はじめに
SDカードはご存知の通り、カメラの記録用途において現在最も広く普及しているメディアである。最近のカメラ機種では、動画の高ビットレート撮影やスチル撮影での早いバッファ解放を実現するCFexpressが一部で搭載されつつあるものの、ほぼ全てのカメラにはSDカードスロットが搭載されている。
記録メディアは高速性、互換性、信頼性、コストパフォーマンスの4つの軸で評価されると筆者は考えている。つまり、以下の4点が重要である。
- 動画撮影記録が停止しないための「書込み速度」と短時間でPCにデータ転送できる「読出し速度」の2つの高速性
- カメラと記録メディアの相性に関わる互換性
- 耐水性、耐衝撃性、防塵性、耐温度性能、データの保持特性などの信頼性
- 前記3つの評価軸に対して適正な価格であるか否かが問われるコストパフォーマンス
一般にスチル撮影に比べてメディアに記録するデータ量が多いのが動画撮影であるが、使用するコーデックにもよるが、筆者の場合、1日で行う撮影のデータが1TBを超えるというのも少なくなってきた。コーデックに見合った十分な速度性能を持ち、PCへの転送も速く、コストパフォーマンスが良いメディアを選びたいというのは誰しも思うところだろう。
前置きはこれくらいにして、今回は2024年12月初旬より日本でも大手家電量販店やECサイトで販売開始になった「Lexar Professional SILVER PLUS SDXC UHS-I Card」に関して紹介したい。
結論を書くと、今回のテストではLexar Professional SILVER PLUSはV30のカードとして十分すぎるほどの高速性を有し、筆者の使用したカメラでは全く問題のない互換性を有しているカードであることがわかった。特に書込み、読出し速度はPC上でのテストではV30のカードとは思えないほどの速度実現し、安定していた。
なお、前記評価軸の信頼性に関しては評価が難しいため、メーカーサイトの記述をベースとして論じていることを了承いただきたい。
Lexar Professional SILVER PLUS SDXC UHS-I Card 製品概要
まずは、今回紹介するLexar Professional SILVER PLUS SDXC UHS-I Cardについて製品概要を記載したい。
READ最大205MB/sec
Write最大150MB/sec
Lexar Recovery Tool付属
ビデオスピードクラス:V30(書込み最低保証速度 30MB/sec)
UHSスピードクラス:クラス3
容量:1TB、512GB、256GB、128GB、64GB
動作温度:-25℃ to 85℃
※以降、Lexar SILVER PLUSと記載
なお、今回は試す機会がなかったが、READ最大速度スペックは205MB/secと同等のLexar Professional SILVER SDXC UHS-Iも発売される。以下が製品概要となる。
Lexar Professional SILVER SDXC UHS-I製品概要
READ最大205MB/sec
Write最大140MB/sec
Lexar Recovery Tool付属
ビデオスピードクラス:V30(書込み最低保証速度 30MB/sec)
UHSスピードクラス:クラス3
容量:1TB、512GB、256GB、128GB、64GB
動作温度:-25℃ to 85℃
※以降、Lexar SILVER と記載
Lexar SILVERとLexar SILVER PLUSの違いはカードへの書込み最大速度が140MB/secと150MB/secの違いであり、両者ともビデオスピードクラスはV30である。このビデオスピードクラスに関しての解説は次に記載する。
動画撮影におけるビデオスピードクラス
ご存じの様に、カメラの動画記録はカードへの書込みは撮影開始から撮影終了まで連続的に行われる。つまり一時的にでも書込み速度が低下してしまえば、一般にカメラ側が書込み速度の低下を検知し、録画そのものを停止してしまう。この速度の低下がどのレベルまで保証するかがこのビデオスピードクラスの考え方であり、SDカードへの最低書き込み速度を保証する規格である。
2024年9月現在、このビデオスピードクラス規格はV90が最大である。
Vの後に記載される数値は最低書込み保証速度をMB/sec(メガバイト/秒)で示している。
一般にカメラの動画コーデックはビットレート(Mbit/secやMbps)で表記されているので混乱しやすいが、たとえばV30と記載されているSDカードの場合、30×8という様に8倍を掛け算することでMbitをMBに換算することができる。
