Thunderboltが刺激する次世代ワークフロー
4月のNAB2011で発表され、これまで発売開始の日を首を長くして待っている方は少なくないでしょう。Blackmagic Design社のUltraStudio 3Dは、Thunderbolt接続でMacintoshとリンクしてビデオのI/Oをするためのハードウエアです。本体内にはデュアルリンクSDI、HDMIの入出力を備えています。さらにブレークアウトケーブルを経由して、各種アナログ信号やVTRコントロールも可能です。Thunderboltという新しく登場したインターフェースが、今後のMacには標準装備になっていくでしょう。電気的にはPCI Express x4というスペックに加えて、同じケーブルを使ってディスプレイへの接続のためのDisplay Portの役目も果たします。
ユーザーとしては、これまでMacに搭載されていたFireWireのような使い勝手であり、これに加えてディスプレイへの接続も可能、そんなスペックです。また、FireWireでは課題だった複数のデバイスを同時に使った時の不安定要素も、Thunderboltではもう心配することはなくなるでしょう。この高速データリンクが今後の映像制作にどんな影響を与えるのかを、今回のテストレポートでお伝えしたいと思います。
キャプチャデバイスとして使う
今回借り受けた環境は下記の構成に加えて、SONY F3をデュアルリンクで接続。F3にはS-Logオプションを有効にしています。したがって、収録後の色調整が必須になるワークフローです。
- MacBook Pro 17inch 2011年モデル
- Thunderboltインターフェース
- RAM 8GB ・Mac OS X 10.6.7
- Final Cut Pro 7
- DaVinci Resolve 8 Retail版
- PROMISE Pegasus R6
DeckLinkをFCPと組み合わせて使った経験があるユーザーなら、今回の構成は全く同様の感覚で使うことができます。DeckLinkの基本設定はシステム環境設定で行いますし、FCPのキャプチャも通常通りです。まずFCPの簡易セットアップでProRes4444を選択するだけで、その先の工程はこれまでの経験がそのまま活かせます。収録時にはキャプチャウインドウを開いた状態で、Shift-Cキーで「今すぐ取り込み」を使います。これはF3からのデュアルリンクをライブソース扱いで記録するためです。F3側ではディスクレコーダー側へRECスタートのトリガー信号は出力しているらしいのですが、FCPでは残念ながらそれを受け止められないため、手動でのレコードになります。
このキャプチャウインドウで気になる挙動がありました。映像の表示に一時的にソラリゼーションがかかってしまうことがあったのです。記録した映像を確認したところ、同様のトラブルは記録されていなかったため、表示上だけの問題だと判断しました。ProRes4444のときの問題なのか、UltraStudio 3Dを使った時の全般的な問題なのかまでの切り分けはできませんでした。目の前でこの状況に遭遇すると少なからず慌ててしまうと思いますので、この環境で使用される方は事前情報として知っておくといいと思います。
Thunderboltを使った今回の接続では、Pegasus R6のRead/Write特性をDiskSpeedTest.appで確かめると、500MByte/secを超えていました。DPX 10bit RGBでも約270MB/sですから、このストレージの秘めているパフォーマンスは強力です。今回は試せませんでしたが、DPXでのキャプチャも試してみたいところです。
DaVinci Resolveとの組み合わせ
FCPでキャプチャが完了すると、Pegasus R6の中にはQuickTime形式のProRes4444が保存されています。そのままFCPで編集を継続するもよし、他のQuickTime対応の環境で加工するもよしです。今回はUltraStudio 3Dをサポートする、DaVinci Resolveでキャプチャ直後のクリップを触ってみました。ご存知のようにResolveは、ダイレクトに取り込みができるメディアフォーマットは多種多様です。QuickTimeをはじめ、DPX、OpenEXR、TIFF、RAWデータではARRI RAW、RED R3Dも無変換で取り込めます。また、まもなくリリースされて今後の普及が予想されるSONYのSStPフォーマットも読み込み可能です。
今回はF3からのSDIデュアルリンクを、RGBの情報を維持したままProRes4444コーデックに記録。それをResolveに無変換で取り込みグレーディングしました。S-Logのガンマが映像に加わっていますので、理想的にはLUTを使ってをリニア特性のガンマに戻すことで、F3のセンサー面で記録された情報とほぼ同じオリジナルクオリティの映像がResolve内で再現できます。しかし、残念ながら今回は適切なLUTが入手できなかったため、手動でLog特性からダイレクトにグレーディングすることになりました。幸いにも暗部が維持されたLog特性ならではのガンマのため、Resolveの中でも細かな諧調コントロールは健在です。
Resolveはデビュー以来の高額で重厚なシステムから、去年以降単体アプリケーションとして生まれ変わりました。ポータブルなMacをはじめ、ハードルの高くないコンピュータスペックでも安定して稼働することが可能になりました。これに加えて、UltraStudio 3Dの登場によりResolveのモニター出力が取り出せるようになりました。UltraStudio 3Dが無い環境では、Macの中のメニューを含んだ表示しかできないため、メニューが無いクリーンな映像確認ができません。また、MacのsRGB特性でのプレビューになり、ビデオ特性での確認もできません。安価なUltraStudio 3DがThunderbolt経由でMacBook Proでも使えるようになると、撮影現場でできる仕事のクオリティが向上することになります。大きなMac Proをわざわざ持っていくことが、必須ではなくなるのです。
UltraStudio 3DはHDMI出力も搭載しています。最近の家庭用フラットパネルを持ったテレビには、HDMI入力はほぼ間違いなく備えています。品質面でも放送用モニターに比べて極端な違いが無くなった現在、手軽な民生用テレビも制作の中では有効に活用できるツールなのです。そんな時にもUltraStudio 3Dは、Macとテレビの間に立って有機的に両者をリンクしてくれます。
Thunderboltはワークフローを変える
Macを使った編集システムを構築するためには、デスクトップタイプのMac Proが必須でした。それはDeckLinkやREDRocket、eSATA/FibreChannelインターフェースなどのPCI Expressカードを使えるMacが必要だったからです。これは物理的な大きさもありましたが、インターフェースがマザーボードに直接接続する方法しか世の中に存在しなかったからです。一部のPCI Express接続できる拡張ボックスも存在はしましたが、デイジーチェーンすることは不可能で拡張性は乏しかったと言わざるを得ません。
Thunderboltは、こんな縛りの多かったシステム構成を解放したと言えます。母艦になるMacの選択肢がMac Pro以外にも拡張されたこと、今後対応を予定している機器が期待できること、など制作環境が新しい段階に進んだと感じます。また、PROMISE Pegasus R6のような高いビットレートを維持するストレージが、MacBook Proでも利用できることもThunderboltの恩恵の一つです。大きなMacが必須ではないことは、撮影現場の機動性を高めることにつながります。さらに、Thunderbolt接続の汎用性の高いPCI Express拡張ボックスも発表されおり、今後は機材構成の選択肢が広がるでしょう。このようにThunderboltの登場で、重厚長大なシステムからアプリケーションへの移行がさらに一歩進むことが、今回の現場で感じることができました。