txt:石川幸宏(X-CINEMAプロデューサー/モデレーター)

Inter BEE 2020新企画「X-CINEMA」とは?

11月18~20日に、今年はオンライン開催となったInter BEE 2020が開催された。その中の特別企画として、「INTER BEE X-CINEMA」をプロデュース、モデレーター役としても各回に出演させて頂いた。

残念ながら記念すべき第1回となる今回は、新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインのみの開催となってしまったが、日本映画撮影監督協会(以下:JSC)浜田毅 理事長と、日本映画テレビ照明協会(以下:JSL)望月英樹 会長の全面的なご協力も得ることができ、映画、ドラマ、CMなど国内外の映像制作の最前線で活躍する方々が登場するセッションを開催することができた。

今回は、以下の3つのプログラムセッションをそれぞれパート1/パート2と2つに分けて、毎日2番組ずつ、計6番組を配信した。

■セッション1 11月18日(水)
「緊急企画:コロナ禍における撮影現場、制作現場のセキュリティ現状 パネルディスカッション」

■セッション2 11月19日(木)
「日本映画キャメラマン スペシャルトークセッション2020 木村大作/浜田毅」

■セッション3 11月20日(金)
「映画撮影機材2020 トーク&レビュー」

ここではそれぞれの企画内容を振り返るとともに、そのビハインド・ザ・シーンとして、各セッションの制作の舞台裏を少しご紹介したいと思う。

セッション1 「緊急企画:コロナ禍における撮影現場、制作現場のセキュリティ現状 パネルディスカッション」

この日のセッションのみ、グリーンバック合成によるバーチャルセットでライブ配信された

タイトル通り、コロナ禍における映像制作現場の最新状況や最新の感染防止対策を、専門家をお招きしてパネルディスカッションする企画で、このイベントのみ唯一、Inter BEE開催初日の11月18日当日、新型コロナウイルス感染予防対策を万全にした上で、ライブ配信した。

周知の通り、今年春からの新型コロナウイルス感染拡大と、緊急事態宣言の発動により、今年の4月~6月まで多くの撮影現場が中断、延期を余儀なくされた。そして、6月の現場再開以降、様々な感染防止対策が行われているが、各々の現場ごとに対策は違う部分もあり、果たして何が正解なのか?いまだにわからない部分も多い。

そこで、コロナ禍以降の撮影現場の現状、具体的な感染防止対策の様子、実際の現場での対策状況や問題などを、医療専門家から見たアドバイスなどを含めてパネルディスカッション形式で討論する場を設けたのがこの企画だった。

当日参加のパネリストには、株式会社 医療コーディネータージャパン代表で、NHKの朝の連ドラ「エール」など、今年数多くのドラマや映画、CMの現場に医療監修として参加。自らも看護師・医療コーディネーターとして活動し、日本感染症学会にも所属、救急救命士などの肩書きも持つ堀エリカ氏と、いち早くコロナ禍における現場のガイドラインを作成した、JSL副会長で、 株式会社爽風企画新社 代表取締役社長の西野哲雄氏の2人にご参加頂き、司会進行にはlimの山下ミカさんにご協力頂いた。

さらに、本来であれば会場に多くの現場経験者などのパネラーを迎えたいところだったが、時節柄、大人数の参加者を増やすことは難しく、またすでに現場も再開している時期で、実際のオンライン参加もむずかしい時間帯だった。また本企画のテーマ的にも相応しくないため、同じ現場を経験した撮影/照明技師/映画監督にも事前収録という形で映像でご参加頂いた。

今回参加頂いたのは、au「三太郎シリーズ」、サントリー「伊右衛門」などの有名CMでご活躍の、撮影の重森豊太郎氏と 照明技師の中須岳士氏。

照明技師でJSL 副会長の中須岳士氏(右上)と、撮影監督 重森豊太郎氏(右下)

映画「シン・ゴジラ」の撮影でも有名な撮影監督の山田康介氏×映画の現場を数多く経験されている照明技師の宗 賢次郎氏。

撮影監督 山田康介氏(右上)と、照明技師でJSL理事の宗賢次郎氏(右下)

今年コロナ禍の最中に撮影された、井上真央主演の映画「閉ざされた吐息」の杉田真一氏×鈴木周一郎氏。

撮影の鈴木周一郎氏(右上)と、「閉ざされた吐息」監督の杉田真一氏(右下)

