皆がメディアアートに対して他の美術とは違う特別な思いを持つのはなぜだろう。その理由は他の美術とは異なる期待を持たせてくれるからということができる。

美術がその作品を通じて美しさや社会や鑑賞する者に訴え掛ける力を期待しているのに対して、メディアアートはそれに加えて今まさに私たちの生活を支えているテクノロジーやこれから先のテクノロジーの可能性を見せてくれるクリエイティビティに対して期待を求めているのだろう。 まさに私たちの今の生活からつながる未来のリアリティを現実のものにするメディアアートこそ、皆が魅力的と思えるメディアアートということができる。今回は、そんな未来に向けたクリエイティビティを喚起させるメディアアーティストたちを紹介することで、メディアアートが喚起する少し先の未来とは何かを感じてもらいたい。

ゲームにアンリミテッドな刺激を

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PainStation

テクノロジーの限り極限までエンタテイメントを追求する。それがゲームを送り出すことの冥利ということができるであろう。そしてゲームの可能性を目指して世界中のデベロッパーが日々新たなゲームを開発し続けている。今までにないものは何か? それはやり尽くしたからもっと別のものを。貪欲に才能を浪費することでアンリミテッドな可能性をゲームに追い求める。とはいえゲームがおもちゃであるが故に、極めて厳しい制限の中での追求でしかない。厳しい制限。それはあらゆる意味で極めて安全であること。そのために失われる刺激ははかり知れない。虎は家で飼いならすことが出来ないが、ねこは飼いならせるように。

そのおもちゃであるが故のゲームの制限を取っ払うことが出来るのがアートの力である。ドイツの古都・ケルンに、感覚をアンリミテッドに追求するエンターテインメントをアートにするメディアアーティストのチーム「/////////// fur ////」が活動をしている。彼らが世界に衝撃を与えた最初の作品はアーケードゲームマシーン。

「PainStation」というこのマシーンは、古典的なビデオゲームである「ポン」をする対戦型アーケードであるが、刺激がアンリミテッドに襲ってくる。なんと負けると電気ショック、鞭、電熱とそのコンボが襲来するのである。勝敗は点数ではなく、どれだけ痛みに耐え、ギブアップしないかを試される。

まさに決闘のアーケード、まさに漢のゲーム

このおもちゃである以上安全でなければならない制約をアートとして取っ払ったこの危険で自由なゲームは、まさにエンターテインメントすらもアンリミテッドにできるメディアアートの存在を十二分に活かしたものである。「PainStation」という名前とまさにプレステに似たロゴは、この作品の存在が世界中のテクノカルチャーシーンで沸き立つにつれてソニーの逆鱗に触れることになり、「PainStation」の名称とロゴの活用の指し止めを提訴した。このゲームの可能性をアートであるからこそ高めることができた存在に対するソニーの姿勢に対し、すぐさま世界中のテクノカルチャーシーンは反応を示した。アートに対して商業的制限を押し付けるのかと。この椿事がより「PainStation」の存在をグローバルに知らしめる結果にもなった。「PainStation」というアンリミテッドなエンターテインメントを提供するアートは、まさにゲームの可能性を喚起する熱狂の中に投じられたのである。

このソニーとの紛争は、アートとして非営利な存在である限り「PainStation」の名称とロゴの活用を ////////// fur //// に認めるという結果となった。今、「PainStation」はバージョンアップを重ねながら、メディアアートだからできるアンリミテッドなエンターテインメントのシンボルとして、世界中の展覧会やゲームイベント・カルチャーイベントへの招待が続いている。2006年、日本に初めて筆者が「PainStation」を持ち込んだとき、連日各社のゲームクリエーターたちが訪問、ここまでは製作出来ない(したいなあ)と嬉しそうに決闘にいそしんでいた笑顔が印象的であった。

/////////// fur //// は今も、人間の感覚をアンリミテッドに刺激する「エンターテインメント」の開発をアートプロジェクトとして送り出し続けている。

自由にメディアを操る

テクノロジーの前に自由であること。その無限の可能性を私たちに示してくれるメディアアート。それを暴力的に叩きつけることで忘れ得ない体験に高めてくれるのが「ドラびでお」である。 「ドラびでお」は現代音楽家でありドラマーの一楽儀光が、ドラムセットをスイッチャーにして映像をカット&ミックスでコントロールするメディアアートパフォーマンス。

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ドラびでお

暴力的ドライブのかかったドラムプレイにあわせて、様々なメディアからフィーチャーした注目の映像がミックスされ、新たな衝撃を高めてゆく。音と映像そしてリズムで激しく繰り出される強い刺激がミックスした体験は、映像メディアが持つ刺激の極大化がもたらしてくれる。その圧倒的体験の前に聴く者全てが疲労感ともにまるで肩こりが抜けたような爽快感を味あわせてくれる。 「謝罪」の数々や「お掃除おばさん」歴史的なミュージックプレイなど、世界中から集められた「注目映像」の数々を大画面でドラムのスイッチングとともに刻む映像体験は、自ら映像や音源を収集し、自分の世界を構築したいという誰もが持つであろう密かな思いを、メディアアートという状況を基本とすることでアンリミテッドに実現させている。まるでスーパーのお米のように安価に手に入る大量のデータ容量やマシンパワーとYouTubeなどのプライベートだが多くの人と喜怒哀楽をシェアできるメディア発信手段を獲得した現代人にとって、リニアに見る映像体験から、自ら編集しそのことが得もいわれぬコンテンツ価値を創出させる、私たちとメディアとの付き合い方の少し先の姿を衝撃的にかつ楽しく見せてくれるのが「ドラびでお」の気ままなメディアアートパフォーマンスなのだ。

このように映像やテクノロジーを取り巻く未来予想を業界的なプレゼンなどではなく、クリエイティビティで見せて、体験させてくれるメディアアート。それこそが私たちが、そして多くの普通の人にとってのメディアアートへの期待であることを自ら再認識させながら、私にとってのお気に入りのメディアアートを探し、より期待に応えられるように付き合ってもらえればと思う。

クリエイティブクラスター始まる

みなさまの期待に応えられるメディアアートを紹介し広げるために、NPO法人クリエイティブクラスターがこの3月に横浜と京都、大阪を拠点して発足しました。この連載もリンクしながら、それぞれの「お気に入り」になれるメディアアートを紹介し、付き合える場を作ってゆきます。

早速お気に入りの体験「ドラびでお」をあなたに実際に期待に応えられるメディアアートをお届けする企画が始まります。第一弾は今回触れました「ドラびでお」。直前の紹介で恐縮なのですが、メディアアート展示の関東の拠点として彗星のように現れた横浜のZAIMが3月末に展示機能をクローズするという残念な出来事を記念しての開催です。築80年の味わいあるビルの中からこだまする衝撃をお楽しみください。
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春の「どらビデオ」まつり ~さよならZAIMホール

  • 3月27日(金) 20:30-22:00
  • 会場 横浜創造界隈 ZAIM別館 2Fホール(京浜東北線「関内」下車・みなとみらい線 -東急東横線直通「日本大通り」下車)

詳細はこのリンク もしくはクリエイティブクラスター公式サイトを御覧ください

WRITER PROFILE

岡田智博

岡田智博

クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。