ALEXA35

石坂拓郎

撮影監督 | 撮影助手時代に「セクレタリー」、「ロスト・イン・トランスレーション」に参加。2006年には、Frameworks Films Inc.を設立。米国ロサンゼルスを拠点とし、映画・CM・PVと幅広く活動中。撮影監督として「さくらん」や「るろうに剣心」シリーズ、「マンハント」などを手がける。

やはり目玉は、ALEXA 35だった

Cine Gear Los Angeles Expo2022が開催されしばらく経つが、今回の目玉であるARRIが中心地の奥に大きく会場を展開していたことも印象的だった。やはり、しっかりと時間をかけて開発されたALEXA 35は映画業界に関わる人間であれば見逃すことはできないであろう。

ALEXA 35は、様々な現場を考慮して用意されたアクセサリーセレクション、撮影時のカラーワークフローやモニタリング、ポストでのワークフローまで熟考されて発表されたことは、さすがシネマカメラメーカーの老舗だなと感じた。

ARRI、映像人のためのシネマカメラALEXA 35を発表

このタイミングでARRIがSuper 35のセンサーサイズのカメラを発表したことは、時代の流れではないだろうか?もちろんラージフォーマットにはその魅力があるが、レンズの種類の少なさ、フォーカスの難しさ、データ量の増加を考えると、実はまだ問題点もあるのだ。

昨今のビンテージレンズの流行り、すでにあるSuper35用のレンズの選択の豊富さを考えると、ALEXA 35つまりSuper 35サイズセンサーのイメージクオリティーでダイナミックレンジと色数について精度を上げていくARRIの提案は、正攻法と言えるだろう。

ラージフォーマットのカメラで、クロップすれば良いのではという意見もあるだろうが、やはりラージフォーマットセンサーは、フルセンサーエリアに対して一番いい画が来る設計を考えると、クロップでの使用はやはり無駄も多くなる。ましてや、ALEXA LF MiniはALEXAと同センサーを貼り合わせているために、新しいセンサーでの利点はないと考える。

そう思いつつ期待のALEXA 35について機能別に見ていきたい。

ALEXA 35、撮影監督が気になった機能別詳細

外観とサイズ感

ALEXA Miniに慣れていると大きく感じるかもしれないが、元々のALEXAからの進化と考えれば、持っている端子の選択も含め相当コンパクトになったといえる。

ステータスディスプレイ

これまでのALEXA Miniなどの小型筐体であればビューファインダーが必須で、ボディのみでのステータス確認ができなかった。ALEXA 35では、小さなモニター、メニューダイアルも実装され、ジンバル等での小型設定の際にもメニューを触る事が可能となった。

電源関連

Bマウントに関してようやく実装され、しっかりとロック可能な堅牢な仕上がりとなっていた。しかもロック機構もコンパクトで、比較的薄いバッテリーのマウントポジションになっている。電源コネクターは、ジンバルなどに載せる際や、電源プラグで電源供給する際も後ろにケーブルが飛び出ない工夫がされ、横面の中央の入り込んだ部分に設置されている。

HD-SDI

12G対応となり別出力をあてられるため、さらに利便性は上がっている。HDRでの撮影が増えている中で、内部のカラーサイエンスのあて方が変わったために、出力のアウトの部分でBt1866(709@2.4gamma))か、ST2084 PQ HDRのモニターに対して正しい出力が選択できる。SDRもHDRに同時に2つのモニターに対して出力可能だ。これは、大きなメリットと言える。

ビューファインダー、ビューファインダーブラケット:

ビューファインダーは素晴らしく、覗き込む瞬間に違いを感じるディテールとコントラストが本当に綺麗である。さらに、1つのノブを緩めるだけで、2箇所の稼働部分が動く、ブラケットデザインも秀逸と言える。

アクセサリー

スタジオオペレーションのみならず、ビデオグラファー的なオペレーションや、ハンドヘルド、ジンバル、ステディーカムなど、多くの場面で対応可能な様々なオプションが用意されている。とても使いやすい構成をユーザーが用途に応じて選べるだろう。

レンズマウント

レンズマウント部分は、Stray lightと呼ばれるレンズからセンサーの間で無駄な光の反射を抑え、本当の黒を表現可能にするために新設計されている。このような細部の機能がイメージの向上に確実に役立っている。

注目すべきは、センサーとARRIテクスチャー、新しいカラーサイエンスについて

テクスチャー:

カメラ内部処理で隠されていたテクスチャー調整をALEXA 35では選択可能にしたことは注目にあたいする。このことで様々な質感を選択できるようになった。これはルックとは別にその名前の通りテクスチャー部分のみ選択できる機能で、センサーからの情報がカメラ内部にある状態で決定することであり、後変更できないRAWに焼き付けられる情報となる。

image via ARRI

リスト上に名前が付けられているが、それだけだと実際にどこが調整されているのか分かりにくいだろう。その場合は、左の数字部分を見れば理解できる。

(image via ARRI)

