いま、そこにある未来シネマ
「未来シネマ」とは、1年くらい前から私があることを目的にした活動のためにつけた名前である。商業的な映像制作が目的ではなく、「映像」を通じて、新しい社会作りのための社会貢献活動が大きな目的になっている。具体的にはNPOの活動や地域活性化の活動、また未来のために素晴らしい取り組みをしている人たちなどを、映像として応援するために、活動の記録やPVの制作などを手がけている。
こうした活動を始めるきっかけになったのは、東日本大震災だった。震災から2ヶ月後、知り合いから声をかけてもらい、1週間程、南相馬市でがれき撤去のボランティアに参加した。あくまでボランティア活動が中心だったので、被災地で撮影することは考えていなかったが、テレビからは伝わらない被災地の現状を伝えたくなり、知り合いからハンディカムを借りて、作業の合間を見つけては、被災地の状況や活動の様子を少しずつ記録に残していった。このボランティア活動は、多くの支援者に支えられていたので、ボランティアから戻った後、支援者も含めた活動報告会が開かれた。この時、活動報告の1つの資料として、被災地で撮影した映像を上映した所、予想以上の反応があり、さらなる支援につながっていった。震災以来、自分に何が出来るのかを問い続けていた中、やはり自分に出来るのは映像で伝えることだと、気づかせてもらった。
去年、私の家からほど近い、鎌倉山の山頂で、地域住民の反対を無視した大規模な宅地開発が行われようとしていた。そこは、樹齢150年を超えるタブの木が立ち並ぶ美しい森。私は近隣に住む友人から相談を受け、地域住民の想いを伝えるためのビデオを制作した。映像はインターネットにアップされ、地域の人たちの想いが少しずつ伝わり始めた。しばらくして、市長は開発申請の再調査を命じ、その結果、申請内容に違法性があることがわかり、市として開発取り消しを命じた。実は、こうした法の隙間をぬった緑地開発は全国各地で起きている。今回の件も、住民が真剣に声を上げなければ、その違法性は指摘されなかっただろう。この件に関して、映像がどこまで役に立ったのかは分らないが、行政関係者にもこの映像が伝わっていたことは後から聞かされた。想いを伝えることの大切さに改めて気づかされた。
映像をもっとうまく活用すれば、もっともっと暮らしやすい社会を作れるんじゃないか、人々を元気にできるんじゃないか。そんな想いが強くなった。「未来シネマ」という言葉が、頭に思い浮かんだのも、その頃だった。
社会貢献を目的とした映像制作の可能性
社会貢献を目的とした映像制作のニーズは、世界的にも広がりを見せている。アメリカを中心に活動しているMicro Documentariesという会社がその1つだ。彼らのスローガンは、「私たちはショートフィルムを作って、世界を変えるお手伝いをします」というもの。クライアントとしては、NPOをはじめ、教育機関や医療機関、環境団体などが名を連ねる。社会貢献活動を進める企業や団体を相手に、プロモーションとなるショートフィルムを制作し、各団体の活動を支援して行く。活動団体は、そのプロモーション映像を元に、資金集めなどを行い、活動の輪を広げて行く。クリエイターにとっては、クリエイティビティと社会的貢献という2つのモチベーションを満たすことができ、今後が期待される活動だ。
そして、日本でもこれと同じような動きが少しずつ起こり始めている。CMディレクターの新井博子さんとNPO法人えがおつなげてが共同して立ち上げたPV Probonoという活動だ。プロボノとは、プロフェッショナルな人たちが行うボランティア活動のこと。様々な専門分野の人たちが、ボランティア活動を通じて社会貢献を行いながら、新しい可能性を見つけ出し、同時にその専門職の重要性を社会に認知してもらうことが目的。PV Probonoは、映像業界初のプロボノであり、「映像で社会貢献すること」を大きなテーマとしている。
新井さんがこの活動を始めたきっかけも、やはり大震災であった。震災後、一時CM制作がストップし、生活の全てが止まった。映像で出来ることは何かと改めて問い直し、被災地支援も含め、映像を活用した社会貢献活動を始めた。そのことがPV Probono立ち上げの原動力となっている。新井さんはこの活動を単なるボランティアで終わらせるのではなく、これをきっかけに映像の可能性を社会にもっと広げたいとの想いがある。彼女の取り組みには、私も共感し、PV Probonoの立ち上げの際には、サンプルとなるデモ映像作りに協力させていただいた。参加クリエイターは公募で募集している。残念ながら、今年の応募は終了してしまったが、興味のあるクリエイターから依頼があれば、いつでも説明会を開いてくれるとのこと。詳しくは、WEBまで。
近年、映像技術の進化は凄まじく、つい最近、ハイビジョン放送が始まったかと思えば、すでに4K放送の足音が聞こえ始めている。技術の進歩は、作り手にとってとても喜ばしいことだが、時にその技術的な進歩に満足してしまい、「何のために映像を作るのか?」という、根本を置き去りにしてしまう時がある。
「なぜ、映像を作るのか?」
時代が大きく変わろうとしている今だからこそ、こうした活動を続けながら、その答えを見つけていきたいと思っている。