フィルムの購入、カメラの清掃方法を身につける
- Vol.03 三脚とカメラの操作。パンとティルトの実践
- Vol.04 桜の撮影本番
■Film上映編
- Vol.05 IMAGICA Lab.にカラーネガフィルムの現像を依頼する
- Vol.06 フィルム現像引き取りと試写でチェック
- Vol.07 16mmフィルムをデジタイズする
はじめに
最近、筆者の自宅に開設している「16mmフィルムトライアルルーム」には、「個人で16mmフィルムを体験したい」という希望者と、「プロダクションとして16mm撮影もできることをアピールしたい」という希望者がやって来る。
トライアルルームのプレート
若いうちにフィルムを体験することは、撮影技術の基礎を理解するために重要だ、と筆者は思う。
この稿では、「16mmフィルム撮影を何も知らない初心者が100フィート回せるまで」を、時間を追って解説する。
■16mmフィルムトライアルルーム(以下:ルーム)とは?
2004年頃、面白半分にインターネットで「16mmフィルム」を検索すると、25,000件ほどヒットした。
16mmフィルムに関連のある書き込みを見て行くと、
「フィルムをどこで買ったらいいか判らない」
「フィルム会社へ電話したら、写真の担当者に繋がって、映画フィルムについて聞けなかった」
「フィルムを現像所へ持って行ったら、ケンもホロロの扱いを受けた」
「初心者には16mmフィルムの入門はハードルが高過ぎる」
「レンタル会社はアマチュアには貸してくれない」
などなど、不満に満ちていた。
筆者は「ホントにそうなのか」確かめようと、フィルム販売会社や現像所に、実態を質問してみると、
「普段はプロを相手にしているので、注文の内容が判っているが、アマチュアさんの要望がよく判らない。「銀残し」、など難しい現像テクニックを注文されるが、どこまで理解して注文を出しているのか」
「こちらの使っている用語を理解してもらえない」
「説明に時間がかかる」
フィルムのプロ側も困惑している様子が判った。
レンタル会社は、
「プロダクションやプロのカメラマンへのレンタルなら日頃のお付き合いがあるし、学生なら教授の紹介がある。アマチュアさんに、貸していいか判断できないし、カメラの扱い方が判っていない場合もあるので、対応していない」
という。
「16mmフィルム撮影を体験してみたいができない」という不満と、「どうして16mmフィルムの需要が減ったんでしょうね」という、業界のボヤキを総合すると、「16mmフィルムを体験できる場所がない」という結論になる。
幸い筆者には暇と人脈がある。
2004年当時、富士フイルム、コダック、イマジカ、東京現像所、東映ラボ・テックに出向き、「16mmフィルムの需要を喚起するために微力ながら体験できる施設を作りたい。プロでもなく、学生でもないが、16mmフィルムを体験したい層が存在するので、筆者が通訳になって、未経験者との橋渡しをしようと思う。ついては、100フィート生フィルム、現像、ラッシュまで1万円+消費税で何とかならないか」と相談したところ、富士フイルムと現像所から快諾をいただいた。
コダックは、「学生料金を設定してあるので、定価とルーム料金と学生料金の3本立てになるのは公式には困るのだが、近づけるように努力する」と回答。
■アリフレックス(ARRIFLEX)16ST
アリフレックス16ST
このカメラでフィルム装填を覚えれば、他のカメラで装填することは易しい、という筆者の体験と、レンタル会社では既にレンタルの対象機種ではなくなっていて、商売と競合することがない、という理由で選んだ。
体験に掛かる費用は、「実費を除いて一切無料」にした。体験を有料にすると、「体験者の我儘と不満が出る」のは、ネットの書き込みで判っていた。
フィルムの購入や現像の依頼には、筆者が付き添って行き、顔つなぎと通訳を兼ねて、担当者に紹介した。実費の支払いについては、ルームの口座を使うことで保証とした。
トライアルを経て、継続して16mmを続ける場合には、各社に体験者本人の口座を作ってもらうのは、現在も変わらない。
そんな段取りをして、2005年(平成17年)、自宅にルームを開設した。
■ルームの告知
ルームを開設したが告知をどうするか。
2005年当時、2ちゃんねるに、フィルムの関係スレッドが沢山あったので「16mmフィルム相談室」を立ち上げた。
2ちゃんねる16mm相談室、確かパート6まであるので、暇つぶしに
その結果、ボチボチ体験者がやって来るようになった。
「2ちゃんねるを見て訪ねてきたが、最初は無料なのが信じられなくて緊張した」と、体験した参加メンバー全員が思ったらしい。
「そうかもしれないな」と思って、息子にネット上に公式ページを作ってくれ、と頼んだ。
そんなことをしているうちに、「2ちゃんねるで告知をするのは違反だ」など、アンチの意見が多くなり、炎上状態になった。
「利益を上げるためにやっているのではないが、非難されてまで続けることもない」ので、閉鎖。現在はFacebookで告知している。
ルームへの参加規程は緩やかなもの。
