三浦徹((株)スパイス DIT/カラリスト)
コマーシャルフィルム、CM、ミュージッククリップ、PVを対象とした映像機材と撮影技術を提供する撮影技術会社、株式会社スパイスで数多くの現場でDITとして活躍。撮影や機材に関する豊富な経験を持ち、撮影現場で監督やカメラマンから絶大な信頼を得ている。その経験を活かし、現在はカラリストとしても数々の作品を手掛けている。
ARRI Japan新オフィスでALEXA 35登場
羽田空港の近所に開設したばかりのARRI Japan新オフィスのスタジオで、ALEXA 35のデモを見る機会が得られた。その様子を紹介しよう。
ARRI JapanオフィスのALEXA 35は、OCONNORのヘッドに新型のALEXA 35が載っていて、レンズはLPLとPLマウントを組み合わせた状態で展示。ARRIの650Wのタングステンライトがレンズに向かって配置されている状態だった。
ALEXA 35のデモは衝撃の連続だった。まず驚いたのは、ダイナミックレンジの広さだ。筆者は自分の会社から普段から使っているソニーの25インチ「BVM-F250」を持ち込み、普段のグレーディング環境でテストを行った。タングステンライトがカメラに向かって照らされている様子をALEXA 35の出力からモニターに接続して、そのライトで白トビやラチチュードの広さを検証した。
最初は通常のRec.709を適用している状態で確認をして、その後広くなったダイナミックレンジを処理する新トーンカーブ「Log C4」を選択した瞬間、その結果には驚いだ。ライトの中のフィラメントだけは白トビしているだけで、それ以外は残った状態だった。逆光でありながらこのような状態をこれまで見たことない。
ALEXAの14ストップからALEXA 35は2.5ストップ拡張した17ストップは伊達ではない。映像業界の中でもカメラ比較チャートとして信頼の高い「Camera Comparison Chart」では、35mmフィルムのダイナミックレンジを15ストップから16ストップと紹介している。17ストップのALEXA 35はフィルムを超えたと言ってていいだろう。相当驚異的なカメラだと思った。
オールドレンズの特性を活かした撮影に最適
そして2番目に驚いたのは、柔らかい解像感だ。筆者はどのメーカーのシネマカメラでもセンサー性能は向上して解像度が上がる分、シャープネスが強調される印象を感じている。それらのカメラで撮られた映像コンテンツを観ると、「That’s Digital」という印象を感じていた。そんな固さを回避する方法の1つにオールドレンズの使用があり、今回のALEXA 35のテストには、筆者の会社で所有しているT1.0の「Vantage ONE」とスクウェアフロントの「Lomoアナモフィック」を持参してテストを行った。
最初はVantage ONEと組み合わせてテストを行ったが、これにも衝撃を受けた。Vantage ONEは通常1.0開放にすると、ボケすぎてハイライトのフレアーを拾いすぎて滲んでしまう。その滲んだ状態はドリーミーな回想シーンでしか使えない印象だった。それがALEXA 35と組み合わせて開放絞り値T1.0でも、にじみは抑えられた感じだった。これにはびっくりで、ARRIのスタッフによるとALEXA 35のCMOSセンサーに光を取り込むマウント部分を改良に改良を重ねて、フレアが入らない設計を実現したという。
もう1つの持参したLomoレンズは、非常に甘すぎてフォーカスが合っているのかわからないレンズである。しかし、ALEXA 35との組み合わせでは、ピントが合ってるところははっきりと見える感じがした。これまではメリハリがのないオールドレンズで終始していたが、ALEXA 35と組み合わせでまたちょっと違った印象を受けた。
最近各レンズメーカーからフルフレームプライムレンズが登場してきているが、筆者は個性を押し出したレンズは多くない。また、フレアが入りやすい設計のレンズの新製品登場も相次いでいるが、実際撮影してみるとフレアが入りすぎて商業撮影には向かないものもある。そのようなレンズを使わなくても、ALEXA 35は昔ながらのオールドレンズを装着することによって余計な気遣いが必要なく、その特性を活かした撮影ができると思った。
フィルムと見分けがつかないテクスチャ機能搭載
テクスチャ機能にも驚いた。テクスチャ機能を入れた途端に、「これはフィルムなのか?」と思った。筆者はフィルムで撮ったものをグレーディングする機会も多く、フィルムの曖昧は目には焼き付いている。そんなフィルムトーンにも敏感な筆者だが、テクスチャ機能を入れた瞬間、この画はまさにフィルムで撮られたルックにしか見えなかった。
例えばフィルムカメラのARRICAM STとALEXA 35の同じ環境で撮って、それをサイドバイで「どちらがフィルムですか?」というブラインドテストをしたら100人中おそらく50人ぐらいは見分けが付かないはずだ。
DaVinci Resolveにはフィルムルックを実現するプラグイン「FilmConvert」を使って後処理のグレインが可能だが、ついつい濃すぎて後処理であることがバレてしまう場合がある。ALEXA 35のテクスチャ機能は入れた瞬間に本当にリアルだ。やりすぎてしまうこともなく、まさにフィルムテイストのルックの再現が可能であると思った。
サイドディスプレイ搭載で本体のみでコマ数や感度の設定が可能
コマ数や感度の設定変更が本体でできるようになったのも嬉しい進化だ。ALEXA MiniやMini LFなどの小型シネマカメラは、ドローンとかステディカム、ジンバルなどに載せられるカメラだが、どうしてもビューファインダーが邪魔になるため、ビューファインダーを外してバッテリーだけつけて運用することが多い。しかし、まれにコマ数を変えたり、感度設定を変えたい場合に、外からのコントロールはできなかった。
そのため、毎回ビューファインダーを用意して本体にセットして設定を変え、設定を終えたらまた抜く作業が必要だった。しかし電源を入れた状態でケーブルを抜き差しすると初期の頃は、バグによってシャットダウンしたり、コネクタが破損してしまうこともあったために、あまり抜き差しをしたくなかった。
ALEXA 35にはサイドディスプレイを搭載し、そこでコマ数から感度、設定できるのはありがたい。ビューファインダーがなくても設定できるので、短時間でドローンの撮影も可能。現場的にはかなりスピーディーな状態で作業できるようになったと思った。
フィルム撮影はALEXA 35に置き換えられる存在になりえる
ALEXA 35は、フィルム撮影で撮られたルックをそのまま実現できるシネマカメラだ。約100年の歴史の中で築かれたフィルムの資産を使用可能で、フィルムからデジタルにそのまま移行可能な最初のファーストカメラといえるだろう。
国産シネマカメラも話題だが、ALEXA 35はそれに匹敵か、さらに上回るのではないだろうか?デジタルでフィルムベースのアナログの質感にこだわりたいのであれば、ALEXA 35の一択になりそうと筆者は感じている。