確実に被写体を捉えるLレンズ
スチルレンズとして多くのプロフェッショナルに支持されているCanonの「赤レンズ」ことEFレンズのLシリーズ。レンズの周りに赤い線があることからそう呼ばれているのだが、その描写力は他のレンズの追随を許さないと言ってもいいだろう。特にLレンズの単焦点レンズ群はF値が1.2~1.4という明るさを誇るだけでなく、これまで世界中の数々の現場において確実な結果を残してきた。もちろんスチルカメラを選ぶ中で、NikonやHasselbladなどを好む人もいるが、レンズでいえば赤レンズの評判は高く、その歴史と信頼こそがカメラマンの拠り所なのかもしれない。特にフルサイズのセンサーを搭載するEOS 5D MarkⅡとの相性は抜群で、その世界観は独特で美しいと筆者は思う。
DSLRによる動画撮影が映像の世界に新しい風を起こす中、ムービーという新しい分野でもLレンズを選択する人が多く出てきた。もちろんLレンズに比べ相当高価なシネマレンズを選ぶ場合もあるだろう。PLレンズを代表とする映画で培われてきたシネマレンズは、高解像度の映像に耐えうる十分な表現能力を持つだけでなく、フレアが出にくかったり、さらにはフォーカスを動かしたときの画角変動がないのが大きな魅力だ。その点Lレンズは、フレアは出てしまうし、フォーカスを動かすと映像のサイズも動いてしまう。
しかしLレンズは5分の1ほどの価格で購入できるにも関わらず、シネマレンズと変わらない解像感をもっており、レンズ自体のサイズも小さく軽いので取り回しも大変楽だ。更には先述のとおりF値が1.2から揃えることができるため、とにかく明るいというのが特徴である。また5D MarkⅡといったフルサイズのセンサーのカメラで撮影となると、PLマウントなどのシネマレンズの映像ではケラレが出てしまうためEFマウントのレンズしか使うことができない。そんな理由も相まって、EFマウントによるLレンズが改めて動画の世界で注目されている。そして赤レンズが捉える映像は従来フィルムカメラを扱ってきた人にとっても「新しく」「期待に応える」レンズであるに違いない。
コストパフォーマンスが非常に高い他のレンズ
実はLレンズを使わなくても、かなり安い価格でかなり使い勝手のよいものがある。しかもそれらはF1.8という明るさのレンズである。「業務用」とされるLレンズではあるが、これらの安いレンズを使用しても十分に美しい映像を捉えることができるのだ。そこで気になるのが、コストパフォーマンスの高い他のEFレンズの表現力だ。ということで今回は3種類の単焦点でレンズの違いを比較してみたい。比較に使用するレンズはF1.2~F1.4を誇るLレンズとF1.8のコストパフォーマンスの高い通常のレンズで、全部で6本である。本来ならば各レンズの、コーティングやレンズ枚数、アイリス形態、構造までを比較するべきではあるが、今回は「見た目」で比べてみたい。
24mm
シグマ 24mm F1.8 EX DG ASPHERICAL MACRO (価格帯:約42,000円) VS Canon EF24mm F1.4L II USM(価格帯:約170,000円)
50mm
Canon EF50mm F1.8 II (価格帯:約10,000円) VS Canon EF50mm F1.2L USM (価格帯:約140,000円)
85mm
Canon EF85mm F1.8(価格帯:約48,000円)VS Canon EF85mm F1.2L II USM (価格帯:約180,000円)
今回の比較では動画での切り抜きで行ったのだが、絞りやシャッタースピード、ISOなどは全く同じ条件で、どの映像もピクチャースタイルを「CineStyle」を使用して撮影した。
細部で違いが出た比較結果
24mm
Canon EF24mm F1.4L II USM |
シグマ 24mm F1.8 EX DG ASPHERICAL MACRO |
まず最初に24mmである。今回Lレンズに対抗すべく選んだのがシグマの24mmだ。これは広角マクロレンズで、デジタル一眼レフ動画の醍醐味を一本で表現できる大変使い勝手の良いレンズである。非球面なので、何かと便利で使用頻度はかなり高い。一方のLレンズの24mmは広角王道の一本である。
