建物もユニークなEye Filmミュージアム

IBC 2025開催前にアムステルダムEye Filmミュージアムで富士フイルムがGFX ETERNA 55正式発表のイベントを開催。販売時期そして名称にセンサーの対角サイズの55が入りGFX ETERNA 55となった。”Filmmaking Legacy in every pixcel「ピクセル(1カット)ごとに受け継がれる映画の伝統(意訳)」”のもとに今回はそのイベントの模様と作例について紹介していこう。

会場は、シネマカメラ発表の場に相応しいEye Filmミュージアム。アムステルダム中央駅の向こう岸のエリア「アイ地区(de IJ)」に位置する映画に関する博物館だ。2012年にオープンし日々上映が行われ、映画について学べる常設展と特別展がる博物館で映像に携わる人であれば興味のある場所と言えるだろう。

GFX ETERNA 55の全貌が今明かされる

富士フイルム 山元 正人副社長

富士フイルム 山元 正人副社長が登壇。シネマ関係者、映像作家、小売店、メディアパートナーへの感謝を述べ、XシリーズやGFXシリーズといった製品群への支援を強調。さらに富士フイルムの沿革紹介し、1934年に日本初の国産映画フィルム製造を目指して創業し、昨年で創立90周年を迎えたことを説明した。

富士フイルム 五十嵐裕次郎氏

製品の説明には、同社五十嵐裕次郎氏が登壇した。今回は、シネマカメラGFX ETERNA 55と、GF 32-90mm T3.5 パワーズームレンズについて詳しく説明された。伝統と最先端の技術革新を融合した製品として位置づけられる。

映画用フィルム「ETERNA」の歴史をデジタル時代に継承し、GFX ETERNA 55はフィルム時代の色再現を「デジタルフィルムサイエンス」として再構築し、ポストプロダクションに最適化するという。

GFX ETERNA 55の主な特徴として、F-Log 2C(ワイドカラーガマット「F-Gamut C」対応、14+ストップのダイナミックレンジ)、3D LUTフィルムシミュレーション10種類を搭載。センサーサイズは43.8×32.9mm、対角約55mmで、名称「55」の由来になっている。

また4:3オープンゲート撮影に対応し、センサー全面を活用可能。多様なアスペクト比やレンズ運用に対応。Gマウント採用で既存レンズをサポートし、G-PLマウントアダプターでシネマレンズも使用可能だ。

センサーサイズは43.8×32.9mm、対角約55mmで、名称「55」の由来に

Marc Cattrall氏にバトンタッチし、さらにGFX ETERNA 55に関するプレゼンテーションは続いた。20種類の内蔵フィルムシミュレーション(AstiaやEternaなど)。世界最大級の電子可変NDフィルター(2〜7ストップ、0.05刻み)、光学ローパスフィルターによるモアレ抑制。ISO 800/3200で非常にクリーンなシャドー描写。

操作性とワークフローについては、両側面に直感的な操作パネルを配置し、同時にロックも可能。5インチ外部タッチモニター(2000nit、約220万ドット)を搭載。バッテリーはVマウント対応、また小型のNP-W235でも約30分駆動可能。接続端子は12G-SDI、HDMI、Genlock、タイムコード、Ethernet、Wi-Fi、Bluetoothなど豊富に揃えられている。

さらに新パワーズームレンズ GF 32-90mm T3.5の紹介も行われた。映像制作用に最適化された初のGFレンズ。防塵防滴仕様。内部モーターによるパワーズーム、フォーカス、アイリス駆動を搭載し、AFにも対応。自然で美しいボケ描写を実現している。

プレゼンテーション後、実際に実写映像の披露。GFX Eterna 55で撮影した2本のショートフィルムを上映し、その後Adam Sushintzky撮影監督の司会によって、それぞれの監督によるパネルディスカッションが行われた。

James Tonkinが語る「GFX ETERNA 55」とショートフィルム『ETERNAL』

『ETERNAL』

インディペンデント映像作家のジェームズ・トンキン氏は、FUJIFILMの最新カメラ「GFX ETERNA 55」を手にしたとき、直感的に惹かれるものがあったという。

スペックを見ただけで、自分が求めていた機能がすべて詰まっていると感じました。小型で手持ち撮影にすぐ使える。内蔵NDフィルターなど、実用的な機能がとても巧妙に設計されています。
そして何より、このカメラで撮る映像にワクワクするんです。カメラは結局のところ“映像そのもの”ですから

