■DZOFILM Vespid Primeレンズセット
25mm、35mm、50mm、75mm、100mm、125mm、Macro 90mmの7本セット(EFマウントモデル):税込969,540円
問い合わせ先:システムファイブ

DZOFilmから、プライムレンズ7本セット登場

今回はとても興味深いプライムレンズを紹介しよう。というのも、レンズ選びで悩んで悩んだ挙げ句に一度は手にしたDZOFilmのプライムレンズである。以前、RED KOMODOにシネマズーム「DZOFILM Pictor Zoom」を選んだ理由の執筆時の好印象があるため、単焦点シリーズはさらに良いだろうと勝手に決めつけかかっている。ちょうど貸出期間が広島での撮影スケジュールと被っていたので、ホテルに直送してもらうことにした。

ホテルに到着して荷物が届いているとのことなので「部屋に持っていく」とフロントで伝えると、スタッフの子が「えっ」と言った。「?」と思っていたら、こちらの荷物状況を見て「お持ちしましょうか?」と言いながら台車を用意しはじめた。一瞬戸惑いながらも、フロント奥の部屋で棚から一生懸命下ろしている姿が見える。そして持ってきた箱が超巨大!その箱を見て、これはARRIのMaster Prime級(大きさ)のシネマレンズかと錯覚するくらいの衝撃で、ちょっと期待。

さすがにカメラバッグと一緒には持っていけないので、一緒に部屋まで運んでもらい、他の荷物はさておきすぐさまレンズの確認を。箱を開けると、さらに箱。メーカーからの箱が出てきて、それも開けたらPictor ZOOMレンズの時と同じデザインのケースが。DZOFilmはこのスタイルで統一しているのだと思いながら、ケースを開けると…。ちっちゃい…。

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
下のスーツケースもかなり大きめのものだが、それより一回り小さいくらいで、重さもかなりある。手持ちでの運搬はキツイ…

確かにレンズが7本入っているのだが、ケースの大きさに比べて、レンズの大きさが不釣り合いなくらいに小さい。一瞬固まってしまったが、とりあえず手に取ってみた。もともとコンパクトな物が好きな筆者にとっては、箱からのサプライズとは別に手にした時の重みや、質感がポジティブ方向に傾いているのが一目瞭然だった。

直ぐにKOMODOに装着してみたが、フィーリングは悪くない。というのも、KOMODO自体がRED最小のモデルであり、DSMC2に比べても小ぶりなのでコンセプト的には合うのが自然だろう。

25mmから125mmまでの7つの焦点距離をラインナップ

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
125mmでさえこのようにコンパクトなので、携帯性は抜群ではないだろうか

早速全てのレンズを取り出し並べてみた。ご覧の通り、非常にコンパクト感はあると思う。小さいのでポーチに入れてカバンの中に突っ込めるし、何より本数を多く持っていくことができる。専用ケースでの持ち運びは正直厳しいが、数本をカバンに入れて携帯できるところはかなりポイントが高い。しかも径が80mmなので、ほぼスチルレンズ並みの大きさである。フィルター径も77mmでスチルレンズからの流用、もしくは安価で手に入れやすいサイズだ。

実際にソフトクッションポーチ「HAKUBA KCS-37M」(内寸W130×H155mm)にちょうどよく収まったので、それに入れてトートーバックで持ち出していた。径の大きいレンズでは2本しか入らない状態でも、3本を入れられるのは表現のちょっとした可能性の広がりになるかと。またレンズの置き方をキャップ側で立てたのでわかりづらいが、マウント側で立てればフォーカスギア、アイリスギアの位置がすべて同じになる。これも最近のレンズの潮流になっている。レンズ交換後のフォローフォーカスの位置を再調整しなくて済むのでありがたい。

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
90mmマクロレンズが実は一番大きい

各レンズともギアの滑らかさは良い感じである。というのも、以前保有していたズームレンズのPictorで体験した途中での軽い引っ掛かりはなく、さらにはTOKINAのシネマレンズよりスムーズで軽いので、積極的に持ち出したくなる。ちなみにPictor Zoomの引っ掛かりも編集部から支給されたデモ機ではそれを感じなかったので、個体の問題だと思われる。

コンパクトさの評価はこれくらいにして、このレンズ群の構成はどうだろうか。25mm、35mm、50mm、75mm、90mm+マクロ、100mm、125mmの構成だが、正当感のあるわかりやすいセットだ。ただ個人的にはケースに表記されていて入っていなかった16mmは欲しかった。その代わり100mmが要らないと思った。正直、10mm違いは自分が動いて解決する自助努力でなんとかなるかと思っている。

