最近、テレビのニュースなどでコンピュータウイルス(以下ウイルス)の話題が盛んに報じられている。ウイルスとは、外部メディアやインターネットから侵入してコンピュータを攻撃する不正なプログラムのことだ。データの盗難、改ざん、情報漏えい、破壊の被害から、最悪の場合システムを動作不能にしてしまうこともあり、大きな社会問題となっている。

これが映像業界に関係のない話かといえばそうではない。映像業界でもセキュリティ対策は重要な話だ。ウイルスに感染するとシステム中の重要なファイルを書き換えたり、ネットワークのトラフィックに重大な影響を与えたりして、制作に遅延が起こることになる。最悪の場合は、放送前のコンテンツが流出してしまったり、個人情報や業務工程情報の漏えいにつながる恐れがあるということを認識しなければならない。しかし、ウイルス対策をまったく行っていないという現場も多いようで、まだまだ危機意識が低いと言わざるを得ないだろう。

そこでPRONEWSでは、3回に分けて”映像業界とセキュリティ”をテーマに、ウイルスの脅威や対策などを紹介していく。第一回目の今回はセキュリティソフトウェアメーカーの最大手、トレンドマイクロに映像業界でのセキュリティの現状やウイルスの脅威について聞いてみた。トレンドマイクロは、「ウイルスバスター」で有名なコンピュータ用セキュリティーソフトウェアメーカーだ。トレンドマイクロが競合他社と違うところは、多国籍企業でありながら本社は東京にあるというところだ。ITから医療、製造のみならず放送や映像制作まで、各業界特有の問題やニーズに合わせたサービスの提供を行っている。放送局やポスプロのセキュリティ対策、ウイルス対策についても突っ込んだ話を聞くことができた。

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トレンドマイクロ 事業開発本部 釜池聡太氏(左)、瀬戸弘和氏(中央)、上田勇貴氏(右)。以下インタビュー中ではトレンドマイクロと表記

身近に迫る、映像業界におけるウイルス感染の脅威

■映像業界におけるウイルス対策の必要性

映像制作で現場のウイルスの話題でよく聞くのが「USBメモリにウイルスが入っていて感染した」という話だ。映像の制作現場の感染経路でもっとも多いのはUSBメモリだろう。一昔前であれば映像の制作現場でウイルスを意識することはなかった。しかし、ノンリニア編集が増えて映像をデータでやり取りするようになってからは、セキュリティ対策やウイルス対策への取り組みを意識しなければならなくなってきている。まず最初に映像業界におけるウイルス対策の現状や必要性を聞いて見た。

トレンドマイクロ:私たちはキー局や地方の放送局のセキュリティについても取材をすることがあります。そこではセキュリティに積極的に取り組まれている意識が高い現場もあれば、「セキュリティ対策ソフトが邪魔」と作業効率を優先させている現場もありました。ではなぜ放送局やポスプロなど映像業界にセキュリティ対策やウイルス対策が必要なのかというと、近年の放送番組制作では制作から放送フェーズまでIT機器が関わらないプロセスはなく、個人レベル、会社レベルを問わず頻繁にデータ納品が行われているからです。ウイルス感染が起こる隙が多く、放送事故につながりかねないインシデントも実際に発生しています。いま映像業界においてセキュリティ対策は急務と言えるでしょう。

■放送前のコンテンツや機密情報流出の可能性

トレンドマイクロ:コンテンツでビジネスをされている方にインパクトがあるのが、インフラの停止やコンテンツの流出です。例えば、編集済みのカンパケが置いてあるサーバーがハッキングされて、放送前や配信前にそのコンテンツが流出してしまうといったことも、現実に起こりえます。個人情報や番組の制作費、発注先、機密情報があったとすると、外部からシステムへ不正に侵入され、情報を盗まれるという事故も発生します。結果としてコンテンツ制作側に被害が及びます。

また、ウイルスの混入に気がつかずにそのままデータを納品してしまうと、取引先のインフラにもウイルスが感染してしまう可能性があります。進入経路が外部の制作会社のメディアと原因がわかれば、取引関係に亀裂が入りかねません。あと、放送事故のような番組のイメージに関わる事故を起こしてしまうと、民放の場合はスポンサーとの関係に問題が生じることにもなりかねません。