標準でこの横には、K445と表記されている。英字Kの部分は、粒子の種類、数字の最初の桁の4は、粒子濃度、次の4は、ディテールの強さ、そして最後の数字は、全体のコントラストの数値になる。

DefaultがK445に対して、CosmeticはP425となっている。標準と比べると、粒子のタイプが変わっていることと、真ん中のディテールが弱く設定されている。これをベースに、どの粒子がどの傾向にあるのか理解できる。

この新機能であるテクスチャーを使用するにあたって、最大の難関だと感じたのはモニター環境ではないだろうか?どのようなモニター、または映写環境で使用するテクスチャーを決定するのか?このポイントが1番の注意点になるだろう。

4Kイメージでフィニッシュする際、HDモニターでモニタリングした場合はノイズやグレインが少なく見える傾向にあるため、もっと効果を強くしてしまう、ディテールを増やしてしまう可能性がある。そのためフィニッシュする解像度で見る事ができるマスターモニターや映写環境でのチェックが必要になる。ここを押さえておかないと間違った結果を導いてしまうことになる。

ARRIブースでは、暗い中で4Kのコンシューマーモニターでの展示だったが、正直怪しい分もあると感じたところ、ブースの技術者もこの展示はあくまで見やすい形でのプレゼンだけど、しっかりと選択するには正確なモニターが必要であることを言及していた。

カラーサイエンス:REVEAL COLOR SCIENCE

新センサーで性能が向上した結果、全体のカラーサイエンスの見直しリリースされたのが、REVEAL Color Scienceだ。もちろんセンサーありきのカラーサイエンスだが、ラージフォーマット後のSuper 35サイズのセンサーカメラという部分を考えると、この色味とダイナミックレンジの向上は必要だった要素だと言える。色が増えれば、解像感も上がるため、実際の解像度向上に加えて、色による解像感も得られる。

2022年現在、様々なカラーリストたちに聞いてもARRIのカラーサイエンスはやはり優秀で、他のカメラのカラースペースからわざわざLog Cに直してカラコレする場合も多い。その定評があるARRIが新しいカラーサイエンスを発表した事が、筆者には気になる部分だった。

ARRI LogC4 Curve(image via ARRI)

TONE Curveが一新されて、ARRI Log C4が登場。このLog curveを見ると、以前まで使われていた、カーブLog C3をこのセンサーで捉えた画には使えないことになる。最大の理由は、ダイナミックレンジが伸びたために、それに対応する必要があるためだ。この更新で従来のLUTが使えなくなった。お気に入りのLUTは、TONE CURVEが合わないために、そのままでは使用できない。そのため古いLUTで作ったルックはALEXA 35ではすべて更新が必要となる。

ARRIが提供しているLOOK Libraryは、すでにLog C4対応に変更されているのでご安心を。さらに、Log to LogでのLUTでルックだけの表現だけで、ターゲットカラースペースとモニターガンマが一緒ではないために、外部出力する際に、REC709(SDR)、REC2000/PQ(HDR)などの別タイプのモニター出力にも対応できるように変更されている。

ダイナミックレンジ

17ストップを実現したことは相当な性能と言えるだろう。暗部のノイズの綺麗さも向上したため、感度は160から6400まで選択可能で、その中でエンハンス センシティビティ(ES)のオプションもあり、2560ESから6400ESまで備えられている。

フォーマット/解像度

19のレコーディングフォーマットチョイス(記録フォーマットの選択)が可能になっている。LFリリースを経て、かなりしっかりと準備されたのが分かる。Netflix承認条件もすでに満たして対応している。センサー自体は4.6Kが最大になるが、2Kなどのフォーマットも用意され、アナモフィック対応も嬉しいところだ。

撮影監督から見たALEXA 35の素晴らしさ

ALEXA 35の印象は、一言で「プロフェッショナルカメラ」だとはっきり言及できる。個人的には、こういった細部までこだわったカメラの登場は嬉しい限りだ。さまざまなメーカのアクセサリーを探し、使い方を試行錯誤する…。ALEXA 35にはそんな心配は皆無だ。全てが用意され、様々な用途に対応した場合を既に考えられている。イメージに対しても、手を抜いているところは全くなく、本当に我々プロが安心して使えるシネマカメラだといえる。

今回は、ARRIのプレゼンテーションも素晴しかった。しっかりと何が新しくなったか明確にわかるからだ。最後に本体価格とメディアの価格は、近年の他のシネマカメラなどに比べて遥かに高く、メディアの値段のコストパフォーマンスはあまりいいとは言えない。もちろん、19のフォーマットから案件に適したフォーマットを選べばメディアの容量はセーブはできるが、2TBでないとハイスピードが撮影できない点も、負担だなとは思う。

レンタルとしてALEXA 35は、人気となることは言うまでもない。かなり魅力的なカメラで、豊富な予算の映画やコマーシャルではどんどん使用されるだろう。またストリーミングのHDRが絶対条件の作品にも適していると言える。