YouTube、Vimeo、ニコ動。自分で作った映像を気軽にインターネットで流すことができる時代。映画館に足を運ばなくても、家で映画を見る事もできるし、友達に見せたい映像があれば、ネットで簡単にシェアすることもできる。わざわざ同じ時間に同じ場所に集まって上映会を開くなんて、すでに時代遅れの話しに聞こえるが、最近その「上映会」にとても魅力を感じている。

つい最近もとても印象的な上映会があった。それは廃校になった小田原市内の中学校で、太陽光で作った電気だけで上映する野外上映会だ。

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この上映が行われたのは、小田原市の片浦という地区。小田原市内から伊豆半島に向かう途中にあり、JR根府川駅から真鶴にかけた海沿いの町。海岸線からせり上がった急峻な山の斜面には、みかん畑が広がり、青い海と黄色いみかんのコントラストが印象的な町。かつては、日本でも有数の漁獲量を誇るブリ漁の産地であり、みかんの栽培と共にこの地を潤していたが、時代の推移とともにそうした一次産業は衰退し、人口も減少。町にあった中学校も、平成22年3月31日をもって閉校となった。

僕がこの地とご縁が出来たのは、およそ2年前。地域の活性と廃校になった旧片浦中学校の再利用を目的に、地元の住民やNPO、行政が恊働して、「片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクト」(神奈川県新しい公共の場づくりのためのモデル事業)を立ち上げていた頃。地域の人達が集えるようにと、廃校になった中学校にコミュニティガーデンや野外キッチンを作ったり、親子で楽しめるワークショップやイベントも数多く開催されていた。僕はこの事業の活動報告用の映像制作を頼まれ、この地に足を運ぶようになった。

活動報告の映像を制作する際に、活動に参加している地元の若者達にもインタビューを行ったが、その中の一人のS君は、この活動をきっかけに「片浦電力」というローカル電力を立ち上げ、子ども達と一緒にソーラーパネルを使った発電システムを作ったり、中古のバッテリーを使って防災用のソーラーライトを地域のあちこちに設置したり、地域のために積極的に活動していた。彼に「片浦電力」を立ち上げた理由を聞いたところ「発電が目的ではなく、こうした活動をきっかけに地域の人達とつがなりを深めたい」と言っていたのがとても印象的だった。

その年の夏、僕はこの地域のお祭りを撮影した。この片浦という地域には、古くから「鹿島踊り」とよばれる伝統的なお祭りがあり、神奈川県の無形文化財にも登録されている。御神輿が神社から出る時や戻ってくる時に、住民が輪になって独特の舞を踊るのが特徴で、元々は、一家の長男だけが踊ることを許された踊りだそうだが、今では人口も少なくなり、お爺ちゃんから小学生の女の子まで、家族が総出で参加し、地域の伝統文化を継承している。

撮影から1年。撮影はしたものの全く地元の人にお披露目出来ていなかったお祭りの映像を、地元の人の要望もあり、お祭りの前日、地元の公民館でお披露目することになった。地域の人にはお祭りの記録映像ということでお知らせをしていたが、実はお祭り以外にも、地元の長老達にインタビューをお願いし、お祭りの由来や過去の思い出話はもちろん、お祭りへの思いや今の若い世代へのメッセージなどを伺っていた。僕は、その長老達の素直な思いを映像に加えた。

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根府川祭り、鹿島踊り

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根府川祭り長老

この日は、踊りの稽古の最終日ということもあり、公民館は大人から子どもまで沢山の人が集まっていた。 上映が始まり、去年のお祭りの様子がスクリーンに映し出されると、知り合いが出るたびに歓声をあげたり笑い声をあげたり、みな賑やかに観ていた。やがてお祭りの映像に重なるように長老達の言葉が聞こえてくると、次第に会場は静かになり、長老達が語る昔話やお祭りの由来に耳を傾けていた。そして、お祭りがクライマックスを迎え、御神輿が担ぎ手に押されるように神社に納められると、映像が切り替わり長老達が今の心境を語り始める。今と昔のこの地域の変化、お祭りを続けることの難しさ、そして、形は変われど、これだけ人口が減った中でもお祭りを継続してくれている今の世代への暖かいメッセージ。みんな静かに聞いていた。

上映が終わると大きな拍手が起きた。みんなの目がとても輝いて見えた。そして、長老達から感謝の言葉をいただいた。

お祭りから野外上映会へ

お祭りの上映が終わってしばらくすると、あのお祭りの映像をもう一度、上映したいという話しをいただいた。それが廃校になった片浦中学校での野外上映会だった。廃校になった片浦中学校は、海を見下ろせる高台にあり、夜になると星空がとても綺麗な場所だった。「いつかこの学校で太陽光パネルで発電した電気だけで野外上映会を開催したい」、以前そんな思いを「片浦電力」のS君が話していたのも覚えていたし、お祭りの映像が出来上がったら、あの場所で上映したい、というのは僕もずっと思っていたことだった。

