GFX ETERNA 最新アップデート10

富士フイルムは米国時間6月4日、映像制作用カメラ「GFX ETERNA」の新たな10の仕様を公開した。GFX ETERNAは、モーションプロダクション用センサーとして世界で3番目に大きく、最も縦長のセンサーを搭載したシネマカメラである。この独自性が、他のカメラでは実現できない映像表現を可能にするとされている。

GFX ETERNAの仕様に関する情報は、これまで「Inter BEE 2024」や「CP+2025」といった展示会で段階的に公開されてきた。ASCイベントやCine Gear Expo Los Angelesでも、さらなる詳細が発表された。Cine Gearの富士フイルムブースでは、同社の五十嵐裕次郎氏と大石誠氏が新たな仕様について解説を行った。

まずは五十嵐氏と大石氏によるアップデート紹介の動画を見てほしい。

ここからは発表された10の仕様を紹介しよう。概要は通りだ。

  • 01:光学ローパスフィルター(OLPF)対応
  • 02:撮影可能なすべてのフォーマットを公開
  • 03:多様な撮影フォーマット対応
  • 04:LUTファイルの読み込み・保存
  • 05:20種類のフィルムシミュレーション × LUT対応
  • 06:一部フィルムシミュレーション向け公式LUTの提供
  • 07:カスタムフレーミングガイドライン機能
  • 08:リモート録画機能
  • 09:BLE(Bluetooth Low Energy)対応(AirGluおよびTG-BT1に対応)
  • 10:モニター詳細仕様の開示

アップデート発表の詳細

新しく発表された仕様情報を詳しく紹介する。

01:光学ローパスフィルター(OLPF)対応
GFX ETERNAに光学ローパスフィルターが搭載された。通常、GFXシリーズでは光学ローパスフィルターは採用されていないが、映像制作におけるモアレや偽色の発生リスクを軽減するため、GFX ETERNAでは導入されたのである。2枚のローパスフィルターにより光を4方向に分離し、高精細で安定した映像表現を可能にする。

02:撮影可能なすべてのフォーマットを公開
GFX ETERNAで撮影可能な全てのフォーマットが公開された。GF、Premiststa、35mm、Anamorphic(35mm)、スーパー35mmなどに対応する。GFフォーマットは、以前に公開されたオープンゲートにも対応する。

Format Mode Output size Aspect fps max Image Circle(WxH)
GF Open Gate 3840×2880 4:3 48fps 43.63 × 32.71
DCI 8K / 8K 8192×4320 / 7680×4320 17:9 / 16:9 24 / 30fps 30.8 / 28.88 × 16.24
Cine. 5.8K 5824×2436 2.39:1 30fps 43.8 × 18.32
DCI 4K / 4K 4096×2160 / 3840×2160 17:9 / 16:9 60fps 43.63 × 23.01 / 24.55
FHD 2048×1080 / 1920×1080 17:9 / 16:9 120fps 43.63 × 23.01 / 24.55
Premista DCI 8K / 8K 8192×4320 / 7680×4320 17:9 / 16:9 24 / 30fps 30.8 / 28.88 × 16.24
5.4K 5440×2868 17:9 30fps 40.91 × 21.57
DCI 4K / 4K 4096×2160 / 3840×2160 17:9 / 16:9 60fps 40.27 × 21.23 / 22.65
FHD 2048×1080 / 1920×1080 17:9 / 16:9 120fps 40.27 × 21.25 / 22.65
35mm DCI 8K / 8K 8192×4320 / 7680×4320 17:9 / 16:9 24 / 30fps 30.8 / 28.88 × 16.24
4.8K 4776×3184 / 4776×2688 3:2 / 16:9 30fps 35.92 × 23.94 / 20.21
DCI 4K / 4K 4096×2160 / 3840×2160 17:9 / 16:9 30fps 35.92 × 18.95 / 20.21
FHD 2048×1080 / 1920×1080 17:9 / 16:9 60fps 35.92 × 18.95 / 20.20
Anamorphic (35mm) Anamorphic 8K 2x 8192×2968 / 8080×3380 2.76:1 / 2.39:1 24fps 35.07 / 30.38 × 25.42
Anamorphic 4.6K 4664×3380 / 4040×3380 1.38:1 / 1.20:1 24fps 35.07 / 30.38 × 25.42
スーパー35mm スーパー35mm 6.3K 6382×3590 16:9 24fps 24.00 × 13.50
DCI 4K / 4K 4096×2160 / 3840×2160 17:9 / 16:9 30fps 24.00 × 12.66 / 13.50
FHD 2048×1080 / 1920×1080 17:9 / 16:9 60fps 24.00 × 12.63 / 13.49

