「とりまとります」CM撮影にGFX ETERNA 55投入

講談社「good!アフタヌーン」9号より連載を開始したファンタジー漫画「とりまとります」。そのCM撮影現場を取材し、撮影されたばかりの映像をいち早く目にする機会を得た。
今回取材したコミック「とりまとります」のCM制作現場は、GFX ETERNA 55 が"実戦機として使えるかどうか"について、まだ明確な結論が出ていない状態で撮影が進められた現場だった。本来はテスト的な導入に留まるはずだった同機が、業界標準機であるARRI ALEXA 35と併用される中で、その位置づけがどのように揺れ動いていったのか。本稿では、その判断が定まる前段階で起きていた変化を追っていく。

以下のインタビューは作品の解説ではなく、機材としての「GFX ETERNA 55」の運用性を検証することを目的としている。実際の制作現場でどのような基準に基づき評価が行われたのか、その具体的なプロセスを記録したものだ。

「暗闇」を破綻させずに撮れるか──GFX ETERNA 55が最初に試された条件

本作の撮影において、GFX ETERNA 55に最初に突きつけられた条件は、「暗闇をどこまで情報として残せるか」という一点だった。恐怖を強調するために黒を潰すのではなく、暗部の中に空気や質感を保持したまま画を成立させること。この条件は、撮影開始時点からカメラの評価軸として明確に共有されていた。

漫画家であり、原作者のTNSK氏や講談社の担当者が近藤亮太監督のデビュー作「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」を見て、作風が今回のコミックの世界観に合致すると判断し、オファーにいたったという経緯があるそうだ。監督自身もその期待に応えるべく、デビュー作と同様の手法を意識的に取り入れ、あえて映画の予告編のような構成で制作を進めたと語る。

作品のトーンに関しては、単に恐怖を煽るだけのホラーではない点が印象的だ。近藤監督がリファレンスとして挙げたのは、90年代の映画「学校の怪談」だった。この種の作品に共通するのは、暗部を単なる「黒」として処理せず、空間の奥行きや湿度を残したまま恐怖を演出している点にある。

その再現には、暗部階調が破綻しないカメラ特性が不可欠であり、GFX ETERNA 55はまさにその条件下で評価されることになった。かつての映画「学校の怪談」のように、子供が見ればトラウマになるほどの怖さがありつつも、大人になって振り返ると懐かしい気持ちになれるような、絶妙なラインを狙っている。

その世界観を実現するために、色彩設計(グレーディング)にもこだわりが詰まっている。ホラー作品特有の「暗闇」をどれだけ美しく、空気感を持って撮れるかがテーマとなっており、結果としてフィルムで撮影された往年のホラー映画、例えば「リング」のような質感に近づいている。日本家屋や廃校といった低照度・低コントラストの空間では、露出を持ち上げた際にノイズや色転びが顕在化しやすい。

今回の撮影では、そうした条件下でも暗部の階調が破綻せず、ポストプロダクションでの持ち上げにも耐える余地が確認された。

日本家屋や廃校といった低照度・低コントラストの空間においても、暗部の階調が破綻せず、ポストプロダクションでの持ち上げに耐える余地が確認された。この時点で、暗部表現を前提としたルックが撮影段階から共有された。
ただし、それは「このまま主軸として進められる」という判断ではなく、「少なくとも初日を止める理由はない」という消極的な合意に近いものだった。現場の判断がもう一段階変わったのは、編集用のラッシュをALEXA 35と並べて確認したタイミングだった。

結果としてGFX ETERNA 55は、単なるテスト用途に留める理由を失い、少なくとも撮影を継続するカメラとして現場の判断基準の中に残り続けることになった。

中判センサーが狭い室内撮影を変える。撮影監督・松田氏が語るETERNA×IronGlassの運用術

暗部表現における条件をクリアしたGFX ETERNA 55は、次の段階として、他機種と並べた際にどこまで運用できるかが現場で検証されることになった。その技術的な判断を担ったのが、撮影監督を務めた松田恒太氏である。

