Production Premiumが活用された現場から

コミュニケーション・クリエイティブ部ディレクター清水 健太 氏
コミュニケーション・クリエイティブ部ディレクター
清水 健太 氏

創業から25周年を迎え、映画『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズ、アニメーション『つみきのいえ』(2008年、加藤久仁生監督)、テレビ朝日『日曜洋画劇場』の番組タイトル(2010年)などでも有名な制作会社ロボット(東京都渋谷区)は、テレビCMの企画・制作が大きな柱となっている。今回、ロボットが制作を担当したCMの制作において、Adobe Creative Suite 5.5 Production Premiumが活用された。

今回、Production Premiumを活用して制作したのは、長野県では最大の建設会社である北野建設(長野県長野市)が、長野県で放送予定のテレビCMだ。北野建設が手掛けた建物や公共事業の場所で、建設施工に携わった社員のコメントとともに紹介するドキュメンタリータッチのCMになっている。制作したCMは、長野県・野辺山高原の八ヶ岳高原音楽堂を紹介するものと、東京・京浜運河の自然石護岸工事を紹介するものの2本。それぞれ15秒と30秒のものが作られた。

いずれも、キヤノン製デジタル一眼レフカメラEOS 1D mark IV、5D mark II、7Dを活用して素材ムービーと静止画の撮影を行い、Production Premiumで完パケまで仕上げている。この撮影から仕上げまでのワークフローを構築したのは、コミュニケーション・クリエイティブ部の清水健太ディレクターだ。

今回は機動力を重視したワークフローを組みました。撮影は、カメラマンとアシスタント、照明と照明アシスタント、プロジェクトマネジャー、ディレクター、プロデューサーという7人の最小構成で行い、機材もEOSを使用しました。ドキュメンタリー的な感じを出すために手持ちで撮影しているんだなという雰囲気を出しながらも、ボケ足を活かした撮影を行いたかったのでキヤノン デジタル一眼レフカメラEOSを選択し、ハイスピード撮影が必要と思われるカットではEOS 7Dによる60pも活用しています。登場人物が役者ではなく、ドキュメンタリー的な落ち着いた感じになるので、映像の中に綺麗だなと思える瞬間を作りたかったんです。全体を通して、ボケ足やキラキラした感じ、逆光というものを意識しながら撮影しました。編集環境についても、EOSで撮影されたムービーファイルと静止画を並べたコマ撮り素材を混在させ、ネイティブで編集できる機動性を持つシステムとして、Production Premiumを選択しました

オフライン編集の概念が変わるネイティブ編集

adobecs550302.JPG

制作で実際に使われたコンテとカットリスト

Production Premiumでの編集作業は、映像企画制作を行っている制作会社に依頼したが、その作業スピードに驚かされたと清水氏は言う。

実は、編集作業に入る日に風邪を引いて熱を出してしまったんです。午前中に素材の入ったハードディスクとコンテ、カットリスト、ファイル名のリストなどを渡して、とりあえず繋いでおいてくださいと話しました。夕方18時過ぎに編集作業に合流した時には、それぞれ15秒と30秒で合計4本の仮編集が終わり、EOSムービーで夕暮れで黒く潰れていた八ヶ岳高原音楽堂の屋根の部分にマスクを切って、同ポジションの静止画を合成する作業も終わっていました。合流後も、必要なカットの追加や入れ替えなどを行っても22時ごろにはプレビュー確認を終えましたから、こんなにスムースな編集が出来るとは驚きでした

制作は、Adobe Premiere Pro CS5.5でカット編集を行い、Adobe After Effects CS5.5でエフェクトや合成、テキストを加えている。Dynamic Link機能を活用しながら、常に2つのソフトウェアを立ち上げておきながら作業を進めた。尺に合わせて使用カットが確定した後、最終的なカラーコレクションなどを行う仕上げ段階では、Dynamic Link機能を使っていないPremiere Pro上の素材をコピー&ペーストでAfter Effects上に移行し、After Effectsだけで作業を行っている。

adobecs550306.JPG Premiere Pro CS5.5対応のSDIボードの出力を業務用モニタと家庭用テレビで同時に表示

今回の制作作業では、清水氏が立ち会って進める必要があり、Dynamic Link機能がスピーディなプレビューをするために有効だったという。After Effectsでテキストのカラーやカーニングの変更、合成処理を行うと、その変更は即座にPremiere Proに反映される。After EffectsでもプレビューはRAMプレビューを使うことでも可能だが、編集作業ごとにプレビュー待ち時間が発生してしまう。Premiere Proに戻ってプレビューを行えば、Mercury Playback Engineを活用してリアルタイムで再生できるため、作業に立ち会う人を待たせない有効な方法だと言えるだろう。 今回のCM作品では、逆光条件だった運河の水面に夕日がキラキラと反射するシーンではどうしても偽色の発生を抑えられなかった。オフライン編集段階でAfter Effectsで偽色軽減を行ったが、効果を比較プレビューしながらカットを選択することができたため、最終的な作り込み作業にかかる時間も減らすことが可能になった。

