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国内から世界にサービスを提供するための新拠点「竹芝メディアスタジオ」

本特集のトップで紹介するのは、IMAGICAエンタテインメントメディアサービスの新拠点「竹芝メディアスタジオ」だ。IMAGICAといえば、フィルムの現像やラボの作業、ポストプロダクションなどの事業があまりにも有名だ。2021年4月、グループ事業再編により現在の社名であるIMAGICAエンタテインメントメディアサービスとして、主に映画、ドラマ、アニメーションなどのエンタテインメント事業とフィルムアーカイブ事業を継承した。

そんなIMAGICAエンタテインメントメディアサービスの本社並びに映像技術サービス事業拠点が、約70年間にわたりサービスを提供してきた五反田の地から東京都港区の竹芝に移転した。報道関係者向けに施設が公開されたので、その様子を紹介しよう。

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竹芝メディアスタジオの外観。竹芝駅徒歩1分、浜松町駅北口徒歩7分の場所にある
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荻窪にアニメーションスタジオ、汐留に吹き替えの制作スタジオ、フィルム関連作業は引き続き大阪で対応する

IMAGICAエンタテインメントメディアサービスは、世界基準のサービスレベルを意識した事業を行っているのが特徴。昨今のコンテンツは、配信や劇場公開などのメディアが世界各地の現地言語に対応し、世界的規模に展開されているケースが増えている。そんな世界中で生み出される映画・ドラマ・アニメーション等の映像コンテンツ制作を対象としたポストプロダクション、劇場、テレビ、インターネットを介した動画配信などあらゆるメディアで流通させるために必要なローカライズ(吹替、字幕制作)、ディストリビューション(流通)のメディアサービスをワンストップで提供するグローバルE2E(End to End)と呼ばれるメディアサービスを意識して提供中だ。

ロンドンには映画業界で予告編制作、宣伝・広告、ローカライズサービスを提供する「Picture Production Company」、ハリウッドのバーバンクには、ローカライズとディストリビューションの映像関連のサービスを提供する「Pixelogic」などの海外グループ会社と共に、世界的規模で事業を推進している。

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竹芝メディアスタジオの設備詳細

ここからは竹芝メディアスタジオ社内の詳細を紹介しよう。

■竹芝メディアスタジオのポストProduction施設の概要

  • 編集&カラーグレーディング:11室
  • スクリーンカラーグレーディング:2室
  • オフライン編集:4室
  • MA・ダビング:6室
  • 試写室:3室
  • パッケージプレビュー:2室
  • 字幕プレビュー:2室
  • QCルーム:5室

4K DCP、35mm、7.1ch対応の第1試写室

試写室は3室体制で、国内唯一のDolby Cinema、DTS:Xの試写環境を構築し、世界基準の上映体制を整備。各スタジオで作業した状態をそのまま試写室で再現可能。また、映像の文化を未来につなぐため、35mm、16mmフィルムの上映も継続している。

その中でも第1試写室は、座席数は100席。4KのRGBプロジェクターと35mmのフィルムプロジェクターを設置。音声に関しては、7.1chまでの再生に対応。

スクリーンは、SnoMatte 100。RGBレーザーに対応したスクリーンを導入。スピーカーのシステムは、第1試写室、第2試写室とも基本的に同じJBLのシステムを導入。フィルムのプロジェクターは、35mmに対応する。

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■第1試写室

  • デジタルプロジェクター:Barco SP4K-25C w/s HC Lens
  • 35mm フィルムプロジェクター:KINOTON FP30 ECⅡ
  • スクリーン:Stewart Filmscreen SnoMatte 100(MP)
  • スクリーンサイズ:8.4m✕3.5m(SCOPE)、6.5m✕3.5m(FLAT)
  • 上映フォーマット:2K/4K DCP、2K QT(ProRes HQ)、35mm
  • 音声フォーマット(デジタル):5.1ch/7.1ch 24bit/48kHz
  • 音声フォーマット(35mm):Dolby A/Dolby SR、Dolby Digital EX(6.1ch)、DTS-ES(6.1ch)

Dolby Cinema、DTS:X対応の第2試写室

第2試写室は、第1試写室の向かいに設置。第1試写室の半分となる51席で、Dolby Cinemaのプロジェクションシステムを導入。音に関してもDolby AtmosとDTS:Xに対応。16mmフィルムプロジェクターとしては、Hokushin X-1100を設置。

Dolby Cinema Projection Systemのほかに、クリスティのキセノンランプ方式の2Kプロジェクター「CP2220」も設置しており、レール上で切り替えて上映ができるように対応している。

