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CS5と驚きの出会い…

私は長年の間テレビ局で番組制作をしていた。テレビの現場は、未だワークフローがHDCAMにおける収録・編集といったリニアであるが、ノンリニアの波は、全く無いわけではない。いわゆる「オフライン」編集としての立ち居地で多くのディレクターがノンリニア編集を行なっている。そこで一番多く見かける編集ソフトがFinal Cut Proだ。

誰しもがノンリニアの環境を作る時に、あまり迷いもせずマックを購入する。恥ずかしながら私も今年テレビの現場を離れる際に、独立記念としてMacBook Proを購入してしまった。その理由はみんながそうしているからの安心感だろうか?それともマック=クリエーターみたいなイメージがあるからだろうか?

なぜか映像編集=Final Cut Proという図式が確立されているような気がする。ディレクターの中では「Windowsで映像編集ってできるの?」という素朴な質問をしてくる者もいるくらいだ。得てしてテレビの人間は逆に技術に少しうといところがある。先程の図式には技術的な根拠はあまりない。

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先月から使用しているWindowsマシン。HP社Z800シリーズ。グラフィックカードは、NVIDIAのQuadro FX4800。ハイエンドのPCだが、同等のMacに比べ価格は安くカスタマイズと拡張性に富んでいるのが特徴。
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Premiere Pro CS5のメモリ設定画面。32GBのRAMを積んでいるため、Premiere Pro CS5で使用可能なRAMサイズがなんと32GBに。64bitネイティブのソフトウエアの実力は無限大

そんな私が「驚きの出会い」をしたのは正に先月のことだ。仕事の都合でAdobe Premiere CS5のProduction Premiumを使う機会があって、一つのプロジェクトをWindows7の64bitOSに入っているPremiere CS5で編集を行なったのだが、「凄いな~」と思うことがいくつもあった。Macで長年培ってきた「手癖」があるため、正直Windowsそのものの基本操作やショートカットの使い方に慣れるまでに1週間ほどかかったものの、ワークフローは間違いなくMac時代から向上した。

今私が使っているマシンはHP社製のZ800シリーズで、CPUはXeon5520を2発、メモリは32GBも積んでいる。更にはグラフィックカードはNVIDIA Quadro FX 4800だ。いささか値段もお高いのでは?と思われる方もいるかもしれないが、実はMac Proの同等なクラスと比較すると3割以上安い値段で手に入れることができる代物だ。WindowsのPCパーツは種類も豊富で、値段も安いし拡張性も無限大なのが魅力的といえる。

Macはいわゆるターンキー型のシステムなため、選択肢は非常に少ない反面、パソコンの知識があまり無くてもみんなと同じ動作が保障されるメリットが逆に考えられる。対照的にWindowsマシンは10人10色のシステムが組めるためその可能性は無限大で、知識さえあれば自分のスタイルに合わせた最適なプラットフォームを効率的に組めるのがいいところだろう。それではPremiere CS5の長所を、Final Cut Proユーザー目線で幾つか記してみたい。

Final Cut Proユーザー目線で見たPremiere Pro CS5

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Premiere Pro CS5の制作中の画面。EOSムービーの再生も全くカクつくことなく、スムーズだ。素材も150クリップあまりを使用しているが動作は極めて快適

まず驚くべきことは、Premiereネイティブで扱えるコーデックの多さだ。REDのR3DやEOSムービーなどのデジタル一眼レフの動画フォーマット、更にはAVCHDやXDCAMシリーズ、AVC-Intra、などなど時代を牽引するコーデックのほとんどを「ネイティブ」で扱うことができる。

Final Cut Proの場合、どうしてもProResへの変換が望ましい場合が多くなる中で、これだけのフォーマットがネイティブで編集ができるのは快適そのものだ。中間コーデックに書き出さなくて済むということは、エンコードの時間の節約になるだけでなく、膨大なファイルスペースの節約が実現できることになり、撮影して「即編集」というスタイルは、まさにディレクターの望む形だ。

