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CS5にスイッチする理由!?

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アプリケーション間でレンダリング不要の受け渡し、変更の即時更新が可能なDynamic LinkはCS5内での効率化を格段に高める
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After Effects CS5で新搭載となったロトブラシは、使い勝手と結果の両面で画期的。CS4からバンドルされているmocha for After Effectsも大変優れているが、ロトブラシはPhotoshopの「抽出」の要領でエリアをなぞるだけでマスクが生成される。時間に沿って面でトラッキングするのでこのような複雑なマスクも圧倒的に少ない時間と労力で処理できる

Final Cut Studio(FCS)はデビューから10年の間にある程度の地位(シェア)も確保でき、ここ数年はリリースサイクルもペースダウン。安定期とも取れるが、iPhone/iPadビジネスが好調な反面ユーザーにとっては「プロビデオ製品のプライオリティが下がっている(=将来も継続するのかが心配)」といった空気が感じられてしまう昨今。

 

個人的には数年先までディスコンはまずないと見てはいるが、ともあれプロフィールにもあるとおりの筆者の立場としてもこの度のSwitchキャンペーンは少なからず衝撃を受けた。と同時に、市場競争という点では大いに歓迎したい。

そもそも世の中のほとんどの商業クリエイティブワークはもはやAdobeのツールなくして成り立たないし、FCSユーザーも直接または間接的にAdobe製品と共存してきたわけだが、CS5ではプリント/WEB/ビデオ/電子出版の各媒体がシームレスに連携するDynamic Linkが強化されているばかりでなく、After Effectsの革新的な「ロトブラシ」やPhotoshopの「コンテンツに応じた塗り」、EncoreでのBD-Jのポップアップメニューを組み込んだBlu-rayオーサリングなど個々のアプリケーションも「CS5にするべき」進化を遂げており、ますます必須となりつつある。

64bit対応か否か?

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Mac OS X 10.6 Snow LeopardではOS、標準アプリケーション共に64bit化しているが、もっともリソースの必要なFinal Cut Studio(2009)では各アプリが未だに32bitのまま
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どんなに大容量のメモリを積んでいても、Final Cut Pro 7では最大で32bitの上限である約3GB程度しか活用されない
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After Effects CS5の設定画面。アプリケーションの64bit化により、メモリとCPUコア(仮想スレッド含む)を搭載している分だけ有効に生かすことができる
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Premiere Pro CS5のMercury Playback EngineはソフトベースとGPUアクセラレーションの2モードを持つ。複雑なエフェクトや2Kや4Kといったサイズで本領を発揮するにはNVIDIAのグラフィックカードとMac用のCUDAドライバ(NVIDIAのサイトで提供)が必要だが、対応カードがなくてもソフトウェアベースでCPUのマルチコアを活用し、マシン構成によって従来より安定したプレビューが可能

CS5ユーザーの立場からも、特にPhotoshop CSやAfter Effects CS3が現役というFCSユーザーの方は、まずCS5体験版を触って頂いて、Switchキャンペーンの条件を確認されることを強くお薦めする。また、ツール単体としての魅力とは別にFCSに比べてCS5が圧倒的に有利な点は、64bit対応か否かだろう。

 

現在のMacは、余計な費用や手間、互換性の問題を意識せずとも空気のように64bit化の恩恵が受けられる。しかし皮肉なことに、もっとも64bitを必要とするビデオ編集においてFCSが32bitの最後の砦となっているのだ。軽自動車が買えるくらいの上級のMac Proを奢ったところで、Final Cut Studio(2009)では出費に見合ったパフォーマンスは得られない。

 

一方CS5はPremiere Pro、After Effects、Adobe Media Encoder、Photoshopとパワーが必要なアプリケーションは64bit化され、CPUとメモリを最大限に活用できる。After Effectsはプレビューに搭載RAMを目一杯使えるようになるし、PremiereのレンダリングやMedia Encoderの高速化も期待できるだろう。 

 

現状GPUアクセラレーションはNVIDIAのグラフィックカード(Quadro FX 4800かGTX285 for Mac)に限られる。現行Mac Proのグラフィックカードは標準/BTO共にAMDのRadeonで、これで組んでしまうユーザーは多いだろう。GPUアクセラレーションこそがMercury Playback Engineでも一番のキモであり、Radeonにも対応してくれれば更にSwitchしやすくなるのは間違いない。

 

ただし、Switchキャンペーンでディスクを事務局に送った後は、その時点でFCSが稼働しているマシンではそのまま併用することができるが、新たに入れ直すことはできなくなる。ここで問題となるのがProResコーデックやMotionなどFCS独自のファイル。これらはFCSが入っていないマシンでは開くことができないので、FCSが稼働しているうちにCS5だけでも利用できる形式に変換しておくなど注意が必要だ。

編集部註:11/10現在、ディスクを送付せずに、シリアル番号の申請にて申し込むことも可能です。詳細はアドビのキャンペーン情報ページをご参照ください。)

FCSとCS5の共存も考えるべき

なお、CS5 Production Premiumを通常価格で購入するつもりで予算を組み、Switchキャンペーンを利用してCS5をゲットすると差額で新たにFCSが買えてしまう。考え方の問題だが、そのままSwitchして差額で約64,000円のGTX285を導入し、CUDAの恩恵にあずかるという手もあるだろうし、業務上どうしてもSwitchできなくたってAdobeのバージョンアップを躊躇していたFCSユーザーがCS5に更新するだけでもキャンペーンの意義は大きいだろうから、ここはひとつ乗っておいて損はないのでは。

松原雅人

有限会社エートラック


専務取締役 チーフディレクター


ファイナルカットプロユーザグループ代表



8年ほどポストプロダクションに勤務、リニア編集のアシスタントやScenaristでのDVDオーサリングなどの業務に従事。退職後、現在の会社にて映像制作に携わる。アップル公認のFinal Cut Pro User Groupを主宰(主にSNSなどオンラインでの情報交換が主体)。
http://www.apple.com/jp/usergroups/find/reg2004/267.html


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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。