txt:西村真里子・Tom INOKAWA 構成:編集部
「現実」を見つめるチカラが試される2021年
毎年年始、新年の浮かれ気分にプラスしてラスベガスという派手な街が持つきらめきの中、その年のテクノロジートレンドを占う見本市CESは開催されていた。
空飛ぶ車、自動運転、ロボットとともに生活する未来、、そこにはハリウッド映画さながらの華やかな未来を想像する夢であふれていた。現実を見るよりも、希望的観測の未来を語っても許されたのがCESだ。年始だし・ラスベガスだし・例えば実現可能性が低くても企業が夢を語る姿をポジティブに受け止めよう、そんな機運があった。少なくとも我々がCESを定点観測するようになったこの10数年ほどは。
2020年を経て、地球に住む我々は「華やかな未来」を語るよりも「現実」を見つめるチカラが試されている。現実を直視し、感染症対策、人種差別、男女平等、地球環境を直視せざるを得ない時代になっている。
夢を語るのは、少し先においておこう。現実を見て、現実から少しでも良い未来を気づくための具体的な施作が求められる。オンライン開催になったCESにはラスベガスの華やぎがない分、現実を少しでも良くするための試みが求められる。華やかな夢はなくとも、希望の灯は絶やしたくない。さて、CES 2021にはどのような希望が見受けられるのだろうか?
オンライン開催の「CES 2021」はいかに
CES 2021は2021年1月11日~14日に開催される。表向きは4日間開催だが、実質は1月12日と13日の2日間だ。1月11日はメディアデイ、1月14日はパートナーデイとして関連団体がイベントを行う。日数的にも例年の半分になったCESだが致し方ない。オンラインで世界中から参加可能だが、当然アメリカ西海岸時間で開催されるために時差だけには留意したい。日本からだと日中夜逆転することになる(今回は日本からの登録だとちゃんと日本時間表示でアナウンスされる。明け方27時に…とか)。
開催直前(1月9日)時点では、CES 2021への来場者登録は7.3万人、展示企業は2,000社ほどだ。CES 2020は来場者数17.5万人ほど、4,500社の展示があったので来場者数、出展社数とも昨年から半減しているが、これはオンライン開催の限界かもしれない。
ちなみに出展企業2,000社のうち567社はアメリカの出展企業だ。ついで韓国が340企業出展し、中国が204社で3位についている。日本からの出展社数は77社だ(2020年1月7日現在)。オンラインになると抵抗を感じる企業も多く、昨年豊田章男社長自ら、WOVEN CITYを発表したトヨタも今年は出展企業としては名前が見当たらない。
そう、昨年華々しく基調講演を行ったデルタ航空も昨今の航空業界のダメージから今年の出展はなく、注目のストリーミングサービスとしてCES 2020で紹介されていたQuibiは2020年末にサービスを終了していた。CES 2020でトレンドの先端にいた企業やプロジェクトは形を潜めている。2021年初頭求められるものが変わってしまったのだ。
さて、それでは今年はどのような企業やソリューションが存在感を示しているのだろうか?まずは、CESをオンライン開催したCES主催のCTAそのもののセッションも注目に値するだろう。ラスベガスで華やかに開催していたCESはオンライン中心のイベントをどのように切り盛りし、来年以降につなげていくのか?主催者の態度そのものが注目されると言っても過言ではないだろう。
昨年夏に完全オンライン開催へと舵を切ったCES/CTAと並走するのはマイクロソフト、だ。マイクロソフトのAzure、Teamsなどが駆使されたイベントとなるだろう(この原稿を書いている時点だとセッション切になるシーンも多く不安を感じているが)。
時代が変化する中で求められるものが今カンファレンスや出展企業から見ることができる。例えばいままでなかったプロダクトカテゴリーとして「Home Office Hardware」ができ、187社が関連プロダクトを展示しそうだ。また、200弱のカンファレンスのなかでも「遠隔医療」「WORK FROM HOME」に関して語られるのが多く見受けられる。
- 家がヘッドクオーター
The Next Big Thing: Home as the New Headquarters - デジタル医療
Prescribing Digital Therapeutics as the Medicine of Today - STAYHOME期間に進化したスマートホーム
Trends and Innovation in the Smart Home
また、アメリカの大手小売チェーン「Walmart」や、日本でいう家庭量販店「BestBuy」CEOが基調講演に登壇し、コロナ以降の小売業のあり方について語るそうだ。いままでハードウェアメーカー側の基調講演が多かったCESとしては珍しい基調講演ラインナップだ。
そして、特に米国ではBlack Lives Matterなどの人種問題に心を痛めた2020年を経験し、ダイバーシティ、インクルージョンについてのセッションも見受けられる。また政権移行後のバイデン政権ではどのようなテクノロジー&イノベーション政策が実施されるのか?CTA代表のゲイリー・シャピロとアメリカ合衆国国家経済会議のメンバーが語り合うセッションもある。昨年のCES 2020ではトランプの娘であるイヴァンカ・トランプが基調講演登壇していたことも記憶に新しいのだが、時代も政権も変わるアメリカはまさに激動であることを感じる。
- バイデン政権のテクノロジー&イノベーション
A Biden Administrations Approach to Technology & Innovation - ダイバーシティー&インクルージョン
Key to success: how D&I helped us survive 2020 - 人工知能のバイアスをなくす
Gender and Racial Bias in AI
今回は、どう開催される?
さて、日本の出展社数は世界第7位と存在感が少ないが、来場者として貪欲に商談を起こすことができる。チャットでコミュニケーション取れるので、翻訳ツールを使いながらコミュニケーション取れるのは英語が苦手な方にも良いチャンスではないだろうか?また、マイクロソフトのプラットフォームを利用することにより、カンファレンスが16か国後に同時翻訳される。もちろん日本語も含まれる。AI翻訳なのでどこまで精度が出るのか気になるところではあるが、いままでの英語カンファレンスを聞くよりは十分助けになるであろう。そして、オンラインセッションを飽きずに聞いてもらうために著名ユーチューバーやアナウンサーもアンカーとしてCES LIVEを盛り上げる。
ありがたいことにいま大注目のアーティスト、ビリー・アイリッシュも今回のCES 2021に華を添えてくれるようだ。
- ビリー・アイリッシュ登場
iHeartMedia: Reimagining Entertainment
CES本体はオールデジタルのオンライン開催だが、リアルにCES展示品を体験できる「b8ta Tokyo – Yurakucho」で1月9日(土)~1月17日(日)までJ-Startup、JapanTech特設エリアにも展示される。
今回も編集部と経験豊富な解説員とともにCESについて取りまとめ、2021そして未来の動向を解説していこうと思う。今年のCESは夢を語るCESではない。ただ、現状を少しでもよくする希望の灯火を探す場所としては役立ちそうである。ぜひ一緒に灯火を探しにいこうではないか。
txt:西村真里子・猪蔵 構成:編集部