近藤監督とはデビュー作からのコンビであり、常に新しい機材や表現の選択肢を探求しているという二人が今回選んだのは、富士フイルムが開発した新シネマカメラ「GFX ETERNA 55」だった。

松田氏によると、このカメラを選んだきっかけは、ネット上で中判センサー(ラージフォーマット)を搭載した動画機が登場するという情報を目にしたことだったという。助手時代からキャリアを重ねる中で、新しい機材を積極的に試したいという探求心が、今回の採用につながった。

驚かされたのは、今回の撮影が全編GFX ETERNA 55のみで行われたわけではなく、業界のハイエンド機であるARRIの「ALEXA 35」と併用されていたという点だ。当初は急遽のオファーだったこともあり、信頼性の高いALEXA 35をメインに据えつつ、GFX ETERNA 55はテスト的に使用するつもりだったらしい。

撮影初日のテスト撮影とモニターチェックを経て、トーン面で致命的な破綻がないことは確認された。ただしこの段階では、「ALEXA 35の代替になり得るか」ではなく、「併走させて検証を続けられるか」という問いに対する暫定的な判断に留まっていた。

この時点でGFX ETERNA 55は検証用の位置づけを離れ、以降のカットでも積極的に使用される判断が下された。実績のあるカメラと併用しても、クオリティの差はほとんど目立たなかった。ただし、これは撮影初日のモニター確認に基づく暫定的な評価に留まる。最終的な判断を下すのは、これからの検証を経てからとなる。

向かって左側のカメラがGFX ETERNA 55、右側にあるのがARRI ALEXA 35

松田氏が特に評価していたのは、やはり中判センサーがもたらす描写力と、レンズ選択におけるメリットである。センサーサイズが大きいため、同じ画角を得る際により焦点距離の長いレンズを選択できる。

この特性により、狭い日本家屋の室内でも歪みを抑えた画づくりが成立し、当初ALEXA 35を想定していたカットの一部をGFX ETERNA 55に置き換える判断が現場で現実的になった。この特性により、狭い室内でも歪みを抑えた画づくりが可能となり、結果としてALEXA 35で想定していたカットの一部をGFX ETERNA 55に置き換える判断が現場でなされた。

また、機動性の高さも現場での大きな助けとなったようだ。GFX ETERNAは中判センサーを搭載しながらも筐体が非常にコンパクトであるため、手持ちからスライダー、ジブへの載せ替えが滞りなく行えたことで、限られた撮影時間の中では、ALEXA 35よりもGFX ETERNA 55を優先する判断が実際の現場判断として選ばれる場面が増えていった。

短時間でカメラポジションを切り替える必要のあるカットではALEXA 35ではなくGFX ETERNA 55が優先的に選択された。判断がもう一段階変わったのは、編集用のラッシュを並べて確認したタイミングだった。

レンズに関しては、IronGlassのMark IIが使用された。これはソ連製のオールドレンズを現代の撮影現場で使いやすいようにリハウジングしたもので、IronGlass Mark IIは、ALEXA 35の素材と並べた際にも質感の乖離が小さく、グレーディング工程で無理な補正を要しなかった。この点は、GFX ETERNA 55を単なる検証用ではなく、ALEXA 35と同列で扱える素材として撮影段階から判断できた大きな要因となっている。

撮影段階では一定の評価を得ていたGFX ETERNA 55だが、現場の判断がもう一段階変わったのは、編集用のラッシュを初めてALEXA 35と並べて確認したタイミングだった。

松田氏はインタビューの最後に、今後映画やCMを撮影する際、間違いなく選択肢の一つに入るカメラだと語ってくれた。開発中の機材ゆえの課題も一部あったようだが、それらもアップデートで改善される見込みだという。プロフェッショナルの現場で、実績ある機材と肩を並べて運用され、その実力を証明した新しいカメラ。今回の取材を通じて、映像制作の現場に新たなスタンダードが生まれつつある予感を強く感じさせられた。

制作スケジュールは準備期間に約2ヶ月が確保され、ポストプロダクションにも一定の余裕が見込まれていた。この時間的余裕があったことで、撮影段階での印象を即断せず、検証を後工程まで持ち越す判断が可能になっていた。