■セキュリティ脅威と感染経路
作業 影響 感染経路
撮影
音声収録
駆除作業による撮影進行遅れ USBメモリ
・データ移送
中継 中継遅延 Web、USBメモリ
・データ移送
・Web閲覧(情報収集)
オフライン編集 作業の遅れ
番組編集作業(編集スタジオ) 作業遅延、納品遅れ
個人情報、番組情報の漏えい
番組配信 放送事故
CM放送事故
USBメモリ
・ログの収集時
・機器のメンテナンス
CM配信
放送編成

映像業界におけるセキュリティ脅威と感染経路の例。身近に迫っているセキュリティリスクに対して日頃からの心がけが重要だ

■実際に起こっている事故や不具合

トレンドマイクロ:実際に、民放のテレビ局の現場では、テロップを出すべき所でテロップが出ない、といった事例が実際に起きたようです。また、今まで30分で終わるレンダリングが倍以上かかってしまうということもありました。この場合では、納品に間に合わないとか、進行全体に遅れが出るという問題につながります。

制作会社の場合では、システム自体が立ち上がらなくなるということがあります。ハードディスクのマスターブートレコードを壊してしまうようなウイルスがこれに当たります。実際に今年3月に韓国で放送局や銀行のシステムがダウンするというサイバー攻撃がありましたが、それもマスターブートレコードが破壊されて起動できなくなった事件でした。

あとは、編集中にコンテンツのデータを破壊するものもあります。今までの徹夜が無駄になってしまい、一から作り直しになることになってしまいます。

ネットにつながっていない専用機にも危険が迫る

■専用機もウイルスに感染しやすくなっている

特に映像制作の現場で問題なのが「専用システムだから大丈夫」、「ネットにつながっていないから問題ない」という過信だと警告する。

トレンドマイクロ:特に放送局の映像放送設備はどちらかというと専用機の世界です。今までセキュリティというと「汎用機を守らなければいけない」という意識はあっても、専用機は特定用途で使う人も限られていたり、特殊要因であるのでわりと大丈夫だといわれてきました。しかし、専用機でも生産効率を上げるために外部のネットワークとの接触が増えており、ウイルスに感染しやすい状況になってきています。

■放送事故が起こりかねない状態まできている

トレンドマイクロ:例えば製造業の現場でも同じことがいえて、極端な話ですが工場の電気が止まったり、自動車の生産ラインが止まる。製鉄所の高炉が止まる、というようなことが現実に起こりうる状況になってきているのです。インフラが「止まる」という危機意識を持つ必要があると思います。まだ日本でウイルスに感染して放送事故に至ったというケースは公にはなっていないと思うのですが、現場レベルでは事故寸前まで行っているというのが我々の認識です。

映像の制作現場でできるセキュリティ/ウイルス対策

このような状況の中で、トレンドマイクロは映像業界向けにどういったウイルス対策の製品やサービスを提供しているのだろうか。

トレンドマイクロ:専用端末のウイルス検索、駆除ができる「Trend Micro Portable Security」とクローズドネットワーク環境やスタンドアロン環境の端末の感染経路を絶つ対策ツール「Trend Micro Safe Lock」があります。もう1つは「Trend Micro USB Security」というセキュリティソフトがあらかじめ備わったUSBメモリというものです。データをコピーする際にウイルス混入や感染を防ぐウイルスチェック機能を持っています。

【マルウェアの検知・駆除】USBメモリ型のウイルス対策ツール
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トレンドマイクロ:「Trend Micro Portable Security」は、映像編集用のPCやワークステーションから、番組編成システム、テロッパーシステムなど放送設備などの専用機にも幅広くお使いいただけるUSBメモリ型のソリューションです。ウイルスバスターと同じツールをUSBメモリ内に収めていて、検索対象端末にインストールを行わずネット接続も不要で、最新のパターンファイルでウイルスの検索と駆除が行える製品です。特にインストールが不要というところがポイントで、ウイルス検索・駆除ツールはシステムに一切常駐しませんので、パフォーマンスに影響を与えてしまうということもありません。

