音声のハイサンプリングレート化について考える

今回会場を賑わせていた各メーカーの3D対応のカメラも単板センサーのビデオカメラもキヤノンの50Mbpsのビデオカメラも、全て音声収録は48KHz止まり。別会場で華々しく発表されたREDのEPICですら同じであった。その事について技術者に食ってかかると、「それは音声スタッフと音声機器メーカーが考えれば良い事」と一蹴されてしまった。どうやら映像機器メーカーは音声の向上に関してはあまり関心がないようだ。だが映像ソフトメーカーとしては別の意識を持っていなければならないのではないだろうか。

そもそもこの連載を始めた一つのきっかけは音楽ソフトに対する危機感だ。もう一度軽くおさらいしておく。CDの44.1KHzというサンプリングレートはCDが生まれた時から変わらず、途中何度かハイサンプリング化を目論んだ製品も現れたが、専用機器が必要だった事から普及には至らなかった。そして時代の流れかネット流通に沿う形で音質は逆に下がってしまっている。これではコンテンツ制作者のモチベーションもリスナーの欲求も下がって当然だ。

私はこれが音楽ソフト業界不況の大きな要因だと考えていてもう一度「熱くなれる」音楽ソフトを作るべくこの連載もやっている訳だが、映像業界の動向も似たような道を辿っていると言わざるを得ない。YouTube やUSTREAM 等、ネット環境に沿う形での低画質化を受け入れ、音声のサンプリングレートもDV誕生の時から48KHzのままで、向上する気配すらない。幸運にも地デジ化に伴うHDの普及やデジタル一眼ムービーの進化や3Dブームといった上昇気流もあり、盛り上がりはあると思うのだが、音声も含めていつも最高の品質を追い求めようとする流れを止めてしまえば今の音楽業界と同じ道を辿ってしまうのではないかと危惧している。

音響機器メーカーとしての映像作品へのアプローチが弱いのは?

先日のInterBEEで音響エリアを回ってみて感じた事でもあるのだが、音響機器メーカーとしての映像作品へのアプローチがとても弱い気がする。実際、映像製作に使えそうな機材はあるのだが、そのモデルケースやワークフローのプレゼンテーションはほぼ無いに等しい。実はこのVEGAS PRO でさえ、ハイサンプリングレートの高品位Blu-rayやDVDを作る能力を持ちながら、そのプレゼンテーションは無かった。とても残念だ。もう孤軍奮闘という感じではあるが、今回は別録りを余儀なくされたハイサンプリングレートでの録音とタイムライン上での同期作業までを紹介しよう。

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そんな中話題のTASCAM DR-100を私も早速購入した。実はそれまで使っていたZOOM H4の調子が良くなく、修理に出さなければと思ってる矢先にロケの予定が入ったからだ。H4の後継機H4nはラインアウトとヘッドフォンアウトが独立しておらず、現行機種としてこのクラスではDR-100が唯一の独立アウトプットを持つ機種となってしまった。これがどうして重要かと言うと、カメラ側では48KHzでしか収録できないのだが、レコーダーのバランス入力に繋がれたマイクの音を一応ラインアウトからカメラへも送っておくと同期を取るためのガイドになり、更にもしもの時のバックアップにもなるからだ。そしてヘッドフォンでのモニターも同時にする為にこの二つのアウトプットが必要になるわけだ。

ところが業務用のビデオカメラでもない限りカメラへのインプットはマイクインしかない為にインピーダンスを合わせるのに大変苦労する。H4のラインアウトをキヤノン5DmarkIIのマイクインに送る時にも市販の抵抗入りケーブルを片っ端から試したものの、どれもマッチせず、結局自作で抵抗をかませたケーブルを用意するしかなかった。残念な事に、このDR-100のラインアウトはそれとはまた違っていて、自作も含めてどのケーブルでも合わなかった。各社、各機種のラインアウトやマイクインのインピーダンスはかなり幅がある。例えば外部マイクをマイクインに繋ぐだけでも変にノイズが乗ったりする事もあるので注意が必要だ。単にジャックの形状が合っているだけで繋げるもんだと思い込んではいけない。

ここさえ繋がればデジタル一眼であってもバランス入力を持ったカメラとして成立してしまうのでなんとかしたい。少なくともこの手のフィールドレコーダーに付いているマイクのクオリティはカメラに付いているマイクの比ではなく、上に乗っけているだけでもとても価値のある物だと言える。この写真の状態で一台のカメラだと思ってほしい。

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それとは別にさらに小型のフィールドレコーダーも私がよく使うアイテムだ。写真の物はZOOM H2という機種だが、バランス入力はないもののこれでも立派に96KHzで録れるし、付属のマイクも秀逸だ。ピンマイクを用意して役者の衣装に忍ばせる事も可能だし、芝居をしていない時に環境音を録っておく等、用途は広い。実は場面の環境音こそハイサンプリングレートで録ると臨場感が増し非常に効果的だし、このH2に関しては一台でサラウンド録音もできる逸品なのだ。

Vegasで行う96KHz設定のススメ

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Vegas Proのタイムライン上での作業だが、始めに音声タイムラインの設定を96KHzにしておく事をお勧めする。そこに映像にくっついてくる48KHzの音声を乗せても自動的にエクスパンドしてタイミングを合わせてくれるし、同期ガイドとして使える。当然だがそれで96KHzのクオリティになるわけではないのでよほどの事が無い限りこの音声は使わない。波形がしっかり見えるように拡大し、同じ位置に別録りした96KHzのファイルを乗せていくのだが、当然ファイル名は違う物なので探すのには苦労する。サラウンド録音もできる逸品なのだ。

ここは映画の現場のようにシーン/テイクナンバーを声に出して入れておく事をお勧めする。カチンコでなくても手を叩いておくと波形の場所が分かりやすい。波形の形で合わせた後は必ず両方の音を鳴らして耳で確認し、特に芝居では役者の口とずれていないか、目でもしっかり確認する。実はVEGASの隠れた能力としてフレーム単位よりさらに細かくサンプル単位でクリップを動かせるというのがあり、かなり正確にタイミングを合わせる事が可能だ。

これでカット数の多い作品になると確かにかなり面倒だ。48KHzではだめですか?と聞かれれば「充分」いい音で録れるとは思う。だがそれは蓮舫議員の「二番じゃだめなんですか?」と同じ事で、やはりクリエーターは「充分」とか「納得」を目指していてはいけないと思う。オーディエンスの「感動」を目指して、できる事は面倒でもやってほしい。 少なくとも私はそう考えている。今回は音楽作品とは少し離れてしまったが、本質はこれだ。オーディエンスにもっといい音を!

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WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。