それから数ヶ月がたち、昨年の11月、ついに旧片浦中学校で太陽エネルギーを使った星空上映会が決定した。

このイベントは、片浦中学校の活用を続けて来た地元の人達にとっても集大成のようなイベントで、上映会以外にも、子ども達を集めてのガーデンワークやピザ作り、またお母さん達が地元の名物料理をふるまうなど、様々な催しが企画された。上映会の内容も、お祭りの映像以外にも、かつてこの地域で盛んだった昭和30年代のブリ漁の貴重な記録映像や移動映画館として知られる「キノ・イグルー」さんによる、子ども向けのショートフィルムやアニメーションの上映も予定されていた。

野外上映の一番の課題は、スクリーンの設置法とプロジェクターの選択だった。せっかくの野外上映なので、できるだけ大きなスクリーンで上映したいが、予算があるわけではないので、業務用の大型プロジェクターを借りられない。また、太陽光で充電できる容量にも制限があるので、出来るだけワット数を低いものを選ぶ必要もあった。色々探していると、小田原市の役場に4,000ルーメンの液晶ビジネスプロジェクターがあることがわかった。テストをさせてもらったところ、レンズが限られているので、投影距離に制限はあるが、光量的にも問題なく、容量的にも「片浦電力」で用意できる電気で3時間は点灯できることがわかったので、それをお借りすることになった。

問題はスクリーンだった。校舎の壁面に幕でも貼って投影できれば一番なのだが、現在、校舎は立ち入り禁止で、設置作業もできない。かといって、なにもない校庭にイントレを組むような予算もない。どうしようかと考えていたら、地元で牧場を経営されている方が、馬を運ぶ馬運車をスクリーンにしたらどうか、と提案してくれた。馬を運ぶ馬運車は、長さ6m、高さ4mの大型トラック。その側面に白い布を張り、移動式の大型スクリーンにしようというもの。そして、このトラックを上映直前まで、校庭の隅に隠しておいて、上映の合図と共に、子ども達の前に突然現われるという演出だ。素晴らしいアイデアだった。

僕が調子にのって、スクリーンの上に「かたうら星空シアター」という看板を作りたいと言うと、牧場の親方が、“うちにカッティングマシンがあるから、デザインさえもらえば作ってあげるよ”と言ってくれた。早速、隣り町の真鶴に住む友達のアーティストさんにシアターロゴのデザインをお願いすると、快く引き受けてくれた。

二日後、子ども達が喜びそうなとてもかわいいロゴが出来上がって来た。そして、このデザインを元に、牧場のスタッフが、休み返上で立派な看板を作ってくれた。

星に願いを

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全ての準備が整い、いよいよ上映会当日。小田原は朝からひどい雨だった。土砂降りという言葉がぴったりの激しい雨が、お昼を過ぎても降り続いていた。予定していた会場の設営準備も始められず、屋外上映が出来ない場合に備えて、体育館での上映も検討し始めていた。

しかし、開場時間の午後3時。奇跡的に雨がやんだ。

厚い雲に覆われていた空に、陽射しがこぼれ始め、直前まで大雨だったにも関わらず、中学校には、上映を楽しみにしていた家族連れやお客さんが次々にやってきた。

やがて日も沈み、辺りが暗くなり始めた午後4時30分、司会者が合図すると会場には「星に願いを」の音楽が流れ、校舎の奥から大きなスクリーンをつけたトラックがゆっくりとやってきた。これには、子ども達も大喜びだった。

指定の場所にトラックが止まると、トラックの後ろの扉が開いて、楽器を演奏した音楽隊が登場。ソーラーパネルの発電システムを一緒に作った子ども達がスクリーンの前に並び、みんなで電源のスイッチを入れると、スクリーンの上に掲げられた「かたうら星空シアター」の看板が輝いた。

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廃校になった中学校の校庭が、みんなで手作りした野外映画館へと姿を変えたのだ。土砂降りだった会場は、いつしか満天の星空に包まれていた。

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上映会はもちろん大成功だった。参加している人達の、こんなことが出来たらいいね、というささやかな願いが形となって実現した夜だった。今回の成功をうけて、地域では早速来年の上映会の話や、次はこんな企画をやりたい、という話しが始まっている。

僕が上映会が好きなのは、上映をすることでそこに集った人達の中で、なにかしら化学反応が生まれること。映像を見てもらうだけであれば、ネットでシェアをすればすむ話しだが、ネットで広がりを見せても、情報は広まるが、思いだけは中々共有することができない。時代遅れかもしれないけど、みんなが集い、共に見ることで、情報だけでなく、なにか心にあるものが共有できるように感じている。そして、その思いを共有したもの同士が盛り上がれば、それは自然と次のアクションにつながる。

それと、こうした上映会が気軽に出来るのもプロジェクターの性能があがったから。4Kテレビが騒がれている時代だが、高解像度になればなるほど、大スクリーンでの上映の楽しみは広がる。コマーシャル的な作品でも、打ち上げで上映会を開くだけで、結構盛り上がる。

今年は、ぜひあちこちで小さな上映会をたくさんやってみたい。

WRITER PROFILE

ベン マツナガ

ベン マツナガ

未来シネマ / ディレクター お米を作りながら、ドキュメンタリーやPVの制作を手がける