パフォーマンスの懸念もさることながら、専用機というのは保守契約の問題など様々な事情で「アンチウイルスソフトをインストールしたくてもできない」というケースも多いのではないでしょうか。そのような環境でもウイルスの検出と駆除が行えます。

発売当初は主に製造業で使われている端末のウイルス検索と駆除に使われていたのですが、その後様々な業界に販売していく中で、かなり多くの放送局様にもご購入いたいだいております。

Trend Micro Portable Securityについての詳細情報はこちら

【再発防止】ロックダウン型のセキュリティ対策ソフト
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トレンドマイクロ:「Trend Micro Safe Lock」は、システムを特定用途化することで、ウイルスをはじめとした不正プログラムの侵入・実行を防止するセキュリティ対策ソフトです。パターンファイルを用いたウイルス対策ソフトはパフォーマンス低下の懸念があって導入できないとか、インターネット未接続の環境ではパターンファイル更新が行えず最新の脅威に対応できない、Windowsの最新パッチを適用すると業務のアプリケーションが動かないといった課題を持つ、編集用PCやサーバなどの端末の保護に最適な製品です。

たとえば特定の映像編集ソフトや合成ソフト、画像レタッチソフトなど、業務で使うアプリケーションが決まっている場合に、そのアプリケーションしか動作しないように設定できます。これにより、外部から入手したデータ内に仮にウイルスが混入していたとしても、そもそもウイルスの起動が許可されていないためその端末上では発症しません。また、脆弱性攻撃対策機能を併せ持つため、USBメモリやネットワークを介して行われる脆弱性を利用した攻撃、実行中のプロセスに対する攻撃からも端末を保護することが可能です。

パターンファイルを用いたウイルス対策ソフトとは異なり、端末のスキャンは行いませんし、パターンファイル更新の必要もありません。非常に軽快な動作で、ネット未接続の端末でもご利用いただけます。先ほどPortable Securityを紹介しましたが、Portable Securityでウイルス検知と駆除、Safe Lockでセキュリティ対策、というトータルソリューションとも考えています。

Trend Micro Safe Lockについての詳細情報はこちら

【USBメモリのウイルス対策】USBメモリに組み込まれたウイルス対策
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トレンドマイクロ:Trend Micro USB Security搭載USBメモリは、ウイルス混入や感染を防いで重要なコンテンツのデリバリーにも安心して使うことができます。PCに接続した際やUSBストレージへファイルが書き込まれる際に、Trend Micro USB SecurityがUSBストレージ内の予防、ウイルス検知、駆除を自動的に行ってくれます。また、PC接続時にインターネット経由でウイルスチェックに使用されるパターンファイルを更新するというのも特徴です。撮影データや編集データなどの受け渡しにUSBメモリを利用するケースが増えていますが、Trend Micro USB Security機能を搭載したUSBメモリを利用することでデータのやりとりを安心・安全に行えます。この機能を搭載したUSBメモリは7社のUSBメモリベンダーから発売されています。

Trend Micro USB Securityについての詳細情報はこちら。

最後に、ウイルス対策をすることによって生まれるメリットを語ってもらった。

トレンドマイクロ:放送局用のインフラがだんだんファイルベースになっていくと、大きなストレージが必要になってきて、それを配信するための高速なネットワークやサーバーが必要になってきます。つまり、従来のテープベース時代よりも一層ITっぽくなってくるのです。そういうふうになってくると、まったく今の通常のITのシステムと変わらないわけで、映像業界でも早期の対策が必要です。これには、制作現場にもう少しセキュリティに関わる番組予算が割かれるようにならないと、今の状態はなかなか変わらないのではないかなと思います。そこは目下一番の問題とも思います。

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Trend Micro USB Security(上)と、Trend Micro Portable Security(下)

放送業界はファイルベースへの移行と同時に番組制作設備にPCベースの機器が増えている。それに合わせてセキュリティ対策も十分にしなければいけないのに、見落とされがちになっているといえるだろう。ここで紹介した被害の事例などを参考に、セキュリティへの意識を高めていただければと思う。連載第2回(8月掲載予定)は座談会形式で映像業界の現場の話を紹介、第3回(9月掲載予定)はウイルスの脅威について改めて紹介する予定だ。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。