次世代の高速インターフェースThunderbolt

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いよいよこんなすごい時代がやってきたのだと、心底感じている。なんとノートパソコン一台で10bitHDの映像をリアルタイムで収録・編集できるまでになってしまった。一昔前まではウン百万円以上のシステムでなければできなかったことが、いとも簡単に実現できるようになったのだ。その全てを可能にした規格こそが「Thunderbolt」である。今年の春に登場したMacBook Proに搭載された新規格のインターフェースだが、まさかここまでの実力と可能性を持っているとは思ってもいなかった。実際Windowsをメインに使っている筆者にとっても、最大でUSB2.0の20倍の10Gb/sの転送速度を誇る「Thunderbolt」がこれからの映像制作のメインインターフェースになると強く感じるまでに至っている。

Ultra Studio 3Dでデュアルリンク収録

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そのThunderbolt規格の機器としていち早く市場に登場したのが、Blackmagic DesignのUltraStudio 3Dだ。驚きなのは2系統のHDSDIの入出力をMacBook Proで可能にしてしまったところだろう。今までデスクトップを使わなければHDSDI/1系統ですら収録のシステムを作ることができなかったのに、まさかデュアルリンクの環境をノートパソコンで整えることができるのがすごいところだ。

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さらに驚きなのはThunderboltは最大6台までのデイジーチェーンが可能で、Thunderbolt入出力をもつ機器であれば直列にして機材をつなげることができる。そこで登場したのがPromiseテクノロジーのPegasusシリーズのHDDだ。このHDDシリーズにはThunderbolt入出力が搭載されており、MacBook ProとUltraStudio 3Dを同時につなげられるのだ。

使用したのは6台の1TB/SATAHDDをRAIDで組んだ「R6」で、そのディスクスピードを図ったところ、なんと読み書きで500MB/s以上の速さを実現していた。正直ノートパソコンとケーブル一本でこの速さが手に入れられる時代が本当に来るとはびっくりした。

PMW-F3で10bit S-LogをMacBook Proで収録

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もう一つ、このシステムで行える「すごいこと」を紹介したい。それがSONYのPMW-F3をつかった10bit S-LogのProRes 4444収録である。F3はスーパー35㎜のCMOSを搭載したカメラでPLマウントの「デジタルシネマカメラ」だ。このカメラは有償のソフトウエアアップデートによりRGB4:4:4の出力(3Gのシングルリンク/1.5Gのデュアルリンク)とS-Logによる撮影が可能になる。S-LogはSONYが開発した10bitのLOG収録で、そのダイナミクスレンジは800%という驚異の表現能力を持つ。

このS-Logによる収録をデュアルリンクでUltra Studio 3Dに接続し、先ほどのPromiseテクノロジーのHDDを収録先に選ぶだけでProRes4444による10bit S-Logの収録環境を整えられるのだ。ここで強調したい点は、揃えた機材はどれもコストパフォーマンスが高いということだ。HDDは15万円程度、更にはUltra Studio 3Dは8万円程度で購入できる。パソコン本体と合わせても50万円を切る価格は、今までとは「桁違い」であることは誰もが驚くところであろう。

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今回はあるシンガーのプロモーションビデオ撮影でこのシステムを使用した。運用して分かったことはシステム自体がとてもシンプルなため非常に安定しているということと、HDDが高速なため、現場における即再生・即編集といったことが簡単に行えるということだ。Ultra Studio 3Dには2系統のHDSDI出力に加え、HDMIの出力も可能だ。今回はFinal Cut Pro 7でProRes4444のキャプチャを行い、その素材の再生出力先としてUltraStudio 3DのHDMIを選びマスターモニターに出力させた。その場でキャプチャしたProRes4444のオンライン素材を即プレビューして、即編集できるという「夢」のようなシステムである。

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F3には収録用のデュアルリンクSDIに加え、モニター用としても使えるもう一つのHDSDI出力がついている。現場でのモニタリングとしてはこの出力を使用した。そもそもLOG形式による撮影なため、現場によるプレビューはいわゆるコントラストの弱いLOG映像になってしまうのだが、F3のプレビュー用SDI出力にはLook Up Table(LUT)をかけてリアルタイムで出力させることができるのだ。

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ということで現場ではLUTをかけた映像をプレビューしつつS-Logを収録した。さらにはバックアップとしてF3内蔵のSxSでXDCAM EX収録することができるというのも安心だ。XDCAM EXは4:2:0の8bitであるためLOG収録には向かないのだが、LUTをかけた映像を収録できる。

おそらく今回の撮影スタイルはほぼ理想を叶えた形である。補足としてだが、Windowsを使用する筆者は収録したS-LogのデータをWindowsのPremiere CS5.5に並べてみたのだが、ProRes4444の素材はなんともサクサク動いた。いやはや感動である。2012年にはThunderboltがWindowsに対応することが発表されたこともあって、今後に期待したい。

総括

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今回はProRes4444でS-Log収録というハイエンドのシステムをMacBook Proで実現したのだが、実はBlackmagic Designが発売を予定しているIntensity ExtremeというThunderboltをインターフェースとしたHDMIキャプチャ機器がある。これであれば10bit4:2:2の映像を同様にリアルタイム収録・編集を行うことができる。ここで期待したいことは、MacBook ProのHDDをSSDにすれば内蔵のHDDに映像を記録することもできるということだ。Intensity Extremeは電源要らずなため、このシステムはフィールドでも活躍するスタイルとなりうるだろう。今回のS-Log映像は同社のDaVinci Resolveでカラーコレクションするのだが、このDavinci Resolveのモニタリング用のインターフェースとしても使うことができるだろう。

高速なHDDやデュアルリンク入出力、更には安価なHDMIデバイスなどをノートパソコンで実現したThunderboltには多くの可能性がある。実際にThunderbolt対応の機器が市場に登場し使ってみて分かったことは、この規格こそがこれからの映像制作を底上げする大きな役割を担っているのではないかと実感した。今後の対応機材とその使用方法には是非とも注目してほしい。


[新時代ワークフロー考]Side:A

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。