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■第2試写室

  • 座席:51席
  • デジタルプロジェクター:Dolby Cinema Projection System、Christie CP2220
  • 16mm フィルムプロジェクター:Hokushin X-1100
  • スクリーン:Stewart Filmscreen SnoMatte 100(MP)
  • スクリーンサイズ:6.2m×2.6m(SCOPE)、4.8m×2.6m(FLAT)
  • 上映フォーマット:2K/4K/DolbyEDR DCP、2K QT(ProRes HQ)、16mm
  • 音声フォーマット(デジタル):5.1ch/7.1ch/Dolby Atmos/DTS:X
  • 音声フォーマット(16mm):MONO

4K DLPシネマスクリーンプロジェクションでカラーグレーディングに対応する「402」

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402は、スクリーンを確認しながらグレーディングをする劇場用の映画作品を仕上げるための部屋だ。東京映像センターでもスクリーンカラーグレーディングルームは2室運用していたが、部屋のレイアウトや仕様は若干異なっていた。竹芝メディアスタジオは設計・施工時期が同時であることを機会に、部屋の基本レイアウトや設置機材を統一。402と全く同じ401があり、計2部屋で運用している。

グレーディングの機材は、DaVinci ResolveとBaselightを切り替えが可能。プロジェクターはNECのDLP「NC3240S-A」を導入しており、4Kの作業に対応している。Dolby Cinemaに関しては、第2試写室にグレーディングの機材を入れての作業になる。

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スクリーンに特化しており、主にカラーグレーディングの作業を中心とするが、編集作業も要望によって同時作業が可能。東京映像センターよりもフレキシブルに対応可能となっている。

試写室のスイートスポットとこの部屋のグレーダーが座る位置からスクリーンが同じように見えるよう設計され、スクリーン自体も第2試写室と同じ素材を使用したSnoMatte 100SLを採用。

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  • ビデオフォーマット:4K DCI&UHD
  • オーディオフォーマット:2ch
  • ワークステーション:Mac Pro/Baselight TWO
  • ソフトウェア:Blackmagic Design DaVinci Resolve/FilmLight Baselight
  • コンソールサーフェイス:Blackmagic Design Advanced Panel
  • プロジェクター:NEC NC3240S-A
  • スクリーン:Stewart Filmscreen SnoMatte 100SL
  • スクリーンサイズ:4.8m✕2.0m(SCOPE)、3.7m✕2.0m(FLAT)

カラーグレーディング&編集ルーム「409」

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モニターベースに特化した7室のスタジオは、主にグレーディングを中心の4室とオンライン編集中心の3室の計7室を運用する。グレーディングとオンライン編集の種類に分れているが、基本的には好きな部屋でどちらの作業でも続けられるのを大きな特徴としている。

4階のすべて部屋に4K HDR対応のマスターモニターを設置し、HDRの作業が可能。民生機は、ソニーのブラビアシリーズ「55X9500H」に統一されている。照明は、すべての部屋共通で5000Kの色温度で統一されている。

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竹芝メディアスタジオでは、KVMシステムを初導入。東京映像センターでは部屋とワークステーションを結びつける編集スタイルであったが、竹芝メディアスタジオでは部屋とワークステーションを自由にアサインが可能。どの部屋にいてもどのワークステーションに切り替えることが可能で効率の高いポスプロ業務を提供できるとしている。

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  • ビデオフォーマット:4K DCI、UHD
  • オーディオフォーマット:2ch
  • ワークステーション:Mac Pro
  • ソフトウェア:Blackmagic Design DaVinci Resolve、Filmlight Baselight、Autodesk Flame Assist、Adobe Premiere Pro
  • コントロールサーフェス:Tangent Element
  • ビデオモニター:ソニーBVM-HX310/ソニーKJ-55X9500H

4K DCI/HDR/Dolby Vison/Dolby Atmos環境に対応したQCルーム「604」

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604は、QC(クオリティコントロール)を作業する部屋となる。QCとは、劇場や動画配信サービスに公開される前に、作品の確認やパッケージ、DVDなど、メディアにする前のマスター素材に問題がないかの確認を行う工程で、専門の部署がある。

竹芝メディアスタジオには、QCの部屋を5部屋設置。東京映像センターでも5部屋稼働していたが、Dolby Atmos Homeの部屋を2部屋対応に増強している。

検査は、音のノイズの確認やマイクバレ、合成バレ、効果音のずれまで細かいところまでをクライアントのニーズに応じて確認し、TCの情報を書いたレポートを提出できるという。

  • ビデオフォーマット:4K DCI&UHD、HDR、HFR
  • オーディオフォーマット:Dolby Atmos 7.1.4
  • ワークステーション:Mac Pro
  • ソフトウェア:Adobe Premiere Pro CC、Blackmagic Design DaVinci Resolve Studio、Pro Tools Ultimate、Dolby Atmos Production Suite
  • ビデオI/O:Blackmagic Design UltraStudio 4K Extreme 3
  • オーディオI/O:RME DigiFace Dante
  • オーディオシステム:Dolby CP850BASE、YAMAHA MMP1、Genelec 8350A✕3、8340A✕4、736A✕1、8330A✕4
  • 自動QCシステム:Interra systems’ BATON
  • ビデオモニター:ソニーBVM-HX310、ソニーKJ-65A9G

