IMC Tokyo2013がInterop TokyoやDigital Signage Japanなどと同時開催で、6月12日から14日まで幕張メッセで開催された。IMCとはInterop Media Convergenceの略で、主に放送とインターネットが連携する部分の領域が展示の中心となっている。
マルチスクリーン型放送研究会が注目された理由とは?
IMC Tokyoのなかでもひときわ注目を集めていたのが「マルチスクリーン型放送研究会」(以下:マル研)の展示である。マル研のサービスは放送波にIPDC(IP Data Cast)を利用し、映像に加えて番組に関連した情報を、放送と完全同期させながらスマートフォンやタブレットなどに表示させるサービスである。こう書くと、これまでの地上波デジタル放送におけるデータ放送と何が違うのかわかりにくいが、ユーザー側の利用体験から見ると似て非なるサービスなのだ。
データ放送があくまでもテレビ画面に対して行われるサービスであるのに対して、マル研のサービスはテレビ画面(メインスクリーン)ではなく、スマートフォンやタブレットのようなマルチスクリーン(メインスクリーンに対してセカンドスクリーンといってもいい)に対してのみ行われるので、テレビ画面上では何も変化はない。せっかくの大画面テレビでデータ放送を見る時のように、番組部分が小さく表示されてしまうといったことはない。あくまでも手元のもう一つの画面が番組と自動的に連動してくれるのである。
最近のテレビ視聴スタイルとして、テレビを見ながら手元のスマートフォンを操作してFacebookやTwitterやLINEをしているというケースが当たり前になっていることは容易に想像できる。こうした、テレビ局がコントロールできていないスマートフォンのようなセカンドスクリーン側においても、テレビ局の番組関連の情報で楽しんで使ってもらおう、というのがマル研の考え方である。あくまでもメインスクリーンのテレビ画面自体には何も手を入れていないので、データ放送の場合の1次リンクとか2次リンクという考え方とは異なり、スマートフォン側はいつでもインターネットに自由に行き来することができるのが特徴である。視聴者は興味が湧けばテレビ局が送り出す情報をスマートフォンで見られるし、興味がなくなればまたSNSで戻ればいい。もともとテレビ局がまったく掌握できていないスクリーンの話なので、ある意味気楽でカジュアルなサービスといってもよい。
しかしそのSNSでの話題も、いまオンエアされている番組によって共有されているのであるから、親和性はそもそも高いはずである。それでは今回のマル研のデモの内容を見ていこう。
様々な放送連動コンテンツ
CM本編と、CMに連動したスマートフォン向けのコンテンツ
まずはCMとの連動の事例だ。テレビ側には普通にCMが流れ、スマートフォン側ではそのCMと連動したIPDC技術を利用してコンテンツが完全に同期した状態で表示される。写真のケースではCMに登場する無言の犬のセリフが、吹き出しでスマートフォンに表示されるというもの。こうしたCM本編と、スマホで別バーションコンテンツ化することでより面白くメッセージを伝えることができるだろうという例だ。
こうした放送連動コンテンツはCMの他にも番組との連動も考えられる。これらは放送と同期しているので、15秒CMであれば15秒で流れ去ってしまう。そこでスマートフォン側のコンテンツは、タイムライン上に自動的に蓄積されるようになっているので、流れ去ってしまってもあとからもう一度見ることが簡単にできる。また写真のように同期させない設定にすることも可能である。同期中はON AIRの表示が赤くなるが、その部分をタップすると白く表示されて同期が外れるので、クイズなどにじっくり応募するようなときには便利だ。
タイムライン上に自動的に蓄積されたコンテンツ
放送とスマートフォンが同期した状態。また同期停止でスマートフォン向けのコンテンツを楽しむことができる
またマル研の最大の特徴とも言えるのが、各テレビ局共通横断型のサービスを目指していることだ。チャンネルを切り替えても、そのままシームレスに切り替えた先のテレビ局のスマートフォン向けのコンテンツに切り替わる。これはテレビのリモコンを切り替えることで実現できるが、どうせスマートフォンで操作するので、チャンネル切り替えできる機能をスマートフォンアプリに実装した。
より敷居の低いコンテンツ制作が普及のカギ?
リモコンアプリ
さらに今回は、こうしたマル研サービス用のコンテンツを簡便に作成するための製作用ツールが展示されていた。デモ環境ではスタジオサブなどに置かれたことを想定したパソコンから4択の質問を作成し、それがリアルタイムでスマートフォン側に表示されるものだ。視聴者が4択から一つを選んで回答すると、瞬時に集計がなされる。サブ側のパソコンで結果を見ることができるようにすれば、視聴者の反応に応じて、次々と番組と並行してスマートフォン向けのコンテンツをリアルタイムで制作できるのだ。これらを本線画面上に表示しようと思うといろいろ大掛かりになるのだが、あくまでもスマホ側だけなのでシステムも簡単であり、基本的に放送系システムとは全く別系統で双方向コンテンツを制作することができるので、局側の導入も費用内容共に敷居が低い。
こうしたツールによって、生放送はもちろん、完パケ収録番組であっても、オンエア時に誰かがリアルタイムコンテンツをサブから(極端に言えば自宅からでも)作成して送ることで、視聴者とリアルタイムのコミュニケーションが可能になる。すでに一部の番組制作者がTwitterなどでオンエア中にリアルタイム更新している例があるが、それを放送経由で、かつ特定のSNSに左右されることなく実現できるのである。このあたりが放送の普遍性や一斉同報性をうまく活用したサービスとなるのではないだろうか。
4択の質問コンテンツを作成。コンテンツはすぐにスマートフォン側に配信反映される
マル研では、これらのサービスを実現するためには、外付けのボックスをテレビに接続することをイメージしている。ボックス自体は量産化すれば数千円以下になるレベルのようだ。また今後はテレビにアプリとして実装されていくことも想定される。またNTTのフレッツテレビのSTBに実装されることも考えられる。
専用STBの試作機
執筆時のマル研のWEBからによると会員は57社で、このうち29社がテレビ局であるという、放送局が主体で考えるサービスだ。スタートは関西エリアからであったが、エリアや系列を超えて、着実に大きな動きになりつつある。また必要以上に行政が関与していないのも動きを身軽でダイナミックにしているようだ。