つまり今回紹介するSILVERシリーズのV30のカードは240Mbit/sec(30MB/sec)の最低書込み保証速度を示している事になる。
では、カード表面やパッケージに書かれているWrite最大150MB/sec(1200Mbit/sec)とは何かというとこれはあくまで最大の書込み速度のスペックを表している。動画記録の場合は最大の書込み速度よりも、これ以下に速度が低下しないというスペックの方が重要なファクターである。
動画撮影においてこの最大の書込み速度はあまり意味を持たないが、PC使ってデータ移動する場合では速い書込み、読出し速度は有利だ。
速度比較
Blackmagic Disk Speed Test
記録メディアの速度評価を行うのに広く使われているのがBlackmagic Disk Speed Testである。このソフトはご存知の方も多いかと思うがメディアへの書込み速度と読出し速度を簡単に計測することができる。
この結果、LexarのリダーライタRW310X(後述)を使用した結果上記の速度が得られた。特に書込み速度の200MB/sは平均値とはいえV30の規格とは思えない程の速度と言える。ちなみに、筆者が以前から200MBps以下の撮影の場合に愛用している他社製(有名ブランドのSDカード(V30))の速度計測結果は以下の通りである。なお、この他社製SDカードに関しては200Mbps以下のコーデックで長年使用してきており、一度もトラブルなく信用しているメディアだ。
Write速度は実に二倍近い速度がLexar Professional SILVER PLUS SDXC UHS-I Cardでは実現されていることがわかる。今時のV30のSDカードの速度はここまで上がっているものなのかと驚いた次第だ。
自作スクリプトによる評価
先のBlackmagic Disk Speed Testは前述の様に記録メディアの評価で広く用いられているものの、その計測結果はあくまで平均的な評価である。動画撮影時のメディア記録に求められる要件は一時的な速度の低下が頻繁に起きない事だと筆者は考えている。
ここで紹介する計測では50GBという大きなデータを用いて、1秒毎にSDカードへ書込みされるデータ量を計測するスクリプトを作成しグラフ化している。
ここではLexar Professional SILVER PLUS 256GBと、先の評価でも使用した他社製のSDカード(V30)と書込み速度を比較した。
結果は下記の通りかなり速い結果が出た。
比較対象のV30カードだが、最大の書込み速度は95MB/s程度で時折30MB/secまで低下していることがわかる。これはこのV30のカードの使用回数が多く劣化が進んでいるためとも考えることができるが、それでも最大速度は劣化に関係なく95MB/s付近が最高速度であるはずだ。
Lexar Professional SILVER PLUS 256GBに関しては(先のBlackmagic Disk Speed Testのテスト結果よりも低いものの)180MB/s付近で推移し一度も大幅な速度の低下なく書き込みを終えており、文字通りぶっちぎりの測定結果となった。速度の低下が一切無いのは、このカードがフレッシュな状態での計測だったということも関係していると思うが、平均の書込み速度が180MB/sはV30のカードとしてはかなり速いものだ。
速度評価で使用したSDカードリーダーライタ
少し余談になるが、今回の上記2つのPCを使用した速度計測はLexar RW310Xというスティック型のSDカードリーダーライタを使用した。
このリーダーライター(Lexar RW310X)はLexarのWEBページではLexar SILVER/SILVER PROの最大転送速度を実現する組み合わせとして推奨されているものだ。
本製品は現在では日本未発売ではあるが、先行販売されている海外から筆者が購入したものである。自宅にあるすべてのリーダーライタと比較した結果、Lexar SILVER PLUSの読み出し/書込みはLexar RW310Xを使用した場合が一番高速であることも確認できた。このリーダーライタはUHS-IIには未対応ということもあり、UHS-IIカードを使用した場合はカードの転送速度が活かしきれない事になるが、その反面非常に安価が製品でUHS-I規格のカードで使用する限りかなりの時間短縮が見込めるリーダーライタと言えるだろう。
カメラ連続記録テスト
