Production Premiumを環境に取り入れて
やはり同じソリューション内で、一気通貫に完結する事は、多岐に別々のアプリケーションを渡り歩くよりも煩雑な事なく、効率的にクリエイティブ作業に邁進できる事は言うまでもない。Adobe Creative Suite 5.5 Production Premiumがリリースされてほぼ半年になるが、多くの現場でもAdobeCS5.5のソリューションが多く見られるようになった。実際に使用している現場からその声に迫ってみた。
フラッグ(コンテンツ制作事業部=東京都渋谷区)は、2001年に映像制作業務を開始して以降、順調に業績を伸ばし続けている勢いのある制作会社だ。現在、各種映像制作用にHP製64bitワークステーションZ600を導入し、Adobe Premiere Pro CS5.5とAdobe After Effects 5.5を共通編集環境として採用している。
この環境を活用した映像制作に加え、メディアコピーやメディアオーサリング、エンコード、ストリーミング、Web制作、PRプロモーションまで、トータルサービスを提供できる態勢を採る。毎年新卒社員を採用し、経験者の中途採用も必要に応じて行っている同社だが、その業績拡大の背景にはクリエイティブとビジネスの両面から映像制作をコントロールすることにあった。代表取締役の久保浩章氏は、ビジネス面から映像制作を捉えていくことが重要と話す。
制作内容でチーム構成を変え、多種多様な案件に対応
現在、フラッグで映像制作に関わっている社員は、プロデューサー5人、アシスタント・プロデューサー1人、ディレクター5人、アシスタント・ディレクター3人、CG制作6人、Web制作8人、グラフィックデザイナー3人、エンコード/編集エディター4人と、35人にも及ぶ。明るい話題が少なくなっている映像業界のなか、経験者の中途採用や毎年の新卒採用により制作力強化もし続けており、フラッグは異色な存在とも言える会社だ。
制作は、プロデューサーのもと、ディレクターが企画・構成から撮影、白完パケ作成までを行い、モーションのあるテロップ作業はCG制作で行うという3人ひと組で作品制作を行うスタイルを採用。制作内容/プロジェクトに応じてチーム編成はその都度変更している。そのため、基本的に編集室で作業する従来のやり方ではなく、共有ストレージDDP(Dynamic Drive Pool)環境を利用しながら自席で制作作業する方法を採用している。編集室はサウンド面などをチェックするための1室だけしかない。
当社のコアコンピタンスというのは、『自分達で全部を創れる、創らなければいけない』というもの。Production PremiumとPCがあれば3DCG以外は制作できてしまうという環境がある。インハウスでやってきたからこそ、多種多様な案件に対応でき、その内容に応じたコストで無理なく制作しています(久保氏)
編集作業はPremiere Pro CS5.5を中心に行い、テロップなどモーショングラフィックス系の作業はAfter Effects CS5.5を使用して完成させている。全社でProduction Premium環境を採用しているフラッグだが、特にトレーニングなどは行っていない。中途採用でFinal Cut Proの経験しかないような場合でも、実制作をしながら2週間から1ヵ月もあればPremiere Pro環境に移行できてしまうそうだ。
現在、JR東日本のトレインチャンネルや、ハリウッド映画の日本版公式サイトの制作や単館上映作品のプロモーションなどPRサポート業務も行っている。CM制作も手掛けており、Spikes Asia Advertisement Awards 2011では、フラッグが制作したプロバスケットボールの試合展開に合わせた内容のCMを制作しておき、リアルタイムにテープを差し替えて流した沖縄製粉のCMが金賞を受賞している。また、YouTubeオフィシャルパートナー制度を活用して、自社オリジナルのコンテンツ制作にも取り組みはじめた。
トレインチャンネルは、電車車内で流す1分間のサウンドなし番組で、半年間で26本流される。この番組の企画から撮影、編集、CG制作までトータルに制作を請け負っている。セイン・カミュによる英語講座、Mr.マリックによるマジック講座、ハンドサインによる手話講座など、タレントを活用しながら動きのある番組が制作されている。
路線によってSD4:3とHD16:9があり、納品形態もデジタルベータとHDCAMに分かれているといい、ちょうど地上デジタル放送移行期のサイマル放送のような印象だ。26本の番組は、クロマキーも活用しながら1~2回ですべての撮影を終えるなど収録段階から工夫し、編集後はPremiere Pro CS5.5から納品用マスターテープに直接出力するなど、完全内製化することでして制作効率を上げている。