USB一本で相当量のファイルコピーが短時間行なえるということも、今までHDCAMのデジタイズなどで実時間かけてキャプチャ作業を行なっていたことを考えると夢のようでもある。ネイティブで編集作業をできる恩恵は、正直図りしれない。

Premiere Proの再生能力の高さ

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Premiere Pro CS5がネイティブでサポートしているコーデック。AVC-IntraやCanon XFシリーズなど多岐にわたりサポート。特にREDのR3Dのデータはカラーグレーディングも含め、全ての作業をPremiereで完結
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After Effectsとの連携もシームレスに行なえる。中間ファイルに書き出すことなく、映像を加工して行き来することが可能。DVDやBlu-rayなどにオーサリングするソフトであるEncore CS5もPremiere Pro CS5やAfter Effects CS5のタイムラインをそのまま読み込み可能。レンダリングは最後に一度だけ。理想的なワークフローだ

更に素晴らしいのはPremiere Proの再生能力の高さである。CS5から搭載されたMercury Playback Engineはストレスのない編集環境を与えてくれる。更に私のマシンにはCUDA対応のNVIDIA Quadro FX 4800を積んでいるため、GPUによる高速処理を行なうことができ、一つのタイムラインに複数のコーデックの素材が並んだとしてもレンダリングなしで見事リアルタイム再生してくれたりするのだ。いやはや異次元といった感じである。まさに64bitOSネイティブによるソフトウエアの実力を遺憾なく発揮しているといえるだろう。私のPremiereで使用できるメモリ容量はなんと29GB。なんとも恐ろしいことになっている。

そして最も魅力的なのは、映像制作におけるほぼ全ての作業をシームレスで行なえる点だ。AdobeといえばIllustlatorやPhotoshopなどのソフトウエアを使っている人も多いはずだ。私の場合はAfter Effectsを良く使うため、Final Cut Proを使用している時は、いつも毎回中間コーデックとしてファイルに書き出すことになる。ところがPremiere ProはAiファイルやPSDを直接読み込めるのはもちろんのこと、Dynamic Linkといわれる機能でremiere Proのタイムラインに直接After Effectsのコンポジションを読み込むことができるため、「remiere Pro」と「After Effects」間でファイルを書き出したりする必要はない。

またDVD/Blu-rayのオーサリングツールであるEncore CS5もPremiere Proのタイムラインを直接読み込み可能だ。一度も中間ファイルを生成することなくワークフローを完結させることができるのだ。Encore CS5はそのほかFLASHなどにも一発で書き出せたりもできるので、仕事で大変重宝させてもらっている。ちなみに、これら全てのソフトウエアがバンドルされたProduction Premiumの価格が「安い」と考えるのは私だけではないはずだ。どのソフトウエアも映像制作には欠かすことのできないツールばかりだ。

Final Cut ProにはProResという最強のコーデックがある。多くのクリエーターがMacを使う理由もよくわかるし、それを否定するつもりはない。ただ、ノンリニア編集=Final Cut Proという考えはいささか一辺倒過ぎるということがよくわかった。実際Premiere CS5には間違いなく「すごい!」と実感できる機能が満載されているし、Production Premiumをワークフローの根幹にもつという心強さは、今では手放せない。私のこれらの印象は、おそらく同じ状況におかれるFinal Cut Proユーザーの皆さんと共有できるものだと信じている。

奥本宏幸

映像ディレクター


大阪芸術大学を卒業し、テレビディレクターに。日本テレビの朝の情報番組「スッキリ!!」などで企画を担当していた。2010年に独立。現在はEOS 5D MarkⅡなどのカメラを使った撮影でPVやCMなどを制作している。脚本からオーサリングまで、ワークフローを全て手がける。最近はAfter Effectsを中心とした映像コンテンツ制作や3D制作も積極的に行なっている。


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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。