夏が終わり、秋が始まる頃になると、毎年うれしさ半分と焦りを感じつつ湧き上がる感情がある。InterBEEである。云わずもがな映像業界に携わる者必須の展示会である。今年も映像業界の動向を探るイベントがやってくる。
最小限の力で最大の効果を狙うのにはどうすればよいのか?2007年、2008年と我々PRONEWS編集部では総力を挙げて取り組んできた。特に映像班は思案のしどころである。「今年はどういう趣向で行こうか?」と一年中InterBEEに向けて思案中なのである(註:編集部本体はそんなことはありません)。さて今年はどういう展開でInterBEEを取材していくことになるのか?今年はその舞台裏を見せつつPRONEWS編集部映像班の一部始終を見ていただきたい。
2009年は何を企てるか?
2007年時のPRONEWS編集部映像班。速報性命の3日間。 |
2008年時のPRONEWS編集部映像班。1秒を惜しんで編集に励む…。 |
2008年時は最新の機材を使用。今年もソフトや機材選択に頭を悩ます… |
これまで編集部映像班のInterBEEでの足取りは、2007年、全ブース動画で網羅。おそらく展示会史上初のことで各方面から反響をいただいた。300ブースをすべて動画取材し、現地からアップロードし、最終的な取材映像ファイルは800 を超えた。2008年はさらに高解像度を狙い、ブースで担当者の肉声によるサービスや商品説明を撮影した。最小限の機材で最大の機動性と速報性を実現するためにYouTube を極限まで活用するフローを用いている。スタッフはすべて撮影に専念し、編集をいかに省くかというテーマのもとにフローを考えた。結果、瞬間ではあるがYouTube でのアクセス数が世界中で56 位を記録し、PVは、50 万を超えた。手前味噌ではあるが、この試みは、Web 動画界そして映像業界においても、これからの良き試金石となったと言えるだろう。それだけに2009年の企画は、どうするか?プレッシャーなのである。
早速、1年ぶりに編集部映像班が再集合し、企画が始まった。今年もぜひ効果的な動画取材を行いたい。しかし、乗り越えなければならないハードルもいくつかある。実際にInterBEE会期中3日間では来場者がすべてのブースを回ることは不可能である。厳選されたPRONEWSアーカイブを参照することによって、見逃したブースをキャッチアップすることができる。PRONEWSでは会場の雰囲気を伝えつつ、いつでもブースの詳細を知ることができる。この部分が大きなキーワードといえる。通常映像フローでは、撮影素材をPCに取り込み、編集ソフトで編集してエンコードしアップロードする工程が必要となる。カメラ内の映像ファイルのコピー、編集、編集したデーターにエンコードには最低でも30分という時間を要する。
しかし、3日間という限られた時間内で多くの映像を処理するためには、膨大な時間と多くの編集スタッフが必要とされる。しかしなんとか最小限で行いたい。まずは機材選定と編集のワークフローという2つの課題が頭をもたげた。テープレスで時間短縮は言うまでもない。ファイルフォーマットも考慮しつつ、かつ安いものを選びたい。その中でも今回は時間短縮の要、編集ソフトウェアについて考えてみようと思う。今回トライしてみようと思っているのは、無理の効く編集ソフトウェアだ。
絶えず挑戦し続けることが大事!ここ一番のソフトウェアとは?
ノンリニア編集環境といえば、通常は馴れたソフトウェア1本を使いこなすというのが定番であろう。細かい操作方法をそんなにいくつも覚えられない、そして慣れてないといったところだろう。それがAppleやAdobe製品のようにパッケージ化してしまうと、もうおいそれと別のソフトには手を出せない。とはいえそれぞれの編集ソフトウェアの基本は同じで、3日もあれば、ほかのソフトへの転向は用意だろう。
実際に仕事先の環境如何でソフトが異なるという場合もあるだろう。一見つまらない話のようにも聞こえるが実はそうではない。プロがそのソフトを選択するには、それ相応の理由がある。世の中にいろんな映像の需要があるなら、それに見合った制作環境が必要になる。何ヶ月も撮りためた膨大な素材をじっくり吟味し繋いでいくハリウッド映画、サーバーに上げられたニュース映像を数分後にはオンエアしたいテレビ局、殆どのカットが一分未満のCMとそして会場から即日アップするようなWeb用動画。これらが全て編集環境が同じであるはずがない。高価なプロ用のソフトは何でもできると思われているようだが、その反面、ある種の使用目的に特化しているとも言えるのだ。
中でも「ファイルの互換性」、「処理速度」といった点は目的を間違えるととんでもなく辛い思いをすることになる。今回採用しようと映像班がひそかに提案しているのが、Sony Creative Software社謹製の Vegas Pro9 だ。まさに二つの点において非常に特化したソフトだと言えるのだ。日本では、聞きなれないかもしれないが、北米では、Final Cut ProやPremiere Proについで3番目のシェアを持つ。
▲切った貼ったで作品完成!というほど使いやすいインタフェース設計
Vegas Pro9を推している理由
パッケージ新旧比較(左)Sony Creative Software社 (右)Sonic Foundry社 |
Vegas Pro9を推しているには訳がある。通常の編集ソフトとは毛色が違うことがあげられる。Vegas Pro9(以下:Vegas)は、その音楽畑出身のソフトウェアなのだ。それもそのはず、Vegasは、そもそも音楽ソフトウェアメーカーであるSonic Foundry社が産み落としたソフトウェア。映像編集をされる方でもACIDという音楽ソフトは、聞いたことがあるのではないだろうか?ACIDは、オーディオループベースのシーケンサーソフトウェア。テンポの違うループも簡単に合わせ曲の作成からリミックスなどが簡単に実現してしまい、音楽の知識無しにパズル感覚で音楽制作が可能になる。その器用な思想がVegasにも脈々と流れている。
これは全くもって持論なのであるが、音楽を扱う人が映像を扱うとうまく行く時はあるが、その逆は皆無。同じくミュージシャンが映画監督になることはあるがその逆はほとんどない。音と映像は密接な関係があるのは言うまでもないが、映像は音ありきで成立している。Vegasは、それを感じさせてくれるのだ。
その他にも異常なほどに新しいフォーマットを最速で取り入れ最適化するのもうれしいところだ。そのスピードは今も健在で、AVCHDでもストレスなく、簡単に編集可能で、つい先日のバージョンアップでRED社のr3dファイルも同じくスムーズに扱えるようになった。Vegasの誕生は、Vegas Musicという音楽編集ソフトにビデオ機能がおまけ程度に存在していたもので、映像に音をつけることに特化していたが、後にVegas Videoに進化しSony Creative Software社が、Sonic Foundry社のソフトウェア部門を買収し、2003年にリパッケージされて、再び陽の目を見ることになった。現在でも音に関しては、他の映像編集ソフトの追随を許さない。
というわけで、Vegasに思い入れがありすぎて、序章が大きくなってしまった…。さて次回は、このVegasを編集という面から再検証してみたい。