Pro Tools HDX✕3式、Dolby Atmos 7.1.4対応のMAルーム「303」

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IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのMAルームは、映画、ドラマ、ミュージックビデオ、CM、VP、音楽のライブ、アニメなど幅広いコンテンツを手掛けることが多く、新設スタジオは幅広いコンテンツ制作への対応を求められていた。また、その6割から7割がテレビや配信ドラマで、複数人数のミックス作業でも快適に作業ができるスタジオ設計を実現しなければいけなかったという。

303は、Avid Pro Tools HDXを3式、DAWコントローラーとしてS6、コントロールサーフェスとしてArtist Mix、I/OはAvid MTRXを導入。映像に関してはMedia Composerを使用して、サテライトリンクで全てのDAWと同期している。

選曲、音響効果を加えた3人でミックスすることが多いことから、レイアウトを臨機応変に対応可能で、モニターにはどこからでもPCにアクセスできるようにKVMのシステムを導入している。

スピーカーは、素直な音が特徴のProcella AudioのP815を導入。スタジオの特性上、スピーカーのクセが強いと支障があることから選定をしたという。パワーアンプは、Lab GruppenのC68:4とC48:4で構成している。

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Procella AudioのP815を導入

MAルームには、303と基本レイアウトを統一した部屋「305」があり、Atmos Homeは導入していないが5.1chまでの対応を特徴としている。ブースの広さも特徴で、キャストが5人集まってコメンタリーする場合でも余裕を持った収録を可能としている。

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併設のナレーションブース。複数人数でも対応できる広さがある
  • パワーアンプ:Lab Gruppen C 68:4✕1、C48:4✕4、C28:4✕1
  • スピーカー:Procella Audio P815✕3、P815✕4、P8×4、P15SI✕2、P18✕2、NEUMANN KH80 DSP✕2
  • モニターコントローラー:Grace Design m908
  • コントロールサーフェス:Avid:S6 M40 5Knob 32Fader+Joystick Module
  • DAW:Avid Pro Tools HDX✕3
  • ワークビデオシステム:Avid Media Composer
  • I/O:Avid Pro Tools MTRX
  • ビデオモニター:ソニーKJ-65X9500H

映画予告編ミキシングやアフレコ収録対応のダビングルーム「302」

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302は音のダビングの部屋である。普段は映画の予告編等の制作を主に行っており、映像も前方のスクリーンで確認が可能。できるだけ第1試写室、第2試写室との音の聴こえ方が近くなるように、施工業者やスピーカーのメーカーもJBLに統一。音響調整をしている調整技師も第1試写室、第2試写室と同じスタッフが行っている。

システムとして、DAWはPro Tools HDXが1台としている。基本的にはPro Toolsから出た音がモニター、コントローラーを通って、スピーカーから直に出るシンプルな構成になっている。ドラマの部屋と違って、基本的にはミキサー1人の作業が多い部屋になるので、ミキシングコンソールなども入れずに、Avid S3のみでミックスするスタイルになっている。ナレーションブースはナレーターが座って原稿を読む収録を想定して、MAに比べるとブースは狭めになっている。

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併設のナレーションブース
  • パワーアンプ:CROWN DCi 4 1250N、CROWN DCi2 1250N、CROWN DCi 8 300N
  • スピーカー:JBL AM5212✕3、9300✕8、4645C✕2、GENELEC 8330A✕2
  • モニターコントローラー:Grace Design m908
  • コントロールサーフェス:Avid S3
  • DAW:Avid Pro Tools HDX
  • I/O:Avid Pro Tools MTRX
  • プロジェクター:NEC NP-P605ULJL
  • スクリーン:EASTON E8K-KP120HD

音の設備を集約した3階は、湿式コンクリートによる二重床構造の床耐荷重を建物の設計に織り込んでいる。

移転でグローバルにコンテンツ増加の対応を実現

今回の取材後に、IMAGICAエンタテインメントメディアサービスに「ポスプロ業界の変化」をテーマに質問をしたところ、「世界的な映像配信チャンネルの成長に伴い、グローバルにコンテンツが展開される機会がますます増加傾向にある」と回答した。

そのようなマーケットにおけるポスプロでは世界水準の品質やセキュリティに対応していくことがポスプロのベースとしてとても重要とのこと。

そこで、移転計画から数年間にわたる今回の事業所移転でそれらの課題へのキャッチアップに挑戦し、グローバル市場においても取引先にその価値を認められるハード(環境)とソフト(人材や技術力、ノウハウ等)を備えたとことだ。

国内のみならず、国外クライアントにも最上級のサービスを提供する世界市場に向けたIMAGICAエンタテインメントメディアサービスのコンテンツ制作サービスに注目していきたい。