筆者の所有しているカメラ、周辺機器でこのSDカードに付いていくつかのテストを行った。速度が高いカードだということは既にお分かりかと思うが、実際のところカメラや周辺機器で相性が重要だからだ。なお以下の、Nikon Z8とS5IIXのテストに関してはV30規格で保証されていない記録速度域でのテストとなっているので実使用上は自己責任となるが、このカードのポテンシャルが垣間見えるものだ。
Nikon Z8(8K30p H.265 10bit記録 400Mbps)
Nikon Z8の場合、SDカードで記録できる最大のビットレートは8K30p記録の400Mbpsで連続記録テストを行った。Nikonの公式サイトによるとビットレートは約400Mbpsである。
この400Mbpsは平均50MB/sでの書込みが連続的に行われるため、本来はV60のカードでなければ書込み動作保証されないレベルのビットレートである。なおNikon Z8では400Mbpsの高ビットレートコーデックにおいてもV30カードで書込みが出来る仕様になっているため、このコーデックでテストを行った。
Z8は冷却ファンを持たないため、カメラ自体が熱停止する可能性があることから、比較的涼しい(室内24℃)環境下で連続撮影テストを行ったが、結果は8K30pをカード容量ギリギリまで連続撮影を行うことができた。この結果は先のPCを使用した速度テストで、約180MB/sの速度が一度も低下することが無かった事からも予想できたことだが、本来はV60/V90で記録すべきコーデックがV30のカードで記録できることは非常にコストパフォーマンスが高いと言える。
LUMIX S5IIX + BlackmagicDesign Video Assist 12G HDR(5.9K Blackmagic RAW 12:1記録)
少し意地悪なテストとして、LUMIX S5IIXをHDMI経由でRAW出力を行いVideo Assist側でSDカード記録する撮影を試した。
この組み合わせでは5.8K30pをRAW記録出来るが、そのビットレートは 12:1圧縮(固定ビットレート)の場合550Mbps(68MB/s)を超える。
筆者はこの組み合わせではV90のSDカードでの撮影するか、VideoAssist側にSSDを接続して記録をしてきたが、このカードでは12:1圧縮ながらもV30のSDカード一枚で動画RAW記録できることが確認できた。
256GBのカード一枚の場合約1時間弱の撮影が可能であるが、二度ほどテストして、いずれもカードの容量いっぱいまでコマ落ちなく撮影ができた。
LUMIXの場合(LUMIX S9 200Mbps)
このカードは例えば、LUMIX S9/S5IIの様なカメラで動画撮影するのに最適である。LUMIX S9/S5IIの動画のコーデックはいずれも200Mbpsが最大であり、UHS-Iのカードで全ての動画撮影が可能となっている。
筆者はレビュー期間中にS9で撮影した動画は全てLexar SILVER PLUSで記録したが、トラブルは一度もなかった。
筆者はLUMIXを他に多く所有しているが、カメラにセットされたSDカードがUHS-Iの場合、書込み速度がカメラのハードウェア的に約30MB/s程度に制限されることが過去の経験から分かっている。つまりカードの実力的には書込み速度が高くても、UHS-Iのカードを使用する限り、いかなるUHS-Iカードを使用しても30MB/s(240Mbps)を超える書込みはできない。LUMIXの場合、400MbpsなどのコーデックでもUHS-Iカード一枚のシングル記録であればRECを開始することは可能なのだが、カードの実力とは違う所で記録が停止するのでその点はご注意いただきたい。
筆者の推測だが、この仕様はLUMIX側の記録の安全性、信頼性を考慮した仕様なのだと思われる。
まとめ
このカードはUHS-IのV30カードながら高速な書き込み、読み出しを速度を実現していながらも安い価格を実現しており、コストパフォーマンスに非常に優れたSDカードと感じた。
カメラによってはUHS-IIインターフェースを持たなければ記録できない動画モードもあるが、実測の結果、Nikon Z8では400Mbpsの8K記録でも使用可能であることや、Video Assist 12G HDRの550Mbpsの記録レートにも耐えた事からその書込み速度実力の高さを実感した。PCに接続した際の読み出しも非常に速い。
加えて、メーカー公式ページによると広い動作温度範囲と衝撃性、X線耐性、磁力耐性を確保し信頼性も高いものと思われる。
V30規格のカードであるため、240Mbps以上のコーデックでの使用は推奨されるものではないが、少なくとも200Mbpsまでの使用を考えるなら、このSDカードは選択肢の最上位となり得るものであり、安心して使えると言えるだろう。