16mmと25mmの間も9mmなので自助努力と言いたいところだが、広角側での違いは広がりに繋がるところなので、レンズで解決するしかないと思う。欲を言えば16mmよりさらに踏み込んで12mmであればかなり嬉しい話である。無いものねだりをしても仕方がないが、16mmがラインナップされるのは時間の問題だろう。ケースに表記されているのだから…。

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
純粋に7本組で考えると2/3の大きさで収まりそうである。16mmは表記されているので発売されるのであろうが、右端の2本は何mmで埋められるのだろう?

仕様上で気になるところは、ケース含めかなり頑張っているので、その分レンズキャップのチープさが残念であった。コストパフォーマンスの良いレンズメーカーに多いのだが、本体に影響するわけではないので、レンズキャップでコストを抑えるのがポイントなのだろう。ただ、本体含め頑張っているのであれば、ここも頑張って欲しかったのは強い願望である。もったいないの一言である。

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
実際の撮影現場。今回の撮影では積極的に使ってみた

落ち着き感のある素直な描写が特徴

では描写はどうであろう。一言で表現しなくてはならないのであれば「普通」である。良い意味でも悪い意味でもちょうど中間というか。「鮮明」とか「鮮やか」と表現されるような際立った個性を感じることはないが、だからといって"ダメ"なのかと聞かれれば、そうではないという本当に中間である。

滞在先のホテル(THE KNOT HIROSHIMA)のロビーをお借りしてショートデモリールを作ってみた。いつも通りRED KOMODOにEFアダプターをかませての撮影である。ご覧いただいた通り、それなりの映りになっていると思う。あえて"普通"と表現したのは、リールからもわかるように素直な描写で表現できる。

言い換えれば、個性のあるレンズはその特性を頭に入れて、仕上がりも予想しながらセッティングをする必要があるが、個性が無いことが逆に後から手を入れやすくもあり、まとめやすくなる。

9秒辺りのホテルサインも赤が飛び抜けて出たりせず、周りの色とのバランスが取れている。どちらかと言うと見た目に近い感じである。また10sec辺りの「エントランス」と書いてあるパネルのスチル感も良い感じで出ていて、シャープ過ぎずに落ち着いた画になっている。

特にシャープネスは掛けておらず撮ったままの画なので、この落ち着き感は好みである。12秒のフロントのカットも日本酒の金色の派手さも抑えられていて、人物も沈み過ぎないでいる。31秒のマスクはほぼ原色を再現できており、またフォーカスのギラギラ感もなく良い感じだ。おそらく同価格帯のスチルレンズだともっとパキッと映るのではないかと思う。言葉の表現としては「柔らかいフォーカス」とも言える。

個人的には映画としてはこの「柔らかいフォーカス」が好みであり、ヒューマンドラマでは相性が良いと思っている。ただ世間的にはシャープなレンズが好まれていると思うので、自身の好み次第かと思う。また全体的に若干ノイズが出ているが、これは撮影時の露出調整かノイズリダクションでカバー出来る。

プライムレンズとしての統一感を実現

次に各レンズの比較である。

画角と表現力のチェックであるが、やはり前述のように90mmと100mmの画角差が大きな変化になっていないので、違うセッティングをした方が良いかもしれない。

このプライムレンズで気になる点は25mmの収差である。これはPictor Zoomでも超広角側で感じたことだが、レンズ補正で収められるのでどう解釈するかだと思う。というのも、この価格帯ということでの妥協点として捉えられればさほど気にすることはなく、一手間かかると思えば済むからだ。収差のないレンズを望むのであれば、お財布との激論になることは必須である。ただ大体は負けてしまうのだが…笑。

また35mmも若干収差が出ているのが気になるが、シネマレンズの選択とした場合はやはり許容ではないだろうか。気になった点は収差だけではなく、25mm、35mmでのカウンターチェアの座面のボケでの色にじみである。さらにサッシのフレームや遠景のビルの輪郭でも色にじみが出ているが、広角レンズでの特性でもあるので、自身で許容かどうかの判断が必要になる。これもお財布との相談になるので、予算と何を撮りたいかで判断されると良いだろう。

