前回、撮影前に押さえておくべき「数字の設定」の話をした。絞りとシャッタースピード、そしてISOの設定で明るさをベストに合わせるためには、それぞれの数字の意味をしっかりと把握しておく必要がある。その際に大切なのは使っているレンズの特性を理解しておくことだ。EOS 5D MarkⅡで使用できるレンズは山ほどあるが、自分の引き出しとして使えるレンズを常備しておきたい。というわけで今回はあると便利なレンズを幾つかお勧めしたいと思う。さらにこのカメラに快適な操作を与えてくれる「準備しておきたい機材」を私なりに紹介しよう。

映像は全てCanon EF 14mm F2.8 L II USMで撮った。ビデオカメラでは表現できない世界が広がっている

動画撮影で用意したい必須レンズ3選

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デジタル一眼レフの魅力の一つは、レンズ交換がすぐにできるということだ。そしてレンズの選択肢もかなりの数に上がるため、自分らしいスタイルを築けることも人気の理由だろう。もともとスチルカメラとして使われているため、今までのレンズの歴史の恩恵は想像以上に価値の高いものだ。私の考えとして、動画を撮影する目的でカメラを購入する時に「レンズキット」を選ばないほうがいいというのがある。確かにお得感はあるものの、自分が本当に使うレンズかどうかをしっかりと吟味した上でレンズは購入したほうがいいからだ。もちろん高級なCanonのLレンズシリーズを集めればいいことなのかもしれないが、ここでは「買って損はしない」レンズを紹介する。もちろん高ければいいという目線ではなく、コストパフォーマンスとその機能を重視して選んだ。

Canon EF50mm F1.8 II

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購入必至!安いレンズだが、捉える映像は素晴らしい!

まずマストの1本はCanon EF50mm F1.8 IIだ。値段はなんと1万円以下。ちなみに私は中古レンズ屋で6000円で購入した。50mmという「超標準」の画角で、明るさはなんとF1.8というレンズなのだが値段は信じられないほど安い。ところが撮影できる映像は素晴らしいの一言だ。おそらくHDSLR史上もっともコストパフォーマンスの高いレンズの一つだろう。F1.8で捉えられる被写界深度の浅い映像は息を呑むほど美しく、コントラストもカッチリしていて、どんな被写体であれ「デジタル一眼レフ」の質感たっぷりの動画を撮影できるのだ。安いレンズで、しかもおもちゃのように軽いので心配になる人もいるかもしれないが、是非ともF1.8の明るさを堪能してほしい。

Canon EF 28-200mm F3.5-5.6 USM

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28-200mmというワイドレンジ、暗いレンズだが、使い勝手は最高だ

そして2本目が、Canon EF 28-200mm F3.5-5.6 USM、お手軽ズームレンズである。実は既に日本では生産が終了している一本なのだが、まだ手に入れることは難しくは無い。価格も4万円程度で購入できる。動画で撮影する際に、通常の撮影範囲は最大でも200mmだろう。これ以上ズームするとなると、手振れなどの問題が生じてくる。かといって100mmだと物足りない。少し残念だが、現行のCanon純正のズームレンズだとちょうどいいものがない。しかし、このズームレンズでは、ほとんどの「欲しい画角」が手に入るのだ。F3.5~ということで決して明るくないレンズではあるものの、コレ一本だけで事足りる撮影も少なくは無いだろう。28mmという広角から、200mmという現実的なズーム範囲で妥協の無い構図を狙い撃ちできる。

EF 14mm F2.8 L II USM

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5Dにとって最強のレンズ。HDSLRならではの映像演出ができる

最後にマストの3本目…。これは個人的に「最強のレンズ」と信じて疑わない一本、EF 14mm F2.8 L II USMだ。値段は20万円以上する代物だが、是非とも手に入れて欲しい。その理由は、もちろんLレンズなので品質が保証されているという理由があるが、それ以上に、このレンズで手に入れられる映像の世界が「素晴らしい」「美しい」「圧倒的」の3拍子がそろっているからなのだ。今まで多くの作品をEOS 5D MarkⅡで作ってきたが、このレンズのおかげで作品のクオリティが何段も上がっていると本気で感じている。35mmフルサイズのCMOSを誇るEOS 5D MarkⅡに載せられる最広角のレンズが捉える映像は、まさに新しい世界を生み出す力を持っているといっても過言ではない。ビデオカメラでは表現しきれない映像を是非とも手に入れて欲しい。

まだあるお勧めレンズ達!

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シフトレンズでミニチュア風動画も可能!飛び道具となるが、面白い効果が良いアクセントに

あと何本かお勧めのレンズを記しておく。「人」を撮影するときにポートレートとして力を発揮するのが、EF85mm F1.8 USMだろう。人を撮るときに最も自然な描写力があるこのレンズのヘビーユーザーは多いはずだ。F1.8という十分な明るさをもち、更にはコストパフォーマンスも良く、EFレンズのベストセラーの一つだ。そしてもう一本は、EF100mm F2.8 マクロ USM。14mm同様にビデオカメラでは表現が不可能なマクロの世界を描写できる。また飛び道具的なレンズとしては、「ミニチュア」撮影ができるシフトレンズなどもお勧めだ。ただあまりにも特徴がありすぎて汎用的な使用ができないためレンタルなどの方法もアリかもしれない。もちろんレンズマウントアダプターをつければNikonのレンズやM42マウントのレンズなど使えるため、レンズの選択肢はどんどん増やすことができる(絞りのコントロールが効かなったりして使用できないのもあるので要注意)。自分のレンズライブラリーを作れるのもデジタル一眼レフならではの楽しみ方だ。

他に準備しておきたいもの

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Zacuto Z-Finder。フォーカスを細かく調整可能で屋外のロケで使用する際、重宝する。

交換レンズ以外にあると便利なものを幾つか紹介しておく。まずはレンズフィルターだ。NDフィルターとPLフィルターはマストで用意しよう。これについては次回以降で詳しく説明するが、とっても安価に手に入れられるスチル用のレンズフィルターを上手に活用することで更に美しい映像を収録できる。あとは背面の液晶で映像を確認するのはかなり危険なので、スタジオなどで撮影するときは必ず外部モニターを用意することをお勧めする。私が使用しているモニターはSONY LMD-2030Wだが、HDMIを入力にもつモニターであれば問題ないだろう。またロケでシステムを大掛かりにしたくないときなどは、マグニファイア式のビューファインダーでもあれば非常に助かる。ZacutoのZ-FINDERというのを持っているが、明るい場所でのフォーカス合わせや露出あわせの際に非常に役立っている。

EOS 5D MarkⅡを中心にデジタル一眼レフによる動画撮影がかなり注目されるようになり、動画撮影を前提に作られたサポートシステムなどの多くのオプション機器などが次々と発売されている。そもそもスチル撮影用に設計されているため動画撮影となるとどうしても不便な部分も生じてしまうのだが、そんな不便を解決してくれるものが今では沢山発売になっている。レンズ選び同様に楽しみの幅が一気に広がるので、自分のお気に入りを探すのも実に面白いだろう。EOS 5D MarkⅡの魅力をもっともっと引き出す「ギア」をここでも紹介していくつもりだ。さて次回は効果的な映像を演出するための「特機」に焦点を当ててみたいと思う。お楽しみに!

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。