アドビ システムズが2009年10月23日に赤坂ブリッツで開催したAfter Effects Night Vol.03。その参加者のなかからパナソニックAVCCAM AG-HMC155のモニターに当選したのが、オフィスカラーズの田代悦嗣氏だ。

オフィスカラーズ(東京都港区)は、プロモーション映像やイベント映像を、企画から撮影、編集、納品まで一貫したトータルサービスとして提供する映像制作会社だ。扱っている制作分野も、CM用、Web・ストリーミング用、イベント用、DVD配布用、デジタルサイネージ用と幅広く、さらにドラマやドキュメンタリーなどのTV番組企画・制作や、展示会情報&展示会映像ストリーミングサイトi-nori.tvの運営も行っている。オフィスカラーズでは、AG-HMC155モニター当選を機に、Adobe Creative Suite 4 Production Premiumを追加導入し、Premiere Pro CS4を活用し始めた。モニター当選から4カ月余りが過ぎ、どのように活用し始めたのか取材してみた。

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田代悦嗣 代表取締役

オフィスカラーズの代表取締役で、制作ではディレクターも務める田代氏は、最近の映像制作の動向について「撮影だけでなく編集も一貫して行う時代だなと感じて会社を立ち上げたのが5年前になります。企業映像を中心に、テレビ番組や展示会映像、Web用映像などの制作を行ってきました。最近では、チラシを利用してサイネージ用のFlash動画を制作できないかという相談が増え始めています。あと問い合わせが増えてきているのはステレオスコピック3D映像ですが、この部分については、まだ様子を見ている段階です」と話した。


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田代氏がモニター当選したパナソニックAVCCAM AG-HMC155(本体のみ)。ガンマイクを付けて会社で運用を開始した。

オフィスカラーズでは、ポストプロや放送局、外部クリエイターとの作業連携性を重視して、コンポジット&フィニッシングワークについてはAdobe After Effectsを使用してきたが、編集作業については他社ノンリニア編集ソフトウェアを活用してきたという。編集はMacで行っているが、コンポジット&フィニッシングやFlash制作、Photoshop/Illustratorによる素材制作はすべてWindows環境に統一しているという。企業映像の制作はSDが中心であることもあり、カメラレコーダーはDVCAMやP2CAMを保有。HD収録が必要になる場合は、これまでは撮影も含めて外注していたという。オフィスカラーズにとって、モニター当選したAG-HMC155が初めてのHDカメラ機材導入となった。

「AVCCAMは用途や作風によっては、非常に効果を発揮しますね。メモリーカムを使うことの不安を聞きますが、P2CAMを使うことも増えていたので、テープレス収録に関しての不安はありませんでした。むしろ、展示会映像など限られたスペースで効率よく収録するなど、機動性が欲しい場合は、非常に取り回しの良いカメラだと思います。P2では収録と同時に素材コピーをしていく必要もあり、機材が増えます。AVCCAMは16GB SDHCカードを使用していますが、フルHD最高画質のPHモードで1日1枚というのが目安で、余裕を見て3枚使用しています。軽量で機材が減るのでアシスタントクルーも1人減らせる、電車移動も可能になるといったメリットもあり、制作費全体でのコストパフォーマンスにも優れていると感じます」(田代氏)

コーデック変換せず複数を混在できるネイティブ編集

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大谷唯史 氏

オフィスカラーズではこれまで、CS3 Production PremiumのAfter Effects/Photoshop/Illustratorを活用してWindows上で制作をしてきた。今回、AG-HMC155のモニター当選を機に、CS4 Production Premiumを導入、Premiere Pro CS4による編集をし始めた。Premiere Proで編集作業をしている大谷唯史氏は、使い始めた印象について次のように話した。

「ノンリニア編集システムの基本的なカット編集作業はどのソフトウェアを使用しても同じなので戸惑うことはありませんでした。しかし、用語やメニュー階層の違いや機能面の違いなどについては、実際に作り込み作業を行って、2~3時間かけて慣らしていきました。Premiere Proはネイティブ編集を謳っているだけに、収録後にキャプチャ作業をすることなく、素材をコピーするだけで編集を始められることは、非常に助けられています。特に、カードリーダにSDHCカードを挿入するだけで、メディアブラウザで収録映像ファイルの参照/検索ができ、必要なファイルだけをビンにドラッグ&ドロップできるので、よりカメラレコーダーとPremiere Proとの連携性が向上していますね」

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メディアブラウザ

従来は、夜遅くに収録から戻り、素材をビデオキャプチャしたり、カメラコーデックから制作コーデックにトランスコードする長時間の作業が必要になっていたという。終電までに帰れないということもあったそうだが、Premiere Proのネイティブ編集は、コピーさえ終わってしまえばいつでも編集を開始できるため、作業時間も効率化できた。

「企業映像を扱っていると、複数のカメラコーデックが混在することはもちろん、クライアント支給のCM素材や民生ビデオカメラの映像、QuickTimeやWindows Mediaなどの映像メディアファイルなども扱わなければならないケースがあります。こうした時に、ネイティブで読み込んで編集できるかどうかは、大きな強みですね」(大谷氏)

