名古屋ウィメンズマラソンでライブ配信を実施

2023年3月12日に開催された名古屋ウィメンズマラソン2023。東海テレビ放送により、フジテレビ系で全国ネット放送が行われた。また愛知県のスポーツ情報ポータルサイト”aispo!”でもYouTubeでのライブ配信がソニーのM2 Liveを使用して行われた。

その配信を担当した東海テレビプロダクション テクニカルセンター映像技術部部長遠藤淳氏と映像技術部エキスパートの牧野泰蔵氏に、実際の配信について、そしてM2 Liveの使用感などについて伺った。

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東海テレビプロダクション テクニカルセンター映像技術部部長遠藤淳氏(左)、映像技術部エキスパートの牧野泰蔵氏(右)

東海テレビプロダクションの制作プロダクション業務と配信業務

――東海テレビプロダクションについて教えてください

遠藤氏:

東海テレビ放送の子会社で、制作プロダクション業務を行なっています。我々は映像技術部です。番組のロケ取材、スタジオ収録、中継技術そして配信など技術全般を行なっています。また、東海テレビ放送以外にも、配信事業者など他社との仕事もしています。

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――今までどのような配信業務を担当されましたか

遠藤氏:

クライアントの公式YouTubeや有料配信番組コンテンツ制作など、多くの配信業務を行っています。
他にも有料配信番組のコンテンツ制作などを行なっています。配信の手法も様々で、ソフトウェアのみやハードウェアエンコーダーも採用するなど、規模に応じて最適な方法を選択して配信を行なっています。

M2 Liveとは?

「M2 Live」はフルクラウド型のスイッチャーシステム。カメラまたは手元のスマートフォン、もしくはエンコーダーから映像信号をクラウドへ伝送してスイッチングが可能になる。

SaaSで提供されているため、インターネット回線に接続できれば、場所を選ばずにどこからでもスイッチングを可能にする。また、映像・音声の切り替えや、ロゴの重畳といった機能を直感的に操作しやすいシンプルなUIを実現している。

M2 Liveを採用してみてわかるクラウドの良さ

――M2 Liveを今回の配信で採用したきっかけを教えてください

遠藤氏:

2022年8月、今回の名古屋ウィメンズマラソン2023の配信システムを検討し始めた時期でした。実は昨年も名古屋ウィメンズマラソンの配信を弊社で担当しましたが、昨年の方法だとマラソン現場の映像を無線で飛ばして何かしらの方法でベースバンドに戻す必要があり、手間や手数がかかりました。そのため改善策はないかと考えていました。
そのタイミングで、入り口から出口まで全てクラウドで完結するM2 Liveを知る機会があり、使用することになりました。

――撮影はどのような環境だったのでしょうか

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遠藤氏:

バイク1台、固定4台の計5台のカメラで撮影を行いました。固定カメラもマラソンの進行に合わせて適宜位置を移動しながら撮影を行いました。カメラは制作部チームの担当で、普段ディレクターが使用しているカメラでしたので、操作については全く問題ありませんでした。
そのカメラに映像ストリーミング機材を追加し、そのデータをM2 Liveのクラウドで受け取るという流れになります。
撮影現場で撮影以外に行うことはストリーミング用機材の電源を入れるのみで、撮影班への負担やトラブルも一切ありませんでした。こういったメリットもクラウドシステムの利点だと思います。

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――M2 Liveの操作感はいかがでしたか

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牧野氏:

オペレーションで使うユーザーインターフェースはとてもシンプルです。また、DSKといった普段使い慣れた言葉も使用されていますし、一度覚えてしまえばストレスなく操作できました。業務用ハードウェアスイッチャーの使用経験のみの方だと、ソフトウェアのスイッチングそのものに少々慣れが必要かもしれませんね。
また、これまでのソフトウェアはM2 Liveほど多機能ではないため、オペレーションがスムーズではない部分もありました。例えばM2 Liveでは、事前に登録したテロップがアイコンで表示可能で、複数テロップからでも狙ったビジュアルを選択できるのはとても助かりました。またキーイングなど様々な機能も今後使ってみたいと思います。

――操作上のレスポンスについてはいかがでしょうか

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牧野氏:

全くストレスはありませんでした。5台のカメラを操作画面上でクリックすることで切り替えましたが、問題はありませんでした。

遠藤氏:

スイッチング用にハードウェアを追加することも検討しましたが、ハードウェア追加で、システムになんらかの影響が出るのを防ぐため、今回は見送りました。今後スポーツ中継などの素早いスイッチングが必要な際には組み合わせて、使用したいと思います。

――今回初めてフルクラウドシステムで配信されたことになります。いかがでしたか?