03:多様な撮影フォーマット対応
さらに、カメラ内コーデックの詳細も明らかになった。GFX100 IIのシステムを基盤とするGFX ETERNAは、Apple ProRes 422、H.265(HEVC)、H.264といった複数のコーデックをサポートする。

■カメラ内部記録

  • Apple ProRes 422 HQ, Linear PCM(Stereo sound 24bit / 48KHz sampling)
  • Apple ProRes 422, Linear PCM(Stereo sound 24bit / 48KHz sampling)
  • Apple ProRes 422 LT, Linear PCM(Stereo sound 24bit / 48KHz sampling)
  • HEVC/H.265 (4:2:2 10bit), Linear PCM(Stereo sound 24bit / 48KHz sampling)
  • Apple ProRes Proxy / H.264 Proxy

■HDMI出力

  • 4:2:2 10bit Uncompressed 12bit RAW
  • 04:LUTファイルの読み込み・保存
    GFX ETERNAは、3D LUT(ルックアップテーブル)の読み込みに対応し、最大16種類のLUTをカメラ内に保存し使用できる。これは、撮影現場でのルック確認やグレーディングシミュレーションにおいて有効な機能となる。

    05:20種類のフィルムシミュレーション × LUT対応
    また、富士フイルム独自の色彩表現であるフィルムシミュレーションは、20種類に対応する。それぞれのシミュレーションにLUTを適用することも可能であり、より多彩な表現が可能となる。

    06:一部フィルムシミュレーション向け公式LUTの提供
    今回の発表における特長の一つとして、これまでGFX ETERNA LUTやWDR LUTとして3D LUT形式で提供されてきたものが、本モデルではフィルムシミュレーションの3D LUTとして提供されることが挙げられる。F-Log2およびF-Log2Cに対応したLUTの提供が予定されているが、具体的な数など詳細は今後の公開が待たれる。

    07:カスタムフレーミングガイドライン機能
    細かな点ではあるが、ユーザーが自由にカスタマイズ可能なフレーミングガイドラインを最大3種類まで表示できる機能も搭載された。1枠から3枠までのカスタムガイド設定が可能であり、マルチフォーマット対応や縦構図確認などにも利用できる。

    08:リモート録画機能
    さらに、ブラウザベースのリモート撮影ソフトウェア「リモートネック」をカメラ内に搭載しており、Wi-FiまたはEthernet経由でのリモート撮影が可能である。これにより、現場での複数台管理や遠隔操作に対応し、iPhoneやiPadを含むあらゆるブラウザから操作できる。

    09:BLE(Bluetooth Low Energy)対応(AirGluおよびTG-BT1に対応)
    Bluetoothも搭載されており、ATOMOS AirGluや富士フイルム製リモートコントロール対応三脚(TG-BT1など)をサポートする。タイムコード同期は、TCプラグ、Atomos AirGlu、およびUSB-C経由でのAmbient製品との連携により実現可能である。

    10:モニター詳細仕様の開示
    モニターについては、5インチのメインモニターが最大2000nitsの高輝度に対応する。また、ボディ側面にある2つのサブモニターはそれぞれ700nitsの輝度で使用できる。

    モアレを抑制し、映像制作の信頼性を高めるOLPF搭載

    このアップデートの中から気になる2点に焦点を当てて解説しよう。

    GFX ETERNAのアップデートにおいて、特に注目される点の一つは光学ローパスフィルター(OLPF)の搭載である。このOLPFは、映画撮影において不可欠とされる要素であり、複数台のカメラを使用する撮影時に、異なるカメラで撮影された映像間の整合性を高め、スムーズなインサートカットを可能にすることを目指している。