そしてどのレンズもプライムレンズとしての統一感があり、番手を変えたからといって画が変わったり、操作性が違ってしまうことはない。また90mmを除いて全てT2.1という明るさで、T値までが統一されている。90mmはマクロレンズと言うこともありT2.8になっているが、それでも明るいレンズであることには変わりない。50mm以上のレンズはほぼ同じテイストに仕上がる。

90mmマクロレンズは特別な存在

その中で90mmマクロレンズは特別な位置を占めた。これは結構気に入った。ボケ玉が綺麗な丸で出てかなり好みだし、ピントを合わせた時にグッと寄ってくる感じ(フォーカスブリージング)も特徴的で、面白い画作りが期待できる。普通はフォーカスブリージングしないように設計し製品化するのだが、あえてブリージングするようにしたのだと信じたい…笑。これはイメージカットやポートレート的な画作りに使えると前向きに解釈した。

またピントがシビアで、「Irix CINEレンズ4本セットを試す」の時は回転角が180°でのありがたさをレポートしたが、今回は270°のありがたさを実感した。特に遠景での合わせがシビアで、無限大から先に戻りがあり、何度も行き過ぎてしまうことがあった。合ったと思っても奥まで行き過ぎてしまうので、結局ピントが合ったところで止められずピンズレを起こしてしまう。これは要注意点である。

またこの径の小ささなので、270°の回転角は苦にはならずに済んだ。径の大きさと回転角の広さは関係してくるので、選ぶときは注意されたら良いと思う。また価格的にソニーSEL90M28(FE 90mm F2.8 Macro G OSS)やキヤノンRF100mm F2.8 L MACRO IS USMのスチルレンズと被り、それらの方はレンズ機能で手ブレ補正が付いていたり、スペック上では確かに優位性を持っているように思う。ただより映画らしくという点を意識し、スチルカメラとの兼用を考えないのであれば、プライムレンズの選択も面白い。

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
90mmを装着した佇まいは嫌いではない。小さいながらも存在感がある

そして125mmだが、望遠でこの大きさというのは驚きである。望遠になればなるほど筐体が大きくなっていくものだが、望遠でジンバルを使えるシチュエーションはウェルカムではないだろうか。KOMODOの場合、1kg以上(正確には測っていないが)のレンズを付けるとEFアダプターの重量も加わり完全に前重になるので、後ろ側にバランサーを付ける必要がある。

このプライムレンズだとギリギリでバランサー無しで取り付けられるのもメリットかもしれない。同じ90mm相当のレンズをバランサー無しで付けようとすると、スチルレンズを選択しなくてはならないだろう。ただしRF85mm F1.2 L USMのような大玉であれば、1.2kgくらいあるのでそれも叶わない。が、オートフォーカスと手ブレ補正、圧倒的な明るさは手に入れられるが…。

DZOFILM VESPID PRIMEサブ写真
筐体のスチル感がシネマレンズ然としている。樹脂感は皆無で、質感はモチベーションにも繋がる。iPhoneが良い例で、裸族で持った時の感触に近い

映画テイストとしたシネマプライムレンズ

このレンズはスチルのようなパキッとした画を望む方にはハマらないかもしれないが、映画テイストにまとめたいという方には試してみる価値があると思う。メーカー側もより映画らしく映せることを意識し作っているのだろうと感じた。価格は7本セットで税込969,540円の設定なので、単純に7で割ると一本あたり約138,500円である。スチルレンズの中堅どころと同じ価格でのシネマレンズである。サイズもスチルレンズ並で扱いやすく、シネマ撮影の入門と思えば良い選択になるかもしれない。それらを総合的に判断すれば悪くない選択肢の一つになるだろう。ただ好みがはっきりでるので、店頭で確認されてからの購入をオススメする。

またこれら低価格帯レンジのシネマレンズの選択をする時には価格を非常に意識するので、どうしても海外でのネット通販を利用したくなる。しかし筆者が以前「DZOFILM Pictor Zoom」の記事で書いた海外ショップ購入でのトラブルは未だ解決できていない。それと併せて初期不良の対応も考え合わせたら、国内正規代理店で購入することを100%オススメする。無駄なエネルギーを消耗しないためにも。

松本和巳(mkdsgn/大雪映像社)
東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。本年初夏に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の劇場公開に続き、広島の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の製作中でもある。また"シンプルに生きる"をテーマに生き方を問う映像から、人に焦点をあてたオーラルヒストリー映画を積極的に取り組んでいる。代表作:「single mom 優しい家族。」「a hope of nagasaki 優しい人たち」「折り鶴のキセキ」など

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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。