そのため、撮影段階で得られた印象をポストプロダクションまで持ち越して検証する余地があり、GFX ETERNA 55の運用可否を拙速に決めずに済んだ点も、判断材料の一つとなっている。30秒のテレビ版に加え、よりショートフィルム的な要素を強めたWeb版も制作されている。

単なる広告の域を脱し、一つの映像作品として成立しているこのCMは、見る者に強烈な印象を残すことだろう。完成した映像が世に出るのが非常に楽しみである。

これらの特性はいずれも、GFX ETERNA 55単体の性能評価に留まるものではない。ALEXA 35を主軸とした現場において、どの条件で置き換えが成立し、どの条件で混在が可能かを判断するための、具体的な材料として機能していた。

30秒の"映画予告編"はいかにして作られたか?合言葉は「90年代ジュブナイル・ホラー」

「GFX ETERNA 55」「ALEXA 35」の2台を混在させて一本のCMを作り上げる――そんな野心的な試みがなぜ実現できたのか?その秘密を探るべく、監督の近藤氏、撮影監督の松田氏、そしてカラーリストのRay Wan氏の3人に話を聞いた。彼らが語ったのは、機材のスペックを超えた「フィルムへの設計思想」の共鳴だった。

左から撮影監督・松田恒太氏、監督・近藤亮太氏

――まず、完成した映像の冒頭に入っている砂嵐のノイズ、あれが非常に印象的でした。今回、原作漫画を映像化する上で、チーム内での共通認識やコンセプトはどのように合わせていったのでしょうか。

近藤氏(監督):

漫画原作だからといって、無理に漫画的な表現に寄せようとはせず、むしろリアルな世界観に落とし込むことを重視しました。原作自体が無理のない設定でしたので、実写でも十分表現できると判断しました。
チーム内での一番のリファレンス(参照元)としては、90年代の映画「学校の怪談」を挙げました。フィルム時代の作品ですが、あのジュブナイル特有の「怖くて楽しい」雰囲気です。原作者のTNSK先生も同世代で同じ作品を見てきているだろうと思い、あのルックを目指せば原作の肝を外さないだろうと考えました。

松田氏(撮影):

そうですね。企画の初期段階から「「学校の怪談」のような世界観」という名前は挙がっていて、それが共通言語になっていました。

近藤氏:

ラストカットで使われている和室の美術に関しても、実はあれは廃校の一角なんです。和室のセットを作り込んだわけではなく、元々あった空間にテレビなどの小物を持ち込んでシンプルに構成しました。長年一緒にやっている映画制作チームだからこその連携で、あの空気感を作ることができました。

――今回、メインカメラの「ARRI ALEXA 35」と、富士フイルムの新しいシネマカメラ「ETERNA」を混在させて撮影されています。色が繋がらないなどの懸念はなかったのでしょうか。

松田氏:

テスト撮影の段階でデータを触ってみて、「これは混ぜてもいけるな」という確信がありました。

Ray Wan氏(カラーリスト):

おそらく、カメラの「設計思想」が近いのだと思います。ARRIも富士フイルムも、根底にあるのが「フィルム」です。他社メーカーの中にはビデオ(デジタル)的な発想で作られているものもあり、そうするとピンクの出方などが変わってきてしまいます。
今回は「フィルム的なルック」を求めていたので、設計思想が共通しているこの2機種の組み合わせは、非常に相性が良く、違和感なく扱えました。

松田氏:

そうですね。もし別のメーカーのカメラだったら、もっとデジタル寄りの画になっていたかもしれません。今回は「学校の怪談」のようなフィルム感を出すために、ベストな選択でした。

――結果としてGFX ETERNAのカットが全体の約6割を占めましたが、制作を終えた今、あらためて「ここまでは任せられる」と感じたポイントはどこだったのでしょうか?