の、3組、計6名の方々。彼らには事前にオンラインでの映像収録という形でご参加頂き、各々の現場での映像制作におけるコロナ対策の現状についてヒアリングさせて頂いた。

■リアルな説得力を持つ実際の現場のエピソード

パネルディスカッションを進めるにあたって、今回はまず医療関係者もしくは感染予防の専門家に入っていただくことが重要だった。しかし医療関係の世界は縁遠いものだったが、この新型コロナウイルス感染拡大によって、現場でも急速に医療関係者ともつながりを深める状況になった。

今回はJSLの西野さんのご紹介により、医療コーディネーターの堀エリカさんの出演を快諾頂いた。堀さんは以前から医療コーディネーターとして、医療関係のドラマのロケ地アレンジや、医療用事の監修などで撮影現場に携わってきた方だが、この春から急速に拡大した新型コロナウイルスの影響で、ご自身も感染症学会に所属されていることから、撮影現場での感染予防対策の責任者としても各現場から引っ張りだこの存在である。今年3月以降はお休みも取られていないとお聞きした。その忙しい中で今回の企画に賛同し、ご参加頂けたのには訳がある。

それはやはり、新型コロナウイルス感染症がいかに危険で、完全な防止対策が難しいウイルスであるかを、再度知らしめたいという思いもあったようだ。、また、現場でいかにその防護対策が守られていない現場が、そして守らない人も多いかという事実と、さらにはコロナハラスメント的な事実も存在している現実がある。そこに対して再度、警鐘を鳴らしたいというのが、今回のイベント出演への目的でもあったと聞く。

面白かったのは、事前に収録した3組6名の現場の方々のコメントは当日まで、堀さん、西野さんには見せず、当日録画したコメントを初めて聞いていただき、その内容に対してリアルにコメントを頂いたり、議論を交わしたり、というスタイルを取ったことで、仮ながらもパネルディスカッションという形が成立したと思われた。

当然現場の意見はリアルで、さらにどの組もコロナ禍中の現場を経験していながら、撮影規模やスタイル、サイズも様々で、各々その現場ならではのエピソードが聞けたのは有意義だった。と同時に、同じ問題だったり、不明な点も多く、それに会場の堀さんが答えて頂くというスタイルで、この時期のパネルディスカッションという形もなんとか構成できたのではないだろうか?

ライブ配信中に事前録画の映像をインサート上映し、パネラーにリアルな反応を求めた

例えば、杉田真一監督から出た、現場では誰が感染予防対策の注意喚起を率先して促したらいいのか?その責任者は?と言った意見や、撮影の鈴木周一郎さんからは、うがいの必然性についての質問。また撮影の山田康介さんからはこれまでの車中飯などの禁止によって改善された、撮影現場での本来のあり方の指摘など、また中須岳士さんからは、コロナ以降、契約書などをちゃんと結ぶようになったなど、働き方改革の遵守問題まで内容も発展し、全体的にとても濃い内容になった。

また堀さんに実際に持ってきて頂いた、感染予防対策の専門グッズなどの披露解説もとても参考になる。こちらはパート2の最初で紹介して頂いているので、アーカイブ見てをぜひ参照して頂きたい。

セッション2 日本映画界の至宝・木村大作氏と、JSC 理事長でアカデミー会員に選出された浜田毅氏が対談

収録当日は、木村大作氏の文化功労者、狛江市名誉市民のダブル選出をお祝いする場にもなった

11月19日に配信した「日本映画キャメラマン スペシャルトークセッション2020 木村大作/浜田毅」では、日本の映画撮影キャメラマンとして数々の名作を撮影され、自らも監督として名作を残されてきた、日本映画界の至宝・木村大作氏と、映画「おくりびと」などで数々の賞に輝く浜田毅氏という、日本を代表する映画キャメラマンのお二人による、これまで関わった映画作品や撮影現場のエピソード、また黒澤明監督、深作欣二監督との撮影現場秘話などを語って頂いた、まさにスペシャルな対談が実現した。

撮影技師で映画監督でもあり、日本映画撮影監督協会(JSC)の名誉会員である木村大作さんは、東宝に入社後、黒澤明監督の名作「隠し砦の三悪人」「悪い奴ほどよく眠る」「用心棒」「椿三十郎」「どですかでん」という、黒澤監督の代表作5作品全てに撮影助手として参加した後、1973年の「野獣狩り」で撮影技師としてデビュー。その後「八甲田山」「復活の日」「日本沈没」「駅 STATION」「小説 吉田学校」「居酒屋兆治」「鉄道員(ぽっぽや)」など、数々の近代日本映画の名作を撮影され、毎回のように日本アカデミー撮影賞を受賞されている。また2010年からは自ら映画監督としても活躍し、初監督作の「劒岳 – 点の記」では、第33回 日本アカデミー賞 最優秀監督賞、最優秀撮影賞を受賞。その後も「春を背負って」「散り椿」と作品を作った。