- 筆者のパソコンへ連絡先などデータを自分で打ち込んでもらうことでメンバー登録
- カメラなど、機材の使用は無料。取り扱い方も無料で教える。但し、壊したら修理代は実費を払うこと
- トライアル(試し)なので、16mmフィルム100フィート10本程度まで
- フィルム代、現像代、ラッシュ代など実費はルームの口座を使って払うこと
- 公開を目的にした自主作品を撮影する場合は、カメラの整備料をはらうこと
15年間で様々な体験者が来たが、「カメラを止めるな」の撮影曽根剛君。16mmフィルム撮影ができ、英語の堪能なスノーボーダー渡邉徳彦君。デンマーク人のスチルカメラマンのヤンブース君、酒井洋一君など、映像業界で存在感のある人材も育ってきた。
そんな背景があって、今回の企画である。
■体験初日
体験初日。2月13日(火曜日)、午後1時。
体験希望者が二人、拙宅にやってきた。石原麻里衣(いしはら・まりえ)さんと荒木亮(あらき・りょう)君。
石原麻里衣さん
荒木亮君
石原さんは、ブライダルカメラマンのアシスタントや七五三など記念撮影のカメラパーソンとして仕事をしている社会人。キヤノンEOS-1Vを所有して、スチルのフィルム撮影は経験があるが、16mmムービー撮影は全くの未経験。
「アメリカでは、スーパー8で撮影するブライダル映像がブームになっている。16mmフィルムで撮影することを覚えれば、将来、ブライダルをフィルムで撮影する時に役に立つだろう」
荒木君は、映像制作会社のディレクター。
「留学中に16mmフィルム制作の授業があり、一通りは体験しているが、改めてフィルムをやってみたい。現在、日常的に映像制作に携わっているが、将来はフィルムで映画を作りたい」 が、二人の体験の動機。
午後2時に始めて、午後5時まで3時間。
■フィルムの装填
(01)生フィルムの状態を確認する
カメラの蓋を開ける
蓋のロックとシャッターレバー
蓋のロック、閉の状態
開の状態
シャッターを押した状態。このままでは蓋は閉まらない。ロックを解除する動作と同時に押してしまうことがある
シャッターを押すとこのピンが突き出て、マイクロスイッチを押す
シャッターのロックを解除してピンを戻す。この状態で蓋が閉まる
(02)フィルムの走行する経路を確認する
蓋を開け、必ず空リールが入っているか確認する。ダメな助手は入れ忘れることがある
(03)フィルムの先端を引き出す
ケチらずに多目に引き出しておく
(04)フィルム走行経路開放ボタンを押す
このボタンを押すと
経路が開く
上のローラーの間にフィルムを通す
(05)プレッシャープレートを開ける
プレッシャープレートを開けるには、このレバーを押し下げる
プレッシャープレートを開き、上の経路を閉じる
(06)レジピンと掻き落としピンを確認する
プレッシャープレートの内側には、上に露光中のフィルムを固定するレジストレーションピン(以下:レジピン)、下にフィルムを走行させる掻き落としピンがある
(07)カメラのメカニズムを回す
モーターとカメラのメカニズムを連動して回すノブ。時計回りに回す
(08)レジピンを開ける
ノブを回すとレジピンが開放される。この状態では白い紙が自由に動く
(09)レジピンを閉める
レジピンが閉まると薄い紙も絶対に通らない
(10)レジピンの向こうにフィルムを滑り込ます
レジピンを開き、フィルムを斜めに滑り込ますようにレジピンの向こうに入れる。ここがARRIのフィルム装填で一番難しい
上にフィルムのタルミを作る。筆者は安全をみて、リールの鍔(つば)と当たるくらいにたるませる
ノブを時計回りに回して、レジピンをフィルムの穴、パーフォレーションに入れる。この状態になると、フィルムは動かない
下のタルミを作る。底部の部品に触れるか触れないかの程度。底部には溝があるので、撮影画面が傷つくことはない
(11)フィルム走行経路をロックする
この部分を押し上げると、フィルム経路がロックされる
(12)フィルム装填完了
装填が完了し、経路がロックされると、フィルムが外れることはない。絶対確実で、ここがARRIの凄さ
上のタルミ。リールの鍔に当たる程度
下のタルミ
(13)プリズムに注意
プレッシャープレートの横には、ファインダーに像を送るプリズムがある。下手な助手はここに触れて指紋を付けてしまう
■明るい状態で装填の練習
手順通り、習熟するまで練習する。
■目を閉じて装填
習熟したら目を閉じて装填する。
■ダークバッグで装填
最後はダークバッグの中で装填。
全暗黒でフィルムを取り扱えば、リールの隙間からフィルムの両側が赤く光線を引く、カブリが避けられ、最初のカットの頭が使えない事故を防ぐことができる。
荒木君は経験を思い出すと、短時間で装填できるようになった。石原さんは、手順に従って、チェックポイントでのコツを覚えながら、一つずつクリアして行った。二人とも、午後5時には安定して装填できるようになった。
これは、初日にしては上々の出来。ただし、「三日寝ると忘れる」ので、第2回目がどうなるか楽しみ。
アリフレックス16STフィルム装填方法
txt:荒木泰晴 構成:編集部