txt:平野陽子(大広) 構成:編集部

CES2021は全てオンラインで開催したことは周知の通りだ。そのテクノロジーパートナーとしてて支えたのがMicrosoftだ。そう今回のCES2021ログインには見覚えのあるMicrosoftログイン画面が登場する。Keynoteにはブラッド・スミス社長が登壇した。

CESと米国におけるコンピューターセキュリティの歩みを振り返り、現在「社会インフラ」となったテクノロジーが果たすべき責任や使命について語った。直前に起きたトランプ大統領のアカウント凍結問題でも浮き彫りになった、昨今のTech Giantsへのバックラッシュや懸念に対し、テクノロジーを活かす側の指針が明確になった内容だ。

テクノロジーは高度なセキュリティを要する「社会インフラ」に

スミス氏は、ビル・ゲイツ氏がKeynoteに登壇しクラウドに言及した2008年以降、スマートフォンから壁掛けの大型テレビまで、テクノロジーはよりパワフルかつ多様になり、「社会インフラ」としてのクラウドが支えている現状を語った。自ら案内したのは、その一部を担う、米国ワシントン州クインシーにあるデータセンターだ。

このデータセンターには、50万台ものサーバーが設置され、データ量は議会図書館の約5万倍にものぼる。電力喪失の際にも、19,000以上の電池セルや140台以上の発電機で対応する。

このようなデータセンターは世界各地にあり、Microsoft Azureを支えている

Microsoftがデータセンターの強固な体制をコンシューマー向けテクノロジーの文脈で具体的に見せるのには深い理由がある。

2020年、米政府機関を狙ってSolarWinds社へのハッキングが起き、世界中の企業や政府への深刻な影響が露呈。改めて、一民間企業であっても、プライバシー保護、デジタル上の安全性、サイバーセキュリティ担保や、データおよび国の機能のコントロール喪失回避などにおよぶ重要な問題への取り組みが社会からも政府からも求められるようになったからだ。

アメリカにおけるサイバーセキュリティは1980年代から続く重要な課題だ。レーガン大統領がSF映画「ウォー・ゲーム」からサイバーセキュリティへの危機意識を強く持った話を紹介したが、2021年の今、私たちの生活は当時のSF映画同様、テクノロジーに依拠している。

スミス氏は、

  1. 人類全体として導くべき道やルールを探ること
  2. テクノロジー産業として団結し取り組むこと

以上2つがサイバーセキュリティの脅威に対処するために重要であり、世界中のどの政府やどの企業もサプライチェーン混乱の追求を許すべきではないと業界全体で声を上げ、新たな方法を模索していく必要があると語った。

特に9.11で問題となった、人々がデータを共有しておらず政府内で脅威情報の共有がなされていなかった「データの細かなサイロ化」に関しては、政府やその他団体と協力し「地球全体かつ集団的なメリットを目的としてどうデータを共有していくか」を作る重要性に触れた。

プライバシー保護と人工知能の将来像

スミス氏は同時に「個人のプライバシーの保護」の重要性と、Tech Giantsが牽引している人工知能や機械学習の領域で向き合うべき「科学の危険性」についても言及している。

このトピックは、MicrosoftのKeynoteの他にも、テクノロジー企業が参加したパネルディスカッションでも様々な角度から語られたテーマだ。そのいくつかを紹介したい。

「Privacy and Trust with Amazon、Google and Twitter(Amazon、Google、Twitterとのプライバシーや信頼関係について)」

Tech Giantsの中でも、Amazon、Google、Twitterのプライバシー責任者が登壇。それぞれ、2020年に自社サービスへのユーザー依存度が上がったことや、GDPR制定含めヨーロッパを中心に広がったプライバシー保護へのニーズの高まりを受け、自社が考えるユーザーとのプライバシーや信頼構築について語った。

3社とも、2021年はテクノロジーを使ったサービスやメディアにとって、「どのようにユーザーのデータを収集し、どう使用しどのように共有していて、どのような恩恵があるか」を人工知能や機械学習の領域ではよりいっそう丁寧な説明が必要になると考えていた。

また、自分たちが責任と義務を果たすためにも、業界を超えて規制当局やその他の人々と協力することも、プライバシー保護やセキュリティのルール作りに必要だと述べている。バイデン政権とは、個人の権利を保護するガイダンスや統一された法的ルール、データポータビリティなど「プライバシー保護と競争性の両立」を共に構築できることを期待していた。

コンテンツの制作段階でも到達までのルートでも、人工知能や機械学習に基づいたアルゴリズムは便利な存在として溶け込んでいる。「私たちの生活がどうアルゴリズムと関わっていて、どんな影響があるのか?」という説明ニーズに対し、「インフラ」としての責任を認識し、透明性とプライバシー、可用性に注力する姿勢を3社が語る結果となった。

その人工知能や機械学習の中にも、ジェンダーや人種のバイアスが知らず知らずのうちに入っているのではないか?という声も2020年以降徐々に広がりつつある。Digital Healthなどヘルスケア領域ではかなり顕著で、治験データの「有色人種」や「女性」の少なさへの指摘、提供データの活用透明性とオプトアウトニーズも高まっている。

「Gender and Racial Bias in AI(AIにおけるジェンダーと人種的バイアス)」

同様のことが、Googleとヘルスケア企業、AIによる感情分析サービス企業などのスピーカーにより語られていた。

MicrosoftのスミスCEOが人工知能や機械学習の領域で向き合うべき「科学の危険性」があると語ったのは、このような観点での懸念や反発がTech Giantsにも向けられる中、「社会インフラ」となったテクノロジーがどう責任を果たすか、意志表示をする必要があったといえる。

技術に良心はないが人には良心がある

CES2021では、魅力的なコンテンツ制作のソリューション含め、人工知能が5Gと組み合わさることで多くの将来性を感じることができたといえる。けれども、そのポテンシャルを活用するには、人類が技術をコントロールし続けるためのガードレールのようなものが必要とスミス氏は語る。

多くのテクノロジーのシナリオには、商業的な設定による偏見や差別を生み出す可能性や、制御できなくなる危険性があることを考え、地球上の全ての人達に奉仕する技術を創造していく必要があると述べた。

その上で、J.F.ケネディ大統領の1962年の演説を引用した。

「我々は月に行くことを選ぶ」で有名なシーンだ

演説では、宇宙計画で人類全体に貢献する新たな知識や進歩を得られる重要性だけではなく、”"宇宙科学は、核科学や全ての技術と同じように、それ自体だけでは、何の良心も持ち合わせていない。それが、善良な目的のための力となり得るか、または不健全な目的のための力となってしまうかは人類の良心に懸かっている。”"と技術のコントロールの重要性を述べた演説だ。

スミス氏は、これをテクノロジーのあらゆる時代における真実であり続けると述べた。

「技術に良心はないが人には良心がある」ことを信じ、「個人としても産業としても良心を行使し続け、創造した技術が世界に役立つようにする責任を果たす」と宣言して締めくくった。

CESでは、毎年ワクワクする未来への技術革新が発表される。その実用化の恩恵を享受することで、私たちはまた新たなコンテンツやサービスの作り手になるが、テクノロジーを活用し価値を生み出していく側の責任と良心がより良い未来につながる、重要なターニングポイントに私たちはいると改めて思い出す、とても熱量のあるKeynoteだった。

txt:平野陽子(大広) 構成:編集部


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