どちらも外側の歪曲が少なく、非常によいレンズであるのだが細部に違いがみられた。まず建物と空を捉えた動画の切り抜きの比較だが、画像の淵周辺の露出がシグマのレンズは暗くなっているのがわかる。やはり広角となると周辺露出の低下が課題といえるだろう。
上記のアップ写真(800%)
更には太陽方向で逆光を狙った動画では、フレアの大きさがLレンズの方が小さく、きれいにまとまっている。また暗部の拡大画像を比較すると(800%)、木々の解像感がLレンズの方が圧倒的に表現できているのがわかる。ただ「一目瞭然」とした差は特にでなかったことは、シグマレンズのクオリティの高さを知れた比較になったと言えるだろう。
50mm
そして50mm。この比較に使用したレンズが「史上最強」のコストパフォーマンスレンズでもあるCanon EF50mm F1.8 IIだ。私は中古レンズ屋で6000円程度で購入したのだが、新品でも一万円を切る価格で相当な画を手にすることができるレンズだ。価格差にして約14倍もするLレンズとの比較は面白い結果となった。
Canon EF50mm F1.2L USM (左)Canon EF50mm F1.8 II(右)
上記のアップ写真(800%)
まず建物と雲を捉えた画像比較であるが、雲を拡大すると(800%)Lレンズのダイナミクスレンジの広さを伺うことができる。やはりEF50mm F1.8 IIが表現する雲はのっぺりとして立体感がないことが比較をするとわかるだろう。EF50mm F1.2L USMは雲のグラデーション感をしっかりととらえている。
また夜に撮影した動画では、EF50mm F1.8 IIの周辺露出の低下は大きく、EF50mm F1.2L USMと比較すると、その差が歴然としている。さすがLレンズといった感じだ。しかし、1万円のレンズのパフォーマンスは相当高い。Lレンズと比較しても非常にきれいな表現力だ。周辺露出の落ち方は避けられないが、十分に光がある条件では見事なパフォーマンスを見せてくれた。
85mm
最後に85mmを比較する。85mmといえば、被写界深度が浅いポートレートの映像が多いだろう。比較したのはLレンズのCanon EF85mm F1.2L II USMに対してCanon EF85mm F1.8だ。F1.8のレンズはLレンズを導入するまで非常に重宝したレンズで愛用するカメラマンも多いと思う。
Canon EF85mm F1.2L II USM VS Canon EF85mm F1.8
まず人の肌の質感を見てほしい。10倍のアップで見るとその質感の違いが判る。より細かい肌の様子をLレンズは捉えているのに対して、F1.8のレンズは少し平べったい感じが否めない。リアルに情報を画像として非常に繊細な部分まで表現しているのがLレンズだ。
上記のアップ写真(1000%)
またビルを撮影した画像を比較すると、Lレンズの方が木の葉っぱのグラデーションが豊かなのがわかる。F1.8のレンズは、暗部の部分の情報がやはり少ない。こういった細かいところでLレンズとの力の差が表れている。
上手にレンズを選ぶのがDSLRと上手く付き合うコツ
確かにLレンズは優れているということが分かった。もちろん値段相応であるのかもしれないが、今回私が感じたのは、F1.8のレンズが「非常に優秀」であるということだ。比較の中では細部において解像度の違いや周辺露出の落ち方に差があることなどLレンズの実力を見ることができたが、「パッと見」ほとんど差がわからないほどの色の発色や細部の表現力をF1.8のレンズは持っていることがわかった。
確かに業務用として使われるLレンズの所以はしっかりとアウトプットのクオリティに裏付けられてはいるものの、安い=ダメという考えは通用しないだろう。比較して初めてわかる部分でもあるかもしれないし、多くの制作者が多くのレンズオプションを手にできるのがDSLRの魅力でもある。是非ともいろんなレンズを試して作品に反映させてみてほしい。
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