彼が取り組んだショートフィルム『ETERNAL』は、記憶と後悔をテーマにした物語。作品ではシーンによってレンズを使い分け、記憶のパートをスフェリカルで、物語の一部をアナモフィックで撮影するなど、表現に幅を持たせた。

センサーの前にさまざまなレンズを組み合わせることで、レンズの個性がこれまで以上に引き出されます。映像は非常に自然で、加工を施さなくてもそのまま使えるクオリティ。現場で映像を確認した時点で自信が持てるし、ポストプロダクションにも安心して渡せます。その確信が制作を加速させるんです。

GFX ETERNA 55の色再現

特に印象的だったのは、GFX ETERNA 55の色再現だという。

スキントーンの描写は本当に素晴らしい。夜の雨や日中の強い逆光など、さまざまな照明環境で試しましたが、どのシーンも期待を大きく超える結果でした。

さらに新たな発見として、4:3のオープンゲート撮影に強い魅力を感じたと語る。

もともとクロップしてシネスコに仕上げるつもりでしたが、フルの高さを生かしたフレーミングを見た瞬間、もう後戻りできなくなりました。何十年も慣れ親しんできた2.35や2.40:1のアスペクト比とは全く違う視点を与えてくれる。まるで新しい映像表現の扉が開かれたようでした

トンキン氏にとって「GFX ETERNA 55」は、単なるカメラではなく、新たな映像表現を切り拓く存在になったようだ。

Oren Soffer監督が語る「OKAY」とGFX ETERNA 55の表現力

『OKAY』

短編映画「OKAY」の監督を務めたオーレン・ソファー氏は、本作のテーマを「悲しみ」と「孤独」だと語る。

私にとって悲しみは孤独を象徴します。その孤独は映画のフレームの中に映し出される。まるでひとりの人物を中心に、12分間のポートレートを描くような感覚でした。私たちが作る映像には常に感情が込められていなければならない。

映画制作におけるあらゆる選択は観客の無意識に働きかける力を持つ。だからこそソファー氏は最初から「人の心を動かす映画」を目指していたという。

物語の根底にあるのは、彼自身の喪失体験だ。人生の支えであった祖母を亡くしたことで、「悲しみ」と「癒し」をどのように語るかが避けられないテーマになった。劇中では、亡き夫の記憶を抱えながら生きる女性の旅を描き、「海」を感情の象徴として繰り返し登場させている。

ただ美しい映像を集めるのではなく、生々しく、感情に訴える作品にしたかった。富士フイルムは、私たちにそうした映画を託してくれました。

GFX ETERNA 55がもたらす映像体験

長年GFXシリーズでスチル撮影を手がけてきたソファー氏にとって、GFX ETERNA 55の魅力は「中判写真のサイズに命を吹き込み、映像として動かせる」点にあった。ラージフォーマットセンサーが生み出す力強さを強調する。

初日にキャスリーン・クインランの顔をクローズアップで撮影しました。まるで世界で最も大きなスクリーンで観ているような感覚でした。

さらに本作では、オープンゲート撮影を最大限に活用。スフェリカルレンズでは親密で現実的な世界を、アナモフィックレンズでは映画的で壮大な空間を描き分け、登場人物の精神状態や物語の質感を表現している。

ETERNAの色と映画的遺産そしてデジタル時代に受け継がれるETERNA

映像表現において欠かせないのが「色」だ。富士フイルムのETERNAフィルムに由来する色再現は、本作のトーンを決定づけた。FotoKemと協力してカスタムLUTを制作し、撮影中のモニタリングからカラーグレーディングまで一貫して活用。肌の質感を自然に保ちつつ、色彩を鮮やかに際立たせることに成功した。とソファー氏はさらに以下のように語る。

この映画を“共感のエンジン”にしたい。観客が自身の悲しみに向き合い、会話を始め、経験を共有するきっかけとなることを願っている。

富士フイルムがETERNAの遺産をデジタル映像制作の新時代に受け継いでいく、その旅路の一部になれたことは刺激的でした。

とソフィー氏は、今回の撮影について振り返る。GFX ETERNA 55は、独立系映画の世界に新たな可能性を切り開く。個人的でありながら壮大で、深い感情を描く映像制作の未来を、強く後押ししている。