YouTubeオフィシャルパートナーは、制作会社がYouTube上に自社のチャンネルを開設し、YouTubeのオフィシャルパートナーとしてコンテンツを配信し、視聴数に応じて広告費をグーグルとコンテンツホルダーとでシェアするもの。テレビの番組枠やDVDなどのメディア販売に頼らずに、制作したコンテンツを配信することで収益を上げ、その収益によりコンテンツを充実させていくという仕組みだ。すでに米国では、制作会社から個人に至るまで普及し始めているそうだが、このスキームを日本でも普及させようと、現在、オフィシャルパートナーに向けた取り組みを展開している。
日本の制作会社はYouTubeで流すことについて未だに抵抗があり、グーグルが制作会社に声をかけても乗り気になってくれない。当社が声をかける形で数社を集め、そこにグーグルがハンズオンする形で成功事例が作れないかと考えています。こういう形でやればうまくいくという事例を作ることで、やろうと思えばうまくいく、大切なのは意志の力だということをアピールしていきたい(久保氏)
クリエイティブとビジネスの融合が業務の可能性を拡げる
久保氏は、大学生だった2000年前後のインターネットバブル時代にITで起業する先輩を見て、会社を興してビジネスをする可能性に気付いたという。映画が好きだったことから、映像業界に興味を持って調べたところ、クリエイターは世界的に見てもクリエイテビティの高いものを創っているのに、経営面やビジネスの側面から携わる人が少ないと、違和感を感じたそうだ。
テレビも映画も厳しい環境のなかで働いていて、良いものを創っているのに評価されないのは何故だろうかと考えた時に、ビジネスとして業界を見て改善しようとする視点も人も足りていないと感じた。そこをどこかの会社に入って変えていくのではなく、自分達のやり方を見てもらうことで変えていきたいと自分達で起業しました
クリエイターの友人と久保氏の2人で起業した当初は、経理や営業面を久保氏が担当する予定でいたが、制作と営業を完全に分けることはできなかったという。久保氏も撮影現場で音声録りを担当したり、Premiere ProやAfter Effectsを試行錯誤しながら使って制作したこともあるそうだ。2003年からは大手プロバイダの無料動画配信サイトで流すオリジナル映像コンテンツとして映画の製作記者会見やインタビューを制作していったことが、制作本数が増えていくきっかけになった。
当時の映像制作会社がインターネットコンテンツを制作するためには、制作コストや制作スピードの問題だけでなく、インターネット配信用のエンコードを知らないという事情もありました。当社は、ニュース素材としてではなく、Webユーザーに向けた新しいコンテンツの作り方を模索しながら取り組んでいきました(久保氏)
2005年後半からは、日本将棋連盟の協力を得て、将棋バラエティー番組を制作。対局そのものを配信するのではなく、女流棋士同士がガールズトークしたり、棋士が目隠ししてアマチュアと対戦したりといったバラエティー指向のものを配信した。当時は、ソーシャルメディアが一般化する前ではあったが、投稿サイトの2chに毎回スレッドが立ってやりとりされているような状況だったそうだ。こうした企画番組の制作に取り組んでいった結果、Eラーニングコンテンツ制作の受注や、JR東日本のトレインチャンネルなど、デジタルサイネージ関連コンテンツなどの受注につながっていく。最近ではMTVのコンテンツ制作も受注もするなど、テレビ番組の制作も増え始めている。こうした受注の背景には、社内に営業専任の部署を設けていることが挙げられる。
ある業界で事例ができれば、似たような業界の会社に『見ていただきたい事例があります』と電話でアポをとります。また、メディアサービスというDVDやCDを扱う部署の取引先には、プロモーション用にDVDやCDを扱っている小口のお客様は数千もいますから、フォローアップも兼ねて『中身も作らせてください』と提案したりもします。どんな形の企業であれ、制作する人や開発する人がいれば、それを売るための人がいるのは当然だと思うんです。映像業界というのは、プロデューサーが個人の伝手で仕事を獲ってきたりしている。しかし、会社組織として見た場合、自分達のことをセールスする人がいない会社という時点で売る気がないわけで、これはおかしいんです。この問題意識が、会社を立ち上げるきっかけになったんです」(久保氏)
久保氏は、当たり前のことを、当たり前のようにやっていなかったことが、映像制作が普通のビジネスになりきれなくなっている原因の1つと見る。クリエイティブ性を追求しつつも、制作工程の改善、労務管理、営業力強化は必要であり、「クリエイティブとビジネスの融合が大事だ」と話した。
離職率が低いのも当社の特長です。過去3年間で退職したスタッフは非常に少ない。ステップアップのために離れていくのであれば、こちらも応援したいです。しかし、ここが嫌だと離れるのは、組織自体に欠陥があるということだと思うんです。辞めていく人が少ないということは、継続してノウハウが溜まっていく。一人一人のスキルアップが会社全体のスキルアップになって脂が乗って来た段階です。それをクリエイションにどう生かしていくか。今後は、クリエイティブ面でももっとウリにしていきたいですね(久保氏)