近藤氏:

もちろん漫画を手に取ってもらうのが一番の目的です。ただ、テレビで偶然見た人が「これは映画の予告編かな?でもCMなんだ」と驚くような、引っ掛かりのあるものにしたかった。
30秒という短い尺ですが、映画的なクオリティで作ることで、原作の面白さや楽しさが伝われば理想的です。

松田氏:

僕としては、このチームがシリアスなものだけでなく、明るく楽しい表現もできるという幅を見せられたらいいなと思っています。

近藤氏:

そうですね。もし将来、この漫画が本当に映画化されることになった時、「このチームで撮ったら面白くなりそうだ」と思ってもらえたら嬉しいですね。

まさに「とりまとります THE MOVIE」への布石ですね。ありがとうございました。

「緑」の表現力が別次元。カラーリストRay氏が語る、富士フイルム「GFX ETERNA 55」で描く90年代ジュブナイルの世界

最後に、業界標準機「ARRI ALEXA 35」と、富士フイルムの新鋭機「GFX ETERNA 55」。設計思想の根底に「フィルム」を持つこの2台は、カラーグレーディングの現場でどのような化学反応を起こしたのか。コミック「とりまとります」のCM制作を担当したカラーリストのRay Wan氏にインタビューを実施。富士フイルム特有の「緑」の表現力や、ACESを使用した混在ワークフロー、そして現場からメーカーへの「ポジフィルム調LUT」の実装要望まで、プロフェッショナルの視点からじっくりと語ってもらった。

――カラーリストの視点から、今回の素材の印象はどうでしたか?

Ray氏:

以前にもGFX ETERNA 55の素材を扱った経験はあるのですが、その時と変わらず非常にスムーズに作業できました。特に今回の撮影は山の中など自然豊かなロケーションが多かったので、富士フイルム特有の「緑」の表現力が際立っていましたね。

――具体的に、どのような部分が評価できますか?

Ray氏:

デジタルカメラだと、緑が一色に塗りつぶされてしまうような平板な表現になりがちなんですが、GFX ETERNA 55はフィルムのように豊かなグラデーションを描き出してくれます。同じ緑でも、濃淡や、黄色寄り、青寄りといった微妙なニュアンスが綺麗に出るんです。それでいてスキントーン(肌色)が濁ることもなく、自然で美しい発色をしてくれる。今回の作品には非常にマッチしていたと思います。

――今回のグレーディングにおけるコンセプトを教えてください。

Ray氏:

監督や撮影監督との打ち合わせで、90年代の映画「学校の怪談」がリファレンスとして挙がっていました。ホラー作品ではありますが、あまりシリアスになりすぎず、「ジュブナイル」的な要素――少しポップで、怖さの中にも楽しさがあるような世界観を目指しました。
作業手順としては、まず肝となるホラーシーンから着手し、そこから逆算して日常パートのルックを作り込んでいきました。ゾンビ映画のようなジメッとした質感ではなく、少しライトに見られるトーンを意識しています。

――作業する中で、何か気づいた点や要望などはありますか?

Ray氏:

発色が素晴らしく、フィルムライクな肌感を持っている点は非常に好印象です。ただ、現状のワークフローだと、いわゆる「ネガフィルム」的な状態から色を引き出していく工程が必要になります。もしメーカー側から、「ポジフィルム」的なトーンからスタートできるLUT(ラット)が提供されれば、より多くのクリエイターが手軽に富士フイルムらしい色作りを楽しめるようになると思います。これはぜひ実現してほしいですね。

――ARRI ALEXA 35との混在運用についてはどうでしたか?

Ray氏:

今回は富士フイルム公式のACES IDTを使用して、最初にテクニカルな変換を行い、ベースを揃えてから作業に入りました。もちろんカメラごとの違いはありますが、設計思想の根底に「フィルム」があるという点で共通しているのか、大きな違和感もなく非常にスムーズにマッチングできました。

――最後に、今後のGFX ETERNA 55への期待をお聞かせください。

Ray氏:

かつて世界的なフィルムメーカーだった富士フイルムが、国産のシネマカメラを出す意義は非常に大きいと感じています。サポートの手厚さや、日本的なきめ細やかな絵作りへの理解など、国産ならではのメリットも多いです。フィルムの遺産と最新のデジタル技術を融合させ、新しい「デジタルフィルムトーン」とも呼べるような世界を切り拓いていってほしいですね。