偽色は、編集している段階ではカットの繋がりに意識がいっていて気付かず、最終的にデジタルっぽいノイズが乗っていることで気付くことが多いんです。今回のように、オフライン編集段階でどこまで偽色軽減できるかが比較できると、このカットは使ってもよい、あるいは今回は使うのを諦めると判断できます。これまでは本編集後に、偽色の少ないカットを探しにオフライン編集にまた戻って来るという大変さでしたからね

adobecs550304.jpg デジタル一眼カメラなどで問題となりやすい偽色もAfter Effectsでその場で補正

ハイスピード撮影のカットの選択にもPremiere Proのネイティブ編集の特徴が生かされたという。

表現のいろいろな可能性を最後の段階まで検証したいタイプなので、ハイスピード撮影の効果を狙って60pでも撮影してきました。編集段階でも低速/高速の映像の入れ替えを頻繁に行いました。その結果、実際にはノーマル再生で使用した方がよいケースもありました。これまでは、変換して新たなムービーファイルを生成するか、エフェクトで半分に縮めるのかしかありませんでした。変換には時間がかかりますし、エフェクトでは本当に再生できているかフレーム単位で確認したくなります。今までは、気軽に入れ替えてなんて指示できませんでした。しかし、Premiere Proでは素材のプロパティで59.94か29.97かを指定するだけでさっとプレビューでき、ディレクターにとってストレスが少なく便利でした。 Production Premiumを初めて使用してみて、オフライン編集の概念が変わりましたね。ネイティブ素材で編集できるのは大きなメリットですね。パッと見せられた時に綺麗か、圧縮された映像で細かい部分が見られないかというのは大きな違いです。オフライン試写が、単なる工程確認だけでなく、最終イメージの確認に近いものが見られるものになりました。これまでは、オフライン試写で効果が分からないので本編集をするとこうなりますとその場で説明しながら試写をし、実際に本編集をしてみたら狙ったものが出なくてNGになるケースもありました。Production Premiumはネイティブで作業しているので、こんな感じに仕上がると分かりますし、さらに精度が上がるとも判断できるので、本編集後に覆る可能性が確実に減らせますね

機動力アップが制作スタイル自体を変革していく

これまでのワークフローでは、オフライン編集を行い、圧縮した映像でオフライン試写を行い、本編集で組み直して作り込み、最終試写を行うというものだった。そのため、試写スケジュールを決めるための時間や労力がかなりかかっていた。ネイティブ素材を扱えるProduction Premiumを使用した今回は、オフライン編集段階でクライアント確認を行う段階で、本編集と同様の作り込みの処理も行うことができたため、オフライン試写が最終試写に近い意味合いとなった。最終仕上げ後の映像は、DVDやムービーファイルに書き出したものを確認してもらう形で、立ち会い試写は行わなかったという。

清水氏は以下の様に予想する。

従来のやり方が全くなくなるとは思えませんが、撮影や編集がデジタルに移行しているなかで、今後はより機動力を活かして試写を行うことが主流になるでしょうね。オフライン編集/本編集の境目がなくなってきて、撮影での機動力だけでなく、編集も含めた機動力がないとやっていけない時代になっていますね。これまでは、クライアントに試写を確認してもらうためにスケジュールを確認しながら、試写室のスケジュールと摺り合わせていることが多く、このスケジュール管理部分が足枷になっていることも多かったんです。Production Premiumは機動力が高いので、クライアントに出かけて行って試写を行えますし、必要ならその場で映像を入れ替えることもできるのですごく助かりますね。通常は2週間前後の制作期間は必要でしたが、今回は1週間でも余裕が出るほど制作期間が短縮できました。そのぶん多くのプロジェクトを回していくことも可能になっていくと思います。これからはより多く制作して、作品をより多くの人に見てもらうことが大事。今後も、Production Premiumは活用していきたいですね

WRITER PROFILE

編集部

編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。