オートデスクは、4月に米ラスベガスで開催された2010 NAB Showにおいて、ビジュアルエフェクト製品Flint/Flame/Inferno、エディトリアルフィニッシング製品Smoke/Smoke For Mac OSX、カラーグレーディング製品Lustre、コンパニオンソフトウェアFlareの最新版2011バージョンをそれぞれ発表した。今回のバージョンアップでは、全製品においてステレオスコピック3D(S3D)のワークフローに対応した。
各製品2011バージョンでS3Dワークフローを構築
インダストリーマネジャーMaurke Patel氏 |
「2010 NAB Showでの大きなハイライトは、ステレオスコピック3D(S3D)のワークフローを、CGやVFX(ビジュアルエフェクト)から、編集やカラーグレーディングまでを完全な形で構築したことだ」と、Autodesk Media & EntertainmentのインダストリーマネジャーのMaurke Patel氏は、今回のS3Dワークフローの取り組みについて話し始めた。「S3D制作ワークフローについては、ディズニーやドリームワークス、ソニーピクチャーズ イメージワークスと緊密に連携しながら、2~3年にわたって開発を続けて来ていた。2009年は、Maya、Maya Composite、LustreにおいてS3D対応を果たしたが、今年は同様の機能をFlame、Smokeをはじめとするクリエイティブ フィニッシング全製品に搭載することにした」
Maya 2011でステレオCG機能面を強化すると同時に、この機能をFlame、Flare 、Smoke、Lustreに活用することでS3Dのフィニッシングを可能にしたものだ。
「3DCGのステレオカメラを、オートデスクのすべてのソリューションに一貫性をもたせた形で採り入れることができるかどうかが重要だった。クリエイティブなS3Dコンテンツ制作においては、3DCGが大きく関与して来る。CGによるVFXはさまざまなシーンに活用されているが、S3D制作ではVFX部分も含めて一貫性を持たせた形で行う必要がある。最終的に実写とCGを組み合わせたS3Dコンテンツを仕上げられるようにするために、3DアーキテクチャのコアであるActionに、FBX技術を用いた標準ステレオカメラリグとして3Dカメラリグ機能を開発した。この3Dカメラリグによって、Mayaで設定したステレオカメラと、FlameやSmokeのステレオカメラを同じように設定できるようにした」
3DCG、カラーグレーディングだけでなく、編集、VFX、フィニッシングの各製品においてS3D制作を可能にしたことで、素材を共有しながら同時進行でS3D制作を行うことが可能になって来た。
Image courtesy of McRAY Corporation3DアーキテクチャのコアであるActionでは、Autodesk FBXからのインポート機能をもたせ、ステレオ オブジェクトとステレオ カメラ リグをサポートした。画像はAutodesk Flame 2011。
クリエイティブ性を向上させる制作環境部分に注力
今年の2010 NAB Showでは、各社がS3Dライブ制作に対応する製品を投入してきた。こうしたリアルタイムの生中継ソリューションについてPatel氏は、オートデスクの取り組みは、映像の生中継部分ではないと話した。
「当社は、時間をかけて行うクリエイティブな制作分野に注力し、その環境でハイクオリティなコンテンツを制作してもらうことが仕事。スポーツ生中継などはリアルタイム映像の組み合わせが中心になり、当社が取り組む分野ではないと考えている。当社は、得られた映像に対し、クリエイティブな要素を加え、マスターアセットとして保証できるクオリティに仕上げるためのソリューションを提供している。特に、S3D制作おいてはマスターアセットをどうハイクオリティに仕上げるかが重要で、正しい立体感を作り出せなければ、見る人が不快感を持ち、結果的にコンテンツを見る人がいなくなってしまうだろう。唯一、ライブでの取り組みと言えば、3DCG分野になるだろう。例えば、映画『アバター』のような制作は、まさに今後のデジタルエンターテインメントとしての可能性の1つだと思う。監督が指示した役者の演技を、モーションキャプチャ機器を使用してリアルタイムに取り込み、MotionBuilderを使用してCGキャラクターの動きをリアルタイムで付けていくものだ」
映画、テレビ、DVD、Blu-ray、モバイルなどさまざまなメディアを通じて提供されるコンテンツ。さまざまなメディアフォーマットで提供する必要があり、しかもそれぞれが異なる配給・配信会社である場合もある。オートデスクは、これらを書き出すワークフローをどう構築するかという課題についてPatel氏は、トランスコード部分はトランスコーダ開発会社のソリューションに委ね、オートデスクはトランスコーダに渡すマスターアセットのクオリティを高めるソリューションの提供に集中すると力説した。
「制作者の皆さんは、トランスコード部分を心配し過ぎているようだ。コンテンツが、さまざまな配布フォーマットの中から、どのようなフォーマットを選べば収益が出るかと考えるのはディストリビューション側の問題だ。むしろ、その前段階でマスターアセットをどうハイクオリティにするかに気を配るべきだろう。当社のソリューションを使用して、最もクオリティの高いマスターアセットが提供できるようにしておきさえすれば、ディストリビューション側で目的に応じた他社トランスコーディングソリューションを使用すればいい。このトランスコード部分はロジスティックスの問題であり、当社が集中しているクリエイティブ面の強化とは異なるものと考えている」
編集・フィニッシングとトランスコーダの役割分担で、システムを明確に分けるワークフローだが、それであればトランスコーダ開発会社との協業や連携はどうなっているのか。
「トランスコーダ開発会社との連携がないわけではないが、当社が標準的なフォーマットでマスターアセットを制作すれば、トランスコーダの会社がメディア変換することは問題なく対応できるはずだ。トランスコーダに受け渡すのための専用中間ファイルフォーマットを作ることはしない。そのようなものを作っても、新しいメディアが登場してトランスコーダが使われなくなれば、ファイルフォーマットを開発したこと自体が無駄になってしまうからだ」
S3Dライブ制作はオートデスクの注力する分野ではないと話したPatal氏だったが、スポーツなどのS3D生中継番組が増えていくことへの期待感もあるようだ。
「現在、S3D制作が成功している分野は映画だが、テレビ市場やゲーム市場においても、S3Dへの関心は高まっているのを感じている。テレビ番組ではスポーツやコンサートの生中継などだ。こうした番組が増えていくことにより、そのプロモーション映像やCMなど、オートデスクが注力するクリエイティブな制作分野においてもS3D制作にしていく必要が生じてくるはずで、期待している」
S3D制作をワークフロー全体で考えていくソリューションが、ようやく出てきたことは喜ばしいが、取材を終えて、モノ足りなさも残った。Patel氏が言う「クリエイティブな制作環境部分に集中して開発」「マスターアセットをどう使うかはディストリビュータ判断」との答えは模範解答に過ぎない。確かに、トランスコーダをメディア変換する機能と位置づければ、マスターアセットのクオリティを可能な限り高めておくという主張は理解できるし、そうすべきだと思う。複数の配信メディアによって異なるアスペクト比や解像度、配信地域に応じた字幕、コンテンツ規制に応じた映像のカスタマイズ(モザイク挿入やシーンカット)など、単にメディア変換ともクリエイティブとも言い切れない作業もあり、1つのマスターアセットで全てをカバーできるとは思えない。オートデスクの取り組みがどうなされていくのか、引き続き注目していきたい。