今回のシステム図。非常にシンプルな構成になっているのもクラウドならでは

遠藤氏:

今回5台のカメラを使いましたが、それらの間でタイミングが変わってしまうようなタイムラグもなく、入力から出力まで問題なく運用できました。システムエンジニア的にはシステム構築において障害は一切ありませんでした。

――フルクラウドシステムのメリットは何だと思われますか

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遠藤氏:

まずは必要な機材量が少なくなります。これまでは撮影した映像信号を受ける際に、有線の場合や伝送であればレシーバーを繋ぐ必要がありました。そのため機材も、手数も増えてしまいます。
M2 Liveではカメラがどこにあるかという距離感は関係なく、映像がクラウドに上がれば、受ける側は、クラウドさえ参照すれば良いだけなのです。極論を言えばPC1台とネット回線さえあれば成立します。
また、複数の映像信号をPCに入力する場合、処理能力も高スペックなPCが必要になります。M2 Liveを使用すれば、ブラウザでクラウドにアクセスするので回線速度を担保できれば問題ありません。
テレビ放送の方法のみの知識ですと、配信を行う際に工数がとても多くなりがちです。放送と配信では大きく考え方が異なります。配信はシンプルな構成で実現可能、という柔軟な姿勢も大切だと思います。

M2 Liveに期待すること

――M2 Liveの機能についてリクエストはありますか

牧野氏:

テロップを表示する画面で、テロップの表示順が入力順で固定されているので、後から自由に順序を変えられると良いなと思います。また、画面全体のインターフェースを、オーディオミキサーやCGなどそれぞれの機能の位置や大きさなどのレイアウトを自由にカスタマイズできると良いと思いました。
屋内で作業する場合は大きなモニターが使えますが、可能性として、現場の車内でノートPCを使って作業することも考えられます。その時々の環境でインターフェースをカスタマイズできると作業効率が上がるのではと思います。

――今後、M2 Liveを使ってやってみたいことを教えてください

遠藤氏:

オペレーションする人間を複数にして、オーディオミキシングやCGを個別に担当する、マルチタスクな環境での配信を行なってみたいです。
それぞれの担当者は別々の場所に点在してもよいのです。理論的には自宅からでもオペレーションできます。例えばM2 LiveはSingular.liveと連携できますが、そのCGを作るスタッフが大阪に、M2 Liveでスイッチングするスタッフが沖縄にいてもよいわけです。不要な移動をせずに全国にいる人材リソースを使うことができます。
また、PXW-Z280、PXW-Z190ではソニー独自のQoS技術ストリーミング出力が可能なため、カメラのみでM2 Liveに入力が可能です。これらのカメラは通常ロケにも使用できますし、配信の選択肢が増えるので面白いですね。放送分野でも機材を提供しているソニーだからできることだと思います。
そういう意味で、放送分野に精通しているソニーがサポートしているシステムということで、相手が見える状態で要望を伝えることができるサポート体制には非常に安心感があります。

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テレビ技術を活用し、配信の質向上へ

――配信全般についてはどのようにお考えでしょうか

遠藤氏:

今回のマラソンでのライブ配信では、配信視聴者の方からのコメントにお応えし、スイッチングに反映しました。これまでもYouTubeコメント欄を反映させた映像作りは行っており、みなさんの反応が良いですね。そういった部分はテレビ放送にはない手法だと思います。
また、放送機器だけでなく、民生機も活用することで様々な手法が考えられます。M2 Liveのようなフルクラウドシステムによってより手軽に安定した配信も可能になります。
しかし、「何を、どのように伝えるか」という企画力、構成力、ディレクション力については熟練を要します。弊社はテレビ番組制作もライブ配信も行なっています。テレビで培った技術を配信で活用することで、配信全体のクオリティを高める一助となれればと考えています。