平成15年 紫綬褒章、平成22年 旭日小綬章を受勲、そして本年は文化庁より、令和2年度の文化功労者にも選出されている日本の映画撮影の頂点にいる存在であり、日本映画界の至宝と言える存在だ。

撮影技師、映画監督、そして令和2年度 文化功労者の木村大作氏(81)

浜田毅さんは撮影監督であり、現在の日本映画撮影監督協会(JSC)の理事長を務められている。大蔵(おおくら)映画に撮影助手として入社後、数多くの現場に撮影助手として参加した後、三船プロダクションに移籍後フリーとなり、「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」(1983/森崎東監督)で映画カメラマンとしてデビュー。その後、「マークスの山」「血と骨」(雀洋一監督)、「岸和田少年愚連隊」(井筒和幸監督)などの作品を担当。そして2008年、映画「おくりびと」(滝田洋二郎監督)で、第81回米アカデミー賞 外国語映画賞を受賞した。平成26年に紫綬褒章。今年、米国 映画芸術科学アカデミーからアカデミー会員にも選出されている。

撮影監督で、現JSC理事長の浜田毅氏(68)

■近代日本映画史の秘話が満載の2時間

収録ロケは、お二人の昔からの馴染みの店「やきとり たかはし」を貸し切って収録が行われた

今回の目玉ともいうべき、このトークセッションが成立したことで、このX-CINEMAの開催自体のモチベーションが一気に上がり、個人的にもこの対談をとても楽しみにしていた。

事の始まりは、最初にJSCの浜田理事長に、JSCとしてのX-CINEMAへの協力を申し入れたとき、どんな内容をやるかの話し合いで、やはりアーカイブとして後世まで残るようなコンテンツで、しかも今まで見たことがないようなもの、という話が出た。その際にやはり最初は「大作さんしかいない」と、木村大作さん出演の推薦をしてくださったのは、浜田理事長だった。その際にご自分が聞き手として出演も申し出て頂き、さらに、お二人が長年通う祖師ケ谷大蔵駅前の行きつけの飲み屋「やりとり たかはし」もロケ地としての会場提供をご快諾頂き、今回の開催に至った。

収録当日、木村さんは狛江市の名誉市民の表彰式も重なり、当然盛り上がりを予測したが、さらに撮影数日前に、令和2年度の文化功労者選出も決まり、木村さんのテンションも上がっていた。お話しは次から次へと話題には事欠かない。脱線もかなりあり、後で編集はかなり苦労したが、その辺はご愛嬌だ。

各所で浜田さんが話を締めてくれるポイントがあり、無事アーカイブとしてもとても貴重な対談になった。その重要な記録を4K画質でちゃんと収録したいというJSCの意向もあったため、機材やスタッフも各方面から熱心な協力を得ることができた。

収録カメラはソニーからFX9を、シグマからはシネマレンズセットとSIGMA fpをそれぞれお借りして計5台体制で収録。また照明機材もJSLの全面協力を得て、本格的なライティングが施されている。

木村大作さんと言えば、何かと黒澤明監督とのエピソードが語られがちだが、今回はその黒澤作品「どですかでん」のエピソードが語られたり、お2人とも現場を経験された深作欣二監督の話題がたくさん語られるなど、これまであまり聞いたことのないエピソードも多く語って頂いた。特に今年8月にお亡くなりになった渡哲也さん主演の「誘拐」(1997)が、初めて2人が同じ現場になった作品であったこともあり、今では考えられない、CGを使わない銀座・新宿でのゲリラ撮影の顛末なども大いに語って頂いている。

X-CINEAMAでは、今後このような対談はこれからも増やしていきたいし、日本の映画・映像界にとって貴重なアーカイブになるような企画をしたいと考えている。

セッション3 近年発表された最新のカメラが集結!撮影現場のプロが評価

5名の撮影監督、カメラマン、専門家が集結して2020年のシネマカメラ新製品を品定め

最終日の「映画撮影機材2020 トーク&レビュー」では、2019年~2020年に発売された最新の映画撮影機材をピックアップして、それぞれのカメラ撮影経験者、使用事例の関係者をゲストに迎え、カメラ特性や新機能、技術トレンドなどについて意見交換するトークショーを開催。

