Vegasが、この10月のバージョンアップでVegas Pro 10となる。待ち望まれた新バージョンである。今回は、3D編集等のアップグレードが主な売りだ。現時点では、まだ触れていないが、楽しみである。いずれここでも触れていこうと思う。
音を最適化するということの罠
さて音楽映像。まずは音楽である。前回書いたようにCD44.1KHzに対してDVDで96KHz、Blu-rayで192KHzというサンプリングレートを持つ訳だが、今回の企画では最終的にDVDで配布する事を考えて96KHzでの音源制作に臨む事にした。このサンプリングレートの違いはレートの違う映像のグラデーション部分を想像してもらって良いと思う。つまり音のスムーズさが違ってくるわけだが、目で見るのと違ってなかなか分かりにくい物だ。ちゃんとした再生装置とスピーカーやヘッドフォン等で聴くと分かるがそれを言葉にするのはまた難しい。
あえて言うとすれば全体の透明感や空気感が違ってくる。逆に言うと透明感や空気感を重んじない音楽に大してはあまり意味のない違いなのかもしれない。それに最近の音楽はテレビCMやFMラジオでの聞こえ方を重視する余り、空気感よりも音圧で他の音楽に負けないようにする為に、空気感を無視したようなマスタリングが主流となっている。
下の二つの波形を見比べてみてほしい。
(クリックで拡大表示)
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Bのような状態じゃないと何か物足りなさを感じるようになっている。しかし、曲全体、またはアルバム全体を聴いた時、この”行きっぱなし”のダイナミクスはどうなんだろう?昔の曲を聴くとどことなくスタジオの雰囲気が伝わってきたり耳を澄まして小さな音を聴き、それに慣れた耳でクライマックスの音に驚き、熱くなるといった楽しみ方を思い出す。それを演出するのは実はこの余白であると言っても過言ではない。そして高サンプリングレートが生きて来るのはその余白とサウンドの境目だと知ってほしい。そういうセンシティブな音楽で差を付けるのが高サンプリングレートの効果的な使い方だ。
目指すは、空気感を活かした音楽映像
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ここでは余談になってしまうが、アフレコ主体のハリウッド映画の台詞や環境音もまた、本来とてもセンシティブな物であるはずなのだが、音圧至上主義はここでも我々の耳を支配してしまっている。そんな訳で今回の作品はボーカリストの息づかいやアコースティック楽器の空気感を活かした曲にしたいと思う。今回この企画に賛同してくれて、一から付き合ってくれるのは普段から自身の曲でライブやCD発売等、精力的に行っているシンガーの相澤千恵さん。彼女は自身の曲でも日本語の表現に深いこだわりを持っているのだが、言語学者に言わせると日本語の言葉というのはその”音”で様子や感情を伝える、世界でもまれに見る言語だということだ。今回はそれを意識して歌詞の一語一句、どう表現していくかを細かく打ち合わせをしていった。我々にとっても改めて刺激を感じる事だった。
今回、レコーディングは予算の関係もあって自分のスタジオでやる事になったが、もし、このような空気感重視の音楽が再び流行ってくれれば、大きなスタジオの存在意義が改めて認められる事になるだろう。そうあって欲しい物である。もちろん録音の段階から96KHzで収録していくのだが、この時、オーディオインターフェイスの対応はもちろん、DTMソフト、ソフトシンセやプラグインエフェクトのサンプリングレートも96KHzに対応していなければならない。
改めて見てみると48KHzまでという物もまだまだ多く、注意が必要だ。もちろんサンプリングレートが上がれば上がるほどPCへの負担は大きくなるが、映像程ではないのでそこは心配ないだろう。ボーカルやギターの録音を進めるにあたって、マイクの種類や位置をあれこれ考えながら音にこだわるのは実に楽しい事で、この時点で生々しく艶やかな音に忘れていた興奮を覚える。サンプリングレートを変えるだけで音が変わっていくのを聴くと、改めてアナログのポテンシャルの深さには驚く。きっともっともっと良い音で録る方法はあるのだと思う。こうしてレコーディングを進めながら、次回からはいよいよVegasを使用して、映像の事にふれていこうと思う。何分テレビの前で楽しんでもらう作品を目指しているので、コンテンツとして映像は不可欠であろう。お楽しみに!
WRITER PROFILE
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