    これまで動画撮影に利用されてきたGFX100 IIはローパスフィルターを搭載していなかったため、特定の被写体(例えば模様の細かい衣装など)においてモアレが発生する可能性があった。しかし、GFX ETERNAがOLPFを搭載したことにより、様々な撮影環境下でのモアレ発生が抑制され、より信頼性の高い撮影が可能となった。

    開発陣によると、OLPFの搭載については社内で活発な議論が交わされたという。GFXシリーズの描写力が高く評価されてきたことから、ローパスフィルターの有無が検討されたが、最終的には搭載が決定された。これは、映像業界においてローパスフィルターの搭載がリスク軽減につながるという認識があるためと考えられる。

    ポストプロダクションを革新するカスタムLUTとフィルムシミュレーション

    もう1つ気になったのは、一部フィルムシミュレーション向け公式LUTの提供だ。この発表で特に注目すべき点は、富士フイルムが複数のフィルムシミュレーションLUTを開発し、提供することを発表した点である。従来のGFX100 IIにもフィルムシミュレーション機能は搭載されていたが、記録される映像にベイクされるため、その後のカラーグレーディングが困難であった。このため、F-Log2で撮影された映像に対し、フィルムシミュレーションを後処理で再現する手段が不足していた。今回、富士フイルムは3D LUT形式でフィルムシミュレーションを提供することで、この課題に対応した。

    この公式フィルムシミュレーションLUTの提供により、ユーザーはポストプロダクションでの自由なカラーグレーディングが可能となる。カスタムLUT機能も活用すれば、例えば撮影現場でカラーコレクターが演者と協議しながら決定したトーンを、その場でLUTとしてカメラにロードし、ビューイングLUTとして使用できる。

    4:3オープンゲート撮影が切り拓く映像表現の新時代

    最後に、これまでに発表された3回の仕様アップデート情報を総括すると、GFX ETERNAの最大の特徴は、やはりなんといっても4:3のオープンゲート記録に対応している点である。本機は、動画用センサーとして世界最大級の縦寸法を持つイメージセンサーを搭載しており、その全高を用いることで、4:3フルセンサーフレーミングが可能となる。

    約33mmの縦寸法を持つ4:3フォーマットは、その高さを活かした映像表現を可能にする。たとえば、2倍アナモフィックレンズを使用する場合でも、わずかなクロップでセンサーのほぼ全面積を使用し、2.39:1のアスペクト比での記録が可能である。この縦方向の長さは、他のセンサーと比較しても特異な存在であり、近年増加している縦長動画においても、縦解像度を最大限に活用できる点が大きな利点となる。

    このような縦に大きなセンサーを活用することで、垂直アナモフィック撮影への対応も期待される。現在、水平アナモフィックと並んで、垂直アナモフィックへの関心も高まりつつあり、GFX ETERNAはそのような需要に応える製品となり得る。

    また、オープンゲート撮影機能の搭載により、従来ARRI ALEXA 65やRED MONSTROといった機種にアクセスできなかったユーザーにとっても、大きな可能性を提供する。70mmや65mmフィルムによる撮影経験がない制作者、あるいはフィルムのコストや制約により実現困難であった表現に対しても、GFX ETERNAは新たな探求の道を開くカメラとして位置づけられる。

    GFX ETERNAはオープンゲート撮影だけでなく、スーパー35mmフォーマットにも柔軟に対応しているため、ARRI ALEXA 35やRED、VENICEといったカメラの補助的な位置づけとしても有用といえるだろう。

    GFX ETERNAは、経験豊富な撮影監督にとっては教育用途のツールとして、新進の映像制作者にとっては創造性を支える手段として機能することが期待される。オープンゲート対応という特性を活かし、映像制作における新たな可能性を提示する製品となりそうだ。また、GFXのイメージサークルをカバーするレンズメーカーの参入も進んでおり、今後対応レンズのラインナップはさらに拡充されると見込まれる。

    なお、製品価格については今回の発表では明らかにされておらず、現在も検討中である。正式な価格情報は、後日改めて発表される予定である。