この1年間に発表された、主要なシネマカメラの最新機種を目の前にして、JSC技術委員会の磯貝均氏、撮影監督の石坂拓郎氏、最新ワークフローにも詳しいMotiの北山壮平氏、フリーカメラマンの田村雄介氏、松崎ヒロ氏、5名のゲストスピーカーを迎えて、各機材紹介と共に、機材への感想や意見、現場の最新事情や実情、傾向も含めて紹介した。

■2020年に発表された12台の最新シネマカメラが勢揃い

今回集められた機材は下記の通り。

話題のRED KOMODOやSony FX6などを実際に操作しながら、感触を各スピーカーがリアルに発言する場になった

この12台を一堂に収録会場に揃え、実際にカメラを起動させ、印象や感想、解説をゲストにして頂いたのがこのセッションだ。

元々このセッションは、X-CINEMAがリアル開催の際には最も実現させたかったコーナー展示を配信番組化したもので、同じセット、同じ照明条件やセッティングで、複数のメーカーのカメラを並べて比較検証するというものだ。

現在のシネマカメラは機材によってそれほど差異はなく、使用者側の好みや撮影条件、さらには予算などによって決まる場合が多い。また元々JSCとしても映画撮影機材を選ぶ指針として、こういう機会を作りたいという希望もあり、JSC技術委員会会長の磯貝さんと構想した共同企画として、今回のコラボレーションとしての本企画に結びついた。

また一堂にカメラを横並びにする事で、年々進化する映画機材のテクノロジーの中、現場では何がいまトレンドで、何がいま注目されているのか?が分かるのも面白い結果となった。

今年の傾向としてやはりコロナの影響もあり、小型化、ワンマンオペレート化への進展、親和性といった部分が注目された年だったと言えるだろう。このセッションを見て頂くだけでも、今のシネマカメラトレンドの一端が窺える。番組の収録時期と発売時期とも重なって、今回注目を集めていたのは、キヤノンEOS C70と、RED KOMODO、そしてSony FX6だ。どれも小さくコンパクトな筐体に、優れた機能を装備し、取り回ししやすいところが共通点だろう。これらが、先駆のBlackmagic Pocket Cinema 4K/6Kの市場をどう凌駕するのか?といったあたりに注目が集まっていた。

X-CINEMAリアルタイムでのライブ配信結果

今回のX-CINEMAのリアルタイムのライブ配信中のユニーク視聴者数が、主催の日本エレクトロニクスショー協会から発表された。結果は以下の通り。

セッション1 11月18日(水)
「緊急企画:コロナ禍における撮影現場、制作現場のセキュリティ現状 パネルディスカッション」
パート1:390名、パート2:462名

セッション2 11月19日(木)
「日本映画キャメラマン スペシャルトークセッション2020 木村大作/浜田毅」
パート1:219名、パート2:207名

セッション3 11月20日(金)
「映画撮影機材2020 トーク&レビュー」
パート1:232名、パート2:227名

私自身の記憶では、初日のライブ配信の際には、両方の回とも累計では各500名は視聴者数を超えていて、そこそこの数はあったのではないか?と感じている。その後のアーカイブ視聴で今後どれだけ見られるかも注目していきたいところだ。

今回はオンライン開催と、このInter BEEというイベントには正直かなり不向きな(あくまで個人的な考えだが)開催方法だったため、企画当初から開催後のアーカイブ視聴を前提として製作進行した。これから正月休みにでもじっくり閲覧頂けるコンテンツとして作ったので、ぜひ2月26日までのアーカイブ期間中にご覧頂きたいと思う。

初回でしかもオンライン開催という割には、予想以上にうまくいったのではないかと自負するところだが、本来であればリアル開催の中でこうした仕掛けを行い、アーカイブでもまた閲覧できるというのが理想的なのではないだろうか?来年のInter BEE 2021開催概要はまだ発表されていないが、もし開催されるとすれば、リアル開催をぜひ実現してほしいと望むばかりだ。

なおInter BEEのサイトから、2021年2月26日まではアーカイブ閲覧が可能なので、まだご覧頂いていない方も、一度見た方も、ぜひ再度ご覧いただければ幸いだ。

InterBEE X-Cinema
(各セッションのメニューをクリックすると映像アーカイブのサイトへリンクする)

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