オフィスカラーズは現在、展示会映像ストリーミングサイトi-nori.tvの運営を行っている。今回AG-HMC155とPremiere Proを活用して、展示会全体が分かる数分間の記録映像とブース出展社の紹介映像の制作を行った。会場全体の収録は1日間、ブース映像については1ブース1~1.5時間の収録だったという。Premiere Proのネイティブ編集を活用して、収録後の編集作業もスムースに行うことができたようだ。

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オーディオミキサー

「制作予算に合わせて、MA・音響効果の作業を依頼することもありますし、社内ですべて仕上げることもあります。今回の制作では、マイク2本の音声と、BGMを組み合わせる必要がありましたが、Premiere Proのオーディオミキサー機能を使用して、全体の調子を整えることができました。このオーディミキサー機能は便利ですね」(大谷氏)

今回は最終的に映像をDVDに書き出す形で納品した。企業映像の制作では、スタンダードな方法だ。現在、納品先が放送局の場合は、編集作業終了後にポストプロでHDCAMへ書き出しを行ってテープ納品している。

「企業向けの場合はDVDで納品することが多く、PC再生用の映像データを添付するケースが増えてきました。Blu-ray納品についても案件が出てき始めた段階で、これから増えてくるメディアとして捉えています。すでにBlu-rayの書き出しにも対応しているので、Premiere Pro/After Effectsとの連携を試していきたいと考えています」(田代氏)


高品質なタイトルが制作効率を改善する

最近の映像制作では、テロップの量が以前よりも増える傾向にあると、田代氏は言う。

「車内広告や電子ポスターなどデジタルサイネージの影響は大きいですね。デジタルサイネージは音の再生環境が十分に整わない場合もあり、映像だけで伝えなければならないことが増えています。オフィスのPC環境では音を再生できないケースもあるので、そういう人たちに分かりやすくしようとする傾向があり、どうしてもテロップ挿入が増えてしまうんです」

テロップはこれまで、Photoshop/Illusutratorで作成して映像に重ねることが多かったそうだが、Premiere Pro/After Effectsではタイトル表現がしやすく、品質も高いことから、プロジェクト内で直接扱うことも増えてきたそうだ。

「企業映像を扱うこともあって、完全に仕上がるまで、クライアントから細かい修正が何度でも入るということが多いんです。テロップには、企業が読ませたいもの、注釈用のもの、コンプライアンス規定に沿って必ず入れておくものという3つがあります。極端な場合では、最小文字級数指定で1行文字数が指定されていたり、さらに全体の半分以上のカットで画面下半分に注釈が入るなんてこともあります。その注釈が、作業中に減ったり増えたりすることは常にありますから、テロップの品質と作業性は重要なんです」(田代氏)

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三行英登 氏

デザインワークを担当する三行(みゆき)英登氏は、「1行文字数の上限が決まっていると行数か枚数を増やすしかなく、それを読ませるための時間も必要になります。After Effectsはタイトルの表現品質が高いので、アニメーション作業と同時にテロップ作業やレイアウト作業が行えます。つまり、動きの中でデザインすることが可能になりました。読み尺やタイミングを測りなから文字配分を決められるので作業性が高まります」と話した。


After Effectsは細かくネスト化して作業性を改善

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もともと紙媒体のデザイナーだった三行氏はPhotoshopやIllustratorを使った紙面デザインの延長線上で、After Effectsを使い始めたのだという。そんな三行氏が、AfterEffectsの制作で工夫しているのは、コンポジションの細かいネスト化だ。メインのプロジェクト内でフォルダ構造状に細かくネスト化を行い、パッと見で何をしているのかを分かりやすくしているそうだ。ネスト化については賛否両論あるが、デザイナー視点では全体を把握しやすいそうだ。

「三行さんのプロジェクトファイルはきれいなんですよ」と田代氏は話す。「デザインワークでIllustratorを使いこなしていたこともあって、他の人が見ても分かりやすいレイヤー構造/ネスト構造にしているのはすごいと思います。映像クリエイターは、”…のコピー”と”…のコピーのコピー”とか付いていても気にしないことも多くて、他の人がみるとどういう構造なのか分からないことも多い。きちんとレイヤー構造を整理することは、結果的に修正もしやすく、作業性の向上にもつながるので、他の人も見習って欲しいですね」

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田代氏は、今後の次世代Creative Suite環境にも注目しているようだ。今後の環境はまだ未定とはしながらも、次のように話した。

「32bitだと、メモリ容量の制限や、ファイルシステムに起因するファイルの4GB制限などがあり、非圧縮ファイルの書き出し中に止まってしまったりという苦労はありますね。次世代Creative Suiteのビデオ製品は64bit版限定になると聞きました。制作環境の全てを今すぐに64bit環境に変更することは出来ないですが、64bit版での作業性には期待しているので、徐々に変更していくことになると思います」(田代氏)

WRITER PROFILE

秋山謙一

秋山謙一

映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。